次のビッグテーマ(グローバル):2023年6月

リチウム&バッテリーテック

米国のリチウム電池パイプラインは欧州を追い越す

インフレ抑制法案(IRA)とクリーンエネルギー転換を加速させるという確固たる意志決定に駆られ、米国の電池容量パイプラインは初めて欧州を追い越しました。IRAの実施以来、米国のパイプラインは57.9%程度成長し、436ギガワット時(GWh)の電池容量が追加されました1。同期間において、欧州のパイプラインは僅か3%(35GWh)の成長でした2。推定によりますと、2031年にかけて米国のパイプラインは1190GWhに達する予想です3。この進展に伴い、大手リチウムメーカのアルベマール社はフォード・モーター社と提携し、10万トンを超えるバッテリー向け水酸化リチウムを供給することで、フォードの電気自動車(EV)生産拡大を支援する予定です4。5年間にまたがる供給契約は2026年に始まり、米国内または米国自由貿易協定の対象国から国産の水酸化リチウムを供給することを目的としています5。チリのリチウム生産会社SQMは、世界のEV販売台数が30%急増すると予測されることから、今年のリチウム需要は最低でも20%増加すると予想しています6

メタバース

アップル、ヘッドセットを新境地へ

アップルは、世界開発者会議(WWDC23)で拡張現実(AR)ヘッドセット「Apple Vision Pro」を発表しました。独立したバッテリーパックと、目・手・音声による直感的なコントロールを備えたビジョン・プロは、ヘッドセット市場において大きな飛躍を遂げると見られます。価格は3,499ドルで、来年初頭に米国で発売され、その後他の国でも発売される予定です7。ビジョン・プロは主にARデバイスですが、ダイヤルを使ってバーチャルリアリティ(VR)に移行できます。12台のカメラ、5つのセンサー、そして両目に1つの4Kディスプレイを搭載し、パススルー映像を活用して現実世界の3Dオブジェクトをオーバーレイ表示します8。アップルは強固な顧客基盤と商品エコシステムを誇り、同社のAR・VR市場への参入はとりわけ有意義な展開となります。2023年にはAR・VRヘッドセットの出荷は14%上昇すると期待され、2023~2027年の期間において32.6%の年平均成長率(CAGR)を実現すると予想されています9。メタ社のクエスト3は、より高い解像度とリアル空間との統合は魅力点として挙げられ、ヘッドセット需要の上昇トレンドに貢献するでしょう。なお、同商品は今年に発売される予定です10

人工知能とデータセンター

チップメーカー各社、AI革命を駆動するためしのぎを削る

AI革命は専用AIチップの需要に拍車を掛ける中、NVIDIAは画像処理装置(GPU)のトップメーカーとして道を切り開いています。AIの推進により、エヌビディアは「時価総額1兆ドルクラブ」に押し上げられました15。企業が生成AIを自社サービスと商品に導入することを競いながら、NVIDIAは半導体供給を大幅に拡大しました11。現時点で、NVIDIAは台湾積体電路製造(TSMC)の先端プロセスノードを使用しているものの、供給障害が生じられた場合、インテル社を含めて他の供給先も視野に入れています12。技術展示会「Computex 2023」で、NvidiaはGPUロードマップを発表し、2024年に登場する次期チップ「Hopper-Next」も紹介しました13。Hopperシリーズは、最先端のAI計算能力を有し、ChatGPTのような次世代生成AIモデルのために設けられ、HBM3メモリを搭載した世界最速の4ナノメートル(nm)GPUです14。飛躍的に伸びつつあるGPUの需要に対応するために、マイクロソフトといった大型テック銘柄は最高のハードウェアを確保しようとしており、CoreWeaveのようなNvidiaが支援する新興企業に数十億ドルを投資しています。

ゲノム&高齢化

メラノーマの最新治療法

モデルナ社とメルク社の実験的がんワクチンとメルク社の免疫療法治療薬キイトルーダを用いた有望な中期臨床試験が注目を集めています。2つの治療を併用すると、キイトルーダのみを投与された患者と比べて、メラノーマの移転や死亡のリスクが65%程低下するとのことです16。なお、当臨床試験の投与群は外科的にがんを切除したステージ3とステージ4患者157人を含めます。患者はモデルナとメルク社のワクチンを3週間ごとに計9回投与され、キイトルーダを3週間ごとに約1年間点滴投与されます17。2月に、開発を加速するため、アメリカ食品医薬品局(FDA)がモデルナとメルクの臨床試験は「画期的治療薬」制度による優先審査の対象であると判断しました。同様に、リジェネロン社の進行期メラノーマ患者を対象とした第1相試験では、LAG-3阻害剤とPD-1阻害剤の併用療法が有望視されています。本試験では、治験用モノクローナル抗体フィアンリマブは、リブタヨと併用することで、T細胞上の免疫チェックポイント受容体LAG-3を標的とします。3つのコホートで61%の客観的奏効率(ORR)を達成し、これは抗PD-1単剤療法の過去の有効性のほぼ2倍にあたります18

フィンテック

FedNowは資金の受け渡しをリアルタイムで

7月に開始するFedNowサービスは、初期採用者であるフィサーブやフィデリティを含む参加金融機関を通じて即時決済を可能にすることで、米国の決済システムに革命を起こすと見られます19。米国がブラジルや中国といった既にリアルタイム決済を備えた国々に追いつこうとする中、FedNowによって、2027年までリアルタイム決済の取引量は25億件から115億件まで、4倍以上増加する可能性があります20。フィデリティ・ナショナル・インフォメーション・サービスは、最終テスト段階に参加し、FedNow認証プログラムに参加する予定の20数社のうちの1社です21。フィデリティ社は、消費者ケースと口座間決済(アカウント・ツ・アカウント)の成長を見込んでいます。更に、Fiserv社はNOWゲートウェイ・ネットワークというプラットフォームでFedNowのパイロットサービスを活用し、即時決済を後押ししています。

米国インフラ整備

米政府はインフラ・雇用法(IIJA)の資金を分配

IIJA可決からおよそ1年半、ホワイトハウスは同法に規定された、1.2兆ドルを全米にまたがるインフラプロジェクトへ分配することに関して、大幅な進展を報告しました。2200億ドル以上が全国の3.2万件プロジェクトに分配されたとのことです22。資金の分配を加速するため、バイデン政権は「Permitting Action Plan」を通じて連邦政府機関と地方自治体と提携する方針です。注目すべき点としては、最近の債務上限合意はIIJAの資金を影響しないことを保証した点があげられます。ただし、同法は2024年12月31日までに年次予算案を可決することを議会に義務づけており、違反した場合は歳出が1%削減されるという条件があります23。高速道路インフラ向けの20億ドルを含めて、COVID-19関連の未使用の救済資金は回収される予定です24