医療の進歩:医師不足がイノベーションを加速

この記事は、グローバルXの代表的リサーチCharting Disruption 2024年版で取り上げられることが多かったテーマをさらに深掘りするシリーズの一部です。「医療の進歩」の項では、人口の高齢化、テクノロジーを活用した医療、ゲノミクスに焦点を当てます。このプロジェクトの詳細については、こちらをクリックしてください。

医師不足が2036年までに最大8万6,000人に達する可能性があり、米国の医療制度は急速に変わりつつあります1。この医師不足はヘルスケア・セクター全体にわたり過去に例のないイノベーションを促しています。3つの重要な分野、すなわち、人口高齢化の管理、テクノロジーを活用した医療サービス、ゲノム医療がこの医師不足を補う強力な解決策として浮上しています。イノベーションの規模は大きく、ヘルステック市場だけで2030年までに1兆1,000億ドルに達すると予測されています。また、同年までにゲノム医療は1兆4,700億ドルの医薬品市場で過去最高となる6.5%を占める見通しです2,3

これらの進歩は重要なタイミングで生じています。人口構成の変化によって医療の利用が増え、治療が複雑化しています。こういった変化がより効率的な治療提供モデルの採用を促進しており、AIを活用した創薬から手術用ロボットまで、医療イノベーションが医療提供者の能力を拡大し、患者の治療結果を改善しています。

重要なポイント

  • 人口の高齢化により医療需要が増加しており、GLP-1治療のような革新的ソリューションや高齢者介護に役立つ先進的テクノロジーの必要性が浮き彫りになっています。
  • 技術の進歩はAI、ウェアラブル・センサー、手術用ロボットなどのイノベーションを通じて負担を軽減し、効率性を向上し、患者の治療結果を改善しています。
  • ゲノム医療は根治的治療法によって医療を変革しつつあり、治療結果を改善し、長期介護コストを削減し、主要疾患の治療の選択肢を広げます。

人口の高齢化:高齢化に伴う機会

世界の人口は急速に高齢化しており、65歳以上の成人は2053年までに倍増し、17億人になると予想されています4。この人口構成の変化により、医療の不均衡が拡大しています。米国では、人口の16%を占める65歳以上の成人が医療費全体の37%を占めています5,6。この不均衡は高齢者の慢性疾患の割合が高いことから生じており、60歳以上の推定95%が少なくとも一つの慢性疾患を抱え、79%が二つ以上の慢性疾患を抱えています7

医療業界は複数の慢性疾患に同時に対処する治療を進めています。そのような解決策の一つであるGLP-1は、2022年の200億ドル未満から2030年までに1,500億ドル以上に増加すると予測されています8。肥満と睡眠時無呼吸(84%)や2型糖尿病(83%)、慢性腎臓病(65%)などの疾患とが併存する割合は高く、GLP-1薬が広範な治療に用いられる可能性があります9。GLP-1薬カテゴリーの全体は、この薬の幅広い人気から総称してオゼンピックと呼ばれています。しかし、このカテゴリーでは全部で13種類の薬剤が承認されており、2030年までにさらに17種類の薬剤が承認される見込みです10。イーライ・リリー(マンジャロとゼップバウンド)やノボ・ノルディスク(オゼンピックとカグリセマ)といったこの市場の大手企業は、2030年までに一治療薬当たりの年間売上高が200億ドルを超えると予想しています11

治療薬以外にも、需要の増大に応えるために広範な医療イノベーションが必要とされています。65歳以上の成人の70%が生涯のうちに長期介護を必要としており、高齢者介護施設は必要不可欠です12。しかし、新たな施設の開発は常に需要に遅れをとっている状況であり、高齢者介護プロバイダーにとって短期的な収益機会が生じています。ウェアラブル医療機器はこの不足を補うのに役立っています。こういった機器は患者の重要な健康情報をモニタリングし、治療薬の配送を自動化し、必要な場合に救急サービス機関に対し緊急通報をすることができます。

