パラダイムシフトを起こす技術:自動化時代を推進
この記事は、グローバルXの代表的リサーチCharting Disruption 2024年版で取り上げられることが多かったテーマをさらに深掘りするシリーズの一部です。「パラダイムシフトを起こす技術」の項では、人工知能(AI)インフラ、ロボティクス(ロボット工学)、防衛テクノロジーに焦点を当てます。このプロジェクトの詳細については、こちらをクリックしてください。
インターネットはデータと情報へのアクセスに革命を起こし、ここ30年間の「情報化時代」を生み出しました。これからは、人工知能(AI)が、ソフトウェアや機械、システムがデータから学習し、人間による最小限のインプットで自律的に動くようになる新たな変革、つまり「自動化時代」を推進する可能性があります。この時代になると、生産性が向上し、個人や企業がより少ない資源でより多くのことを達成できるようになり、企業の収益力が向上する可能性があります。本レポートでは、こういった変革を促進するインフラ分野について詳しく検討し、AIの急速な組み入れによって直ちに恩恵を受けるとみられる産業に焦点を当てます。
重要なポイント
- 生成AIは2030年までに世界の国内総生産(GDP)を16兆ドル押し上げる可能性があります1。実現可能かどうかはAIインフラの開発にかかっており、AIインフラは2030年までに1兆ドル近い産業に成長する可能性があります2。
- 生成AIの進歩は、ロボティクスにおけるイノベーションを促進し、製造業やサービス業、家庭での様々な活用場面でアプリケーションを進化させると考えられます。
- AIは防衛・軍事戦略を変革しようとしており、データに基づいた意思決定や費用対効果の改善、戦死者の減少をもたらす可能性があります。
AIインフラ:自動化時代の基盤
AIは、インターネット革命やモバイル・コンピューティング革命の破壊的影響に匹敵する大きな変化をコンピューティング分野で引き起こしています。AIは、インターネットが起こした破壊的創造の上に構築され、広く利用されているデータやネットワークを活用して意思決定プロセスを自動化、強化します。私たちが「自動化時代」と呼ぶこの時代は、今後30年の間に展開される可能性が高いと考えられます。
重要な点として、AIの領域が広いにもかかわらず、AI開発者は現在、生成AIなどの狭いアプリケーション分野に注力しています。生成AIの採用拡大によってイノベーションが加速するとみられ、初期の段階では手動で手間のかかる様々な作業や、日常的なクリエイティブ機能が自動化されます。このAIの実装によって、2030年までに世界のGDPは16兆ドル近く増える可能性があります3。
生成AIがその潜在能力を十分に発揮するにはインフラの整備が不可欠です。これには、半導体と補助的ハードウェア、大規模データセンターの構築と運用、AIの作業をサポートするソフトウェア・インフラ、AIを使用して自然に動作するように設計されたアプリケーションなどが含まれます。生成AIインフラだけでも、2024年の1,100億ドルから2032年には1兆3,000億ドル規模の市場になるとみられます4。
この「自動化時代」への移行を可能にするインフラの構築は、以下の相互に依存する複数の分野での進歩を通じて段階的に進む可能性が高いと考えられます。
- 効率的な半導体設計:現在のAI半導体は高価で消費電力が大きいことが普及を抑制しています。次世代では、多様な作業に対する半導体の最適化、コストの削減、エネルギー効率の向上に注力する必要があります。
- 大規模なデータセンター:AI半導体とそれを支えるハードウェアのエコシステムが進展するにつれて、大規模データセンターの拡大が加速するとみられます。これらの施設は、ますます複雑化するAIモデルを訓練したり、リアルタイムのアプリケーションをサポートする推論インフラを実行したりするために不可欠です。
- AIデバイスの利用の普及:オンデバイスAI機能を搭載した消費者向けデバイスの普及が進む可能性が高いと考えられます。スマートフォン、ウェアラブル、モノのインターネット(IoT)機器における生成AIアシスタントなどの機能は、端末でのリアルタイムの情報提供を可能にし、日常的に使用するユーザーに新たな活用事例をもたらします。
- 携帯電話ネットワークの高度化:5Gなどの高度な携帯電話ネットワークはAIが拡大するための基盤となります。これらのネットワークは、リアルタイムのAI処理と対話型体験に必要な低いレイテンシー(遅延時間)と高帯域幅を実現するために不可欠です。
