ジェネレーティブAIとは

2022年終わり以降に起きたOpenAIのChatGPTの事例のように、テクノロジーが非常に短い間に指数関数的に導入され注目を集めることはそう多くありません。ChatGPTは、わずか2カ月で1億人のユーザーを獲得したと推定されています。1 ちなみにネットフリックスは1億人のユーザーを獲得するのに10年、グーグル翻訳は6年半、インスタグラムはおよそ2年半、TikTokは約9カ月かかりました。2,3

ジェネレーティブ(生成)人工知能(AI)は現在、急速に進化している分野で、多くの業界に革命をもたらす可能性があります。このパワフルなテクノロジーは、ディープラーニング・アルゴリズムを利用して、テキストや画像から音楽や3次元モデルまで、新たなオリジナルなコンテンツを創造します。そのため、ジェネレーティブAIは、その巨大な可能性を利用しようとする投資家の注目を集めています。本稿では、この点からジェネレーティブAIについて概説し、その歴史を振り返っていきたいと思います。

重要なポイント

  • ジェネレーティブAIはこれまでで最も強力でユーザー・フレンドリーなAIモデルです。
  • グーグルのトランスフォーマー・モデルは、ChatGPTの基になったモデルであるBERTやGPT-3など、より高度なジェネレーティブAIモデルが開発される道を開きました。
  • ジェネレーティブAIには、コンテンツ創造、仮想カスタマーサービス、ヘルスケア、金融、言語翻訳、ゲームなど、様々な業界で広範な現在および将来のユースケースがあります。

ジェネレーティブAIとは何か?

ジェネレーティブ(生成)AIとは、学習したデータに基づいて新たなオリジナルなコンテンツを創造するように設計された人工知能システムです。その成果としては、テキスト、画像、音楽、3次元モデルの生成などがあります。ジェネレーティブAIは、データを分類してカテゴリー化するために用いられる認識系AIとは異なり、入力データから学んだパターンに基づいてアウトプットを生み出す確率モデルを用いて新たなデータを創造します。

ジェネレーティブAIの歴史:グーグルのトランスフォーマー・モデル

ジェネレーティブAIには長く興味深い歴史がありますが、新たなオリジナルなコンテンツを創造する実用的なツールになったのはディープラーニング・アルゴリズムが開発されてからです。この分野で最も重要なブレークスルーの一つは、2017年に導入されたグーグルのトランスフォーマー・モデルです。

トランスフォーマー・モデルは、自然言語処理のそれまでのシーケンス・ツー・シーケンス・モデルに存在した制限への対策として設計されました。同モデルは、シーケンス内の各要素の関係性を取り込む自己注意メカニズムを用いて順次データを処理する新たな方法を採用しました。その結果、同モデルは、テキストをより理解し、生成することができるようになり、急速に自然言語処理タスクの最先端モデルになりました。

トランスフォーマー・モデルが成功したことから、BERTや、OpenAIのGPT-3など、新たな改良されたジェネレーティブAIモデルが多く開発されました。BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers、トランスフォーマーによる双方向のエンコード表現)は、文章内の語の関係性を学習するために事前学習アプローチを採用する、トランスフォーマーに基づくモデルです。一方、OpenAIのGPT-3は、1,750億のパラメーターを使用してより人間が作るようなテキストを生成する、ディープ・ニューラルネットワークを使用する言語モデルです。4

ジェネレーティブAIでは、パラメーターとは機械学習モデルの動作を制御する値を意味します。機械学習モデルは、データのパターンを学習し、それらデータに基づいて予測するように設計された数学的アルゴリズムです。モデルのパラメーターが、どのようにデータを処理するか、どのように予測を生成するかを決定します。

したがって、パラメーターは、モデルのアウトプットを制御する上で重要な役割を果たします。例えば、テキスト生成モデルでは、パラメーターは、テキストのスタイル、トーン、それに結果として生成されるテキストの内容を制御することができます。そのため、モデルのパラメーターを調整することによって、モデルのアウトプットを制御し、特定の基準を満たすテキストを生成することができます。

