テーマ型投資ホワイトペーパー:ヘルスケア分野のイノベーション(ゲノミクス&遠隔医療)

1950年から2022年までに世界の平均寿命は46.5歳から71歳まで延びました。2100年までには82歳まで延びると予想されています1。2050年までに60歳以上の世界人口は倍増し、20億人を超える可能性があります2。歴史上どの時代よりも人が長生きするようになっているのは間違いありません。米国では、10年足らずで、65歳を超える人口が18歳未満人口を上回る見込みです。人口構造の変化に対応すべく、各国政府はヘルスケアに充てる支出を増やしています。米議会予算局(CBO)の見立てでは、米国政府のヘルスケア支出は2017年のGDP比5.4%から2028年までに同6.8%に、2040年までに同8.4%に増加します3。ヘルスケア分野のイノベーションという投資テーマでは、ゲノミクスと遠隔医療の継続的な進歩の後押しを受けて、新たな投資機会が生まれると、Global Xは考えます。

重要なポイント

  • 高齢者人口には手頃な価格で高度な医療を受けたい需要があるため、長期的な投資機会が創出されます。
  • ゲノミクスを利用すればもっと手軽に安く早くリアルタイム診断が可能になります。
  • 遠隔医療が急速に広まり手頃な価格で仮想医療を受けられる人が増加するでしょう。

ヘルスケア分野のイノベーションが大きな力となる理由

解析コストの急低下で使用が拡大

ヒトゲノムには2万5,000の遺伝子を構成する約30億の塩基対があり、これらの遺伝子が23の大きなDNA配列(染色体)を作り上げます。塩基対の配列はどの人でもほとんど同じですが、微妙な違いが一人一人の個性を生み出しています4。わずかな相違が、目や髪の色のような単純な属性として現れたり、障害、遺伝性疾患、耐病性のような複雑な属性として現れたりします。

ゲノミクスの研究者たちは人間のDNAを探究して理解を深めています。ゲノムを研究することで、遺伝的変異や人体が分子レベルで働くさまを解き明かすことができます。ゲノム配列を解析すれば、病気の遺伝、病気の感染経路、治療に向けた取り組みへの理解が深まります。ゲノミクスを活用して病気の早期診断ができれば(症状が現れる前であれば尚良い)、治療が成功する可能性が高まります5

特に1ゲノムあたりの解析コストが下がるにつれて、この業界の成長余地は非常に大きくなります。解析技術の進歩に伴って、1ゲノムあたりの解析コストは2002年の1億ドルという途方もない高額から2022年の600ドルまで大幅に下がっています6。次世代シーケンシング(NGS)に代表される先端技術の普及により、いずれ解析スピードは倍増し、コストは1ゲノムあたり200ドルまで下がる見込みです7

NGSとは、サンプルのDNAを抽出し、断片化し、その断片を配列決定装置に挿入する小型リーダーに取り付けるプロセスです。次いで特殊なソフトウェアを使って、断片ごとの遺伝的変異、遺伝子発現パターン、その他の重要な特徴を特定できます。NGSは、遺伝子標的薬、がん早期発見用の血液検査、希少疾患の診断につながっています。この技術は現在、生まれてくる子供のゲノムの塩基配列を決定し、遺伝子の変異、欠失、追加を特定するために定期的に使用されています。

ゲノムシーケンシング市場は、2030年までに245億ドルを超える見込みで、これは2022年から2030年までの年平均成長率(CAGR)16.1%に相当します8

精密医療、疾病予防、標的療法の後押しに

ゲノミクスの進歩により、精密医療で病気を治療したり、遺伝子治療で根本的な遺伝的問題を修正して病気を予防したりする新しい医療アプローチが可能になります。患者が病気に受け身で対処するのではなく、健康とウェルネスの増進に能動的に取り組めるようにもなります。例えば、消費者が直接アクセスできる遺伝子検査や他の手頃な医療技術が登場したことで、正確な診断、効果的な治療、健康リスクの把握について患者自身が主導権を握ることが可能になります。

