米連邦議会がインフラ投資・雇用法案を可決したことは、投資家にとってどのような意味を持つのか?

11月5日金曜日、超党派のインフラ法案であるインフラ投資・雇用法案(IIJA)を、下院は賛成228、反対206で可決し、今後、バイデン大統領の署名を経て成立する運びとなりました。8月初旬に上院で可決後下院に送付された同法案は、同時に提出されたクリーンエネルギーと社会インフラへの投資を目的とする財政調整法案(ビルド・バック・ベター法案、BBBA)の詳細を民主党の穏健派と進歩派が詰める間、採決を待っていました。進歩派の主張は、両派閥間の意見が相違していた(そして、今も相違している)ビルド・バック・ベター法案の詳細を確定し、支持を取り付けるまでは、IIJAの採決を実施すべきではないというものでした。しかし、先週、穏健派が2番目の法案についての交渉の決着を望む意図を明確にしたことを受け、十分な数の進歩派が超党派法案への支持を表明したため、ペロシ下院議長は同法案を採決に付しました。民主党がBBBA成立に向けての進展を続けるなか、バイデン大統領は今後数週間のうちにIIJAに署名する見込みです。

インフラ投資・雇用法

IIJAは、8月に上院が可決して以降、修正されることなく可決されました。同法案には、今後10年間にわたり支出される5,500億ドルの予算が含まれています。財源には、コロナウイルス対策資金の未使用分による2,050億ドルのほか、徴税の強化、未使用または不正受給された失業保険給付金の回収などが挙げられています。同法案が予定している投資分野には以下が含まれています。

輸送・交通:

  • 道路・橋梁・高速道路(1,210億ドル) – 道路、橋梁、高速道路および関連する主要交通プロジェクトへの新規支出が予定されています。これには、関連するインフラの修復・改善、および、コネクテッドカー、センサーベースのインフラ、交通機関の統合、商取引の配送と物流、スマートトラフィック、スマートグリッドに関連する投資が含まれています。
  • 鉄道(660億ドル) – アムトラックの路線拡張などへの対応、北東回廊路線の近代化、都市区域を含む新たな地域への鉄道の拡張に使用される予定です。
  • 公共輸送(470億ドル) – 対象となる分野は、バス・鉄道車両の近代化、多くの車両のゼロエミッション車両への置き換え、公共交通機関が利用できない地域への拡大、および交通機関を支える輸送インフラの改善です。
  • 空港(250億ドル) – 資金は、空港ターミナルの収容能力やアクセス性の向上、老朽化した空港インフラの取り替え、航空管制塔や技術の改善などのプロジェクトに充てられる見込みです。
  • 港湾・水路(170億ドル) – 港湾インフラの電化と効率性改善、および、海面上昇、洪水、気象事象に対する港湾の強靭化を高めるプロジェクトを対象とします。

クリーンテクノロジー/クリーンエネルギー:

  • 電力インフラ/クリーンエネルギー(730億ドル) – スマートグリッド技術や蓄電池、グリーン水素、二酸化炭素回収技術、水力発電、風力発電、太陽光発電の開発・導入の支援に充てられます。
    • 電気自動車充電ステーション(75億ドル超) – 電気自動車充電インフラを整備します。特に、高速道路の回廊沿いや、町や都市、中心部から離れた農村地域や不便な地域での充電器の設置に重点が置かれています。
    • 低排出バス・フェリー(75億ドル超) – 電動低排出バス・フェリーへの投資が予定されています。

水インフラ/環境再生:

  • 配水、水資源の確保、貯水(630億ドル) – 鉛管の交換、廃水管理への資金提供、浄水処理・監視・持続可能性を高める技術への投資に充てられます。また、貯水、水のリサイクル、海水淡水化技術への投資も実施されます。
  • 環境再生(210億ドル) – 過去に発生した汚染による影響への対処のために使用されます。これには、スーパーファンドサイトやブラウンフィールドサイトの洗浄、廃坑となった油・ガス井の処理などが含まれます。

