米国国家安全保障の変革を促す防衛テクノロジー企業4社
防衛産業では、政府が軍事活動に先進テクノロジーを導入するとともに大幅な変革が進んでいます。ドローン、ロボット、自動運転、人工知能(AI)などの技術開発が進み、その有効性が実証されるのに伴い、官民の両方で世界的に軍拡競争のようなものが加速する可能性があるとGlobal Xは考えています。世界各地で紛争が激化し、不確実性が高まる中で、政府はこうしたテクノロジー確保への投資を急いでいます。2023年の世界の軍事支出は2兆4,000億ドルに達し、2022年と比べて6.8%増加しました1。
このようなシナリオでは、現代的な防衛システムの開発や、防衛作戦の管理に必要なインフラに特化した企業が飛躍的な成長を遂げることが見込まれます。これには、本サイトの記事で取り上げたグローバルX 防衛テック ETF(SHLD)の4社が含まれます。
重要なポイント
- パランティア:分析とインサイトのために様々なソースからのデータフュージョンを支援するデータインフラ企業
- レイセオン:テクノロジーの活用によるエンドツーエンドの防衛プラットフォームの変革を促す大手防衛請負業者
- エアロバイロンメント:様々な自律機能を備えた高機能ドローンの設計・製造企業
- レイドス:カスタムソフトウェアおよびハードウェアソリューションの統合を専門とする防衛技術・ITサービスのプロバイダー
パランティア:データ分析とAIのための基盤インフラを提供
2003年に設立されたパランティアは当初、米国家安全保障局(NSA)、米連邦捜査局(FBI)、米中央情報局(CIA)といった情報関連の政府機関にデータ分析ソフトウェアを提供していました2。同社は、初期には、テロ対策の支援や911以降の米軍作戦のサポートなどに取り組んでいました3。当時、このように政府や防衛関連の顧客だけを対象としてサービスを提供するという同社のやり方は、シリコンバレーのスタートアップとしては異例のものでした。
こうした長期にわたる取引関係を経て、パランティアは現在、エンドツーエンドの重要なシステム現代化プロジェクトを受注する際、明確な競争優位性を確立しています。同社は、カスタムのサービスから発展し、現在は、主に政府や商用のユースケース向けに基礎的なデータインフラプラットフォームを提供しています。一例として、米陸軍の次世代地上局システムの構築を支援するというプロジェクトがあり、その取引額は1億7,800万ドルを上回ります4。TITAN(戦術的インテリジェンス・ターゲッティング・アクセス・ノード)は、様々な情報源から、リアルタイムのセンサーデータ、通信データ、監視データ、その他の戦場関連データを融合します。その目標は、陸軍地上部隊に、ターゲットを絞ったデータと情報支援を提供することです5。別のプロジェクトとして、パランティアが米国防総省(DOD)と結んでいる8,500万ドルの5年間契約もあります。これは、機械学習を利用して防衛機器のメンテナンス問題を予測し、防衛サプライチェーンにわたる部品調達の問題の解決をサポートするものです6。
パランティアの事業は、2つの主要な製品セグメントに分類されます。パランティアの主力製品である「Palantir Gotham」は、テロ対策アナリスト、諜報機関、政府機関が、構造化データ、非構造化データを含む様々な情報源から多種多様な大量のデータセットを統合、管理、分析するのに役立ちます。リアルタイムのデータ統合、高度な分析、データ視覚化ツールを容易にすることで、ユーザーがデータ内のインサイト、パターン、関係を見つけやすくなります。
もう1つのセグメントである「Palantir Foundry」は、モジュラー式のクラウドホスト型SaaSソリューションであり、金融、医療、エネルギーなど、様々な業界の政府機関や企業にデータ統合、分析、その他の機能を提供します。その用途は、データ統合や分析からサイバーセキュリティ、リスク管理まで多岐にわたります。さらに、同社の継続的デリバリーシステムである「Palantir Apollo」は、「Foundry」と「Gotham」のデプロイと管理をサポートします。
政府や企業によるデータインフラへの投資の増加が、パランティアの急成長を支えています。2023年のパランティアの売上は、全セグメントで22億3,000万ドルとなり、前年比17%増と急増しました7。セグメント別では、政府向けの売上が前年比14%増の12億ドル、商用の売上が前年比20%増の10億ドルとなり、事業全体の伸び率を大幅に上回りました8。粗利益率は82%超、調整後営業利益率は34%、調整後フリーキャッシュフロー利益率は33%と、パランティアの収益性はその事業規模の中で際立っています9。2024年の売上は26億ドルを超え、フリーキャッシュフローは10億ドル近くに達するとパランティアは予想しています10。