一般的に言うと、モデルは、より多くのパラメーターをもつほど、より正確で強力なものになります。パラメーターがより多ければ、モデルは、データのより広範囲な関係性とパターンを学ぶことができます。そのため、予測のパフォーマンスは上がり、精度は向上します。ただし、あまりに多くのパラメーターをもつことは欠点でもあります。あまりに多くのパラメーターをもつと、モデルは過剰適合になることがあります。つまり、トレーニングデータに過剰に密接に結びつき、新しいデータに一般化しないことがあります。過剰適合のために、テストデータ(未知のデータ)に関するパフォーマンスが下がり、モデルの正確な予測を行う能力が制限されることがあります。

ジェネレーティブAIのユースケース

ジェネレーティブAIには、様々な業界で広範囲に及ぶ現在および将来のユースケースがあります。以下は、その最も重要なものの一部です。

  1. コンテンツ生成:ジェネレーティブAIモデルは、テキストや音楽、アート、動画などの分野で新しいオリジナルなコンテンツを生成するために使われています。例えば、AI生成の音楽やアートは、新しく革新的な形の表現を生み出すために使用することができますし、AI生成のテキストは、ニュース記事、製品説明書、マーケティング・コンテンツを開発するために使用することができます。
  2. 仮想カスタマーサービス:基本的なチャットボットが出てきてから何年も経ちますが、ジェネレーティブAIモデルは、ますます複雑化する質問についてカスタマーを助けるより強力なバーチャル・カスタマーサービス・エージェントを実現することができます。企業は、カスタマーの質問に対する応答を生成するAIを用いて、カスタマーサービス業務の効率や品質を改善することができます。
  3. 医療:現代社会では、電子的な診療記録や画像データなど、大量の医療データが生じます。ジェネレーティブAIのおかげで、それらのデータは新たな診断ツールを開発し、疾患を予測し、患者の治療を改善するために使用することができます。
  4. 金融:金融の分野では、ジェネレーティブIモデルは、株価、為替レート、その他の金融指標を予測するために活用することができます。それらの情報は、投資について判断し、金融関係の計画を改善するために利用することができます。
  5. 言語翻訳:ジェネレーティブAIモデルには、言語翻訳サービスの精度や効率を大幅に改善する可能性があります。企業は、翻訳を生成するAIを用いて、その製品やサービスの品質を改善し、事業をグローバルに拡大することができます。
  6. ゲーム:ジェネレーティブAIモデルを用いて、新たな革新的なゲーム体験を創造することもできます。例えば、AI生成のキャラクター、環境、筋書きを使用して、ユニークで魅力的なゲーム体験を生み出すことができます。
  7. 検索:検索にジェネレーティブAIを採用することにより、効率を高め、パーソナル化し、会話形式にすることでユーザーの検索体験を大幅に向上させることができます。ジェネレーティブAIは、自然言語クエリーを理解し、関連する検索結果を提供することができるため、ユーザーは会話形式で質問をし、リアルタイムに回答を受け取ることができます。

以上は、ジェネレーティブAIの現在および将来について多数存在するユースケースのほんのいくつかの例です。このテクノロジーは進化し、改善を続けることで、多くの業界に革命をもたらし、私たちの生き方や働き方に大きな影響を及ぼす可能性があります。「テキストは今日どこに位置しているのか?」と自問したとします。テクノロジーが近い将来最強の破壊的可能性をもつところです。

結論 ジェネレーティブAIはまだ幼年期、その機会は豊富

ジェネレーティブAIはそれが出てきたときから大きく進歩しており、今も急速な進化を続けています。そのテクノロジーはすでに無数のアプリケーションに組み込まれており、その成熟に伴っておそらくユースケースは急速に拡大するでしょう。ジェネレーティブAIは、新たなオリジナルのコンテンツ生成から業界への革命的な影響まで、無数の形で未来を作る可能性があります。新たな形のアートや表現を創造し、医療の成果を改善し、あるいは投資を決定するなど、ジェネレーティブAIの可能性は実質的に無限です。ジェネレーティブAIの将来は明るく、この分野では今後も多くのエキサイティングな動きがあると予想しています。

