テクノロジーを活用した医療:治療基準に革命をもたらす

この記事は、当社の代表的リサーチCharting Disruption 2024年版で取り上げられることが多かったテーマをさらに深掘りするシリーズの一部です。本稿は、医療の進歩の項の一部として人口の高齢化に焦点を当て、この分野での様々なイノベーションについて検討します。このプロジェクトの詳細については、こちらをクリックしてください。

従来の医療提供モデルでは需要の急増に対応できなくなった今、ヘルスケア業界は重大な転換点を迎えています。慢性疾患を管理し、治療成果を改善する上で予防医療のアプローチが有望だということが示されてきた一方で、医療の根本的な需給ギャップは拡大し続けています。そのギャップを埋めるための不可欠な手段としてテクノロジーへの期待が高まりつつあり、ヘルステック市場の規模は2022年の約2,250億ドルから2032年までに1兆ドル超へと4倍以上に成長すると予想されています1

成長が見込まれる主な分野は、ヘルスケア分析とソフトウェア・ソリューション、テクノロジーを活用した一般向け医療、スマート医療機器、AIを活用した創薬という4分野です。各分野が、それぞれ異なる方法で医療従事者のキャパシティの向上と医療提供の合理化に取り組んでいます。これまでヘルスケア業界は新しいテクノロジーの導入に慎重な姿勢をとってきましたが、高齢化への対応、慢性疾患の管理、医療アクセスの改善を求める圧力の高まりを受けて、業界全体でデジタル変革が加速しています。

重要なポイント

  • 医療従事者のキャパシティ、高齢化、慢性疾患の管理に伴う重要なニーズを背景に、ヘルステック市場の規模は2022年の2,250億ドルから2032年までに1兆ドル超へと4倍に拡大する見込みです2
  • 人工知能(AI)は、事務処理業務の負担軽減から創薬の加速まで、様々な面で医療の変革をもたらしています。
  • FDA(米国食品医薬品局)によるAI対応医療機器の承認件数が過去10年間で6件から950件へと急増したことに代表されるように、ヘルスケア業界ではインテリジェント機器の導入が急速に進んでおり、臨床診療と在宅医療の両方が根本的な変化を遂げています3

AIの活用による創薬:コードから治療へ

技術が進歩しているのにも関わらず、新薬開発には依然として平均10~15年の期間と13億ドルの費用が必要です4,5。しかし、試験研究段階にある医薬品のうちで上市に至るのは、わずか10分の1に過ぎません6。AIソフトウェアは、数百万ものシナリオを実行することで、臨床前の医薬品開発のコストを20~40%削減し、候補薬の設計と検証のスピードを最大で15倍加速させる可能性があります7,8

医薬品開発プロセスは複雑であり、特に有望な候補薬だけが臨床試験およびFDA審査に進むように、各段階で慎重な検証が必要です。初期段階で仮定や関連付けに誤りがあれば、患者にとって有効性がないという結論に至る薬剤の開発に何年も無駄な時間とリソースを費やすことになりかねません。そこで、AI技術はその解決策となります。AIによって、研究者は膨大な量の健康データを活用し、医薬品開発プロセスのごく初期段階から、多くの情報に基づく決定を下すことが可能になります。こうしたデータに基づくアプローチは、潜在的な問題の早期特定に役立ち、成功に至る候補薬を選定する確率を高めます。

医薬品開発にAIソフトウェアを導入すれば、以下の3分野の主要な利害関係者に恩恵をもたらすことが期待されます。

  • 製薬会社:AIとの統合に伴い、医薬品開発の経済性が根本的に改善する可能性があります。
    現状では、製薬会社は、上市まで至る医薬品はごく一部であることを承知の上で、何百種類もの候補薬に投資せざるを得ません。このため、承認された医薬品の薬価には、成功した開発と失敗に終わった開発の両方のコストが反映されることになります。AIの活用により成功率が高まれば、製薬会社では、より多くの医薬品をより効率的に開発できるようになり、その結果、投資収益率の向上と薬価の低下につながる可能性があります。
  • AI創薬ソフトウェア企業:この分野の企業は、急拡大する業界の先駆者となっています。AIを活用した創薬ソフトウェアは、2032年にかけて最も急速な成長が見込まれる生成AI分野であり、年平均成長率は121%になると予想されます9

  • テクノロジー・インフラ企業:テクノロジー業界は医療用のAI機能に多額の投資を行っています。中でも半導体メーカーは、創薬需要の増加に対応するために医療関連の開発に優先的に取り組んでいます。例えばエヌビディアは、数百社もの製薬会社やゲノム企業と提携しており、同社のヘルスケア部門の年間売上高は10億ドルにのぼると推計されます10

スマート医療機器:ハードウェアと医療イノベーションの融合

供給の拡大を支えるために、医療システム全体でデバイスの導入が進んでいます。そのようなデバイスは、多くの場合、新しいソフトウェアやAIアプリケーションを革新的なハードウェアに適用することで、医療におけるギャップを埋めるのに役立っています。米国では、FDAによるAI対応医療機器の承認件数が、10年前のわずか6件から約950件へと急増しました11

