次のビッグテーマ(日本):2023年8月

人工知能(AI)

ChatGPT技術が霞が関に到着、日本政府のデジタル化を活気づける可能性

報道によると、米マイクロソフトはChatGPTの基盤技術を日本のデジタル庁に提供し、国会答弁の議事録や統計の分析といった行政用途に活用される予定です1。政府は、機密情報とデータの漏洩を防ぐために、日本国内に位置するデータセンターと設備のみを使う方針です。4月に、ChatGPTを開発した米OpenAIのアルトマンCEOが訪日し、岸田総理と会談を行い、その後、政府はChatGPTの有効活用に向け検討チームを設立すると発表しました。

データ・セキュリティが国家安全保障に不可欠な要素となっている現在、対話型AIと生成AIが国家安全とユーザーの個人情報にもたらすリスクへの不安が残っていますが、企業と政府にとって、最先端AIモデルを十分に活用しないと遅れを取るという懸念もあると思われます。こうした中、生成AIの課題への対応は分水嶺となっていると言えるでしょう。地方政府のレベルでは、4月に神奈川県横須賀市がChatGPTを行政向けに活用すると発表したのに対し、米国メイン州政府は、州政府業務におけるChatGPTと生成AIの使用を6ヶ月間禁止しました。国家レベルでは、3月に、イタリア政府が個人データの収集に関わる懸念によりChatGPTの使用を一か月程度禁止しました。日本の場合、高齢化と人手不足の問題がとりわけ際立ち、デジタル化の欠如が長年にわたり問題視されています。こうしたニーズに駆られ、日本政府は、デジタル化に力を注いでいるというシグナルを発信する狙いがあるでしょう。

半導体

日本と米国、半導体サプライチェーンの強靭化を狙いながら、インドを視野に入れる

7月20日、西村経済産業大臣はインドを訪問し、「日印産業共創イニシアティブ」を発表するとともに、インド政府との「半導体サプライチェーンパートナーシップ」に係る覚書も署名しました。インドの半導体業界は小規模にとどまってきましたが、2021年に「セミコン・インディア」がインドの国会に通過され、モディ政権は半導体国産化の旗印を掲げています。こうした中、インド政府にとって、国際パートナーを誘致するのは急務です。米国の半導体関連企業は既にインドに投資を行っています。6月には、米アプライドマテリアルズがインドに4億ドルのエンジニアリングセンターを建設することを発表し、米ラムリサーチがインドの半導体人材を育成するプログラムを発表し、米マイクロンがグジャラート州に半導体組立・試験施設を建設することを発表しました2。日本勢も米国半導体企業と足並みを揃えている模様です。5月にルネサスの柴田社長はモディ首相と直接に会談を行い、また、8月には半導体製造装置大手であるディスコもインド拠点の建設を検討していると報道されました。ジェトロの取材に対し、グジャラート州(GJ州)科学技術省は、現地に既にホンダとスズキを含む自動車エコシステムが整っているため、GJ州は日本半導体関連企業の投資に適していると指摘しました3。インドの取り組みの先行きにまだ不確定要因が残っているものの、日本政府と半導体関連企業はインドとの連携を検討しているということは、フレンド・ショリング(Friendshoring:海外生産拠点を同盟国や友好国へ移転すること)の例だと言えるでしょう。

電気自動車・自動運転

米国のEV充電規格への、日系自動車メーカーの動きが問われる

電気自動車(EV)の充電には、いくつかの充電規格があります。例えば、米テスラに独自開発されたNACS規格(北米充電規格)や、中国のGBT(国標)規格や、CCS(コンボ)などが挙げられます。加えて、日本では主流となったCHAdeMo規格(「お茶でもいかがですか」の省略)もありますが、北米地域において存在感がなくなっています。現時点で、米国ではCCSの充電ポートがおよそ5521個、NACS充電ポートが6258個整備されています4。2023年5~6月、フォードやゼネラル・モーターズなどがNACS規格を2025年から導入すると発表したことで、テスラのNACS規格が支配的地位に立ち得るとの見方が強まりました。こうした中、日系自動車メーカーの動きが問われています。7月26日に、ホンダが自動車大手6社と連携して急速充電器の合弁会社を設立するという計画が明らかになりました。7社の連合は2030年まで少なくとも3万基の充電器を北米地域に設置することを目指し、これらの充電器はNACSとCCS両方に対応するため、テスラによる独占を防ぐ狙いがあると読み取られています5。一方、7月19日に、日産は2025年から北米地域に同社のアリアEVモデルと将来のモデルにNACSを導入することで、初のNACS規格を導入する日系自動車メーカーとなり、2024年に既存のアリアEVのためのNACSアダプターを提供すると発表しました6。現時点で、トヨタは7社連合に参加しておらず、NACSを導入する計画も発表していません。7月5日に、テスラのイーロン・マスクCEOはX(旧ツイッター)にてトヨタにNACS連合への参加を呼びかけました。