コンテンツを生成し、利益を創出:ジェネレーティブAIの潜在的なビジネスモデル

ジェネレーティブ人工知能(AI)には、多くの産業を変革し、私たちの生き方や働き方に革命をもたらす可能性があります。このテクノロジーは進化し、成熟し続けており、その能力を活用する多くのビジネス・モデルが新たに出てきています。このような観点から、Global Xが最も重要と考えるジェネレーティブAIの3つのビジネスモデル、サービスとしてのモデル(Model as a Service、MaaS)、ビルトインアプリ、バーティカルインテグレーションについて検討していきます。

重要なポイント

  • サービスとしてのモデル(MaaS)は、ジェネレーティブAIへの低コスト・低リスクでのアクセスを可能にします。また、当初必要な投資は限られており、高い柔軟性を誇ります。
  • ビルトイン・アプリは非常にカスタマイズがしやすく、特化したソリューションを提供でき、また高いスケーラビリティがあります。
  • バーティカル・インテグレーションは、既存のシステムやアプリを活用して、ジェネレーティブAI機能によりその商品を強化することができます。

ジェネレーティブAIサービスとしてのモデル

MaaSは、ジェネレーティブAIのデベロッパーに最も人気のあるビジネスモデルの一つです。これは今日、OpenAIで採用されているものです。OpenAIは、そのGPT-3 AIモデル(人気のChatGPT製品のプラットフォーム)をマイクロソフトのBingサーチエンジンにライセンス供与しています。また、OpenAIは、ChatGPTのプレミアム・バージョンについて、ユーザーに1カ月当たり20ドル課金すると予想されています。5

企業は、MaaSを利用することにより、クラウドを通してジェネレーティブAIモデルにアクセスし、それらを利用して新しい革新的なコンテンツを創造することができます。このビジネスモデルは、ほとんどのソフトウェアについて今日存在するサブスクリプション・ベース・モデルと似ています。それらのサブスクリプションには毎月、半年、あるいは年間契約があり、それらのサービスを提供している開発者に経常的な収入をもたらしています。MaaSの最大のメリットの一つは、企業が、それらのモデルをゼロから構築するために必要なインフラやリソースに投入する必要がなく、最新の最も重要なジェネレーティブAIモデルにアクセスすることができることです。そのため、企業は、より容易かつ高い費用効果でジェネレーティブAIを活用し、新しい革新的な体験を創造することができます。また、OpenAIのGPT-3やグーグルのBERTなど、MaaS製品は非常にカスタマイズがしやすく、カスタマーはそれらのモデルをその特有のニーズやユースケースに合わせてカスタマイズすることができます。

注目すべきことですが、おそらく最終的には料金はモデルの使用に基づいて増加する体系となるでしょう。今日のパブリッククラウド・プロバイダー、あるいは、アマゾンのAWSやマイクロソフトのアズーレなど、ハイパースケーラーによるものと似ています。このような料金体系は、カスタマーは利用するサービスの代価のみ支払うペイアズユーゴー価格設定モデルとして知られています。このモデルは柔軟で、カスタマーはそのニーズに基づいてその利用を拡大・縮小することができ、利用したものに関してのみ支払います。また、AIモデルを通した各クエリーは、現在約2セントか3セントと推定される関連費用がかかりますが、モデルのプロバイダーはそのコスト・ストラクチャーを管理することもできます。テキスト・ツー・イメージ(テキストからイメージを生成するサービス)AIモデルである、OpenAIのDALL-Eプラットフォームは現在、このタイプの価格ストラクチャーを採用しています。

例えば、企業はジェネレーティブAI を利用してカスタマーの照会処理を助けるバーチャル・カスタマーサービス・エージェントを構築することや、AIを利用してニュース記事、製品説明、マーケティング・コンテンツを生成することができます。ジェネレーティブAIで最も人気のあるMaaS製品としては、OpenAIのGPT-3やグーグルのBERTが挙げられます。これらのプラットフォームは、ソーシャルメディア・コンテンツ、ビデオゲーム、コンピューターコード、グラフィック・デザイン等、オリジナル作品を創ることもできます。同モデルは発展を続けており、人間レベルの結果を出し始めています。また、まもなく、人間を超えるレベルの結果を出し始める可能性があります。6

