次のビッグテーマ:2023年10月

ゲノム・人工知能

大手製薬会社がAIを活用した創薬を処方

製薬会社が、人工知能(AI)企業と連携し、その技術を統合する動きが加速しています。今年初め、イーライリリーとXtalPi社は、臨床開発および商業開発のための潜在的な医薬品候補を特定するために提携しました1。また、先月には、イーライリリーは、臨床試験自動化プラットフォームであるProofPilotと協業することで、製薬部門におけるAI技術をさらに向上させました2。イーライリリーは、Magnol.AIとして知られる最先端のセンサークラウド技術へのアクセスを同プラットフォームに提供することでサポートを拡大し、高頻度のセンサデータを安全に管理できるようにしました。なお、この提携は、リリーが自社の技術をライセンス供与する最初の事例となる予定です3。同様に、ノボ・ノルディスクは、ヴァロー・ヘルスのAIを搭載したOpal Computational Platformを利用して、実世界の患者データとヒト組織モデリングおよび機械学習を組み合わせています4。ノボノルディスクは、プログラムの達成度に連動して最大27億ドルの支払いを約束し、バロの11のプログラムを支援する可能性があります5。創薬分野では他に、メルクKGaAがBenevolent AIおよびExscientiaとの戦略的提携を発表しました。両社は、メルクKGaAの腫瘍学および神経炎症に関する専門知識を活用することを目的としています6

リチウム・電気自動車

米エネルギー省がリチウム生産に拍車を掛ける

米エネルギー省(DOE)は、リチウム・アメリカズ社と、同社のネバダ州プロジェクトに対する画期的な資金提供について協議中です。この資金調達により、北米のリチウム産業に10億ドル規模の資金が投入され、タッカー・パス・プロジェクトの建設費の50~75%が賄われる可能性があります7,8。最終的にこの融資が決まれば、DOEが鉱山会社に融資する金額としては過去最大となります9。バイデン政権は、リチウムサプライチェーンの確保が気候変動目標の達成に不可欠であると考えており、同政権の下で米国リチウム産業が著しく成長しました。操業が開始されれば、タッカー・パス鉱山は北米における電気自動車用バッテリーの主要なリチウム供給源となる可能性があります10。以前、ゼネラル・モーターズは、このプロジェクトに6.5億ドルの投資を約束することで、初期生産段階への独占的アクセスを確保しました11。このリチウムプロジェクト推進の流れに沿って、自動車大手ステランティス社の子会社であるプジョー・シトロエン・アルゼンチン社は、アルゼンチン・リチウム・アンド・エナジー社の株式取得に9,000万ドルを拠出しました12

人工知能・メタバース

ビッグテックのAI企業への変貌が激化

アマゾンは、Claude Chatbot(クロード・チャットボット)で有名なAIスタートアップ、アンソロピックに最大40億ドルを投資する予定です13。マイクロソフトのOpenAIへの130億ドルのコミットメントに比べると規模は小さいものの、この動きはアマゾンのAIビジネスへの投資熱を浮き彫りにしています14。アンソロピックのクロード・チャットボットは、ChatGPTやグーグルのBardのような対話型AIモデルで、翻訳、コード生成、クエリへの回答に優れています。クロードは、より広範なプロンプトを処理するため、特にビジネス文書や法的文書に適しているとのことです。この提携では、アマゾンは少数株主状態を確保し、アンソロピックの技術をアマゾンのベッドロック・サービスを含む様々な製品に統合する予定です15。グーグルは、OpenAIのGPT-4と競合するように設計された対話型AIソフトであるGeminiへの早期アクセスを一部の企業に許可しました16。Geminiは、「Google Cloud Vertex AI」によるチャットボットとテキスト要約機能を包含しています。一方、メタ社は、待望のQuest 3仮想現実ヘッドセットと、フェイスブックやインスタグラムでのユーザー体験を強化することを目的とした生成AIツール群を発表しました17。これらのツールには、画像編集、バーチャルアシスタント、有名人にインスパイアされたAIキャラクターなどが含まれます。ゲッティ・イメージズは、Nvidiaと共同で「Generative AI by Getty Images(ゲッティ・イメージズ生成AI」を開発しました。これにより、ユーザーはゲッティ・イメージズの膨大なライセンス写真ライブラリーから画像を作成しながら、著作権規制を遵守することができます18

