ヒューマノイド(人型ロボット)の台頭

ロボットが登場してから何十年も経ちます。事実、「ロボット」という言葉が初めて登場したのは1920年で、チェコの劇作家、Karel Čapekが『Rossum's Universal Robots(Rossumの万能ロボット)』という戯曲の中で、日常の労働で使用される人間のような外見をした機械を指す言葉として命名しました1。それ以来、技術革新によってロボットシステムは基本的な産業での応用の枠を越え、様々な職場や家庭で人型ロボットが活躍する時代はそれほど現実離れした考えではなくなりました。まだ開発段階ですが、ロボット工学と人工知能(AI)のダイナミックな集中を背景に、ヒューマノイド・テクノロジーの開発が急加速しているため、業界のリーダー企業が大量に適用、生産し、市場に参入する日は近付いています。システムに関する理解の深まりに加えて、ロボットのハードウェアコストの低下もあって、商業規模での生産と適用が現実味を帯びてきました。

本稿では、パラダイムシフトにつながるテクノロジーになると期待している投資家にとって、ヒューマノイドの機能性とアプリケーションの進化がこの分野をどのように魅力的な投資機会にしているのかという点に注目します。

重要なポイント

  • 最近の技術の飛躍的な進歩と生産コストの減少により、人型ロボットの大量生産と大量採用がこれまで以上に現実味を帯びてきました。
  • 自動車業界の過去のトレンドと協働ロボットの成長は、技術の進歩、サプライチェーン問題、賃金インフレおよび人口高齢化に支えられ、ヒューマノイドの導入が主流になる態勢を整えていることを示唆しています。
  • ヒューマノイド市場への投資を模索している投資家は、サプライチェーン(とりわけロボット製造企業、AIチップメーカー、センサー開発企業のほか、関連する部品や素材のサプライヤー)の全体で投資機会を見つけることができます。クラウド・インフラとデータ管理のソフトウェア・プロバイダーもデータ生成の増加に伴って恩恵を受ける可能性があると見ています。

ヒューマノイド市場の急成長は続くと予想

ヒューマノイドは進化したロボット機械で、人間の行動、論理的な思考、業務の遂行を模倣する能力を備えています。これは、AI、バイオメカニクス、機械学習のほか、学習とのセンサー・コネクティビティ、認知発達、および行動学的研究などのテクノロジーを集約したものです。ヒューマノイドは人間の形状を真似て作られており、工具から住宅建設に至るまで、人間を中心とする世界の設計に合わせています。これは、環境へのシームレスな統合の促進を意味するだけでなく、人間に類似したロボットは人間とは全く形状の異なるロボットに比べ、比較的早く社会に受け入れられる可能性があることを意味しています。

ヒューマノイドの潜在的な市場機会は巨大な上、拡大しています。テスラのCEO、イーロン・マスク氏や業界関係者は、2040年代には10億台を超えるヒューマノイドが地球上に存在すると見ています2。単一目的の協働ロボットを採用する動きは製造現場ではすでに拡大しています。一方、汎用人型ロボットの可能性はほとんど未開拓のままですが、その魅力は用途の広さです。かつては未来のビジョンと考えられてきたヒューマノイドが今では現実的なものになっており、危険な工場、高齢者ホームなど、様々な現場で稼働できるため、物流、製造業、ヘルスケアなどのセクターに革新的なソリューションをもたらしています。

2024年の2億5,200万人から2035年には4億人に増加すると予想されている製造業(産業)に従事する世界の労働人口を考慮すると、製造業で使用されるヒューマノイドが獲得できる可能性のある最大の市場規模(TAM)はおよそ1.75兆ドルです3,4。Global Xの推定では、ヒューマノイドは労働者の35%に、ほとんどをより意味のあるタスクに押し上げる方法で影響を及ぼす可能性があり、10,000ドル-15,000ドルというレンジの平均販売価格(ASP)で販売されると予想されています5

同じく、家庭との関連では、ヒューマノイドは、機能性に違いはあるものの、産業用のヒューマノイドと同じレンジのASPが要求されると予想しています。産業用のロボットは重いものを持ち上げるとともに、もっと大きな出力が可能な設計になっていますが、家庭用のロボットは友好的なやりとりのほか、モニタリングや家事のような家庭内のタスクに合わせて設計されているため、技術的およびシステム的に明確な相違があります。2035年には、ヒューマノイドは世界の15億世帯のうち最大15%に普及する余地があると仮定すると、家庭用のヒューマノイドは2億2,500万台に達することも考えられます6。ASPを同じ10,000ドル-15,000ドルとすると、家庭用ヒューマノイドのTAMは2.8兆ドルに達することになります。