垂直統合

企業は、垂直統合型のビジネスモデルを利用することにより、ジェネレーティブAIを活用して、既存製品を強化し、カスタマーのために新たな価値を生み出すことができます。例えば、企業はジェネレーティブAIを利用して、言語翻訳サービスの精度や効率を向上させたり、大量のデータを分析して株価などの財務指標を予測したりすることができます。また、ジェネレーティブAIを活用して既存製品を強化することにより、カスタマーのために新たな価値ある体験を生み出し、そのそれぞれのマーケットで競争力を高めることができます。

ビルトイン・アプリ

ジェネレーティブAIのもう一つの重要なビジネスモデルはビルトイン・アプリです。企業は、本モデルにより、ジェネレーティブAIモデル上に新たな革新的な体験を創造する新たなアプリを構築することができます。例えば、企業は、ジェネレーティブAIを利用して、ユニークで魅力のあるゲーム体験を創造、あるいは音楽、アート、その他の形式の創造的な表現を生み出すことができます。

このモデルのユースケースの良い例は、成長企業がAIを活用してそのコンテンツ戦略を拡張することを可能にする、2021年に設立されたAIコンテンツ・プラットフォームのジャスパーです。7 同社のルーツはコンテンツ制作です。同社の創業者は、ジェネレーティブAIがそのカスタマーにとってできることを考え、どのインサイトが最も影響力をもつかを発見するために、彼らが素早く効率的に広告バリエーションを作成してテストすることができるようにしました。同プラットフォームは、指示メッセージを与えられると、特定のユースケースに適した最高の言語モデルを自動的に選択します。同社が目指すのは、特にコンテキスト、信頼できる出所のサイテーション、より多くのカレントデータを追加することによって、ビジネス・アウトプットを向上させることです。8

検索エンジンはその良い例です。ジェネレーティブAIのおかげで、単に既存のウェブページに頼るのではなく、ユーザーにとってより精度が高く、パーソナル化された結果を示す検索エンジンが開発されました。すでにChatGPTをBingに組み込んでいるマイクロソフトによって利用されており、同社は、検索マーケットでのグーグルの支配的なポジションに挑戦しようとしています。グーグルの検索は同社の総収入のほぼ60%を占めており、それがグーグルが自社のChatGPTバージョンを開始し、グーグル検索に組み込む計画を発表するという素早い対応をした理由です。一方、マイクロソフトははるかに多様な収益ストリームをもっており、検索はそのほんの一部でしかありません。

結論 ジェネレーティブAIを活用し、収益化する多くの方法が存在

以上のビジネスモデルは互いに排他的なものではないことに注意する必要があります。多くの企業は、ジェネレーティブAIを利用して創造することができる価値を最大化するために、それらを組み合せて使用しています。例えば、ある企業は、MaaSを利用してジェネレーティブAIモデルにアクセスし、新しい体験を創造するためにそれらのモデルの上に新しいアプリを構築し、バーティカル・インテグレーションを利用してその既存製品を強化するかもしれません。要するに、ジェネレーティブAIは異なる収益化戦略の可能性を提供するものであり、その多くは非常に魅力的なものになる可能性を秘めています。

人工知能、利益を得る真の機会:ジェネレーティブAIの潜在的勝者

ジェネレーティブ人工知能(AI)の出現は無数の業界に革命をもたらす可能性があり、投資家が注目すべきトレンドになっています。投資の観点からは、 このテクノロジーの勝者になりそうないくつかの企業やサブセクターが存在します。

このような点から、ジェネレーティブAIの恩恵を受ける可能性がある各種カテゴリーの企業について検討し、注目すべき一部のプレーヤーについて取り上げます。

重要なポイント

  • 例えば、エヌビディアなど、最先端のハードウェアを提供する企業は、ジェネレーティブAIの成長が生み出す主要な勝者になる可能性があります。
  • 潜在的な勝者の第2グループはおそらく、グーグルやマイクロソフトなど、巨大な量のデータにアクセスすることができ、それらのデータを処理する強力な内部能力をもつ企業でしょう。
  • それらのテクノロジーを利用可能にするトップクラスの人材をもつ企業が、ジェネレーティブAIトレンドの第3の勝者になる可能性があります。IBM、OpenAI、バイドゥが良い例です。

