次のビッグテーマ:2021年7月

米国のインフラ:

バイデン政権のインフラ計画が大きく前進

バイデン大統領と超党派議員グループがついにインフラ投資計画に合意したことを発表しました。史上最大規模となる、8年間で1.2兆ドルの財政支出が見込まれています。11.2兆ドルのうち、5,790億ドルについては「新たな支出」とされており、そのうち3,130億ドルは、道路、橋、主要プロジェクトなど交通インフラの整備に割り当てられると見られています。2 残りの2,660億ドルについては、電力、ブロードバンド通信、水道、気候変動対応など、交通インフラ以外に振り向けられる見込みです。

両党合意によるインフラ計画の枠組み、予算決議、および法案が無事に議会を通過すれば、雇用創出や米国製商品の売上増加が加速し、短期的には経済成長が促される可能性があります。長期的には、インフラ投資のリターンはGDP成長に強力なプラスの影響を与えると考えられており、長期的には1ドルのインフラ投資で年間のGDPが0.20ドル増加するという試算もあります。3 バイデン大統領は「米国家族計画(American Families Plan)」と同時でなければ超党派で合意されたインフラ法案に署名しないとの声明を出し、当初は共和党から反発を受けましたが、その後自身の声明を撤回し、それぞれ個別に法案成立を目指すと表明したため、計画は軌道に戻りました。

eコマース

ショッピファイが「Shop Pay」を拡充

大ヒット中の簡易決済システム「Shop Pay」は、既にショッピファイ利用者だけのものではありません。eコマース機能を拡充しようとしているフェイスブックやインスタグラムといったSNSでも、ショッピファイの決済システムが使えるようになります。例えばインスタグラムのユーザーが、プラットフォーム上で決済を行おうとする際には、推奨メソッドとして「Shop Pay」を選択し、認証コードをスマホで受領し、そのコードを入力すれば、インスタグラムを一旦終了させることなく決済を完了させることができます。ショッピファイによれば、「Shop Pay」は他の決済システムに比べて、チェックアウトのスピードが70%速く、コンバージョンは1.72倍高いとのことです。4 「Shop Pay」の簡易決済システムによる取引金額は、導入以降240億ドル以上に達しています。グーグルも2021年後半には「Shop Pay」の導入を予定しており、この時点でShop Payは100万以上の加盟店で利用可能になると見られています。5

リチウム/クリーンテクノロジー

大手採掘会社が、環境対策に注力

リチウム採掘に携わる企業が、持続可能性を重視するようになっています。リチウムを製造しているSQM社が、年次の「環境保全に関する報告」で、同社の環境に対する悪影響を極力抑制し、引き続き環境保全に努力するとの姿勢を再確認しました。同社が掲げた主な目標としては、海水採取の量を2030年までに半減させること、大陸水消費量を2040年までに65%減少させること、カーボンニュートラルを2040年までに達成すること、などです。6 SQM社はまた、世界経済フォーラムの「グローバル・バッテリー・アライアンス(GBA)」が掲げる環境保全原則を遵守することも明言しています。同様に、アルベマール社の年次「環境保全に関する報告書」では、同社が掲げたエネルギー・水の使用量の減少、2050年までの炭素排出のネットゼロ達成といった目標が詳述されています。7 同社はまた、2030年までのカーボンニュートラル実現への取り組みとして、リチウム産業への注力についても公言しています。8 アルベマール社は、気候変動対策への取り組みを強化するために、国連グローバル・コンパクト(UNGC)にも署名しました。同業であるリベント社やオロコブル社も、SQM社やアルベマール両社に追随して、グリーンリチウム運動に取り組んでいます。リチウムは、電気自動車や再生可能エネルギーの貯蔵に使用される最先端の電池の重要な原料ですが、リチウムの採掘については、これまで環境への悪影響が指摘されてきました。

ビデオゲーム&eスポーツ:

ゲーム産業が市場予想を超える好調を維持

ゲーム産業は、新型コロナウイルス感染症に伴う巣ごもり期間中に業績を伸ばしましたが、経済活動が再開し気候が良くなっても、ビデオゲームは上昇基調を維持しています。ゲーム業界全体の売上は、2021年1月から5月までの時点で240億ドルに達しており、2020年同期比で17%増となっています。9 5月に米国で最も売れたゲームソフトは、カプコンの「バイオハザードヴィレッジ」で、初動1か月分の売上としては、2021年に新発売された全商品の中での最高を記録しました。10 同様に、ハードの年初来売上も36%増となり、累計で19億ドルとなりました。11 昨年11月にソニーとマイクロソフトの両社がそれぞれ新型のコンソールを発売したことが主要因と考えられます。発売以降、ソニーの「PS5」は900万台、マイクロソフトの「XboxシリーズX/s」は533万台の売上を記録しました。12長期的には、世界のビデオゲーム機市場は、2027年までに5.25%CAGR(年平均成長率)での拡大が予想されています。13

クラウドコンピューティング

新興国でクラウドコンピューティングが急拡大

これまで、新興国のクラウドの利用は、先進諸国に比べて遅れていました。しかし、一般的なクラウドへの指向が増すにつれて、この傾向は変化しつつあります。中東地域の中小企業などでは、基本的なパブリッククラウド技術、高画質ハードウェア、コンピューター・インフラなどの利用が増えてきています。これらの企業へクラウドサービスを行っている主なコングロマリット企業には、オラクル、IBM、アドビシステムズなどがあります。中東・アフリカ地域のクラウド市場は、2021年の142億ドルから2026年には314億ドルと、17.2%CAGRで成長すると見られています。14 米国の主要なクラウドシステム・プロバイダーによるプレゼンス向上をきっかけに、中東・アフリカ地域では政府主導やデジタルインフラの改善のもと、クラウド技術の導入がようやく実現しつつあります。

クラウドコンピューティングのコラボレーター

クラウドテクノロジーの二大企業であるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)とセールスフォースは、両社による連携や、サービスの統合を更に進める計画を発表しました。新たなサービスにおいては、AWSで蓄積されたデータを、カスタムコーディングを行うことなく、自動的にセールスフォースのプラットフォームに転換することができます。セールスフォースもAWSの持っている音声データ、視覚データ、AI技術などを模倣・再現できるようになります。このような統合は2022年後半に完成する予定ですが、別のクラウドプロバイダーが加わることになれば、業界全体へも次々と影響が広がっていくことになるでしょう。2021年第1四半期におけるクラウドへのインフラ投資は総額186億ドルで、そのうちAWSは37%、僅差の2位がマイクロソフト・アジューレで23%となっています。15

クリーンテクノロジー

民間企業が競って気候変動対応

カーボンニュートラル達成に向けて、これまでは政府による資金援助と規制強化がカギと見られてきましたが、 政府の財政事情が厳しい新興国では、民間セクターがクリーンエネルギーへの転換において、大きな役割を果たしています。例えば、石油精製からテレコミュニケーションまで全てを手掛けるインドのコングロマリット企業リライアンス・インダストリーズ社は、インドのクリーンエネルギーへの転換を加速させるために、向こう3年間で100億ドルの投資を行うと発表しています。16 同様に、IKEA財団やロックフェラー財団は、発展途上国の再生可能エネルギー導入への支援のため、それぞれ10億ドルと5億ドルの基金を立ち上げることを計画しています。17 目標は温室効果ガス排出量10億トンの削減と、10億人への再生可能エネルギー供給です。両財団とも、商業的な採算にも注目した上で、国際支援団体から最大で100億ドルの資金を調達することを目標としています。18