インフレクション・ポイント:地域紛争を超えて
ここ数年、米国の対外利益に対する挑戦の高まりを地域紛争として捉える傾向が見られます1。ウクライナ戦争や台湾海峡の緊張の高まり、ハマスのイスラエルへの攻撃、ベネズエラによるガイアナ領土の領有権主張が世界各地で起きていますが、それら全てはつながっています。米国と西側諸国が主導する冷戦後の国際秩序に反対する勢力は団結を強め大胆になりつつあります2。北朝鮮のウクライナへの1万人の軍隊派遣はその最も新しい事例にすぎません3。ロシアは軍事要員を必要とし、北朝鮮は燃料やその他の支援を必要としています。両国がこのように手を組んだことは、この紛争が真に国際化したことを表しており、中国の承認を得ている可能性が高いと考えられます。
これらの紛争を地域的な枠組みの中で個別に見ることは、新たな緊張やエスカレーションが発生するたびに注意と対応がそちらに向かうというモグラ叩きの状況をもたらしています。これは、とるべき道を検討している政策立案者や投資家にとってますます有害になっているようにみえます。本稿は、これらの人々に対し、地政学的な不確実性があるものの今後とり得る道筋と機会を示します。
重要なポイント
- 4つの異なる地域にまたがる安全保障上の懸念は、米国と同盟国の利益を標的とした他に類のない新しい協調的な世界的な動きを表しているように見えます。
- これらの紛争が一段と顕著になっている背景には経済的、外交的、軍事的な変化があり、これらが政策判断を困難なものにしています。
- 米国の国際競争力に着目した取引は防衛テクノロジー、インフラ、自動化などの分野で魅力的な機会を投資家に提供すると当社は考えています。
組織化された反対勢力
紛争同士をつなぐネットワークが地政学的情勢を変えつつあります。ロシアとイランの軍事協力は2023年10月7日のイスラエルへの攻撃以前、少なくとも同年4月に遡ります4。当時、ロシアはウクライナで苦戦しており、戦闘員不足を補うためにイランからドローンを購入する取引を締結しました。イランは、その見返りとしてロシアの最新鋭戦闘機Su-35や防空システム、ヘリコプターを受け取りました。その後、2024年3月にイランはロシアに射程距離300-700kmのFateh-110ファミリーを含む、数百発の弾道ミサイルを引き渡したと伝えられています。米政府高官らは、この取引を新たなレベルの協力とみています5。
また、2024年3月、イランの高速船がベネズエラに到着しました6。これらの船の引き渡しは、隣国ガイアナの係争地エセキボ地域の占領につながりかねない2023年12月のベネズエラの動きに続いて行われました7。同地域を支配すれば、米国企業がガイアナと協力して開発した一連の油田に対し沿岸国としての権利を得ることができます。その後、ベネズエラは国境付近で軍隊を増強し続けています。また、2024年6月と7月には近くのキューバのハバナ港にロシア軍艦が演習の一環として秘かに停泊しました8。
最近のウクライナへの軍隊派遣はロシアと北朝鮮の関係を示す十分な証拠となりますが、この枢軸において中国が果たしている役割の可能性をも浮き彫りにしています。北朝鮮が中国に相談することなく主要な外交政策を決定することはほとんどありません9。また、ロシアのプーチン大統領はしばらく前から習近平国家主席と会談を重ね、中国との関係を深めてきました。こうした関係は戦場にも及んでおり、米国防総省によれば、ウクライナで中国の兵器が使用されています10。軍事支援の見返りについて公に確認されたものはありませんが、中国の発表によると、同国の輸入に占めるロシア産石油の割合が拡大しています。台湾海峡では、中国が台湾の港を封鎖することを目的とした軍事演習を予告なしに行っており、高い緊張状態が続いています11。
地政学的均衡の見直し
米国とその同盟国に対する現在の挑戦は一時的な現象、国際秩序の短期的な乱れにすぎず、いずれ収まるという見方があります。しかし、それはますます希望的観測のようにみえつつあります。確かに、米国に匹敵する戦力投射能力を持つ国はありませんが、中国、ロシア、イラン、北朝鮮、ベネズエラの同盟は現状を混乱させるか、少なくとも脅かす可能性があります。
問題はこれらの国々が抵抗を続けることができるかどうかです。当社の見解では、この同盟が持続的な挑戦を続けるためには、2つの要素が必要です。第一に、当面、これらの国々の間で同盟を結ぶ動機がある程度合致している必要があります。これらの国々はそれぞれ修正主義的な目的を持っており、互恵的な関係がある限り利害の合致が持続し得ると考える十分な理由があります。第二に、これらの国々は実行に必要な資源を調達できなければなりません。この同盟は全面的な紛争を複数の戦域で支えることはできないかもしれませんが、伝統的および非伝統的な戦域でのこれらの国々の能力を過小評価できません。
これらの挑戦と同時に、経済、外交、軍事の領域で重要な変化が起きています。自動化の時代が始まる中で、当社は世界経済と米国経済の可能性を楽観的に見ていますが、一方で脱グローバル化も重要な経済動向です。1980年以降の世界貿易の成長率は平均4.7%ですが、国際通貨基金(IMF)の現在の予測によれば、今後数年間は3.2%に鈍化します12。オンショアリングやサプライチェーンの多様化によって経済は強靭になると見られますが、関税やその他の保護主義的な措置は現在生じている挑戦や脅威を悪化させる可能性があります。
新たな同盟ブロックの狭間に位置する諸国にとって、これらのブロックは長年続いてきた関係を複雑なものにします。例えば、西半球では、米国とは対照的にブラジルやメキシコの首脳は夏のベネズエラの選挙後に同国を批判することに消極的です13。一方、米国は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱し、トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)からの離脱を選挙公約の中心に据えました14。