デジタルインフラ/インフラ強靭化:

  • ブロードバンド(650億ドル) – 米国内でより多くの人がブロードバンドインターネットを利用できるようにし、高速ダウンロード/アップロードと、リアルタイムアプリケーションをサポートするのに十分な短い待機時間を実現します。
  • サイバーセキュリティと強靭化(500億ドル) – 特に、輸送、電力網、水インフラに関連するインフラへのサイバー攻撃に対する国家的な回復力の強化に充てる見込みです。また、気候変動の影響に対処するための物理的インフラの強靭化への投資にも振り向けられます。

財政調整法案(ビルド・バック・ベター法案)

ビルド・バック・ベター法案(BBBA)が最後に修正された時点では、1兆7500億ドル規模の支出を求めていました。支出の内訳は、気候変動対策とクリーンエネルギー関連に5,550億ドル、子育てと幼児教育への支援に4,000億ドル、子育て世帯向けの所得税控除の拡充に2,000億ドル、住宅取得支援に1,500億ドル、在宅介護支援に1,500億ドル、医療保険制度改革法に基づく補助金の拡大に1,300億ドル、職業訓練と高等教育の拡充に400億ドルなどです。

ビルド・バック・ベター財政調整法案はIIJAと切り離されたため、成立までのスケジュールは柔軟になりました。11月6日土曜日、下院の民主党議員は同法案の審議に関する規則を決定しましたが、議会予算局(CBO)が法案の経済的影響の評価を終えるまでは、採決を実施しない方針です。CBOは、早ければ、下院が感謝祭の休会に入る3日前の11月15日までに予測を公表するでしょう。民主党が今年中に法案の成立を望むのであれば、法案を下院と上院で審議・採択するために充てられる日数は、休会明け後には10日間しかありません。

下院の民主党議員は、現在、上院の穏健派であるジョー・マンチン議員とキルステン・シネマ議員が受け入れられる修正案を作成中ですが、マンチン上院議員は最近、大幅な修正を求めるかもしれないと示唆しました。上院で何らかの修正がなされた場合、法案は下院に戻されるため、法案の成立が遅くなる可能性があります。連邦の支払いと政府の債務返済のためのつなぎ予算の期限は12月3日であり、その期限が迫っていることも事態を複雑にするでしょう。今後、議会には複数の休会期間があること、および相反する期限が設けられていることから、同法案が12月までに成立する見込みはないでしょう。

しかし、民主党議員間の交渉は誠実に行われていると私たちは考えています。穏健派は財政調整法案の成立に向けて力を注いできました。民主党両派が合意に至る可能性については楽観できると考えています。

米国のインフラ整備への投資

米国のインフラは、慢性的な資金不足により劣化が進んでいます。インフラ投資・雇用法は、米国史上最大規模のインフラ投資を行うものであり、今後何年にもわたってこれらの問題を解決する救済策として機能することになるでしょう。ビルド・バック・ベター計画によりクリーンエネルギーや社会インフラへの支出が追加されれば、これをさらに一歩進めることになるでしょう。このような支出は、インフラ整備に携わり、米国で大きな収益を上げている企業の収益につながると私たちは考えています。さらに、クリーンウォーター、水素、再生可能エネルギー生産およびクリーンテクノロジー、自動運転車&電気自動車、モノのインターネット(IoT)、サイバーセキュリティ、データセンターおよびデジタルインフラなどのテーマに関連する企業の収益拡大につながる可能性もあります。

米国のインフラ支出の恩恵を受けると予想される分野

建設・エンジニアリング:輸送・交通、住宅、電力・クリーンエネルギー、水インフラ、デジタルインフラに関連するインフラの計画策定、設計、建設に携わる企業は、今回の支出の恩恵を受け、収益が拡大する可能性があります。

製品・機器:上述のインフラ分野で部品となる製品や機器を製造、販売、リースしている企業は、連邦政府による大規模な投資により、追加的な収益を得ることが可能と思われます。

