防衛テクノロジー:イノベーションの盾
この記事は、グローバルXの代表的リサーチCharting Disruption 2024年版で取り上げられることが多かったテーマをさらに深掘りするシリーズの一部です。本稿は、パラダイムシフトを起こす技術の項の一部として防衛テクノロジーに焦点を当て、この分野での様々なイノベーションについて検討します。このプロジェクトの詳細については、こちらをクリックしてください。
地政学的緊張の高まり、脱グローバル化の加速、防衛と国家安全保障への次世代技術の採用拡大を背景に、軍事・防衛費が大幅に増加しています。2030年までに世界の防衛費は2023年の水準から約40%急増して3兆4,000億ドルを超え、中でも人工知能(AI)やサイバーセキュリティなどの先進的防衛技術への支出割合が高まる見通しです1。
AIを活用したシステムはこの変革の最前線に立っています。例えば、世界のドローン市場は2030年までに330億ドル規模の産業になると予想されており、戦争の経済性を変えつつあります2。ドローン以外にも、無人地上車両(UGV)やロボット戦闘車両(RCV)のAI搭載プラットフォームが増えています。さらに、これらの進歩をサポートするために、基盤となるデータ・プラットフォームやITインフラへの投資も加速しています。
重要なポイント
- 世界の軍事費はこの20年間右肩上がりで増え続け、今後も地政学的緊張や脱グローバル化、AI・サイバーセキュリティなどの先進技術への投資増によりさらに増加する見込みです。
- AIやロボティクス、ドローン技術などの技術革新は戦争の性質を変えつつあり、資金力の乏しい小規模な軍隊がより大きな軍隊に効果的に対抗できるようになります。
- 軍がデータ分析やAI活用ソリューションにますます依存するようになっているため、防衛ソフトウェアやITインフラへの投資が大幅に増える見込みであり、防衛技術のプロバイダーにとって大きな収益機会が生まれています。
国防への投資とコミットメントの強化は世界的な現象
世界の軍事支出はこの20年間着実に増え続け、今後さらに伸びる見込みです。ウクライナと中東で現在起きている戦争を背景に、世界の軍事支出は2023年に過去最高の2兆4,000億ドルに達し、2024年度には2兆6,000億ドルに近づくとみられます3,4。米国議会予算局によれば、2020年代終わりまでに米国だけで防衛費は1兆ドルを超える見込みです5。
こういった傾向は米国にとどまらず、世界的にも明らかです。米外交問題評議会によれば、2024年10月現在、世界で30を超える紛争が発生しています6。その結果、世界の主要国や紛争多発地域では防衛費の増強が続いています。例えば、2024年に北大西洋条約機構(NATO)の同盟国の72%が、防衛費を国内総生産(GDP)の2%以上にするという目標を達成する、あるいは上回る見込みです。2014年には、この割合はNATO同盟国のわずか11%に過ぎませんでした7。NATO同盟国の2024年の防衛費は4,000億ドルを超えると推定されます8。世界的に見ても、軍事負担(一国の軍隊の相対的経済コスト)は2022年の平均2.2%から2023年には同2.3%に上昇しています9。
防衛費の増加はデジタル・ソリューション、サイバーセキュリティ、航空宇宙・防衛関連の企業にとって追い風
これまでの軍事費は、主に通常兵器の調達と弾薬の安定供給の確保を目的としてきました。今日でもこれは当てはまり、防衛関連企業は、従来の軍需品の更新と軍事支出の増加により、売上高の急速な伸びと業績見通しの上方修正を発表し続けています。しかし、予算は今やデジタル化への移行を反映しており、防衛費の増加はテクノロジーに基づいたソリューションに向けられています。技術革新は、新しい能力を導入し伝統的な戦略を改めることによって現代の戦争を変えつつあり、AIやロボティクス、サイバーセキュリティは紛争の性質をがらりと変えるという点でますます重要な役割を果たしています。
具体的には、米国の2025年度のサイバー活動に係る国防予算は2023年度と比較して15%増加しました10。同様に、米国防総省のAI投資に係る予算要求額は2022年から2024年にかけて105%増加しました11。世界的に見ると、AI軍事ソリューションへの支出は2023年の88億ドルから年平均11%増え、2032年までに226億ドルになる見込みです12。
防衛テック・イノベーションはソフトウェア会社やドローン・メーカーに市場を生み出す
技術的ソリューションへの政府の支出は、近代的で機敏に動く基盤ソフトウェア・インフラへの投資を必要とするため、様々なプラットフォームや防衛IT専門プロバイダーがこの恩恵を受けます。加えて、防衛費の最近の急増にもかかわらず、ソフトウェアはまだ米国防総省の支出の1%にも達していません13。また、防衛がAIとデータ分析にますます依存するようになると、軍はソフトウェアへの投資をかなり増やす必要があると考えられ、防衛ソフトウェア企業が今後数年間で大きく成長する余地があります。
例えば、組織や政府による複雑なデータの分析を支援するパランティア(Palantir)は、AIによる米国の防衛能力の向上に焦点を当てた巨額の契約を政府と締結したことで、ここ数年売上高が大幅に増加しています。2024年第3四半期の同社の米国政府向け売上高は前年同期比40%増の3億2,900万ドルとなり、これを踏まえ、2024年度売上高の企業見通しは28億1,000万ドルに上方修正されました(2020年度の売上高は11億ドル)14。
無人航空機(UAV)とドローンも戦場での重要性を増しています。世界の軍用ドローン支出は年平均13%伸び、2030年までに340億ドルを超えると予想されています15。自律性の向上と価格の低下により、無人航空機の用途は大幅に拡大し、戦車のような高価な防衛システムに対抗できるようになってきました。
この変化は戦争の経済性を変える可能性があり、資金力の乏しい軍隊がより大規模で裕福な軍隊に効果的に対抗できるようになります。今日では、わずか500ドルのドローンが数百万ドルする大砲や戦車を無力化し、戦場での人間の存在や犠牲者を減らすことができます16。長距離ドローン・システムは経済的にも有利であることが証明されています。ドローン1台あたりのコストは数千ドルから数十万ドルまでとばらつきがありますが、ドローンはこれを迎え撃つのに必要な従来型の防空システムよりもコスト効率が良いことが実証されています。
結論:防衛テクノロジーが未来の戦争を形作る
地政学的緊張の高まりや軍事予算の増加、先進技術の急速な取り入れによって、世界の防衛情勢は大きく変化しています。従来型の防衛システムは引き続き重要な役割を果たしていますが、AIやサイバーセキュリティ、自律型技術がますます重視されるようになっていることは、より機敏でコスト効率の高いソリューションへの移行を示唆しています。こういった動きは、戦争の経済性を変化させて小国が大国と競争することを可能にすると同時に、防衛産業全体にわたってイノベーションと成長の大きな機会を生み出しています。世界の防衛費が2030年までに3兆4,000億ドルを超えると予測されることから、この分野は拡大を続け、国家や世界の将来の安全保障状況を変えることになるでしょう。
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