次のビッグテーマ(日本):2023年7月

半導体

政府系ファンドによる半導体材料大手JSRの買収は業界再編につながる可能性

6月26日、日本政府によって設立された投資ファンド「産業革新投資機構(JIC)」は、株式公開買付を通じて半導体材料大手JSRを買収すると発表しました。今回の買収が国内半導体材料業界の再編を招くという見方が多いです1。JICの池内省五社長はロイターの取材に対し、JICが半導体企業のM&Aをさらに実施する可能性があり、統合は日本の半導体材料メーカーの競争力を高める可能性があると述べました2。JSRは半導体製造過程に不可欠なフォトレジスト(感光材)を専門とし、現時点で、フォトレジスト世界シェアの約30%を握っています3。なお、フォトレジストは露光装置で光を当てることにより特定のパターンを描くために使用される化学薬剤であり、政府によって戦略物資として定められています4

また、7月4日に欧州連合(EU)のブルトン議員は西村康稔経済産業大臣と会見し、半導体の安定供給に向けて連携を強化するという覚書を交わしました5

自動運転・電気自動車(EV)

トヨタ、ギガキャストと全固体電池、両面でEV戦略を本格化

トヨタ自動車が、組み立て効率化技術「ギガキャスト」を2026年までに導入し、745マイルの航続距離と10分間の充電時間を実現する全固体電池を最速で2027年までに生産できると発表しました。「ギガキャスト」とは、米テスラが先行して採用した鋳造技術であり、多数の車体部品を一体成型することで、コスト削減への道を開きます6。トヨタはEVの生産に遅れを取っていると指摘されますが、予定通りに全固体電池を開発した場合、EV業界に一石を投じる可能性があります。全固体電池は、航続距離を伸ばし、充電時間を短縮できるため、現在のEVの弱点を改善し得ると考えられています。この両技術を生かすことで、トヨタは、EV生産工程を半減させ、航続距離を倍増することを目指し、さらに2030年までに世界販売台数350万台を達成するという大胆な目標を掲げています7

ロボット・モノのインターネット(IoT)

協働型・サービス型ロボット、消費者の家庭へ進出

5月17日、日本の新興企業プリファード・ロボティクスが家庭用運搬ロボット「カチャカ」を発売しました。「カチャカ」は地上移動型ロボットで、「カチャカシェルフ」という棚付きで提供され、ユーザーが物を「カチャカシェルフ」に載せて音声やスマホで操作すれば家の他の場所へ運ぶことができます。「カチャカ」はレーザーセンサーとAI画像処理機能付きのカメラを搭載し、家の中の物体との衝突を回避できるとのことです8。また、7月4日に新興企業ユカイ工学が同社の家庭用ロボット「Bocco Emo」にChatGPTの音声会話機能を導入しており、5月16日にパナソニックは「ニコボ」という片言だけ話せる家庭用ロボットを発売しました9,10。高齢化と人手不足によるニーズが高まる中、日本の産業用ロボットが成長するに連れて、今後人間味のある家庭用ロボットの存在感は増すという見方があります。

安川電機、SMC、国内開発・生産拠点の建築を発表

世界的に自動化への需要が活発化する中、6月に、日本のロボット・FA(工場自動化)大手SMCと安川電機は国内の新拠点への投資を発表しました。SMCは千葉県柏市に総投資額1200億円の開発センターを建築する方針を明らかにし、2023年12月に着工する見込みです11。なお、SMCは空気圧制御技術を専門とし、2022年時点空気圧制御技術の国内市場シェアの64%、世界市場シェアの39%を握っています12。また、6月8日に、安川電機は福岡県北九州市に位置する本社敷地内に総合投資額1500億円の工場の新設を発表し、2025年までに稼働を開始する予定です13。稼働開始後、同社のロボット生産力は1.5倍に増強すると予想されています14