CES 2025:フィジカルAIの到来
2025年のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)では、AIが圧倒的な存在感を示しました。AIはこのテクノロジーを遠い将来のビジョンとしてではなく、私たちの世界を積極的に再形成する変革的な力として位置付けました。消費者向けデバイスから産業用ロボットに至るまで、AIは私たちが働き、物を製造し、患者を治療し、食料を生産する方法を変えつつあります。
オープニングでエヌビディアがー満員のスタジアムを前に基調講演を行いました。ジェンスン・フアンCEOは、パーソナルAIコンピューティングとロボット工学の画期的な進歩を説明し、AIアプリケーションを現実の(フィジカルな)世界で駆動するために設計された一連の高性能な半導体とプラットフォームを紹介しました。CESでは他にも、拡大するコンピューティング能力を活用して現実世界の自動化を推進する数多くの方法が展示されました。中でも、ヒョンデ(現代自動車)やBMW、シャオペン(小鵬汽車)は急速に向上する自動運転機能を披露しました。
アジリティ・ロボティクスのような画期的なスタートアップは、最先端のAIが産業用ロボットにどのように新しい機能をもたらすかを紹介しました。産業用ロボット業界はリショアリングの取り組みが拡大する中で大きく変わろうとしています。最後に、ジョンディアとキャタピラーは、AIがどのように鉱業、農業、建設業に革命をもたらし、コストを削減し、生産性を向上させ、また、商用車の広範な電動化を可能にしているかを示しました。
当社チームがCESに参加して、テクノロジーが向かっている方向について学んだ内容を以下にてご紹介します。
重要なポイント
- AIはソフトウェアだけでなく現実世界にも急速に入り込んでおり、様々な業種の企業がAIを活用してこれまでにない効率性や精度、拡張性をもたらすよりスマートなロボットや自動化システムを開発しています。
- 自動車業界は進化し続けており、安全性、性能、ユーザー体験を高める高度な自動運転機能を取り入れています。
- 電動化の勢いは様々な業界で強まっており、鉱業、農業、運輸などの分野でジョンディアやキャタピラーなどの革新的企業が持続可能で自動化された省エネ・ソリューションを求める声に対応しています。
成熟を続けるAIコンピューティングと自動化
CESは、当社が予想したとおり、AIが急速に進化し、消費者が日常的に使用する製品やサービスにますます組み込まれつつあることを示しました。このイベントのハイライトはエヌビディアのジェンスン・フアンCEOの基調講演で、同氏はパソコンやゲーム、ロボット、自動運転車両の分野における一連の新製品・サービスを発表しました。
重要な発表の一つは「Cosmos」基盤モデルの導入でした。このモデルは、写真のようにリアルな動画を作成することができ、開発者はこれを使って従来のデータ収集方法よりも安いコストで自動運転のロボットや車両を訓練することができます。これらのモデルは、大規模言語モデル(LLM)がチャットボットの自然なコミュニケーションを可能にする仕組みのように、機械が現実世界を理解できるようになる合成トレーニング・データの生成を目的としています。こういった新しいモデルによって、ロボットや自動運転のアプリケーションのためのデータが限られているというボトルネックが緩和されるため、ロボットや自動運転の開発が急速に進むものと期待されます。
パソコンに関しては、新しいイノベーションのいくつかはAIへのアクセスを民主化するという目標に向けられています。その重要な例が、現代のノートPCほどの大きさのパーソナルAIスーパーコンピューター「Project DIGITS」です。これは、2,000億パラメーターのLLMを動かすことができ、一般的な専門家や学生がエヌビディアの「Grace Hopper」プラットフォームの能力を簡単に利用できるようにします。新システムによって、ユーザーは自らのデスクトップ・システムを使ってモデルの推論を開発・実行することもでき、また、これらのモデルをクラウドやデータセンター・インフラへ円滑に展開することもできます1。
エヌビディアはまた、「エヌビディアAIブループリント」と名付けたプロジェクトを発表しました。これは企業の業務を自動化できるAIアプリを、AIエージェントを用いて構築するシステムです。これらのAIエージェントは、大量のデータを推論、計画、分析し、画像や動画、PDFなどのさまざまなソースからリアルタイムで知見を抽出することができる知識ロボットとして機能します。このほか、エヌビディアは、同社のAIアーキテクチャ「ブラックウェル」を組み込んだゲーム用半導体「RTX 50シリーズ」も発表しました。この半導体はゲーム画像を映画レベルにまで高めることを目指しています。
エヌビディア以外でもAIハードウェアが成熟してきたことは明らかで、業界大手同士の幅広い競争が起きています。AMDは、高性能ゲーミングノートPC向けの半導体「Ryzen AI Max」や、個人・企業ユーザー向けAIパソコンアプリケーションを実行するために使用される半導体「AI 300」と「AI 300 プロシリーズ」を紹介しました。インテルは企業コンピューター・システム向けの半導体「Core Ultra 200V」シリーズを披露し、クアルコムはWindowsノートPC向けの半導体「Snapdragon X」を発表しました。そのほか、エッジ・コンピューティングやモノのインターネット(IoT)のユースケース向けに半導体を提供するアンバレラ(Ambarella)は新世代の生成AI半導体を発表しました。これは、12の同時ビデオストリームをオンチップでデコード処理しつつ、そのビデオと複数のマルチモーダル視覚言語モデルを同時に実行します2。レノボやエイスーステック(Asustek)などの企業も新しいAIパソコンモデルを展示しました。
テック業界以外に拡大する応用:様々な業界でのハードウェアとAIの新しい組み合わせ
コンピューティング能力とAI能力が新たな高みに到達する中で、CES出展企業は労働力不足への対処や医療アクセスの拡大など社会の差し迫った課題に対する革新的なソリューションを提示しました。
