現地報告:インド - 冷静になって成長を続けよ

インドは国際市場で最高の構造的なグロース銘柄であると引き続きみています。最近、筆者らはデュー・ディリジェンス調査でムンバイに赴き、経営陣や地元投資家、セクター・スペシャリスト、エコノミストと25回以上ミーティングを実施しました。ムンバイにある当社関連会社の15名からなるアナリストチームと緊密に協力して作業を行い、インドの短期と長期の投資見通しに大きな期待を抱きました。最も重要な点として、私たちは、これから長期にわたってインド経済の成長が見込まれること、そして当社投資先が保守的なバランスシートと規律ある経営陣の強固な事業モデルを構築していることを感じながらインドを離れました。

重要なポイント

  • インドは公共部門主導の力強い設備投資サイクルの真っ只中にあると同時に、民間部門は債務の削減を進めており、インド市場の有利子債務の水準は約15年ぶりの低さとなっています1。この強力な組み合わせが、インドに対する当社のポジティブな見方を支える重要な長期的構造要因です。
  • インドには、成長に好ましい人口構成、良好な教育環境、減税と歳出拡大を実施すると同時に財政再建を推進する企業寄りの政府という稀有な組み合わせが存在し、インドを長期的な成功に向かわせる素地が整っています。
  • インドの経営者らは、最近の米国選挙で共和党が大統領・上下院をすべて掌握した結果として、以下の理由からインドが大きな恩恵を受ける可能性があると考えています。第一に、中国に対する関税引き上げはインドに有利に働く可能性があります。第二に、石油供給が増える可能性があり、そうなればエネルギー・コストが下がり、インドの貿易収支が改善するかもしれません。第三に、モディ首相とトランプ大統領はこれまで強固な関係を築いており、この関係は今後4年間続く可能性があります。

当社の考えでは、国際市場でインドが構造的に最も高い将来性を備えています。

インドは、今後数十年にわたって市場の上昇をもたらし得る絶好の環境の中に位置しています。同国には世界最大の人口、世界最大の若者人口、良好な教育環境があり2,3、これらがイノベーションや成長、支出を推進する強力な土台になるとみられます。しかし、新興国(EM)運用を長年担当してきた我々から言わせると、人口構成だけでは市場を支えられません。政府の介入が邪魔をするケースをあまりにも多く目にしてきたからです。しかし、インドには独自のストーリーがあります。モディ首相は3期目に選出されたばかりです。モディ氏の1期目と2期目に2億5,000万人が中間層に加わり、7,700万人が富裕層に移行しました4,5。モディ氏は、市場にとって有利な政策(法人税率の30%から22%への引き下げなど)や物理的インフラとデジタル・インフラの両方に生産的な支出を行う取り組みを通じて成長を推進してきました6。これまでで皆さんは「良い話だが、支出と減税の組み合わせは財政破綻を意味する」と考えると思います。ただし、インドでは違います。モディ氏の政策とパートナーシップは、国をデジタル化し、インフォーマル(非公式)経済を銀行システムに取り込み、徴税の効率化を通じて歳入を増加させました。要するに、モディ氏は減税を実施し、財政支出を拡大すると同時に財政健全化も押し進めました。これは他国にはないモデルで、インドに長期的な成功をもたらす可能性があります。

デジタル・エッジ

以前、インドのデジタル化の進展について書きましたが、現地を観察して、インドのデジタル・バックボーンによって数年にわたる急成長の舞台が整いつつあるという私たちの考えを確認することができました。全国的な4G・5Gの速度、手頃な価格のスマートフォン(私たちはJioの13米ドルの最新スマートフォンを試しました)、データ通信料(インドのデータ通信料は米国よりも97%低い)に加えて、重要な柱が3つあります7

  • 個人識別:デジタル革命を支える第一の柱はアーダール(Aadhaar)のような取り組みです。アーダールは、インド人の95%以上が必要不可欠なサービスを利用できるようにし金融包摂を促進するインド独自のデジタル個人識別制度です8
  • 決済:第2の柱は政府が運営するユニバーサル決済インフラ(UPI)です。UPIは、デジタル取引が必要となるような状況を作り出すことで、銀行口座を増やしたり金融包摂を進めることが可能になります。銀行口座を持たない小規模会社や個人が信用を確立するのを支援することによって、経済のフォーマル化を促進します。デジタルでの支払いには銀行口座が必要であり、銀行口座保有者は税金を支払う確率が高い傾向にあります。
  • アクセス:インドは、国民がデジタル・サービスを利用できるようにするため、高速インターネットのネットワークを全国に拡大しました。スマートフォンの台数は、2015年の約2億5,000万台から2023年には10億台を超え、普及率は71%近くに達しています9。私たちのムンバイ滞在中に、Jioの最新スマートフォンが13米ドルで発売され、これによってコネクティビティがさらに改善すると考えられます。