ゲノム薬理学は、個人の遺伝子プロファイルをもとに個別化医療または精密医療を実現し、病気の治療を導くものです9。遺伝子情報に基づいて個々の患者に合わせた治療が可能になれば、医療提供者と製薬会社は副作用の少ない効果的な治療法を生み出すことができます。世界の個別化医療市場は、新しい治療法や医薬品に対する需要の増加に伴い2030年までにCAGR 6.93%で成長して9,230億ドルに達する見込みです10

遺伝子治療は患者のDNAに内在する問題を修正することで病気の治療や治癒を目指すものです。ゲノム編集では、病気の原因となるDNAを除去したり、有害なタンパク質を作る遺伝子を不活性化したり、必要なタンパク質を作る遺伝子を活性化したり、変異した遺伝子を修正したりできます11。遺伝子治療が普及すれば、がん、嚢胞性線維症、心臓病、糖尿病、血友病、HIVなど、さまざまな病気を治療できる可能性があります。

遠隔医療で広がる患者ケア

遠隔医療では、通信技術の助けで医師と患者がバーチャルにつながり、施設ベースの治療と在宅ケアのギャップを埋めます。一部の遠隔医療企業は、薬局配送サービスや在宅臨床検査など、付加価値の高いサービスを拡大しています。遠隔医療の助けでスクリーニング手順の順守、疾病予防、早期診断、ケアマネジメントが改善するなら、医療費の増加を負担してきた保険会社や公的健康保険制度にきっと歓迎されるでしょう。

米国で遠隔医療を推進する連邦政府レベルでの取り組みの1つに、2023年連結歳出法があります。これは新型コロナウイルス感染症流行後の遠隔医療の柔軟性を拡張したものです12。この法案により患者はメンタルヘルスにも適用される遠隔医療給付を受けられます。

遠隔医療は移動が難しい高齢者や遠隔地に住む患者にとって特に有用です。全米保健統計センターの調査によれば、2021年に遠隔医療を利用した成人の割合は、18〜29歳の29%から65歳以上の43%へと、年齢が上がるほど増加しています13。在宅医療補助者、家族、ボランティアなどのヘルパーの利用は患者の高齢化と共に増加するため、遠隔医療の入り口になり得ます。

図でみる市場機会

ヘルス分野イノベーションという投資テーマのリスク

ゲノム解析の価格圧力

1ゲノムあたりの解析コストは約600ドルですが、臨床的解釈、保管、遺伝カウンセリング、臨床経過観察などを含めると、患者への請求は総額数千ドルに上る可能性があり、保険で費用全てをカバーできるとは限りません。ゲノム全体ではなく単一の遺伝子を検査する場合にも、コストが上昇する可能性があります。単一遺伝子の検査では、標的遺伝子を単離して正確な結果を得るためにDNAに大掛かりな操作を加える必要があるからです14。あらゆるコストを考慮すると、患者よりも研究者のほうが安価なシーケンシングの恩恵を受けるかもしれません。

ゲノム解析結果の解釈の困難性

ゲノミクスは進歩していますが、検査と解釈の標準化が進んでいないことが今後の進展を妨げるリスクがあります。標準化と監督がないと、同じ検査結果の解釈が検査機関ごとに異なることになり、これは不正確な診断や治療につながりかねません15。品質管理対策と標準ガイドラインを改善することであらゆる検査プラットフォーム間で正確性と一貫性を確保することが必要です。標準的な枠組みが策定されると、各機関が独自に標準を開発する必要がなくなり、検査機関のコスト削減にもなります。

