インフレクション・ポイント:AIの普及に関する3つの考察

2023年第1四半期の決算発表では、人工知能(AI)への言及が77%も増え、第2四半期以降もさらに増加すると見られています1。AIは、企業の生産性向上と利益率拡大に貢献する可能性があるとしてメディアに取り上げられ、投資家の注目を集めています。ロボティクスとAI企業は、S&P 500を21%アウトパフォームしました2。AIの台頭がメディアに大きく取り上げられる一方で、普及に関してはまだ初期段階にあり、今後さらに多くの展開が待ち受けているものと思われます。本記事では、一般的にメディアでなかなか扱われることのない、以下の3つの視点について考察することを投資家の皆様におすすめします。

重要なポイント

  • 営業チームと法人顧客を擁する既存のクラウドコンピューティング企業は、企業の買収や技術供与を行い、流通網としての役割を担うことで、AIの収益化に有利な立場にあると思われます。その意味で、テクノロジーセクターは製薬業界のようになりつつあると言えるかもしれません。
  • モノのインターネット(IoT)企業がフィジカルの世界とデジタルの世界をつなぐ要所となるため、チップおよびセンサー企業は、AI普及において魅力的なハードウェア戦略をもたらす可能性があります。
  • AIブームの浸透は消費者主導ではなく、企業主導となる見込みです。結果として、今回の投資ブームは、近年の消費者向けテクノロジーブームとは異なる様相を呈すると思われます。

クラウドコンピューティングとテクノロジーの製薬業界化

クラウドコンピューティング企業は、AIソフトウェアにとって主要な流通メカニズムになる可能性があります。小規模チームでも、大量のデータへアクセスすることでアルゴリズムのコーディングは可能ですが、大規模な営業チームの構築となると、AI企業にとって非効率的でコストがかさむものとの結論に至るでしょう。一方、クラウドコンピューティング企業は、アクティブな顧客基盤に加え、ハードウェア、処理能力、販売において既にある程度の規模を備えています。

アルゴリズムを開発するAI企業は、クラウドコンピューティング企業にとって魅力的な買収対象となるでしょう。クラウドコンピューティング企業には、AI技術を供与し、自社の顧客基盤と流通網を利用して販売を行う機会もあると思われます。AIサービスを提供することで付加価値を付け、価格競争力を高めることが可能になるかもしれません。投資家は、現在4%の長期成長率で評価されているクラウドコンピューティング企業を通じて、AIの成長を享受することが可能になるでしょう(ダッシュボードを参照)。

このような動きは、テクノロジー業界をより製薬業界に似たものに変化させる可能性があります。製薬業界では、研究開発(R&D)の多くが小規模企業で行われており、規模と流通網を持つ大手企業に買収されることはよくあることです。このようなビジネスモデルは、テクノロジー業界でも拡大傾向にあると思われます。長年にわたり、製薬業界のM&A件数がソフトウェア業界を圧倒してきましたが、ここ数四半期ではソフトウェア業界のM&Aの取引額および案件数が上回っています(図を参照)3

IoTがフィジカルをデジタルに変換

AIの実装において最も効果的なのは、手動の作業の自動化を促進することです。相互に接続されたテクノロジー主導の世界においても、完全に自動化された単一のプロセスを持つ製造企業は2020年時点でわずか31%でした4。人間は依然として、多くの情報や指示を機械に与えているのです。プロセスをより効率的に運用するには、AI自体がデータを取り込み、分析する必要があります。IoT企業は、このようなプロセスでハードウェアを提供することができます。

AIブームが起きる前から、IoT製品の売上は年率16%で伸びると予測されていました5。企業が業務プロセスの改善にAIを活用することで、チップとセンサーの需要をさらに加速させる可能性があります。IoTというテーマから多くの人がフィットネストラッカーやホームセキュリティシステムを連想しますが、一般消費財が指数に占める割合は6%に過ぎません6。最も配分が多いセクターは、テクノロジーと資本財の2つです。

消費者向けテクノロジーブームから企業向けテクノロジーブームへ

過去10~15年間のテクノロジーブームは、消費者主導型と言えます。2010年に20%だった米国のスマートフォンの普及率は、2022年には89%に上昇し、これに伴いライドシェアリングやフード・デリバリーサービスなどの新しいビジネスモデルが次々と登場しました7。世界で最も高いキャッシュフローを持つAppleやGoogleも、この発展に一役買いました8。消費者主導型の成長は、投資家にとってなじみ深いものです。しかし、企業向けテクノロジー、すなわち企業間取引(B2B)はまた別の話です。

AIは、数か月に一度新しいトレーニングプランやレシピを求めるだけの消費者よりも、コスト管理や新たな効率性を模索する企業に対して、より多くの利益をもたらすでしょう。AI技術は、消費者市場において多くの可能性を秘めていますが、ビジネス向けの応用範囲は、広告、検索、翻訳、医療検査、医療機器、サイバーセキュリティ、調達、在庫管理、雇用および人材獲得、カスタマーサービスなど、枚挙にいとまがありません9

ChatGPTは6月に、検索件数が約10%減少したと発表しました。これは技術が公開されてから初めての減少でした10。消費者の関心が若干薄れていることの表れかもしれません。一方、企業は競ってAIに投資し、テクノロジーを効果的に活用する方法を模索しています。パンデミック以降も設備投資の伸びは堅調で、再投資は巨大IT企業にとどまりません(図を参照)11。異なるビジネスを展開するさまざまなセクターの企業が、この技術を活用しようとしています。

消費者主導のテクノロジーセクターから企業主導のテクノロジーセクターへの移行は、今後10年間の経済成長と収益拡大の源泉が、過去とは少し違ったものになることを示唆しているのかもしれません。このダイナミクスを念頭に、2023年後半から2024年にかけてのポジション評価を行うことを投資家の皆様におすすめします。

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