このように、(1)インドは若者が多いこと、(2)インドの教育システムは科学、技術、工学、数学に重点を置いていること、(3)インドは信頼性のあるデジタル・インフラを整備していること、の組み合わせから、起業家精神やイノベーション、成長の背景を容易に理解することができます。

オールド・エコノミーも絶好調!

歴史的に見て、インドの設備投資サイクルは約8年間続きます。総固定資本形成(GFCF)が国内総生産(GDP)に占める割合は、2008年の36%近くをピークにコロナ禍明けの2021年には27%まで低下しました10。その後、インドでは公共セクター主導で強力な設備投資サイクルが始まり、中央政府は今年約12兆7,000億ルピー(約23兆円)、来年はさらに18%増の15兆ルピー(約28兆円)の設備投資を行うと約束しています11。これは政府の設備投資支出として過去最大で、GDPの約3.4%に相当します12。重要なポイントとして、この大規模な投資プログラムは、モディ首相率いる企業寄りで財政保守的なBJP党が2014年に政権を握った直後から始まった民間セクターの債務削減プロセスの完了時期と重なっていることです。企業の負債資本倍率(D/E:自己資本に対する負債の割合)は2015年の約1倍をピークとして現在は15年以上前の水準である約0.5倍に低下しています13。これは、基本的に、今後10年間で大幅に借り入れを増やし、支出し、投資する能力がインド経済にあることを意味します。この強力な組み合わせが、ポジティブなインド・ストーリーを支える重要な長期的構造要因です。短期的には景気敏感セクターが恩恵を受ける可能性が高いですが、電力(公益事業、再生可能エネルギー、発電など)などの特定のセクターに関しても私たちは楽観的な見方を強めてインドを後にしました。国内の需給不均衡が拡大していること、再生可能エネルギーの発電容量を2030年までに500GWに拡大する計画14など政府によるいくつかの取り組みが行われていることが主な要因です。

インドで進行中のもう一つの長期的なテーマは、フレンド・ショアリングのトレンドがもたらす恩恵と、外国からの直接投資(FDI)を支援する政策の影響です。世界の企業は2016年頃、政治リスクを減らすために中国以外へのサプライチェーンの分散を検討し始めましたが、コロナ禍明けにその動きが加速しました。インドは当然、チャイナプラスワン政策の恩恵を受けてきましたが、インド政府がFDI支援策を積極的に講じてきたことがその背景にあります。この支援策には、製造業への投資を呼び込むための法人税減税、公共部門の設備投資の対GDP比率を10年ぶりの高水準に引き上げ、コストの非効率性を補うために世界貿易機関(WTO)に準拠した生産連動型インセンティブ(PLI)スキームの導入、などが含まれます15。これらのトレンドは今後もしっかりと定着する見込みです。エコノミストは、インドのGDPに占める製造業の比率が2022年の約16%から2030年には21%へと上昇するにつれて、世界輸出市場でのインドのシェアは2022年度の1.9%から2030年には2倍以上の4.5%になると予測しています16。このようなこの現在進行中の変化をアップル以上に体現している企業はほとんどありません。同社は2017年にインドでiPhoneの組み立てを開始し、同国での生産額を140億米ドルに倍増させました。現在、世界で販売されているiPhoneの7台に1台がインド製であり、今後4年以内に4台に1台をインド製にするのを目標としています17。驚くべきことに、アップルは国内スマートフォン市場の約6%を占めているにもかかわらず、同国に最初の直営店をオープンしたのは2023年でした18