新たな法規制が価格に与える影響

2022年米インフレ削減法には処方箋コスト削減計画が含まれており、バイオ医薬品の売上に長期的なマイナス影響が出る可能性があります。同法の定めによれば、メディケア(米公的医療保険制度)の対象である医薬品の一部について米連邦政府は2026年から価格交渉する必要があります19。薬価が下がると、市場投入される新薬への影響が若干あるかもしれません。米議会予算局は、薬価交渉が原因で、向こう30年間に市場投入される新薬の数が1%減少すると予想しています20。とはいえ、製薬会社は今後の新薬の発売価格を引き上げることで高値から交渉を始める対応に出るかもしれません。代替治療法がない場合は特にそうです。

スタートアップ企業にとって困難な資金調達環境

高金利環境では、バイオテック企業が借入金で資金調達するのが困難になるかもしれません。企業は歴史的な低金利を利用して起業資金や成長資金を獲得したり、研究開発費を確保したりしてきました。ベンチャーキャピタルは2021年、米国、英国、EUで過去最高の366億ドルをバイオ医薬品企業に投資しました21。2022年、景気後退懸念が出て当面の成長見通しが陰ったため、プライベート投資は19%減少して295億ドルに留まりました22。企業が手持ち現金を使い果たせば、長期成長より目先の資金需要を優先させるため、イノベーションを促進するプロジェクトは失速しかねません。また、資金調達が困難な環境では、企業買収が増えて、ヘルスケア分野のイノベーションへの純粋な投資機会が減少する可能性があります。

他の投資テーマとの関連性

遠隔医療とゲノミクスにおける人工知能の活用

機械学習アルゴリズムでは、膨大なデータを高効率で処理して、診断のスピードと精度を高めることができます。ヘルスケア分野のイノベーションにおけるAIの活用例は次のとおりです。

  • AI画像認識技術を利用すれば肉眼では難しい病気の早期発見が可能になります。
  • AI搭載ツールや先端半導体デバイスを使えば医療提供者が患者データを分析したり患者に合った治療を提案したりすることが可能になります。
  • 複雑な遺伝子データを理解すれば遺伝子研究のブレークスルーが加速します。

機械学習の利用がゲノミクスにおける重要なブレークスルーにつながっています。次世代シーケンシングデータを使用して遺伝子変異を正確に特定することが奏功しています。いまや機械学習は疾患関連遺伝子を同定したり、遺伝子変異が健康状態にどう影響するかを理解したりするのに不可欠です。

遠隔医療では、AIの助けでチャットボット、遠隔監視システム、慢性疾患の継続的監視が可能になっています。患者は医療ケアにシームレスにアクセスできるだけでなく、AI搭載ツールの助けでそれぞれの患者にあわせた治療を受けられます。

食糧安全保障のソリューションとしてのゲノミクス

世界人口の25%にあたる20億人超が食糧不安を抱えています。世界人口の10%にあたる8億人超が日常的に飢えています23。作物収量は世界の食糧需要を満たしていません。気候変動で気温が上がり、利用可能な水が減っているため、需給ギャップが広がるでしょう。高い気温、少ない水、生物学的ストレスに耐える高収量作物を開発する必要があります24

アグリゲノミクスの助けで、農家は望ましい形質を持つ作物を選んで食糧供給を増やせます。アグリゲノミクスは遺伝子編集の一形態で、高収量作物、ストレス耐性、病害虫抵抗性を目的とします。遺伝子編集の応用分野の中で、農業分野の市場シェアは2020年の20%から2031年の27%に増加する見込みです25

ヘルスケアのデジタル化に伴うサイバーセキュリティ強化の必要性

2016年から2021年の間に病院へのランサムウェア攻撃の数は2倍以上に増えたことをみるに、サイバーセキュリティの強化が必要なのは間違いありません26。ハッキングで患者データが漏えいすればプライバシー懸念、規制当局による調査、評判被害につながります。AI医療技術では多くの個人情報を使用することでケアの質を高めるため、サイバー攻撃の被害を広げるリスクをはらんでいます。サイバーセキュリティツールを使えば、業界のデジタル化と統合が進む中で、データ保護と信頼を確保できます。