新興市場Eコマース・フィンテック

インドのデジタルコマースが急成長

インドのEコマース市場は、2018年の393億ドルから年平均成長率(CAGR)28.2%で成長し、2023年には1,173億ドルになると予測されています19。この成長は、インターネットとスマートフォンの普及率の上昇と、パンデミック後のオンラインショッピングに対する消費者の嗜好の高まりによるものだと考えられます。オンラインインフラを強化し、インターネット接続を拡大するデジタル・インディア・キャンペーンのような政府の取り組みも大きな原動力となっています。この成長は年平均成長率22.4%で継続し、2027年には2,636億ドルに達する見込みです20。フィンテック分野は、インドの電子商取引やその他の新興市場の繁栄からも後押しされているもようです。2023年の市場シェアは58.1%で、インドではモバイルやデジタルウォレットなどの代替決済手段が、現金やカードに代わってオンライン決済の主流となっています21。また、インドのUPIやブラジルのPIXのような即時決済システムは、金融包摂の推進に貢献したとして世界的な評価を得ています。

ミレニアル世代の消費者

iPhone15の購入に列をなす消費者たち

中国、日本、米国では、アップルのiPhone 15 ProまたはPro Maxを手に入れるには11月まで待たなければならないかもしれません。これは、9月末に開始された予約注文に続く強い需要の表れです22。世界的なスマートフォン市場の落ち込みにより、2023年6~9月期のiPhoneの販売に悪影響を受けていたアップルにとって、今回の需要は安心材料となります23。中国では、より高価なモデルであるPro Maxの入荷待ち期間が4~5週間となっており、中国におけるアップルの潜在的な頓挫の懸念が緩和されました24。なお、中国はアップルにとっての第三の市場です。当初は、ファーウェイとの競争や、政府関係者のiPhone使用制限などが懸念されていました。ところが、iPhone 15 ProとPro Maxは、アリババのTmallなどのプラットフォームで数分で完売しました。また、昨年のJD.comの1時間配送アプリ「Dada」でのiPhone 14の発売時に比べ、売上は253%増となりました25。米国では、Pro Maxの入荷待ち期間は6~7週間、日本は5~6週間となっています26。アップルのホリデーシーズン業績に対して、同社がiPhone 15 ProとPro Maxの需要を生成し、満たせることは、極めて重要です。

防衛技術

軍事制度近代化に向けて契約締結が相次ぐ

地政学的な不確実性が続く中、各国は防衛力を強化しており、大手防衛技術企業が契約を獲得しています。ジェネラル・ダイナミクス社の一部門であるジェネラル・ダイナミクス・オードナンス&タクティカル・システムズ(略:OTS)は、155mm M1128 ロード、アセンブル、パック(略:LAP)用に2.18億ドルの初期タスクオーダーを受注しました27。このプロジェクトでは、155mm砲LAPの品質と効率を高めるため、工程と空冷技術の近代化を目指します。このタスクオーダーは、米陸軍からの9.74億ドルの固定価格契約の一部で、期間は数年間にまたがります28。米空軍(USAF)は、ノースロップ・グラマン社に空対地ミサイル「スタンドイン攻撃兵器(SiAW)」の契約金7.5億ドルを供与しました29。SiAWは、米空軍初のデジタル兵器獲得・開発プログラムであり、迅速に移動可能な目標に対処するように設計されています。そのオープン・アーキテクチャ・インターフェースは、機能強化のための迅速なサブシステムのアップグレードを可能にします30。一方、英国最大の防衛企業であるBAEシステムズは、新世代の潜水艦建造で48億2000万ドルの契約を獲得したことが明らかになりました31。この契約は、オーストラリア、英国、米国間の安全保障協定における重要な一歩であるとみられます。AUKUS(オーカス)として知られるこの協定は、2030年代後半までにオーストラリアに原子力攻撃型潜水艦を配備することを目的としています32