GPUメーカー、ジェネレーティブAIのバックボーン

ジェネレーティブAIモデルは、学習し、新しいデータを生成するために膨大な量の計算能力を必要とします。膨大な量のデータ量を同時に処理することができる特化型のコンピュータプロセッサーであるグラフィック処理装置(GPU)は、このプロセスにとって必須のものです。したがって、GPUを製造する企業は、ジェネレーティブAIの成長から大きな恩恵を受ける可能性があります。エヌビディア、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、インテルは、この分野の主要プレーヤーであり、このようなトレンドから恩恵を受けることができるでしょう。特にエヌビディアはAIに巨額の投資をしており、GPU市場のトップ企業です。例えば、テラフロップスで測定したエヌビディアのGPU理論的パフォーマンスは、各生成のパフォーマンスを平均約50%改善しています。9 また、まもなく発売されるGPUはパフォーマンスを大幅に向上させると予想されており、AIアクセラレーターはさらに速くなると見込まれています。10

例えば、ChatGPTの作成者であるOpenAIは、マイクロソフトとの提携を通してエヌビディアのA100 GPUを使用しています。エヌビディアは、A100の6倍のスループットを実現するH100と呼ばれる次世代のGPUの次世代を増やしており、その需要は、ジェネレーティブAIアプリケーションの分野で大きく増加する可能性があります。11 実際、一部の推定によると、エヌビディアがChatGPTから得る収入は、事業の当初12カ月間で30億ドルから110億ドルに上るとされています。12

膨大な量のデータをもつ企業

データはジェネレーティブAIの血液です。大量の高品質データにアクセスする会社は、この分野で非常に有利な立場にあります。グーグル、アマゾン、マイクロソフトなどの企業は膨大な量のデータにアクセスしており、高度なAIモデルを開発するためにそれらのデータを活用する技術的な専門知識を有しています。それらの企業はすでにAIに巨額の投資をしており、AIテクノロジーの商業化に成功した実績があることから、投資を行うと見込まれる第1の候補です。

マイクロソフト、グーグル、IBM、アマゾンなど、大手のクラウド・プロバイダーが、最初にAIや機械学習(ML)能力の整備を始めたのは2014年です。その時点ですでに、大規模言語モデル(LLM)を商業展開するのに十分な水準まで精巧なものにするためには、何年間も大規模なデータ・セットについて学習させる必要があることは明らかでした。現在、2014年当時と同様、それらの企業は、膨大な量のデータへのアクセスや、それらのデータを効率的に処理する能力に関して明らかに有利な立場にあります。トップクラスの人材や、強力な投資能力もあり、2014年がAIのレースが真に開始した年です。

AIを使用可能にする人材を有する企業

ジェネレーティブAIを成功させるためのもう一つの重要な要因は人材の有無です。ジェネレーティブAIの複雑なモデルを開発・実行する技術的な専門知識を有する企業は、ジェネレーティブAIから大きな恩恵を受けることができます。この分野で注目の企業としては、OpenAI、IBM、バイドゥなどが挙げられます。それらの企業はすでにAIに巨額の投資を行っており、ジェネレーティブAIモデルの開発・実行にとって必須の豊富な技術的人材を有しています。例えば、マッキンゼー・アンド・カンパニーが実施した最近の業界全般の調査によると、同社がが定義する「AIハイパフォーマー」(AIの採用により最終利益に最大の影響、すなわち、EBIT(金利・税金支払前利益)に20パーセント以上の影響があったと回答した組織)は2022年において、AIのトップクラスの人材を採用した可能性が極めて高くなっています。13

結論 広範なエクスポージャーがこの巨大な機会に適しているかもしれない

ジェネレーティブAIは各種業界に革命をもたらす可能性をもつテクノロジーです。また、投資家は、このトレンドの潜在的勝者になりそうな企業やサブセクターに注目する必要があります。GPUメーカーから膨大な量のデータをもち技術的な専門知識を有する企業まで、投資家が検討すべき機会は多くあります。また、ジェネレーティブAIはまだ初期段階であり、おそらく今後多くの企業が勝者として現れるであろうことを心に留めておくことが重要です。