長期にわたる成長

  • インドのZ世代の人口は6億1,000万人であるのに対し、中国は4億2,400万人、米国は1億400万人です19
  • エアコンを持っている人の割合は、中国が60%、米国が90%に対し、インドは7%程度です24
  • コネクティビティが高く、人口が中国よりも多く若いにもかかわらず、インドの電子商取引市場は中国の1兆5,000億ドルに対して約600億ドルにすぎません20
  • インドの住宅ローン市場はGDPのわずか36%であるのに対し、中国は61%、マレーシアは67%、タイは87%です21
  • 2000年代初めの中国の成長にとって、都市化が大きな追い風となったと考えられます。中国の都市化率は66%であるのに対し、インドはわずか36%であり、中国と似たパターンになる可能性があります23
  • 2023年の時点で、インドの3億9,400万人が低所得もしくは低中所得者とみなされていましたが、2030年までに同国の8億8,400万人が高所得または高中所得層になると予測されています22

その他の注目点

  • 若者はインドでの生活を望んでいる:インドの平均年齢は28歳です(それに対し、中国は39歳)25。今回、私たちは様々な若年労働者と会いました。農村部から来た者もいれば、海外で教育を受け、インドの成長に乗るために戻ってきた者もいます。全員がこのダイナミックな成長ストーリーの一部になろうと活気にあふれ、意欲的でした。
  • 消費者センチメントの先行きは明るい:私たちが会った経営者らは、今年のディワリ(インド最大のお祭り)シーズンを2023年と比較して肯定的に評価していました。これは特にジュエリー、アパレル、高級品業界に当てはまります。
  • デジタル・バンキングがさらに普及:インドの30分ごとにおけるリアルタイム・デジタル・トランザクション(UPI)は2016年のわずか290万トランザクションから1,100万トランザクション以上に増加しました26
  • 2025年度連邦予算に誰もが注目:設備投資支出が遅延しており、政府が今年度の目標を達成するには下半期に設備投資を50%以上増やす必要があります。年内に設備投資が加速する見通しですが、2025年度連邦予算は財政健全化とのバランスを保った投資拡大というインド人民党の不変の党是に引き続き沿ったものになるとみられます。市場はこの点を引き続き高く評価するとみられ、この連邦予算が2025年第1四半期の市場を動かす重要な材料になる可能性があります。
  • 国内の資金フローは引き続き追い風となる:インドの株式投資への資金フローはOECD並みの水準である20%程度にむけて進んでおり、国内需要は引き続き堅調です。国内の機関投資家は、年金基金と従業員拠出制度からの追加投資15億ドルなど、体系的投資プランの約25~30億ドルを追加投資しており、結果として年間500億ドル以上の資金が株式市場に流れています27

ミーティングのハイライト

  • Shiram Finance:自家用車ローン、商用車ローン、事業用ローン、個人ローンなど、個人や中小企業向けに資金を提供するノンバンク金融機関。ローンの約95%は担保付きです。また、ローンの約90%は持続可能な利益を上げる資産を担保としています。同社が優れている点として、規模、雇用のあり方(21歳から25歳までの者を採用し、研修や昇進を内部でのみ実施)、デジタル化(1,000万人以上が同社のアプリを利用)、効率性(経費率は世界の金融業界で最低レベル)、待遇の整合性がとれていること(新入社員からCEOまで全員に変動給を支給)が挙げられます。
  • リライアンス(Reliance):インド最大のコングロマリットで、エネルギーだけの会社から小売り・デジタル事業に移行しつつあります。「造れば彼らはやってくる」(1989年映画『フィールド・オブ・ドリームス』より) - この言葉のように、同社はモバイルとデジタル・データの顧客に関する長期的な収益化をサポートするため、大規模なデジタル・バックボーンに投資してきました。同社は、これら2つの構造的成長分野の売上高とEBITDAを今後3~4年間で倍増させることを目標としています。JioのIPOと今後数年の間に見込まれる小売事業の上場は、海外の機関投資家と国内投資家がともに最も注目している市場動向の一部です。

結論

こうしたポジティブなマクロ経済的、構造的トレンドに加え、企業のバランスシート上の有利子負債が極めて少ないこと、経営陣が資本規律を説いていること、企業が投下資本利益率と自己資本コストの差の拡大に注力していることが特に心強く感じました。

全体像:GDP = 政府支出+民間消費+民間投資+純輸出

インドはすべての条件を満たしており、今後5年間でGDPを年平均7%以上の成長に達する可能性があります。このマクロ経済の成長と健全な経営、魅力的なボトムアップのファンダメンタルズを総合すると、インドは米国の成長の一部として拡大し続けると考えられます。

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