重機メーカーのジョンディアとキャタピラーは、建設、農業、商業造園、鉱業などのデジタル化が難しい分野でAIと自動運転をさらに導入しています。ジョンディアがCESで発表した第2世代の自動運転キットは、AIやカメラ、高度なコンピューター・ビジョンを活用して自動運転機械の操作を支援します3。第1世代の自動運転キットは、もともとジョンディアの自動運転トラクターに導入されたものですが、同社は現在、この技術を5ML果樹園用トラクター、採石作業用のアーティキュレートダンプトラック、商業造園用のバッテリー式電動芝刈り機に拡大しています。キャタピラーも、建設現場や鉱山での作業に使用する半自動や全自動で作動する電気機械を展示しました。これらの次世代機械は、農業の生産性や現場の効率性・安全性を改善しながら、労働力不足への対応に役立つと考えられます。
ジョンディアの大規模農業向け9RX自動運転トラクター
Sources: Global X ETFs with image derived from: John Deere. (2025, Jan 9). CES Presentation.
- 医療分野では、AIの活用範囲を拡大して患者の日々の治療に直接影響を与えることに重きが置かれていました。視覚障害者用に改良された杖から、手術後の回復を支援するように設計されたウェアラブル・ロボットまで、CESでは医療に焦点を当てた数多くのプレゼンテーションや展示が行われていました。非公開企業のOnMedは、電源コンセントだけあればよいコンパクトな「クリニック・イン・ボックス(Clinic-in-a-Box)」であるCareStationを発表しました。CareStationにはHDカメラ、聴診器、パルス・オキシメーター、サーマル・イメージングなどが装備されており、医師によるオンライン診療を可能とします。このプラットフォームは、必要に応じて電子処方箋や専門医の紹介を容易に行うことができます。CareStationは、十分なサービスが行き届いていない地域に設置することができ、通常の診療所や遠隔医療へのアクセスが困難な患者の治療を容易にします。米国の10人に1人は医療砂漠に住んでおり、こういった人々にとってCareStationは特に有益であると考えられます4。
OnMedのクリニック・イン・ボックスは、医療サービスを十分に受けられない人々が迅速な医療を受けることを可能にする
Sources: Global X ETFs with image derived from: OnMed. (2025, Jan 7). CES Presentation.
- エイジテック(AgeTech)は、人口の高齢化で増大する医療ニーズに対処するものとしてCESで大きく注目されました。米国では65歳以上の成人が人口の16%を占める一方、医療利用に関しては37%を占めています5,6。この年齢層は2053年までに倍増するとみられ、AARP(米国の高齢者団体NPO)によればエイジテックへの支出は今後30年間で96兆ドルに達する見込みです。複数の革新的企業が高齢者介護を対象とするソリューションを紹介していました7,8。画期的な技術としては、AIを搭載したリハビリテーション・プラットフォーム、クローズド・キャプション(字幕機能の一種)を内蔵した聴覚障害者向けスマートグラス、認知症介護者向けのオンデマンド支援システムなどがあります。
- ウェルネスや健康に関するより広範なモニタリングにも重きが置かれ、ウェアラブル血圧計、睡眠の質を測定するIoTデバイス、気温に対するアスリートの反応を検出するスマートウェアなど、非常に多くの健康モニタリング機器が紹介されていました。例えば、健康モニタリング企業のWithingsは新しいコンセプト「Omnia」を発表しました。これは鏡で、その前に立つだけで自動的にその人の健康状態を読み取り、包括的な健康レポートを提供することができます。
ヒューマノイド(ヒト型)ロボット技術が変革をもたらす
AIの進歩はロボット産業をこれまで以上に加速させ、ヒューマノイド(人型ロボット)の急速な進歩を可能にしています。かつてはSFの世界に限られていたこれらの人間に似た機械が、CESでは目に見える形で、すぐにも発売可能なイノベーションとして目立つ形で展示されていました。ヒューマノイドは、AI半導体メーカーやセンサー開発企業、IoTシステム・メーカー、必要不可欠な部品や素材のサプライヤーなど、幅広いバリューチェーン全体にわたって有望な投資機会を生み出しています。
CES開催中に、当社はシェフラー、Apptronik、SSI シェフラー、ユニツリー(Unitree)など複数のヒューマノイド展示場を訪れました。シェフラーの物流関連デモンストレーションは特に説得力があり、重いコンテナの移動などの危険で反復的な倉庫作業をヒューマノイド・ロボットがどのように処理できるかを披露していました。これらのデモンストレーションで最も注目を浴びたのはアジリティ・ロボティクスの画期的なモバイル操作ロボット「Digit」でした。Digitは倉庫作業用に設計された初の商用ヒューマノイドで、すでにアマゾンの倉庫で試験的に使用されています。このロボットの成功で需要が非常に高まったため、アジリティは専用工場を建設中で、年間1万台の生産目標を掲げています9。世界の製造業や工場は膨大な労働力を抱えており、これらのシステムが早期に導入されることによって、アジリティや類似企業の獲得可能な市場規模の大きさを垣間見ることができるかもしれません。
また、グローバルXはRealbotixのヒューマノイドMelody(メロディ)にも感銘を受けました。メロディは、アイコンタクトをしたり、話したり、人間のような動きや仕草をしたりすることができるアップグレード機能を備えたオープンソースのロボットです。メロディの目には視覚システムとマイクロカメラが搭載されており、動きを追跡したり、アイコンタクトを維持したり、正確に物体を識別することができます。
Digitヒューマノイドが組み立てラインで作業開始
Sources: Global X ETFs with image derived from: Schaeffler. (2025, Jan 7). CES Presentation.