レイセオン:従来の弾薬とエンドツーエンドの防衛プラットフォームにテクノロジーを適用
レイセオン・テクノロジーズは、米国の防衛・航空宇宙分野の有力企業であり、売上高で第2位の防衛請負業者です11。同社のポートフォリオは、民間航空および軍事航空、宇宙探査システム、誘導兵器、サイバーセキュリティソリューション、先進エレクトロニクスなど多岐にわたり、統合型防空・ミサイル防衛レーダー、精密兵器、電子戦システム、その他の作戦・戦術防衛分野の製品に関わっています。レイセオンのような大手防衛請負業者は、防衛バリューチェーン全体に幅広く関与しており、エンドツーエンドの防衛プラットフォームの現代化から恩恵を受ける見通しです。2023年には世界の軍事支出は前年比6.8%増の2兆4,400億ドルに達しており、2030年まではこのような増加傾向が続くと予想されます12。
注目すべきは、レイセオンが2022年に米海軍と結んだ32億ドルの通信システム契約です13。この契約に伴い、レイセオンは、航空母艦、艦船、駆逐艦などの艦艇向けに最大46基の最先端レーダーシステム「SPY-6」を製造することになっています。ほぼすべての新しい海軍水上艦に、このテクノロジーが搭載される予定です。2020年には、レイセオンは、窒化ガリウムベースのAN/TPY-2レーダー7基を供給する23億ドルの契約をミサイル防衛局から請け負いました14。これらのレーダーはミサイル防衛システムに不可欠な装置であり、弾道ミサイルの探知、分類、追跡、迎撃に長けています。もう1件は、国防総省のデジタル・イノベーション・ユニット(DIU)との契約でした。レイセオンは、爆発物の提供で敵のドローンを空中に拡散させることができるコヨーテ・システムの迎撃ドローンを提供しました15。
レイセオンの優れた能力を示すもう1つの例は、RTX RAIVENプラットフォームです。この電気光学センシングシステムは、LiDAR、戦闘機、ドローンなどの様々な情報源からデータを統合し、戦場における一貫性のある定量化可能な資産ネットワークを構築することを目的としています16。RAIVENは、AI、ハイパースペクトル画像、LiDAR(光検出と測距)を利用して、オペレーターが従来の光学イメージングよりも最大5倍遠くまで鮮明に見ることを可能にします。
エアロバイロンメント:自律ドローンと地上車両により防衛戦略を改良
エアロバイロンメントは、米国をはじめとする世界中の軍隊や、防衛以外の用途を目的とする大企業向けに自律ドローンを提供する大手サプライヤーです。従業員数1,000人以上、年間売上高5億4,000万ドル以上のエアロバイロンメントは、この分野に特化した数少ない企業の1社です17。同社は現在、ドローンプラットフォームの進化、戦争でのドローン需要の増加、戦争インフラ全体でのドローンの配備、管理、運用の統合を目指す計画など、いくつかの追い風を受けています。
エアロバイロンメントの事業は3つの主要なセグメントに分類されます。第一に、同社は地上戦闘チームが状況把握のために使用する無人ドローンシステムを提供しています。例えば、「Puma LE Group 2」航空機は無人システムの小カテゴリーに該当します18。このドローンは、2ケースのミッションパックに入れて兵士が持ち運ぶことができ、手動またはバンジー発射装置で発射可能です。チーム間でリアルタイムに情報を共有するソフトウェアレイヤと連携するように設計されています。
第二に、エアロバイロンメントは、爆発物や到達困難な場所に関わる状況で使用できる無人地上車両を製造しています。例えば、エアロバイロンメントの「Telemax EVO」は、175ポンド以上の重量を持ち上げることができるロボットアームとグリッパーを備えています19。
第三に、エアロバイロンメントは徘徊性弾薬システム(LMS)を製造しています。これはミサイルとドローンのハイブリッドで、ドローンのように監視するとともに、標的に衝突することで攻撃を実行します。常時機動性のある航空支援のない地上部隊を支援する目的でよく利用されるようになっています。
エアロバイロンメントの「SWITCHBLADE ® 600」シリーズは、より遠距離から強化された大規模な標的を攻撃するための高精度の光学装置、40分以上の耐徘徊時間、対機甲弾頭を備えています20。