AIインフラの構築が進むにつれて、今後数年間、AIは特定のいくつかの産業(主にロボティクスと防衛テクノロジー)を特に推進するとグローバルXは予想しています。
ロボティクス:物理的世界の自動化
ロボティクスは人工知能の物理的応用であり、デジタル世界と現実世界の橋渡しをします。ロボットは何十年も前から存在していますが、効率的な半導体や訓練用データ、研究開発(R&D)資金が利用可能になったことで、今後数年の間に進歩が加速しそうです。
これまでのアプリケーションのほとんどは産業用ロボットに関するものでした。この傾向は、脱グローバル化が進む経済や製造業をリショアリング(国内回帰)させる取り組みを背景に今後も続く可能性があります。米国では2023年に前年比12%増の約4万4,300台の産業用ロボットが設置され、2024年にはさらに10%の増加が見込まれています5。設置されている産業用ロボットのほとんどは固定型ロボットですが、AIシステムの高度化に加えて、より速い半導体とより多くの訓練用データが利用可能になったことから、これらのロボットはより速く、より正確に、より効果的になる可能性があります。
ロボットのコストの低下に伴い、ロボティクスや自動システムの導入が進むとみられます。また、製造業の賃金上昇により、生産の費用対効果の点では自動化に軍配が上がります6。
AI技術の進歩により、ロボティクスの応用範囲が産業用途以外にも拡大し、サービス業にも組み入れられる可能性があります。これには、医療分野などでのロボットの活用が含まれます。医療分野では、患者の治療成績が向上し、入院期間が短縮するため、手術用ロボットの需要が高まっています7。また、サービス業への組み入れには小売分野へのロボットの応用も含まれます。人間によるインプットをよりよく理解し処理するロボットの能力に基づいた活用事例が、小売分野で広がる可能性があります。
最後に、AIがロボティクスに与える最も変革的な影響はヒューマノイド(人型ロボット)の進歩かもしれません。ヒューマノイドは、人間の行動や推論、機能を再現し、人間のために設計された空間で動作するように設計された自律的な機械です。ヒューマノイドの世界販売台数は2036年までに1億台を超える見込みです8。
防衛:AIは戦力を強化する可能性がある
世界の地政学的状況は依然として複雑な様相を呈しており、ウクライナと中東で進行中の紛争は貿易面の緊張を高め、経済の分断拡大により国際的安定性を脅かしています。このため、世界の国防費は着実に増えており、予測によれば年率5%で増加し、2030年までに3兆4,000億ドルを超える見込みです9。この増加の大部分は人工知能を中心とした先進的な技術ソリューションに当てられます。
AIは兵器、状況認識、意思決定の強化を通じて現代の戦争の形を変える力があります。AIがもたらす進歩と潜在的な影響により、世界中の軍隊の優先事項が変化しています。現在重視されているのは、AIを組み入れるための基盤となるデジタル・インフラへの投資や、自律システム、予測分析ツール、セキュリティ・ソフトウェアに対する研究開発費の増加です。
例えば、ドローンの急拡大は、財政的に制約のある軍隊がAIを活用した攻撃システムによって戦いの条件を平等にできることを示しています10。ドローン市場が2030年までに300億ドルを超えると予想されていることもこの変化を浮き彫りにしています11。ドローン以外でも、無人地上車両(UGV)やロボット戦闘車両(RCV)のAI搭載プラットフォームが増えています。
AIが成熟するにつれ、防衛へのAIの統合は戦争の経済的条件を変革する可能性があるだけでなく、地政学的戦略の見直しを迫り、世界のステークホールダーに機会と課題を創出する可能性があります。
結論
自動化時代の変革はまだ始まったばかりです。デジタル製品や物理的製品への人工知能の組み入れに必要となるインフラの構築は、2020年代の技術・IT支出増の主な要因となる可能性が高く、数多くの長期グロース銘柄に投資する機会をもたらす可能性があります。それ以外にも、様々なセクターへのAIの実装は、特に自動化の採用の加速や防衛の優先事項の推進という面でさらなる投資機会をもたらすとみられます。
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