次のビッグテーマ(グローバル):2023年7月
電気自動車
今年前半の電気自動車・バッテリー市場の拡大
従来型自動車メーカーの販売増加にもかかわらず、テスラは米国EVメーカー首位としてのリードを拡大しました。今年前半、テスラの販売台数は、競合他社である現代自動車やゼネラル・モーターズよりも約30万台多くなりました。2022年同期間においては、このギャップは22.5万台でした1。今年前半、テスラの販売台数はおよそ30%増加し、336,892台となりました2。6月に、ゼネラル・モーターズの電気自動車・トラックの販売台数は36,322台まで増加し、フォルクスワーゲンのEV販売台数は26,538台に達し、それぞれ4倍と2倍以上の成長となりました3。STLAミディアムプラットフォームを発表したステランティスのような主要企業の躍進がEV市場の成長に寄与したと考えられます。当プラットフォームは駆動力をサポートするもので、標準航続距離は500km以上、パフォーマンスパックを使用すれば700kmまで延長可能であります4。
世界のEV用バッテリー需要は、2022年の509ギガワット時(GWh)から2030年には3,295GWhに増加すると予想されています5。最近中国が新しいEVの免税措置を2027年まで延長することも含めて、各国政府の取り組みは導入を後押ししていると思われます6。現在、中国の消費者は1台あたり4,000ドル以上からEV減税の恩恵を受けることができますが、今後4年間で優遇措置は徐々に縮小していく予定です7。
ソーシャルメディア・ミレニアル世代消費者
インスタの「Threads」は若い世代を結びつける
インスタグラムが出したアプリ「Threads(スレッズ)」のユーザー数はリリースから2時間内に200万人、数日間内に1億人に達しました8。ユーザーは登録するだけでなく、アプリを積極的に使用しているとのことです。第一日目に、既に9,500万件の投稿と1.9億件の「いいね」がプラットフォーム内に共有されました9。インスタの親会社であるメタは、この成功をポジティブに捉えていますが、経営層はユーザー保持の重要さを強調しています。若い消費者がますますソーシャルメディアに依存するようになっている現在、「スレッズ」は良いタイミングでリリースされました。最近の調査によりますと、ミレニアル世代の46%、Z世代の42%はレストランのSNSページから情報を得ようとしています10。Z世代にとって、インフルエンサーのおすすめとブランド・スポンサード・コンテンツは服の購買決定に大きく影響します。別の調査では、調査対象者の3人に1人が、新ブランドの商品を購入した理由は何なのかと問われた際、インフルエンサーのおすすめを理由として取り上げ、5人に1人がブランド・スポンサード・コンテンツは効果的であると述べました11。
クラウドコンピューティング・人工知能(AI)
生成AIとハイブリッド・クラウド・モデル
パブリック・クラウド、プライベート・クラウド、オンプレミスの要素を統合したハイブリッド・クラウド・インフラは人気を集めており、企業のビジネスモデルの拡大を可能にしています。IBMはVista Equity Partnersとの最終合意を発表し、460億米ドルでApptio社を買収する予定です。財務および運用IT管理・最適化(FinOps)ソフトウェアを提供するApptioは、IBMのIT自動化機能を加速させ、企業のリーダーがテクノロジー投資から得られる価値を最大化できるよう支援し得ると思われます12。ApptioOneとApptio Cloudabilityを含めて、Apptioの商品ラインナップはハイブリッド・パブリッククラウド支出を管理・最適化するための機能を提供します。
2022年、世界のパブリック・クラウド・サービスの売上高は5,000億ドルを突破し、重要なマイルストーンとなりました13。生成AIはパブリック・クラウド支出の更なる成長のカタリストになると考えられます。これに対して、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は同社の新しい生成AIプログラムに向けて1億ドルの投資を発表しました。AWS生成AIイノベーションセンターと名付けられ、当プログラムは顧客が生成AIソリューションを開発・展開するのを支援することを目的としています14。現在のところ、オラクルのGen2 Cloudは、生成AIワークロードを実行するための主要な選択肢として浮上しており、オラクルのプロバイダーとしての成功を証明しています。