運輸業界はレベル4自動運転の導入を加速している模様
運輸業界の出展企業が今年、主に焦点を当てたのは運転支援技術と自動運転技術で、自動運転は大きく前進する段階に入ろうとしています。多くの企業が、レベル4(L4)の自動運転システムの進展を強調しており、L4システムはかつてないほど現実に近づいています。現在利用可能な自動運転システムのほとんどは人間の支援を必要とするL2ですが、L4システムは人間の介在を必要とせずに予測不可能な環境に対応するように設計されています。
農業機械や建設機械の自動化が進んでいるのと同様に、長距離トラック業界も自動化に向けて準備を進めています。非公開企業のコディアックはL4の自動運転長距離トラック輸送に向けた継続的取り組みを紹介し、それによると同社の長距離トラックの自動運転走行距離は2024年8月に5万マイルを記録しました10。また、コンチネンタルとエヌビディア、オーロラは提携を発表し、L4自動運転セミトラックの配備スケジュールの前倒しを目指します。コンチネンタルは2027年に自動運転システム「オーロラ・ドライバー」の量産を開始する予定です11。
ライドシェア業界では、Zeekrのような企業が発展し、より電動化された自動運転の未来へとこの業界を動かしています。中国の吉利汽車(ジーリー)のEVブランド「Zeekr」は、将来のタクシー配車サービスに関してウェイモと共同開発中のロボタクシー「Zeekr RT」を発表しました。この車は年内にウェイモに納入され、米国でテストされる予定です12。
自動運転車両システムの要であるLiDAR技術は能力と普及の両面で飛躍的に伸びています。CESのデモンストレーションでは、大幅な値下げと性能の著しい向上が示されました。これにより、自動車メーカーによる自動運転機能や高水準の安全システムの(自動車への)統合がさらに進むとみられます。中国メーカーのHesaiは、現在主流となっているシステムよりも30倍高い解像度を実現する次世代自動車用LiDARプラットフォームを披露しました13。これらの先進的なセンサーは200ドル以下の価格が予想されており、間もなく手頃な価格の大衆市場向け電気自動車の標準機能になる可能性があります14。また、自動運転車両システムの性能向上と商業化のスピードを加速させる可能性があるその他の技術ソリューションも紹介されました。その重要な例がHelm.AIのソフトウェア・ソリューションで、わずか10時間の運転から(AIが生成する)LiDARデータを作成することができます。このような進歩は、OEMがL3やL4の自動運転アプリケーションのトレーニングと検証に要する時間を大幅に短縮する可能性があります15。ちなみに、自動車がテストと検証のためのデータを十分に収集するには、通常、数千時間の運転を必要とします16。
結論:イノベーションの進展
CES 2025では、ほぼすべての業界でAIと自動化が急速に進んでいることが強調され、日常生活におけるテクノロジーの役割の見直しにつながるとみられるイノベーションが紹介されました。AIを搭載したパソコンやロボットの進歩からヒューマノイドや自動運転、自動機械の出現まで、このイベントはAIがもたらし得る変革を浮き彫りにしました。医療や運輸などの業界は、こういった技術が患者ケアの改善から自動運転システムの進化に至るまで現実世界の課題をどのように解決しつつあるかを示しました。エヌビディアの「Project DIGITS」のようなツールは個人と企業両方の力になるものであり、AIの利用しやすさと民主化に重点を置いていることは明らかです。CES 2025で発表された画期的な進歩は、AIがイノベーションを推進し、効率性を向上させ、社会変革の可能性を開く未来を予感させます。
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