  • ウェアラブル・センサー:FDAが承認したAI対応医療機器のうち、臨床現場外で患者自身が使用する目的で設計されたものはわずか7%ですが、そのようなウェアラブルなシステムにより、継続的な健康モニタリングは変革を遂げています12。糖尿病モニタリング機器がこの分野をリードし、心血管や神経系の疾患をさらに幅広くモニタリングするための基盤となっています。このような機器は、日常活動を妨げることなく一貫して健康状況を追跡できるため、慢性疾患を管理している高齢の患者にとって特に有用です。
  • 手術ロボット:手術ロボットは20年以上前から利用されてきましたが、技術とソフトウェア統合の進歩により、現在では一層複雑な処置が可能になっています。その利点として、入院期間の短縮、最小限の手術跡、感染リスクの低下、術後疼痛の軽減などがあります13。オルタナティブファイナンスを含む、様々な資金調達手法によって導入が進み、業界最大手のインテュイティブ・サージカルが提供するロボットの導入件数のうち、約60%がリース契約となっています14。インテュイティブ・サージカルでは、2000年に最初の手術ロボットの承認を受けて以来、導入台数が約1万台、年間処置件数は260万件以上へと増加の一途をたどっています15,16

  • バックエンドの自動化:医療施設では、バックエンドの自動化テクノロジーの導入が急速に進んでいます。成長を遂げている900億ドル規模の薬局向け自動化市場では、統合調剤システムが薬剤管理に革命をもたらしています。このようなシステムは、米国の病院の85%が薬剤師不足に直面しているという重大なニーズに対応します17。オムニセルの自動調剤システムなどの最新のソリューションは、在庫管理能力を30%向上させ、薬剤師の作業負担を75%削減するなど、大幅な改善を実現します18,19

ヘルスケア分析とソフトウェア・ソリューション:煩雑な書類業務からの解放

医療分野では、ゲノミクスや手術ロボットなどの分野でテクノロジーが急速な進歩を遂げている一方で、基本的な事務処理プロセスは驚くほどアナログのままです。米国では、医療関連の書類の80%が依然としてファックスや郵便で送られていると推定されます20。こうした高度な医療技術と時代遅れの事務処理プロセスとのずれは、医療従事者と患者の双方に以下のような大きな問題をもたらしています。

  • 医師は、勤務時間の40%近くを患者の治療ではなく書類業務に費やしています21
  • 医療スタッフの4分の3は、書類作成の要件が患者の治療の妨げになっていると報告しています22
  • 医師の4分の3以上が、勤務時間外に書類業務をこなしています23
  • 医師の80%近くが医療ITシステムに関して疲弊した経験があります24

現在、AIを活用したソリューションにより情報処理機能を持つ自動ワークフローが実現し、このようなずれが解消しつつあります。高度な自然言語処理によって、経過記録から退院サマリーまで、臨床文書を作成できます。スマートなスケジューリングシステムが患者の診療の流れを最適化する一方、自動化された事前承認ツールは保険手続きを合理化します。このような技術革新は、単なる効率化にとどまらず、医療機関での情報との関わり方を一変させるものです。

その影響の範囲は個々の実務だけではありません。こうしたプラットフォームは、多様な母集団を網羅する匿名の臨床データを集約することで、生きた知識のネットワークを構築します。医療従事者は、何百万人もの患者への対応から得られたインサイトを入手することや、最新の研究状況を把握すること、最新の治療基準に沿ってエビデンスに基づいた意思決定を行うことが可能になります。プライバシー保護のもとでの分析を通じて提供されるこのような集約的な情報は、医療上の意思決定のための新たな基盤となります。

テクノロジーを活用した一般向け医療:身近な医療

デジタルヘルス・ソリューションの台頭により、患者が医療にアクセスし、治療を受ける方法が根本的に変わりつつあります。アクセスしやすい便利な診療の選択肢を求める需要の高まりを背景に、世界の遠隔医療市場の規模は2032年までに2,800億ドルに達すると予想されています25。コロナ禍でオンライン診療の導入が加速しましたが、この分野の進歩は基本的なビデオ診療をはるかに超えた段階に達しています。

デジタル薬局は薬剤管理に革命をもたらしており、ヒムズ・アンド・ハーズのようなプラットフォームは現在、200万人以上の加入者を擁しています26。このようなサービスは、AIを活用した薬剤管理システムと宅配サービスを組み合わせることで、ミスを減らし、アドヒアランス(患者が治療方針の決定に賛同し積極的に治療を受けること)を改善することにつながります。一方、オンラインヘルスケア市場では、患者が受診先を見つけて予約する方法が合理化され、専門医の予約の待ち時間が大幅に短縮されています。

新たなハイブリッド治療モデルは、バーチャルと対面のサービスを融合させたもので、現在では大多数の医療機関が何らかの形でハイブリッド治療を提供しています。このようなソリューションは特に慢性疾患の管理に役立ち、継続的なモニタリングと医療従事者による定期的な状況確認により治療成果が大幅に改善する可能性があります。遠隔患者モニタリングプログラムにより、心不全や糖尿病などの疾患による再入院が50%減少しました27

結論

AI、スマート機器、デジタルプラットフォームの融合は、医療提供の新時代の到来を告げています。このようなテクノロジーは、成熟に伴い、医療へのアクセスのしやすさ、効率性、クオリティに関する根本的な課題に対応しています。ヘルステック市場が2032年までに1兆ドル規模に成長するという予想は、ヘルスケア業界が現在抱える課題の大きさと、技術的ソリューションの変革の余地の両方を反映するものです28

この変革はすべての利害関係者にとってプラスとなります。医療従事者にとっては効率性の向上、患者にとっては医療へのアクセスのしやすさと個別サービスの改善につながり、医療システム全体では強靭性と適応力が高まります。このような技術が進化し続ければ、今はまだ想像の域を出ない、より優れた医療提供への新たな可能性が開けるでしょう。

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