インフレクション・ポイント:夏のボラティリティ・シチューのレシピ
材料:
史上初めて現職大統領が予備選後に大統領選から撤退することによる地政学リスク 1/4カップ
FRBが金利を5.5%に据え置く場合の金融政策リスク 1/4カップ
弱い雇用統計を受けた景気減速懸念 大さじ1
円高によるキャリートレードの世界的な巻き戻しから生じる流動性逼迫 ひとつまみ
作り方:
混ぜ合わせて中火で2週間煮る...
8月5日月曜日の市場の暴落は、バリュエーションが高過ぎるのではないかとの懸念が強まっていた時期に、ボラティリティの諸材料が沸騰した結果の産物です。今回の暴落まで、米国株のボラティリティは過去1年間の大半で非常に低い水準にとどまっていました1。筆者は、金融政策や関連データの発表が不確実性の上昇に関してより小さい役割を演じるようになるレジーム・シフトが市場で進行しており、複雑な地政学的背景がボラティリティの上昇を引き起こすようになると考えていました2。直近のボラティリティの急上昇では、両方の要因が経済への懸念や流動性の逼迫と並んで影響を与えました。
8月9日金曜日までに、市場はある程度の底固めを終えました。今回の相場で逆説的だったのは、企業利益の伸びは順調で、S&P500の四半期利益率が長期にわたって12%以上を維持し続けていることに変わりはないということです3。今回の株価急落は、単に経済の小さなエアポケットを反映しているだけで一時的なものかもしれませんし、より大きな下落を示唆する「炭鉱のカナリア」なのかもしれません。いずれにせよ、この種のボラティリティは、長期的な視点を持つことに価値があること、投資家は神経を落ち着かせるレシピを料理手帳に書き加えるチャンスであることを思い出させてくれます。
重要なポイント
- ボラティリティの上昇は長期的な市場リターンを必ずしも阻害するものではありません。
- 米国のインフラや防衛テックなどの一部のテーマは、安定した収入源があるため、変化の激しい環境でも比較的持ちこたえることができます。
- オルタナティブ・インカム戦略は、優先証券により弁済優先順位を高くしたり、カバード・コールにより株式リスクをヘッジしたりすることで、ボラティリティを低減することができます。
待てば海路の日和あり
ガンボ、チキンスープ、ビーフシチュー、ラーメンのどれをとってもじっくり煮込む時間が必要です。ボラティリティの一時的上昇は通常、不確実性を高めるさまざまな事象(予測可能なものもそうでないものもあります。)が重なることで生じます。こうしたジェットコースターのような変化は投資家を不安にさせますが、多くの場合、長続きせずに過ぎ去ります。株式のボラティリティ指標としてよく使われるVIX指数が25~30の範囲にある場合、ボラティリティが高い可能性を示唆しています4。VIX指数は1990年以降の期間の約18%で25を上回っています。VIXがこの基準値を超えたときから1年後にS&P500が下落していたのはその期間のうちの21%、そして全取引日の4%にすぎません。言い換えれば、ほとんどのボラティリティの急上昇は大幅な下落と関連しておらず、いわば「偽陽性」です。
ボラティリティの急上昇は通常、長期投資家には影響を与えません。ボラティリティの急上昇前後の12か月ローリング・リターンは、株式市場は多くの場合、非常に速く回復することを示しています。ボラティリティ上昇の1か月前と11か月後の株価を比較すると、市場は多くの場合、乱高下の後に上昇しています5。S&P500構成企業の2024年第2四半期の売上高成長率が約5%、利益成長率が12%であるなど6、企業のファンダメンタルズが引き続き強いことを踏まえると、この傾向は今回も再び証明される可能性があります。
不透明な時期のテーマ投資
投資家が短期的なボラティリティに対応する一つの方法は、長期的なトレンドを重視することです。このアプローチは、短期的に相場の調整を排除したり減らしたりすることはできないかもしれません。しかし投資期間を長く設定し、将来を重視することによって、短期的なボラティリティを長期間における一時的な変動として捉えることができます。高成長テーマ株はベータが高く、市場全体よりも大きく変動する可能性がありますが、回復も早い傾向があります。
いくつかのテーマは、ボラティリティの急上昇から12か月後にかなり高いパフォーマンスを示しています。地政学が引き続きボラティリティを生む重要なきっかけとなるというGlobal Xの見方に基づけば、特に興味深いと思われる2つのテーマは米国のインフラと防衛テックです7。過去にも書いたように、どちらのテーマも超党派の支持を得ており、すでに多くの資金提供が約束されています。米国のインフラはインフラ投資・雇用法とCHIPS法に基づく合計1兆8,000億ドルで強化され、米国の国防支出に関しては2024会計年度に約9,000億ドルが承認されています8。自動化やデジタル化が続くというGlobal Xの長期的な見方どおりに、人工知能とロボティクスのテーマも様々なボラティリティの状況下で良好なパフォーマンスを示しています。
代替収入の提供
乱高下する市場で検討すべきもう一つのアプローチは、ポートフォリオのボラティリティを低下させる戦略です。資本を保存するための一つの方法は弁済優先順位を高くすることです。優先証券は株式と債券に似た性質を持ち、市場全体との相関性はそれほど高くありません9。優先証券は金融セクターに集中していますが、歴史的にS&P500よりもボラティリティははるかに低くなっています。
株式のヘッジも選択肢の一つです。カバード・コール戦略は原資産のオプションを売ることによって収入を生み出します。一般的に、オプションのプレミアムはボラティリティと共に上昇します10。これらの株式戦略は、収入を生み出すと同時にボラティリティを低下させるのに役立ちます。利回りを重視する投資家は、原指数の100%のコール・オプションを売る戦略に目が行くかもしれません。一方、株価のアップサイドをヘッジしたい投資家は、50%のコール・オプションを売る戦略の方が魅力的と考えるかもしれません。