また、ドローンの活用やより一般的に戦争の自動化が進むなど、軍事面の新たな革命が進行しています15。第二次世界大戦以降続いた同盟関係が流動化している状況の下で新たな攻撃・防衛能力の開発が加速するとみられます。
迫られる難しい政策選択
米国は世界での役割を縮小して国内問題に集中し、利害が一致する国と単に提携する道を選択する可能性があります。この道は魅力的に見えるかもしれませんが、海上交通路、天然資源、消費財が一段と制約されるおそれがあります。第二の選択肢は、米国の最も本質的な利益を明確にし確保する規律あるアプローチであり、これは難しい複雑なトレードオフ(取捨選択)を必要とします。第三の選択肢は、現在の政策の継続であり、複数の前線にまたがる紛争に対して米国と西側主導の一方的秩序を維持しようとするものです。
どちらの政党も第1の選択肢には賛成していないようにみえます。共和党は貿易に関して中国に対抗することに焦点を当て、民主党はロシアの領土拡大に焦点を当てています。この2つの問題はますます絡み合ってきています。米国の政策立案者が戦略的目標を見直して狭くするのか、単独の世界大国としての役割を続けるのかどちらを選択しようとも、軍事や経済面での米国の競争力が決定的に重要になります。
米政府は8,500億ドル、国のGDPの3%を防衛に費やすことを目指しており、これは今後数年間で増える可能性があります16。現在の防衛予算は二つの紛争を同時に戦うことを中心に設計されていますが、敵対国は明らかに米国の関与の限界を試し、資源を逼迫させようとしています。アフガニスタンとイラクでの戦争では最終的に資金が追加供与されました。
NATO同盟国も防衛費を増やしています。何年もの間、欧州諸国はGDPの2%を防衛費に充てるというNATO条約上の義務を果たせておらず、3年前に基準を満たしていた国はわずか6か国でした。その数は現在では、21か国に達しています。ウクライナでの戦争が動機であれ、米国の条約離脱リスクが動機であれ、NATO同盟国は国防費をさらに大幅に増加させるとみられます17。
競争力の強化における投資機会
米軍の指導的地位を維持するには防衛費の増加と継続的技術革新が必要となる可能性が高いですが、経済分野での競争が激しくなる可能性も高いとみられます。米国の経済的リーダーシップの維持は今と同程度に(今以上ではないにしても)重要となる可能性があり18、それにはインフラの改善と自動化技術の導入が不可欠で、その大部分は超党派で推進されています。
防衛テクノロジー企業と米国内インフラ関連企業の利益率はともにこれまでS&P500を下回ってきましたが、売上高の伸びはおおむね同水準でした。防衛費と米国国内インフラの両方で支出が増加していることから、両分野に係る売上高の伸びは2025年以降、加速する可能性があります。おそらくさらに重要な点として、防衛テクノロジー分野の利益率が新技術の採用増に伴って今後数年間で上昇する可能性があります。例えば、ゼネラル・ダイナミックスやロッキードのような伝統的な防衛企業の利益率は8%~9%ですが、パランティアやエアロバイロンメントといった新興企業の利益率は最近の決算報告によれば10%を超えています19。
支出総額が紙面を賑わしますが、軍事面の新たな革命はこれらの資金の使われ方を変化させており、そこに投資機会があると当社は考えています。空母群や第5世代戦闘機のような大規模なプラットフォームがおそらく今後も目立つのでしょうが、既存の技術や新たな自動化能力がますます重要になりつつあります。また、AI、拡張現実(AR)、サイバーセキュリティ、ドローン、宇宙などの分野で追加支出が行われる可能性が高いと考えられます。センサー、生体認証スクリーニング、接続ツールなどスマートシステムに不可欠なコンポーネントの調達も重要になります。
防衛テクノロジーの領域以外では、エネルギーの独立が議論の重要な部分を占めるようになる中で、依然としてインフラが重大な関心事となる可能性があります。投資家にとって注目すべき点は、米政府がインフラ投資・雇用法に基づく1兆2,000億ドルおよびCHIPS法に基づく3,000億ドルを支出・配分している最中にあるということです。米国の製造業の成長はここ最近だけ見ると頭打ちになっていますが、2020年以降の製造業の新規受注はパンデミック前の4,620億ドルから2024年9月には5,840億ドルに急増しています20。ロボットとAIの両方にまたがる自動化は米国製造業の競争力の維持や、オンショアリングを引き続き推進する中でのコスト抑制に貢献します。
AIやモノのインターネット(IoT)、データセンターのような自動化と結び付いた分野の多くは、利益率や売上高の伸びといったファンダメンタルズがS&P500より優れているとの予想にもかかわらず、バリュエーションはS&P500と横並びになっています21。これは、市場全体よりも優れたファンダメンタルズを有する可能性がある分野に資産を移す好機と言えます。目立つのはロボット関連のバリュエーションで、S&P500を上回って推移しています。米国の製造業従業員1人当たりのロボット装備率が比較的低いことを踏まえると、このプレミアムを正当化するだけの売上高や利益率の改善余地がありそうです。
グローバルXでは、政府支出と民間投資の両面から複数の投資テーマで投資機会が生じるだろうとみています。党派の違いはあれど米国の競争力は対立が激しい時期でも超党派で推進されてきた問題であり、両党とも政策綱領で強い米国と経済的リーダーシップの重要性を引き続き強調しています。
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