テクノロジーを活用した医療:治療基準に革命をもたらす

医師が事務処理に最大39%の時間を割くこともあることを踏まえると、テクノロジーは医療機関が質の高い治療を大規模に提供する能力を大幅に拡充しつつあります13。医療テック市場は、効率的なソリューションの採用を反映して2024年の2,860億ドルから2030年までに1兆1,000億ドルに成長すると予測されています14。この成長は様々なセクターにまたがっています。

  • 心血管疾患や糖尿病のモニタリングを目的とする機器などの一般的な非侵襲性機器に関するウェアラブル・センサー市場は、2030年までに400億ドルに達すると予想され、患者の継続的なモニタリングと早期治療を可能にしています15
  • 手術用ロボットも同様の伸びを示しています。この分野は2022年の85億ドルから2030年までに277億ドルに成長すると予測されています16。2030年までに人工股関節置換術の3件のうち2件はロボットによって実施される見通しで、このメリットとして入院日数の短縮と合併症発生率の低下を挙げることができます17
  • ヘルスケア分析とソフトウェア・ソリューションは治療提供の変革をさらに押し進めています。例えば、薬局システムの自動化により薬剤師が必要とする時間は75%削減されました18

AIは、すべての適用を合わせると米国の年間医療支出を10%削減し、治療結果を30~40%改善する可能性があります19,20。特に創薬の分野で、生成AIツールは2033年までにソフトウェア売上高を410億ドル増やし、新薬の市場投入までの時間を短縮する可能性があります21。創薬は、この期間中に最も急成長する生成AI分野になると予想されます22

ゲノム医療:治療パラダイム(枠組み)の変革

ゲノム医療は、医師不足を補うもう一つの強力な解決策です。これらの治療方法は長期的または根治的な効果をもたらすことが多く、2024年の9,270億ドルの医薬品市場に占める割合は1.6%ですが、2030年には予想される1兆4,700億ドルの同市場の6.5%を占めるまでに成長するとみられています23

この分野の急速な進化は、治療範囲の拡大から明らかです。初期のゲノム医療は主に希少疾患と血液疾患に焦点を当てていましたが、現在では複数の主要疾患領域に開発が及んでいます。現在、ゲノム関連の収益の78%はわずか6つの疾患の治療によるものです24。2030年までに収益は大幅に多様化し、75以上の新たな疾患がこの市場の49%を占めると予想されています25

患者がこれらの治療を受けやすくするため、業界はゲノム治療薬の製造を一層改善しようと努めています。ドナー由来モデルによって製造コストを最大95%削減することができ、また、認証治療センターのネットワーク拡大により(治療への)アクセスが改善されつつあります26。経済的なメリットは魅力的です。例えば、血友病Aの治療では、従来の生涯治療コストが2,160万ドルであるのに対し、遺伝子治療は治療コストを1,370万ドルに削減することができます27。このような効率性は、治療への応用の拡大と相まって、ゲノム医療が日常的な医療提供においてますます重要な役割を果たすことを示唆しています。

結論

人口高齢化の管理、テクノロジーを活用したサービス、ゲノム医療にソリューションが集約されていることは医療分野での医師不足の拡大に革新的対応がとられていることを反映しています。こうした進歩は医療提供の形を変えつつあり、AIやウェアラブル機器、手術用ロボットなどのテクノロジーがプロセスを合理化し、患者治療を改善しています。また、ゲノム医療は複雑な疾患に対する革新的な治療を提供し、長期治療コストを削減し、患者の生活の質を向上させています。

これらのソリューションは全体として医療イノベーションの新時代の到来を示唆しています。これらのソリューションは規模が拡大するにつれて、より良いケアをより大規模な高齢化人口に提供できるより効率的で、アクセスしやすい、効果的な医療システムを構築する可能性があります。

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