エアロバイロンメントは、従来の弾薬と比べて優位性のあるソリューションへの防衛支出の増加から大きな恩恵を受けています。同社のソリューションは、ウクライナのような小国に特に役立っています。この傾向は今後も続くことが見込まれ、世界の軍用ドローン市場は2022年~2030年に年率約14%の成長を遂げ、市場規模は356億ドルに達すると予想されます21。
レイドス:複数の分野にまたがる専門知識を持つサービス第一の防衛テクノロジーベンダー
レイドス・テクノロジーズは、50年前にサイエンス・アプリケーションズ・インコーポレーテッド・コーポレーション(SAIC)として設立され、当初は米国政府機関に科学、エンジニアリング、技術サービスを提供していました。初期のプロジェクトには、原子力と兵器の影響に関する調査の実施と、原子力災害の浄化支援が含まれていました。その後、同社は次第に航空、エネルギー、サイバーセキュリティの分野に進出してきました。注目すべき企業変革としては、2006年の新規株式公開(IPO)、2013年のスピンオフ、ロッキード・マーティンの情報システム&グローバル・ソリューション事業との46億ドルでの合併などがありました。
現在、レイドスは科学、エンジニアリング、技術サービスを提供する170億ドル規模の企業となり、ソフトウェアとハードウェアソリューションを統合し、カスタムの現代化プロジェクトにITの専門知識を提供しています。2023年度の売上は、2022年度から7.24%増加し、154億ドルとなりました22。同社の事業は、防衛ソリューション(売上の57%)、民生ソリューション(売上の24%)、医療という3つのセグメントに分類されます23。
軍の現代化が進む中、レイドスの専門知識は今後も需要が見込まれます。その他に注目すべき点として、レイドスは米国海軍と国防総省の海上用途向け自動運転技術の主要サプライヤーであり、導入パートナーでもあります。同社は、無人水上艦(USV)が国際海事法に基づく海事航行、障害物回避、衝突回避、その他の航行要件を実行できるようにしています24。今年初めに行われた無人機能の演習では、4隻のUSVが主に自律システムによって操縦され、合計46,651海里を移動し、レイドスの技術力が実証されました25。また、レイドスは、海軍の水中戦システム構築を支援し、エンジニアリング、流通、テクニカルサポートを提供する8,400万ドルの契約も結んでいます26。
別のプロジェクトでは、レイドスは、アマゾンウェブサービス(AWS)コネクトが提供する最先端のCPaaS(サービスとしての通信)プラットフォームを利用して、政府機関のコンタクトセンター通信インフラの刷新を支援しています27。その最終目標は、OpenSearch、CloudTrail、Lambda、DynamoDB、Kinesis Firehouseなど、AWSツールで構築されたインフラを利用して、ソフトフォンおよびエンドツーエンドのテクノロジーにより300以上のエージェントを接続することです。
サイバーセキュリティに関しては、レイドスは、エンドツーエンドのインフラを保護するためのカスタムソリューションで政府機関や地方自治体をサポートしています。例えば、レイドスは現在、国防総省が通信プラットフォームの現代化とセキュリティ確保に取り組む46億ドル超の規模のプロジェクトで、国防情報システム局(DISA)をサポートしています28。また、2020年にL3ハリスの事業を買収したレイドスは、空港のスクリーニング装置とセキュリティシステムを提供する主要サプライヤーでもあります29。同社の代表的な製品には、機内持ち込み手荷物用セキュリティスキャナーの「ClearScan」、自動トレイ返却システムの「ProPassage」、ミリ波技術を使用した最先端の人体検査システムの「SafeView」などがあります。「SafeView」は米国の民間空港で広く使用されています。
結論:テクノロジーは現代の防衛と安全保障に不可欠な要素である
防衛テクノロジーは、脱グローバル化、地政学的緊張の高まり、軍事作戦におけるAIなどの最先端技術の統合という点から見て、この10年間で最も確信度が高いテーマの1つです。国内回帰によるサプライチェーンの戦略的再編成やサイバーセキュリティへの関心の高まりに伴い、確信度はさらに高まっています。過去1年間、防衛テクノロジー企業のパフォーマンスは好調に推移しており、ここで取り上げたような企業は、新規契約や投資増加を見越した良好なセンチメントから引き続き恩恵を受けるとGlobal Xは予想しています。
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