次のビッグテーマ(グローバル):2024年6月

人口知能(AI)&テクノロジー

AIチップのアップグレードサイクルが激化

チップメーカーは競争力を維持するため、より高速で強力なプロセッサーの発売を急いでいます。AMDは最近、市場シェアの拡大を目指し、Ryzen AI 300シリーズを含む複数の新しいAIチップを発表しました。クアルコムのSnapdragon Xに対抗する製品であるRyzen AI 300シリーズは、AIチャットボットCopilotを搭載したマイクロソフトのノートパソコンに搭載されます1。AMDは、ゲームやコンテンツ制作のデスクトップ向けにRyzen 9000シリーズを発表しており、これは世界最速のコンシューマー向けPCプロセッサーになります2。さらにAMDは、MI300シリーズの改良版であるInstinct MI325Xアクセラレーターを2024年第4四半期に発売すると発表しました3。同様に、Nvidiaは、Rubinと名付けられた次世代AIチップを、今年3月に発表したばかりでまだ広く販売されていないBlackwellモデルの後継とすることを発表しました4。このような急速な展開は、AIチップ市場における競争の激化を浮き彫りにしていると言えます。以前は2年周期でアップグレードを繰り返していたエヌビディアは、主導権を維持するために年1回のペースに移行しました。AMDも同様に、毎年新しいAIチップ技術を発売する予定です5

データセンター&デジタルインフラ

AIブームでデータセンターが急増

データセンター新設の需要は、特に大手クラウド・サービス・プロバイダーの間で、全く減速の兆しを見せていません。AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)は最近、インディアナ州に110億ドルを投じて大規模なデータセンターを建設すると発表しました。これはインディアナ州史上最大の設備投資となります6。グーグルもインディアナ州に20億ドルのデータセンターを建設する予定で、さらにバージニア州の既存施設の改善に10億ドルを投じます7。メタ社は、アイオワ州ダベンポートの328エーカー(約132.7万m2)のキャンパスに2棟のデータセンターを建設する認可をアイオワ州経済開発局から受けました8。メタ社はまた、ワイオミング州で数十億ドル規模のデータセンター・プロジェクトに着手しており、同州で過去最も重要なハイテク・プロジェクトのひとつを建設することを目指しています9。メタ社は、気候が良好であること、そして同社の超高温エンタープライズ・システムを一般的な水道システムよりも数度低く保つことができることからワイオミング州を選びました。ワイオミング州のもうひとつの利点は、主要な高速インターネット幹線などの重要なインフラの近くに位置していることです10

米国インフラ

米国送電網の信頼性を高める送電プロジェクト

米国エネルギー省(DoE)は、優先度の高い送電プロジェクト10件の暫定リストを公表しました。緊急度が高い地域が対象で、合計約3,500マイルにも及びます11。これらのプロジェクトは、連邦政府の資金援助と迅速な許認可を受ける予定で、米国の送電プロジェクトでは通常、許認可プロセスが主要ハードルのひとつとなるため、この対応は注目すべきものです。送電容量の拡大は、送電網の信頼性を向上させ、今後予想される再生可能エネルギーの成長を支える上で極めて重要になります。DoEは、2024年秋に選定されたプロジェクトを発表し、対象地域を細かく整理する予定です12。これらのイニシアチブは、インフレ削減法を通じて25億ドルが割り当てられ、最大45億ドルの資金を調達することが予想されます13。また5月には、超党派の連邦航空局(FAA)再承認法案が成立しました14。この法案により2024会計年度から2028会計年度にかけてFAAに1,050億ドル以上の資金が国家運輸安全委員会に7億3,800万ドルの資金とともに承認されています。これにより、航空安全を強化し、米国全土の空港と航空インフラに投資することを目指します15

遠隔医療&デジタルヘルス

遠隔医療プラットフォームがGLP-1へのアクセシビリティを向上させる

遠隔医療とデジタル薬局のスタートアップ企業であるヒムズ・アンド・ハーズは、オンラインプラットフォームを通じて注射可能なGLP-1減量薬の販売を開始しました16。不安症や脱毛症などに対するD2C(Direct to Consumer)治療を提供することで知られる同社は、2023年12月に減量プログラムを開始していたものの、GLP-1薬はすぐにはこのプログラムに含まれませんでした。顧客は認可を受けた医療提供者の処方箋を介して、このプラットフォーム上で直接、配合されたGLP-1薬を入手することができます。注射は月199ドルからとなっています17。配合されたGLP-1薬を提供することで、対象顧客は、オゼンピックやウェゴビーといった人気ブランド薬と同じ有効成分の薬を入手することができ、これらのブランド薬に付随する供給不足や高コストを回避することができます18。食品医薬品局(FDA)によると、米国成人の約70%が過体重または肥満であり、体重の5~10%を減らすことで、糖尿病や心血管疾患などの健康リスクを大幅に減らすことができると言います19

ロボティクス&人工知能(AI)

ロボット支援手術機器の受け入れ拡大

インテュイティブ・サージカル社は、癌の診断後に前立腺を摘出する根治的前立腺摘除術に使用される同社の手術用ロボットプラットフォーム「da Vinci X」および「da Vinci XI」について、FDAから添付文書改訂の許可を得ました20。FDAによるこの決定は、インテュイティブ・サージカル社のロボット手術の正当性を認め、ロボット支援手術機器のさらなる進歩への道を開くものであるといえます。FDAの決定を後押ししたのは、2007年から2014年にかけて、未治療の前立腺癌に対して手術を受けた約25,000人の米国患者を対象としたリアルワールドデータ(RWD)でした。ロボット支援による根治的前立腺摘除術と非ロボット支援による根治的前立腺摘除術の両方で、患者の5~10年生存率は同等でした21。インテュイティブ・サージカル社は、FDA、医療分析会社のエイティオン(Aetion)社、およびNational Evaluation System for Health Technology(NEST)と協力して、リアルワールドデータ(RWD)を検証しました22

サイバーセキュリティ

AIが新たなビジネスチャンスをもたらし、業界再編は続行

デジタルトランスフォーメーションとAIの進化によって急速に進化する企業のテクノロジー環境は、サイバーセキュリティに大きな課題をもたらしています。サイバーセキュリティのリーダーであるパロアルトネットワークス(PANW)とIBMは、高度なAIツールによるセキュリティ運用の強化、脅威の阻止、インシデント対応の迅速化を目的に、新たなパートナーシップを締結しました。この契約に基づき、IBMは社内のセキュリティ・ソリューションをPANWと統合し、PANWをネットワーク、クラウド、セキュリティ・オペレーション・センター(SOC)向けの優先的なサイバーセキュリティ・パートナーとします23。PANWは、脅威検知とコンプライアンス機能で有名なIBMのQRadar SaaSプラットフォームを買収し、既存のQRadarクライアントを、AIを搭載した次世代SOCプラットフォームであるCortex XSIAMに移行します24。さらにPANWは、IBMの大規模言語モデルwatsonxをCortex XSIAMに統合し、サイバーセキュリティ・ソリューションをさらに強化します25。IBMは、PANW製品の移行、採用、展開に関して、同社のセキュリティ・コンサルタント1,000人以上をトレーニングし、サイバーセキュリティ・コンサルティングにおけるIBMのリーダーシップを強化する予定です26。この提携は、AIに支えられた包括的なエンド・ツー・エンドのソリューションを提供するために、業界が統合へとシフトしていることを強調していると言えます。

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