ヒューマノイドの普及は初期の自動車やコボットのトレンドに匹敵

ヒューマノイドの実用性は最終的には平均的な家庭にとって自動車と同じように貴重であることが証明されるとGlobal Xは考えます。1886年に特許を取得したガソリン車はわずか7年後の1893年には商業化を実現し、その後は急速に進化し、家庭に必要なものとして消費者向けに広く販売されるようになりました7。その過程において、物品、サービスおよび人の輸送をもっと利用しやすく、効果的かつ費用効率の高いものにし、経済の生産性を飛躍的に高めることによって自動車は経済を変革しました。

自動車業界における最近の混乱は、かつては未来のものと考えられていた技術革新でもある電気自動車(EV)の急激な普及によるものです。今日、EVは自動車業界の主要なマイルストーンであるだけでなく、いずれもロボットでも使用される重要部品のAIチップ、高機能なセンサーやバッテリーの手頃な価格設定や高度化も促進させています。

同じく、コボットも、商品コンセプトを考案する過程では懐疑的な見方もありましたが、初期の商品化から販売拡大までに要した期間はわずか10年でした8。コボットの採用を加速させた同じ要因(技術の進歩、サプライチェーン問題、賃金インフレ、人口動態の変化)は今後10年間にわたってヒューマノイドの採用に拍車をかけると予想しています。

ヒューマノイドは、すでにパイロット・プログラムの一部として倉庫や自動車工場で人間とともに働いており、重いコンテナの移動など、反復的で危険なタスクに取り組んでいます。一例がアマゾンのDigitで、Agility Roboticsがeコマース用荷物の輸送とリサイクルを目的に開発した二足歩行のロボットです9。倉庫でのタスク用に設計された初の商用ヒューマノイドであるDigitに対する旺盛な需要を背景に、Agilityは専門の工場を建設し、年間10,000台の生産を計画しています10。Agilityのパートナー・プログラムに参加している企業はDigitの機能をカスタマイズできますが、2024年にはロボットの納入が予定されており、2025年には市場展開のさらなる拡大が計画されています11。さらに、ロボット工学のスタートアップ企業であるFigureは、先日、自動車の生産を支援するため、BMWのサウスカロライナ製造工場で汎用ヒューマノイドの試験運用を行うことでBMWと合意しました12

工場でのヒューマノイドに対する需要は2030年代中盤にかけて着実に増加すると見ています13。それ以降は、テクノロジーの開放に伴ってヒューマノイドはサービス業界や家計部門でも導入され、料理、清掃、ガーデニングなどタスクの履行が可能になります。家庭へのアプリケーションに向けた移行は、複雑な課題を理由に普及のスピードが減速していますが、移行期間は2050年代まで延長されると予想されています14

ヒューマノイド業界は勢い付いている

ヒューマノイドの幅広い普及のためにはいくつかの重要な改善が必要です。将来的には、ヒューマノイドの最先端のプロトタイプは、機動性と敏捷性を備えた動きと一流の認知能力をシームレスに統合することに秀でたものになると見ていますが、現時点でこのような機能を備えているモデルはまだありません。その実現のためには、バッテリーの寿命を大幅に長くするか、一回の充電で丸1日の稼働を可能にする急速充電サイクルに適応する必要があります。現在のヒューマノイド、とりわけ油圧アクチュエイターを搭載したヒューマノイドが一度に稼働できるのは一般的には2時間までです15

機動性、敏捷性および処理能力のさらなる強化は、深度カメラ、フォースフィードバックおよび通信センサーの改良とともに、必要不可欠です。効率的なナビゲーション、タスクの完了、および質問に対する回答能力には、計算能力の向上も必要です。この種の計算には、初期のコマンドから生まれるタスクを実行するだけでなく、進化を続けるシナリオに対してシームレスにリアルタイムで適応するためには、ソフトウェア・システム向けのエンド・ツー・エンド型AIにおける一層の進歩が必要です。

家庭およびサービス業へのアプリケーションは、複雑で物理的なシナリオを提示し、高度な物体認識を必要とするほか、最新の機動性、器用さとバランスが求められます。様々な個人がヒューマノイドと交流する方法やヒューマノイドに対応する方法を理解することは、高度な擬人化が必要な複雑性をもう一段追加することになります16。しかし、家計やサービス業というカテゴリーは、とりわけ2050年代には60歳以上の世界の人口が倍増し、21億人に達すると予測されているため、有望な市場機会の一つと言えます17。この世代は毎日の作業でヒューマノイドの支援が必要な主力市場になる可能性があります。

