フィンテックの勢いは2025年も続く可能性
困難な時期を経てフィンテックを取り巻くセンチメントはポジティブに転じており、いくつかの収斂しつつある長期トレンドは明るい2025年を示唆しています。インフレの低下と堅調な労働市場に支えられた堅調な個人消費が追い風となり、電子決済ボリュームは増加傾向にあります。また、フィンテック企業はコロナ禍後の低迷の間にスリム化と効率化を進めました。商品のイノベーションや暗号資産・人工知能(AI)の本格的組み入れにより、主要プラットフォームのユーザーあたり平均売上高は増加しています。米次期政権の暗号資産に寛容な姿勢は、イノベーションをさらに加速させる可能性があります。さらに、融資についても金利の低下に伴い回復の動きが見られます。これらを総合すると、フィンテックのテーマは、割安なグロース株を探している投資家に良い機会を提供しています。
重要なポイント
- フィンテック企業は、こまめなコスト削減の取り組みや商品のイノベーション、国際的な展開により売上の安定と収益性の改善に向かっています。
- 暗号資産やAIを組み入れた商品を含む新商品の後押しもあり、フィンテックのスーパーアプリが世界で急速に普及しています。
- 決済処理会社やデジタル融資企業が好調な個人消費と金利環境の改善の恩恵を受けている一方、機関投資家の関心の高まりや暗号資産に寛容な政策が実施される見通しもあり、デジタル資産の勢いが増しています。
商品イノベーションとコスト削減により増収増益見通し
2023年のフィンテックの世界売上高は前年比14%増となり3,200億ドルを超えました。暗号資産関連企業や中国にエクスポージャーがある企業を除くと、フィンテックの売上高は前年比21%増となり、コア・カテゴリーや米国などの主要市場で大きく伸びた模様です1。2025年はインフレ率と金利の低下の影響もあり、伸びが加速すると予想されています2。フィンテック市場は2030年までに5倍近くに拡大し売上高は1兆5,000億ドルに達する見込みで、持続可能な成長を示唆しています3。
高金利環境下での収益性やキャッシュフローに関する投資家の懸念に対処するべく、ここ数年の間に実施されたコスト削減策の効果が現れ始めており、業界全体の利益見通しを押し上げています。例えば、ペイパルは2024年第3四半期の取引マージンドル(TMD)が増加し、2024会計年度のTMDと調整後一株当たり利益(EPS)の見通しを上方修正しました4。2024年は大半の処理業者や決済仲介業者のEPSが大幅に増える見込みです。
後払い決済や分割支払い事業を行う米アファーム・ホールディングス(Affirm)や、パーソナルファイナンスおよび銀行業務を行う米ソーファイ・テクノロジーズのような新興フィンテック・プラットフォームは既に黒字化しているか、もしくは達成できる見込みであり、さらなる利下げはこの動きを促進する可能性があります。アファームの2025年度第1四半期決算の補足資料によると、取引数は前年同期比45%増加し、アクティブ顧客一人当たりの取引数は過去最高の5.1件となりました5。また、同社は最近、主要国への初進出としてイギリスでサービスを開始し、同社の対象市場を大幅に拡大しました6。ソーファイ・テクノロジーズは2024年度第3四半期の決算で6,070万ドルの利益を計上し、2億6,700万ドル近い損失だった前年同期と比べ増益となりました7。
様々なフィンテック・アプリの利用も増え続けています。2024年半ば時点で、世界のフィンテック・アプリの利用は30%以上増え、アクティブ・ユーザーは20億人を超えました8。大手フィンテック・プラットフォームは、様々な金融商品を一つのアプリケーションに統合したスーパーアプリとして自らを位置付けつつあります。こういったフィンテック・スーパーアプリは、ユーザーの利用を新商品のクロスセルの機会に変えることで収益力の強化を図っています。スーパーアプリは、多様なサービスの提供によりユーザー定着率の向上だけでなく、競争を抑止して長期的な顧客ロイヤリティやプラットフォームへの顧客のつなぎとめの向上を目指す包括的エコシステムを生み出します。
AIや暗号資産の商品を組み入れることで、これらのプラットフォームにとって新たな収益化の可能性が広がる見込みです。最近の暗号資産価格のポジティブな動きを受け、以前のサイクルで見られたのと同様に個人の参入が増える可能性が高く、結果として電子ウォレットの手数料が増えます。ビットコインは2024年11月に史上最高値を更新して9万9,000ドルに達し、これにより、さらなる開発活動に拍車がかかりそうです9。また、新たに設定されたビットコインやイーサリアムへのアクセスを提供するETFを通じ、機関投資家の資金流入が依然として強力な追い風となりつつあります。コインベースのようなサービス・プロバイダーは、このような機関投資家ビジネスを促進する可能性があります。更に、米新政権がデジタル資産の規制緩和に向けた政策を導入する可能性があり、こちらもエコシステム全体に恩恵をもたらすと考えられます。
