政策支援の増加が低炭素水素産業の強い追い風に
低炭素水素は、精製、肥料生産、長距離輸送、海運などCO2排出の削減が難しい様々な産業を脱炭素処理する方法として大いに期待されています。低炭素水素は水素生産全体の1%未満ですが、グリーン水素産業とブルー水素産業が形成されつつあり、急速に成長すると予想されています1,2。今日、ほとんどの水素はグレー水素で、水蒸気メタン改質(SMR)プロセスを通して生産されます。ただし、水素の生産方法は、環境にやさしいものになり得ます。特に、ゼロエミッションのグリーン水素は再生エネルギーによって稼働する電解槽を通して生産されますが、低排出のブルー水素は、CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)テクノロジーを追加したSMRを通して生産されます。2030年までに、低炭素水素の生産は2022年の100万トン未満から増加して3800万トンに達する可能性があります3。米国を含む政府の強い支援が、この新たな産業が拡大している大きな理由だとGlobal Xは考えています。本レポートでは、水素バリューチェーン全体の企業に今後大きく成長する機会を生み出すであろう鍵となる政府の取り組みについて取り上げます。
重要なポイント
- 各国政府は2,800億ドル超の低炭素水素助成金を発表しており、初期段階のグリーン水素とブルー水素産業に力強い成長の機会を提供しています4。
- 特に米国は、低炭素水素産業の開発を促す強力な政策を掲げており、バイデン政権は最近、地域の水素ハブをつくるために70億ドルの資金を提供することを発表しました5。
- 低炭素水素産業が拡大するため、水素および再生可能エネルギーのバリューチェーン全体の企業が恩恵を受けると思われます。
低炭素水素の政策支援が急増
過去5年間で、米国、カナダ、中国、インド、ブラジル、チリ、ドイツ、英国、南アフリカなど、50カ国超の政府が国家的な水素戦略を公表しました6。それら公表された政策では、クリーンな水素生産・利用を急速に拡大することを計画しています。例えば、2023年6月に発表された米国の「国家クリーン水素戦略およびロードマップ」は、2030年までに国内水素生産が1,000万トン、2040年までに2,000万トン、2050年までに5,000万トンになることを想定しています7。欧州連合も2030年までに年間国内生産を1,000万トンにすることを目標にしています8。なお、2022年の世界の水素生産は9,500万トンでしたが、そのうちクリーン水素は1%未満でした9。
これら水素戦略のマイルストーンを達成するために、各国政府はクリーン水素産業への支援を急速に増やしています。過去2年間、発表された低炭素水素助成金は、2023年8月時点で4倍の2,800億ドル超に達しています10。増加ペースが急なことから、それらの助成金の大半はまだ全額実行されておらず、クリーン水素バリューチェーン全体の企業が今後恩恵を受けると考えられます。
これらの助成金の半分近くを米国が占めており、1,370億ドルが主にクリーン水素生産税額控除に適格なプロジェクトに投入される計画です11。インフレ抑制法で定められた税額控除は、低炭素水素1キログラム当たり最高3ドルの税額控除を提供するもので、グリーン水素とブルー水素のコストを急速に従来のグレー水素と同水準にする可能性があります12。米国政府は、税額控除に加えて、地域の水素ハブの開発のための70億ドルを含む研究開発への資金提供や助成金プログラムも導入しています13,14。
また、米国外、特に欧州やアジアでも低炭素水素の開発にさらなる追い風を提供する強力な助成金が増えています。欧州、中東、アフリカ地域の政府は、1,000億ドル超の助成金を発表しました15。2023年8月、フランス政府は、再生可能エネルギーや原子力などのクリーン・エネルギー源からの水素の生産に焦点をあてたプロジェクトに40億ユーロの助成金を提供する計画を発表しました16。アジア太平洋地域の助成金としては、とりわけ、シンガポール、インド、オーストラリア、中国の政府による110億ドル超の取り組みなどが挙げられます17,18。
米国水素ハブ向けの数十億ドルの資金が大きな機会を生み出す
10月中旬、バイデン・ハリス政権は、インフラ投資・雇用法の資金から全体で最高70億ドルを受け取ることができる7つの地域クリーン水素ハブを発表しました19。その資金で、米国政府は、国内で十分なクリーン水素産業の開発支援を加速させることを目指しています。7つのハブは、2030年の米国におけるクリーン水素生産目標の約3分の1に相当する年間300万メートルトン超のクリーン水素を生産することを計画しています20。
この資金は同産業を大きく発展させるもので、これらのハブは米国の全米レベルのクリーン水素ネットワークの基盤を構築する可能性があるとGlobal Xは考えています。特に、資金の3分の2はグリーン水素の生産に使われると予想されています21。水素ハブは、現地の水素生産、水素需要、連結された輸送、貯蔵インフラから成り、それらすべてが隣接しています22。ハブを開発するメリットには、輸送・貯蔵の問題を減らし、水素に関する強固な労働力を構築することがあり、それら2つの要素はプロジェクトが早期に成功するのに必要不可欠であると考えています。
また、7つのハブは、400億ドル超の民間投資を誘発すると予想されています23。水素ハブ内のパートナーである企業には、燃料電池および電解槽メーカーのブルーム・エネルギーとプラグ・パワー、燃料電池メーカーのバラード・パワー・システムとフィーエルセル・エネルギー、工業用ガスサプライヤーのリンデPLC、水素自動車メーカーのハイゾン・モーターズ、ゼネラルモーターズ、ヒュンダイ、再生可能エネルギー開発企業のブルックフィールド・リニューアブル・パートナーとオーステッドなどがあります24,25。
結論:長期的な成長サイクルはおそらくまだ始まったばかり
低炭素水素市場は急速に成長しており、強力な政策措置の拡大が勢いを加速させるのに重要な役割を果たしています。今後、数千億ドルの政府助成金が交付される予定で、それが民間投資を増幅させ、テクノロジー向上、コスト低下、低炭素水素の採用のペースを加速させる可能性があります。同産業は時間とともに成熟し、政府プログラムの詳細が明確になることから、水素バリューチェーン全体の企業が恩恵を受け、投資家にとって魅力的な機会を生み出すとGlobal Xは予想しています。
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