最後に、これらのロボットの財務的な実行可能性を強化するためには、生産コストの削減を継続し、バリューのアウトプットは確実に投入コストを上回る必要があります。現在、人型ロボットの製造価格は、基本的なモデルの30,000ドルからハイエンドのモデルについては150,000ドルという価格レンジになっていますが、すでに2022年の50,000ドルから150,000ドルというレンジからは大幅に値下がりしています18,19。コストをさらに削減すると、採用に際しての障壁が低くなり、特に家庭向けのロボットに関しては市場の前向きな反応につながる可能性もあります。自動車と同じように、今後15年以内に、家庭がヒューマノイドを個人用に購入できる経済力を持ち始めると予想しています。

ヒューマノイドの台頭を主導する企業

人型ロボット分野を牽引している有名企業には、ボストン・ダイナミクス、テスラおよびトヨタなどの大手企業のほか、アジリティ・ロボティクスやFigureなどのスタートアップ企業が含まれており、どの企業もこの分野には特に焦点を当てています。

例えば、DARPA(国防高等研究計画局)ロボティクス・チャレンジの一環として、ボストン・ダイナミクスが2013年に導入したAtlasは最新鋭の人型ロボットです20。二足歩行で敏捷性があり、人のような動き、自律航法のほか、しっかりした学習能力を備えているAtlasは業界から幅広く称賛され、インターネット上でセンセーションを巻き起こしました。Atlasは敏捷でダイナミックな動きのための全身のスキルを特徴にしているため、モノを持ち上げて運ぶとともに、ジャンプや後方宙返りのような複雑な運動ができるほか、器用さと適応能力を求められる災害対応や製造業務にも参加できます21。Atlasはリサーチ・プラットフォームであり、販売対象ではありませんが、業界における技術革新の触媒になっています22

Atlasとは異なり、テスラの第二世代の人型ロボット、Optimus Gen 2は商業目的での開発段階にあります23。Optimus Gen 2は、用途が広い、汎用性の高い機械で、製造業、建設業、ヘルスケア、エンターテインメントなど複数の分野で人間を支援する能力を備えています24。ロボットは正確で、柔軟に動く能力を発揮し、その手は11の自由な動きが可能で、触覚センサーと高速アクチュエイターに代表される物体操作スキルが強化されています25。Optimusは、テスラの電気自動車に動力を供給する同じニューラル・ネットワークを作動しているほか、バッテリー技術、感知、計算における同社の専門知識によって競合他社よりもコスト効率良く操業できると期待されています。CEOのイーロン・マスク氏によると、プロトタイプの発売当初のコストはわずか20,000ドルにとどまる可能性があります。さらに、テスラには自社の自動車製造施設内にヒューマノイドを配備する計画があり、これも採用を促進させる上で役立つ可能性があります26

ヒューマノイドのバリューチェーン全体における投資機会を解明

ヒューマノイド市場に関心がある投資家は、とりわけ産業界向け、ヘルスケア業界向け、または家庭環境向けのロボット製造企業、AIチップメーカー、センサー開発企業、モノのインターネット(IoT)システムメーカーのほか、必要不可欠な部品や素材のサプライヤーを通じてサプライチェーン全体で投資機会を見つけることができます。また、人型ロボットの能力を向上させるAIや機械学習ツールに特化している企業にも魅力的な投資機会があります。

クラウド・インフラやデータ管理ソフトウェアのプロバイダーも、特に家庭環境ではヒューマノイド導入の恩恵を受けると予想しています。消費者に軸足を置いたヒューマノイドで使用される特別注文で個人仕様のAIモデルに対する需要によって、データ生成が大幅に増加し、クラウド・コンピューティング・リソースやデータ管理ツールに対する支出の大幅な増加に拍車をかける可能性があります。

結論:SFの夢から経済的現実へ

画期的な技術的進歩とコスト削減の動きに支えられたヒューマノイド・テクノロジーの驚くべき進歩は業界の壁を越えて破壊的な変化をもたらす可能性を示唆しています。現在は可動性と認識能力を結び付けるという課題を抱えていますが、技術革新は継続し、幅広く採用される時代が来るとGlobal Xは予想しています。2035年には、世界の人型ロボット市場のTAMは4.85兆ドルに接近すると予想されています27。ヒューマノイドが産業界での利用から家事の援助に移行するにつれて、社会との融合によって経済的な優位性がもたらされると見ており、その中にはサプライチェーンの混乱やインフレなど世界の課題に取り組む新たな方法が含まれています。そのような意味で、Global Xではこれらのマシーンが「ロボット」という言葉に新たな解釈を加えると考えています。

関連ETF

2638 – グローバルX ロボティクス&AI-日本株式 ETF

BOTZ – グローバルX ロボット&AI ETF

AIQ – グローバルX AI&ビッグデータ ETF