決済処理会社は底堅い個人消費の恩恵を受けている
決済処理会社は依然として構造的、競争的に有利な環境下にあり、底堅い個人消費と取引の増加のおかげで良好な状態であるようにみえます。月次で公開されている米国の小規模企業と消費者の状況を詳細に示すFiserv(ファイサーブ)Small Business IndexÒによると、2024年10月は個人消費が堅調で、総売上高と客足は順調に増加しました。小規模企業の売上高は前年同月比7.1%増、前月比3.7%増となり、取引は前年同月比8.8%増、前月比3%増となりました10。こうした追い風を背景に、ファイサーブ(Fiserv)の2024年第3四半期決算は、中核の決済サービスに加えてモジュラー型POS(販売時点情報管理)ソリューション「Clover」も伸びたことを通じてマーチャント環境を明らかにしました。総売上高は前年同月比7%増、「Clover」の売上高は同28%増となりました。また、2024年度売上高見通しについても中間時点で7-8%増に上方修正されています11。
従来型の金融機関は、自社でソフトウェアを開発するよりも費用対効果が良いため、決済処理会社からソフトウェアを購入するケースが増えています。銀行にソフトウェア・インフラを提供することは決済処理会社にとって収益性の高いビジネスであり、これらの企業のアプリケーション・プログラミング・インタフェース(API)によって、銀行だけでなく全てのソフトウェア企業がデジタル金融商品を顧客に提供することができます。金融情報処理システムやインフラ・プロバイダーのビッグ・スリーであるフィデリティ・ナショナル、ファイサーブ、ジャック・ヘンリーは合計で米国の銀行の70%以上、同信用組合の約50%にサービスを提供しています12。
モジュール式POSソリューション・プロバイダーの決済事業も同様の成長を見せています。小規模企業にスクエア・ターミナルを提供しているスクエア(Square)は第3四半期の決済処理事業が前年同期比7.5%増になったと発表しました13。レストランやサービス業にサービスを提供しているトースト(Toast)のプラットフォーム上の処理額は第3四半期に24%増加しました14。
金利の低下は融資を促進する可能性がある
金利の低下によって消費はさらに増える可能性が高く、融資事業を行うフィンテックはその恩恵を受けるとみられます。米レンディングクラブは、借金の返済を一本化する方法を求める消費者が増えたことにより、2024年第3四半期のローン組成額が前月比6%増、前年同期比27%増になったと発表しました15。また、ソーファイの融資部門が第3四半期に実施した合計組成額は、個人ローンの需要増と学生ローン・住宅ローンの組成額の安定した伸びにより前年同期比23%増加しました16。同社はまた、2024年通期の調整後純売上高見通しを8,500万ドル上方修正しました。この会社見通しは、融資収入が2023年の水準の100%以上になると想定しています17。
このような傾向は、小規模企業向け融資やソフトウェアの分野でも明らかです。米連邦預金保険公社(FDIC)の2024年版小規模企業向け融資調査によると、米国の銀行の半数近くが小規模企業向け融資業務で金融テクノロジーを利用している、もしくは利用を検討していると回答しています18。「QuickBooks」などのオンライン金融商品やサービスを提供するインテュイットは、2024年度のプラットフォーム合計売上高が14%増の125億ドルになったと発表しました。この合計には、同社の小規模企業・自営業グループのオンライン・エコシステムやTurboTax オンライン、Credit Karmaが含まれています19。
結論:フィンテック投資の復活
フィンテックの投資ストーリーがかなり改善した一方、バリュエーションは2021年のピークよりも低い水準に留まっていることから、このエコシステム全体のリスク・リターン状況は年末から2025年にかけて魅力的であると結論づけることができます。既に認められている事業モデルの利益率、収益性、利益伸び率の改善が、個人消費の継続的な伸びと相まって先行き見通しの明るさを支えています。また、ホリデー・シーズンや後払い決済(BNPL)の利用増により、2024年内は消費が加速すると予想しています。追加利下げは完全には織り込まれていない可能性があり、このテーマにとって好材料となり得ます。最後に、規制上の制約を緩和するという新政権の公約は、デジタル資産のさらなる普及を促進し、このテーマが恩恵を受ける可能性があります。
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