ポートフォリオ戦略におけるヘルスケア分野のイノベーション

ヘルスケア分野のイノベーションの中で、ゲノミクスと遠隔医療は変化の速い投資テーマです。長期的な成長可能性の高い投資テーマです。背景にある高齢化、デジタル志向の消費者、複雑化する医療ニーズという3つのファクターを考えると、ポートフォリオ戦略上非常に重要なテーマと言えます。採用曲線上で、遠隔医療はアーリーアダプター(初期採用者)段階にあって関心が広まっている一方、ゲノミクスはイノベーター段階からアーリーアダプター段階に移行中です。この段階に入ることが投資テーマの転機になることがあります。イノベーター段階では採用率は低いですが上昇中です。イノベーター段階は採用曲線上で新しいアイデアが受容と採用に至らないリスクが最大です。新しい技術は普通、広範なユーザー層によって試されて有用性が広く知られるにつれて採用が加速し、アーリーアダプター段階に入っていきます。

遠隔医療とゲノミクスを通じてヘルスケア分野のイノベーションを担う企業はグローバル展開しているため、グローバル採用率が上昇すればその恩恵を受けます。次ページの円グラフは、遠隔医療とゲノミクスをテーマとするETF商品のうち最大規模のものにおける地理的エクスポージャーの内訳です。米国以外の国でも十分なイノベーションが起きており、エクスポージャーを米国に限定すると主要なプレーヤーを見落としてしまい長期的に投資家に不利益になる恐れがあるとGlobal Xは考えます。

テーマ株式においては、投資対象企業が望ましいエクスポージャーを提供することを確認するためにスクリーニングを実施したのちターゲットとすべきであると考えられます。このようにピュアプレイに焦点を当てることで、テーマ間の重複を最小限に抑えつつ、ブロードベータ商品と比較してテーマが提供するエクスポージャーを差別化することができます。Global Xでは、ゲノミクスと遠隔医療のテーマ投資ETFと、S&P 500、MSCI ACWI、および関連性が最も高いS&P 500セクター別ETFであるヘルスケア・セレクト・セクターSPDRファンド(XLV)との重複分析を実行しました。

ゲノミクス重点型ETFに関する加重平均重複率は、S&P500に対して2.2%、MSCI ACWIに対して1.6%、XLVに対して6.5%であることがわかりました27。共通の保有セクターはバイオテクノロジー、ライフサイエンスツール/サービス、医薬品、検査機関などでした。遠隔医療重点型ETFに関する重複率は、S&P500に対して0.7%、MSCI ACWIに対して0.5%、XLVに対して5.0%でした28。広範なインデックスとの重複率が低いことは、テーマ型エクスポージャーのメリットを反映するものだと言えます。

ヘルスケア分野のイノベーションは、今後数年間にわたり普及と投資が進むと予想される複数の構造的トレンドが交差する分野だと言えます。ゲノミクスの進歩が個別化医療と疾病予防にもたらすメリットは非常に大きいです。遠隔医療の普及で医療へのアクセスが向上すると、薬局、医師、患者間のやり取りが円滑になります。これら複数のテーマが合わさってヘルスケア分野のイノベーションという大きなテーマを構成し、今後大きな成長可能性を秘めています。投資対象としてポートフォリオに組み込むと魅力的な投資機会になりえます。

ヘルスケア分野のイノベーションへのアクセス

下図にて、ゲノミクスと遠隔医療を通じてヘルスケア分野のイノベーションへ
直接的なエクスポージャーを提供する米国の大型上場ETFをご確認いただけます。

関連ETF
関連商品へのリンク先はこちら:

GNOM - グローバルX ゲノム&バイオテクノロジー ETF

EDOC - グローバルX eドック(遠隔医療&デジタルヘルス) ETF

2639 - グローバルX バイオ&メドテック-日本株式 ETF