次のビッグテーマ:2021年9月
フィンテック & Eコマース
後払い決済に進出する大手テクノロジー企業
BNPL(「Buy now pay later」、後払い決済)サービスが過去15ヶ月で85%の成長を遂げていますが、その成長の大半は、従来のEコマースやフィンテック以外の産業に由来するものです1。Affirmは最近、Amazonと提携し、Amazonの顧客が50ドル以上の買い物をした場合にAffirmの分割払いを利用できるようになったと発表しました2。Amazonの顧客は、取引にかかる費用を分割して支払うことができるうえ、違約金は発生しません。このニュースは、決済サービス会社のSquareによるAfterpayの全株式買収(290億ドル)に続くものです3。Squareは、モバイルPOSシステムや、Cash Appプラットフォームを通じた零細企業向けのカード使用サービスで知られています。Afterpayの買収によりBNPLがSquareのエコシステムに加わることになり、同社のオムニチャネルサービス強化につながると見られます。また、Afterpayを利用する顧客は、Cash Appで取引や未払いの分割払いの管理ができるようになります。
米国のインフラ
米国の1.2兆ドル規模の超党派法案が前進
9月下旬、下院民主党が3.5兆ドルのインフラ関連予算決議案を可決し、1.2兆ドルの超党派法案が承認に向け一歩前進しました4。この予算決議案により、民主党が大規模な支出パッケージを作成して承認することが本質的に可能となり、インフラ法案が上院で可決された後、バイデン大統領が署名して成立となる道筋がつくことになります。注目すべきは、最新版の法案で、太陽エネルギー源への投資が強調されている点です。これは、消費者や地域社会のエネルギーコストを低く抑えつつ、バイデン大統領が掲げる2035年のクリーン電力の目標達成に向けて、米国の取り組みを下支えするものです。このような太陽エネルギーへの取り組みにより、現在約30万人の従業員を抱える業界に大量の雇用機会がもたらされる可能性があります5。法案のその他の重要な構成要素には、交通・輸送、水インフラと環境復旧、デジタルインフラ、およびクリーンテクノロジーの強化策が含まれています。
サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティへの企業の取り組み
最近のT-Mobileのデータ流出事件は、大手企業のサイバーセキュリティ対策に重大な脆弱性があることを明らかにしました。今回の事故に対処するため、T-Mobileはサイバーセキュリティ企業であるMandiantおよびKPMGのコンサルタントと提携する見込みです。これは、バイデン政権が「重要インフラ制御システムのサイバーセキュリティ向上に関する国家安全保障メモランダム(National Security Memorandum on Improving Cybersecurity for Critical Infrastructure Control Systems)」の一環として、国のサイバー防御の現代化に取り組んでいることを受けたものです。また、米国国立標準技術研究所(NIST)は今後、民間企業と協力して一般的なセキュリティおよびサプライチェーンのセキュリティを強化する意向です。Appleも同様の目的で、セキュリティプログラムを構築する計画を発表しました。また、Googleは今後5年間で100億ドル、Microsoftは200億ドルをゼロトラスト・プログラムとオープンソース・セキュリティに投資することを決定しています6。IBMは従業員ベースのアプローチをとっており、15万人に対し、サイバーセキュリティのスキルを確実に身につけさせる取り組みを行っています。これは、アマゾンによる一般向けの無料セキュリティ意識向上トレーニングに類するものと言えます7。
ロボティクス
倉庫を飛び出すロボット
ロボットはもはや、産業サプライチェーンだけのものではありません。これまでロボットは主に、人間には退屈で危険な工場の作業を自動化するために使われていました。しかし現在では、ロボティクスの統合が進み、より人間的なものになるにつれて、一般家庭にも浸透しつつあります。例えば、サラダチェーンのSweetgreenは、ロボットキッチンのSpyceの買収を発表しました。Spyceの技術により、Sweetgreenでは食材の取り合わせなどの作業を自動化し、従業員はホスピタリティに集中できるようになると見られています。ロボットがますます人間の仕事をこなすようになってきただけではなく、徐々に人間に似てきているのです。電気自動車メーカー大手のテスラは、先日発表した新しい人型ロボット「Tesla Bot」の製作に携わるロボット工学者を求めています。Tesla Botは、体重125ポンド、歩行速度は時速5マイルで、テスラの工場内の自動化された機械や、自動運転支援ソフトウェアを動かすハードウェアやソフトウェアの一部を操作することになっています8。
ゲノミクス
ゲノム配列解析 vs ウィルス変異株
これまでに全世界で約54億8,000万人がワクチンを接種していますが、より健康的な未来の前に立ちはだかる最大の障壁は、新型コロナウィルスが今後どのように変異し、ワクチンの効果を低下させるかという点です9。英国では、新型コロナウィルス陽性患者から採取した鼻と喉のスワブを対象に、迅速なゲノム配列とPCRベースの遺伝子型解析を行い、ワクチンを回避する可能性のある変異株の特定に成功しました。この検査では、南アフリカで最初に確認されたベータ変異株でワクチン回避に関連するK417Nスパイク変異を有する、B.1.621系統の潜在的なワクチン回避型変異株が2例確認されました10。ピンポイントで変異とその発生源の特定に成功できれば、他の研究者も追随することができるでしょう。インドでは、デリー政府が、ゲノム配列解析に向けて新型コロナウィルスのすべての陽性サンプルを送るよう各地区に要請しました。米国では、疾病対策センター(CDC)が、ゲノム配列研究支援のため、ニューヨーク州保健局に2,000万ドルを提供しました11。
ブロックチェーン
グローバルな通貨としての正当性を獲得した暗号資産
上院のインフラ法案が、ビットコインやイーサリアムなどのデジタル資産を売却した際に発生するキャピタルゲインから国税庁が徴収する280億ドルの税金を財源のひとつとして見込んでいるというニュースに、多くの人が驚きました。重要なのは、政府が暗号通貨を合法的な資産や支払い手段として正式に承認するための大きな一歩になる可能性があるという点です12。中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、伝統的に銀行利用が進んでいない国のソリューションとして急速に普及しています。CBDCとは、物理的通貨とデジタル通貨の中間に位置し、既存の物理的通貨を分散型台帳技術を用いてデジタル化したものです。8月には、カリブ5カ国をカバーするバハマ中央銀行と東カリブ中央銀行の2つの中央銀行が、CBDCの発行を全面的に開始しました13。また直近では、インドの中央銀行であるインド準備銀行が、年内にCBDCを試験的に導入する可能性があると発表しています。