業界の評価:ジェネレーティブAIの競争環境

企業や研究機関はジェネレーティブ人工知能(AI)に多額の投資を行っており、この最新のテクノロジーの競争環境は急速に変化し、プレイヤーがますます増えています。ジェネレーティブAIの目標は、画像やビデオ創作、自然言語処理、作曲など、広範なアプリケーションで使用することができる新しいオリジナルのコンテンツを生み出すことです。

ジェネレーティブAIの分野には鍵となるプレーヤーが何社か存在しますが、それぞれ異なるアプローチをとり、異なるソリューションを提供しています。その中でも傑出した企業としては、OpenAI、マイクロソフト、グーグル、メタ・プラットフォーム、IBMなどが挙げられます。それらの企業はこの分野の研究開発に多額の投資をしており、現在までに非常に高度なジェネレーティブAIモデルをいくつも生み出してきました。このような観点から、ジェネレーティブAIの競争環境について検討していきます。

重要なポイント

  • ジェネレーティブAIの競争環境を十分に理解するには、その起源とそれをもたらしたテクノロジーの発達について検討する必要があります。
  • マイクロソフトがChatGPTをBingに組み込むことを発表したことで、検索マーケットが混乱する可能性があります。しかし、検索エンジンは現在、グーグルの支配的なポジションに脅威をもたらしていないと考える理由があります。
  • メタ・プラットフォームや、バイドゥ、アリババ、テンセントなどの中国の大手テック企業など、他の企業は、社内で類似したプロジェクトを開発してきました。彼らはまもなく製品をリリースする予定です。

ChatGPTにつながるテクノロジーの発達

現在非常に普及しているOpenAIのChatGPTなど、大規模言語モデル(LLM)に基づくジェネレーティブAIシステムについては、テクノロジーのブレイクスルーが突然起きたかのように見えますが、それらが出てくるまでに何年もかかっています。実際、元グーグルの脳研究者、イアン・グッドフェローが2014年に一種の機械学習フレームワークである敵対的生成ネットワーク(GAN)を考え付いた後、この分野の発達は加速しました。その年、グーグルやマイクロソフト、IBMなどの巨大企業がジェネレーティブAIへの取り組みを開始しました。14 この種の機械学習フレームワークは、特に画像認識に適用されると、ジェネレーティブAIを開発する上で重要な役割を果たします。機械学習フレームワークは2つのニューラルネットワーク、モデルが管理されることなく学習することを可能にするにあたって対立する生成系ネットワークと認識系ネットワークに基づいています。機械学習フレームワークはジェネレーティブAIの重要な構成要素です。

ジェネレーティブAIを可能にしたもう一つのテクノロジーの発達は、やはりグーグルの脳研究者によって開発された、2017年のトランスフォーマー・モデルの導入です。15 トランスフォーマー・モデルは、入力データを時系列に処理するのではなく、自然言語など、すべてのデータ入力の処理を可能にすることによって、リカレントニューラルネットワーク(RNN)を改良したディープラーニング・モデルです。そのため、学習時間は大幅に削減され、テキストの要約や翻訳などのタスクに適用され、効率性が向上しました。このテクノロジーの発達は、グーグルのBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers、トランスフォーマーによる双方向のエンコード表現)とOpenAIのGPT(Generative Pre-trained Trensformer、事前学習をする生成的なトランスフォーマー)両方の事前学習システムを開発する基盤となりました。

OpenAIのチームはGPTを構築、改良、GPT-2に続くGPT-3は1,750億という驚異的な数のパラメーターをもっています。16 (ここで言うパラメーターは機械学習モデルの動作を制御する値です。) ちなみに、GPT-2のパラメーターは10億です。参考のために言うと、60億のパラメーターをもつモデルは、モデルが少し学習する「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれ、300億はモデルが高度な言語関連のアウトプットを生成することができるレベルです。17 最後に、OpenAIの最新バージョン、GPT-3.5は、現在よく知られているChatGPTの基礎となるものです。