モノのインターネット(IoT)とデータセンター
アジアは半導体業界において優位性を示す
2023年第二四半期に、AIアプリケーションの需要が高まったことに伴い、台湾積体電路製造(TSMC)の売上高は跳ね上がりました15。TSMCは、オープンAIのChatGPTのような大規模データモデルの訓練に使用されるエヌビディア社のAIアクセラレータチップの主な契約メーカーです。日本の政府系ファンド産業革新投資機構(JIC)は、半導体材料大手であるJSRの買収を提案しましたが、総投資額が9,039億円(63億ドル)にものぼります16。日本は従来から強みを持っている分野に力を注いでおり、とりわけJSRのような材料・化学製品に焦点を当てています。同様に、韓国はメモリーチップ市場をリードしており、その強固なAIエコシステムと相まって、世界のAIチップ競争において優位に立っています。世界最大のダイナミック・ランダムアクセス・メモリー(DRAM)・チップメーカーの2社であるサムスン電子とSKハイニックスは、AIの研究・開発に資金を注いでいます。サムスン電子は、韓国に位置する新しい半導体施設の建築に向けて300兆ウオン(2,280億ドル)を投資する予定です17。デジタル戦略を実行することで、韓国は2027年まで米国と中国に次ぐ世界トップ3のAI市場の一つなることを目指しています18。
米国インフラ整備
超党派のインフラ法は完全施行中
バイデン政権の「Investing in America(アメリカに投資)」ツアーは、雇用の拡大を支援すると期待されるインフラ・グリーンテック・半導体業界に割り当てる何十億ドルの投資額の重要さを浮き彫りにしています。現在まで、バイデン大統領の連邦支出計画に沿って、民間企業は5,000億ドル以上の投資プロジェクトを発表しました19。6月末、米環境保護庁(EPA)が、総投資額は70億ドルに当たる「Solar for All」助成金コンペティションを開始し、低収入家庭に向けて太陽光エネルギーへのアクセスの拡大を目指しています20。この取り組みでは、様々な団体に最大60件の助成金が授与されます21。バイデン政権は、「Rebuilding American Infrastructure with Sustainability and Equity(持続可能性と公平性を備えたアメリカのインフラ再建)略:RAISE」プログラムを通じて既に220億ドル以上の助成金を授与し、全国に162件のインフラプロジェクトを支えてきました22。
バイデン政権は、ゲートウェイ・ハドソン川トンネル・プロジェクトを連邦運輸局(FTA)の資本投資補助金(CIG)プログラム内で進め、最大68億8000万ドルの資金確保に近づけました23。このプロジェクトは、ニューヨークとニュージャージーの間に新たなハドソン川トンネルを建設し、既存の鉄道トンネルを改修するもので、総工費は171.8億ドルとなります24。超党派インフラ法では、旅客鉄道に660億ドル(アムトラック設立以来最大の投資額)、公共交通機関に900億ドル以上(この分野への資金提供としては史上最大)を割り当てています25。
ゲノム
医薬品取引と承認
モデルナは、中国におけるメッセンジャーRNA(mRNA)医薬品の研究・開発・製造を推進するため、10億ドルの契約を獲得しました26。この契約は、上海での投資を拡大し、中国のパートナーとパートナーシップを結ぶというモデルナの目標に向けた新たな一歩となります。5月に、同社は上海にモデルナ・バイオテック・チャイナという拠点を設立しました。米国では、2社の医薬品大手が重要なマイルストーンを成し遂げました。サレプタ・セラピューティクス(Sarepta Therapeutics)はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に対するアデノ随伴ウイルスベースの遺伝子治療薬エレビディスの米国食品医薬品局(FDA)早期承認を取得しました。この治療法は、DMD遺伝子変異が確認された4〜5歳の歩行可能な小児患者を対象としています27。また、FDAは、バイオマリン社のRoctavianを重症血友病Aに対する1回限りの治療薬として承認しました。FDAの承認には、Roctavianの第3相GENEr8-1試験の結果が強調されています。遺伝子治療を受けた112人の患者において、中央値で3年間の追跡調査期間中、1年当たりの出血症例が平均52%減少しました28。