  • 輸送、交通、住宅:該当する製品として、アスファルト/コンクリートの混合・舗装のほか、道路、高速道路、橋梁の交通管理・標識・安全性、鉄道車両、バージ、車軸/カプラー、水路・鉄道・公共交通機関での使用、建設機械(クレーン、高所作業車、資材運搬車、土運搬車両/機器など)に関連する製品が挙げられます。
  • クリーンテクノロジー/クリーンエネルギー:該当する製品として、送電および電化(電気配線、コネクタ、絶縁体、メーター/計測システム、電力ストラクチャーと配電柱、変圧器、回路ブレーカー、エンクロージャ、避雷器・碍管、電気制御ボックスおよび関連部品など)、電気自動車充電ステーション部品、風力発電タワー構造などのクリーンエネルギー部品に関連する製品が挙げられます。
  • クリーンウォーターインフラ:該当する製品には、配水管と保護ライニング、ポンプ、バルブ、水道メーター、ろ過システム・膜などがあります。
  • デジタルインフラ:該当する製品には、データおよび関連電力伝送用の配線およびケーブル、コネクタ、接点、通信タワーおよび関連部品があります。

原材料・複合材料: 上述のインフラ分野に属するインフラを構成する原材料および複合材料(または化学物質)を生産または供給する企業は、法案で定められた支出によって新たな収益を得る可能性があります。

  • 輸送、交通、住宅:該当する材料・複合材料として、道路、高速道路、橋梁、輸送構造物向けのコンクリートおよびアスファルト、コンクリート/アスファルトのような複合材を構成したり単独で使用されたりする骨材、輸送インフラ全般で構造物や補強材で使用される鉄やアルミニウムなどの金属が挙げられます。
  • クリーンテクノロジー/クリーンエネルギー:該当する材料・複合材料には、送電に使用される銅、アルミ、ニッケル、真鍮などの金属や合金、および電気絶縁に使われるプラスチックなどがあります。
  • クリーンウォーターインフラ:該当する材料・複合材料および化学物質として、配水管に使用されるコンクリート、銅、プラスチックなどの材料、配水・貯水インフラのシーリング材やコーティング材、炭酸カルシウムなどの水処理に使用される化学物質などが挙げられます。
  • デジタルインフラ:該当する材料・複合材料には、データ伝送ケーブルに使用される銅やアルミニウムなどの金属や合金、通信タワーに使われる鉄やアルミニウムなどがあります。

産業輸送:交通インフラに使用される製品、機器、材料を輸送する企業は、インフラプロジェクトに使用される貨物量の増加から利益を得ることができます。

  • 輸送・交通:産業輸送会社は、自社が運行する鉄道網に対し政府が何十億ドルもの資本支出を負担することに加え、鉄道網の拡大による貨物輸送の改善・拡大からも、長期的な利益を得る可能性があります。

恩恵を受けると予想されるその他のテーマ

  • モノのインターネット(IoT)および自動運転車&電気自動車のテーマが、コネクテッドカー、センサーベースのインフラ、交通機関の統合、商取引の配送と物流、スマートトラフィックなどに向けた資金拠出から恩恵を受ける可能性があります。
  • クリーンテクノロジー、再生可能エネルギー、自動運転車&電気自動車、水素の各テーマが、交通分野での電化や排出量削減の取り組みの強化、エネルギー効率の改善、スマートグリッドへの資金拠出から恩恵を受ける可能性があります。
  • 再生可能エネルギーおよび水素のテーマが、クリーンエネルギー源やグリーン水素に対する連邦政府の支援および/または投資から恩恵を受ける可能性があります。
  • クリーンウォーターのテーマが、クリーンウォーターインフラへの投資(配水、水ろ過・処理、廃水管理、海水淡水化などの新しい水抽出方法に対する連邦政府の投資を含む)から恩恵を受ける可能性があります。
  • サイバーセキュリティおよびデジタルインフラのテーマが、ブロードバンドなどのデジタルインフラへの支出拡大から恩恵を受ける可能性があります。