BINGへの搭載について

現在まで早送りすると、OpenAIはジェネレーティブAI分野の主要企業の一つです。同社のGPT-3.5は、これまでで最も高度な言語モデルの一つと考えられており、筋の通った文法的に正しい文章やパラグラフを生成することができます。OpenAIは、テキストの説明からユニークな画像を作成することができるDALL-Eや、コンピューターコードを書くことができるCodexなど、他にも生成モデルを開発しています。それらのモデルの成功や、マイクロソフトによるOpenAIへの数十億ドルに上る投資のため、検索マーケットでグーグルが長年にわたって維持してきた支配的ポジションに疑問が生じ始めています。

しかし、マイクロソフトがChatGPTをその検索エンジン、Bingに組み込むことを最近発表し、市場に動揺が走りましたが、Bingはおそらく検索マーケットでのグーグルの独占に近いポジションに対する重大な脅威にはならないと考えるいくつかの理由があります。

  • 第1に、ChatGPTはある時点でフリーズされています。それは、2021年のインターネットの特定のスナップショットについて学習したことを意味します。したがって、ChatGPTはウクライナでの戦争の様な最近のイベントを知りませんし、それらのイベントの後に起きた影響についても知らず、理解していません。それを検索の文脈に組み込むことは、絶え間ないリアルタイムに近い更新による、重要かつ最新の情報を必要とするサービスです。現時点では、ChatGPTがいつそれを実現できるか明らかではありません。
  • 第2に、グーグルの検索エンジンは現在、Bingに対して2つの大きな優位性をもっています。ユーザーの曖昧な質問に反応するという点でより優れており、関連のリンクを提供します。また、検索質問が曖昧あるいは不明確な場合、ユーザーが何を探しているかについて推測するという点でより優れています。それらの2つの特性が合わせて、グーグル検索が今日まだ大部分のユーザーにとって優先的な選択肢である主な理由となっています。

その他の新興の競争者

メタ・プラットフォームも、AIアルゴリズムに関して大きく進歩していますが、ほとんど知られていません。同社はまた、ニューロシンボリックAIと呼ばれるやや異なるアプローチを適用しています。同社のキケロ・アルゴリズムは同AIに基づいています。18 このアプローチは、特定タスクのためのディープラーニングや、推論するルールベース・ソフトウェアなど、AIの分野内ですでに広く使われている分野を結合するものです。19

これは、OpenAIが採用している、できるだけ多くの学習データとコンピュータ処理能力を使用するアプローチとは対照的です。最近、メタのキケロは、交渉や説得を含む対話など、構造化されていない環境に対処する必要があるオンライン・ゲームのディプロマシーで、人間のプレーヤーの上位10%に入るスコアを出しました。20 そのため、おそらくニューロシンボリックAIは複雑な問題を解決することにより適しています。

テンセント、バイドゥ、アリババなど、中国の大手テック企業も、ジェネレーティブAIトレンドに素早く加わっており、最近、まもなく自社のChatGPTに類似したサービスをテスト・展開する計画を発表しました。例えば、中国の検索エンジン・マーケットを支配しているバイドゥは、ChatGPTの自社バージョン、文心一言(ERNIE Bot)をリリースする計画を発表、同社の株は2月、過去11カ月間の最高値まで上昇しました。21 バイドゥは、ERNIE Botの基礎となるテクノロジーは2019年以降開発したものであり、3月に内部テストを完了した後、ERNIE Botを一般により広くアクセスできるようにする予定であると述べています。22

結論

現在、本レポートで述べた企業など、大手テック企業の一部はジェネレーティブAIに多額の投資をしており、この分野で新たな製品やサービスを開発しています。一握りの大企業が、その研究能力や、財務力、現在のマーケットでのポジションなどのため、ジェネレーティブAIモデル構築の分野を支配する可能性はありますが、特にドメイン固有の分野では、新たなプレーヤーが現れる可能性もあります。また、この新興のテクノロジー分野では、おそらくハードウェア・メーカーを含む様々な勝者が出てくるでしょう。一つ明らかなことは、ジェネレーティブAIは企業や個人の強力なツールになる可能性をもっており、おそらく将来広範な業界やアプリケーションでますます重要な役割を果たすだろいうということです。