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リチウムと再生可能エネルギー
米国、電池技術への投資を拡大
米国エネルギー省(DOE)は、先端電池の生産拡大に向けて、29億1,000万ドルを支出する予定であると発表しました1。DOEは、電気自動車(EV)やクリーンエネルギー貯蔵用の電池が近い将来、クリーンエネルギー産業の確立にとって極めて重要になると見ています。ロシア・ウクライナ戦争などのマクロ事象でコモディティ価格が上昇する一方、EV需要の高まりで電池価格が上昇する中、政府や民間セクターからの資金面での支援は、電池の再利用を後押しすると思われます。EVメーカーにとって、リチウムの供給確保は重要課題であり、ステランティスは米国カリフォルニア州のコントロールド・サーマル・リソーシズ・リミテッドと契約を締結したことで優位に立つことができたと考えられます。同社は今後10年間にわたり、年間最大25,000メトリックトンの水酸化リチウムの供給を受ける予定です2。
モノのインターネットと再生可能エネルギー
税額控除で半導体の生産拡大
ニューヨーク州議会は、半導体チップメーカーを同州に誘致する目的で、最大100億ドルの税額控除を認める決議を行いました3。この税額控除は最長20年間有効であり、環境に優しい半導体製造工場が対象になります4。同様に、米上院財政委員会も、米国の対中国競争力強化法案の一部として、半導体税額控除を導入しようとしています。同法案では、半導体の製造と研究開発に500億ドル以上を充てる予定になっています5。米国とEUは、両地域が半導体チップの生産強化を図る中、「補助金競争」に陥ることがないよう、共通した取り組みを行うと発表しました。この大西洋を横断した取り組みは、チップの供給を確保するとともに、共同して半導体への投資を拡大させることを目指しています。
メタバース
仮想領域が経済安定のカギになる可能性
メタバースは、かつてないほどの可能性を示しています。メタ・プラットフォームズ(旧Facebook)は、アナリシス・グループとの共同調査により、メタバースが2031年までに世界のGDPに3兆ドル(2.8%に相当)寄与する見通しであると推定しています6。特に、メタバースはサブサハラ・アフリカの新興諸国に400億ドル寄与できる可能性があります7。
各セクターの企業は、ブランド露出の面で、メタバースがモバイル機器やソーシャルメディアへの移行に似ていることをますます認識するようになってきました。メタバースをビジネスに取り込もうとする小売業者の例として、グッチのロブロックス上でのバーチャルハンドバッグ、ルイ・ヴィトンのバーチャルゲーム、ディオールの複合現実を用いたバーチャル・アトリエ・オブ・ドリームズなどのハイエンドブランドを挙げることができます。そのほかでは、メタがトライベッカ映画祭と提携し、Quest VRヘッドセット上で20本のショートフィルムを無料上映しました8。また、Appleは、AIを活用した新たなロック画面、ウィジェット、繊細な通知機能、フォーカスフィルター、3Dサウンド、Siriのアップデートなど、将来的な複合現実に備えたiOSの更新に取り組んでいます。
サイバーセキュリティ
M&A活動でサイバーセキュリティ市場を確保
セキュリティ関連の新たな垂直市場におけるテクノロジーの統合を企業が目指し、ニッチなソリューションプロバイダーから脱却しようとする中、サイバーセキュリティ企業を対象とした合併・買収(M&A)が過去最高水準に達しています。2022年第1四半期のM&Aは、コロナウイルスの世界的感染拡大を契機とするデジタルシフト、政府や企業レベルでの投資拡大のきっかけとなったサイバー攻撃の猛威、さらには人材獲得が全般的に進んだことから、前年同期比26.3%増と堅調な伸びを示しました9。取引額で見た場合、2021年第1四半期の方が目覚ましいものがありましたが、取引件数では2022年第1四半期が前年を上回りました。M&A活動の代表的な事例としては、IBMが最近攻撃的セキュリティのスタートアップであるランドリを買収したことを挙げることができます。同社は攻撃面管理(ASM)を専門とする企業ですが、コロナウイルスの世界的感染拡大以降、あらゆる規模の組織がハイブリッドクラウド環境に移行し、ますますサイバー攻撃を受けるようになったことから、ASMが必要不可欠になっています。
フィンテック
BNPLが主流に
Apple独自の後払い決済(BNPL)サービスである「Apple Payで後払い」がメディアで大きく取り上げられました。同社決済プラットフォームの新たな機能は、分割払いを可能にするという意味で、他のBNPLサービスと似たものになると思われます。「Apple Payで後払い」は、Apple Payを補完するものとして、様々なアプリやサービスで利用されます。当初は、アファームのような伝統的なBNPL企業にとって脅威となると思われましたが、
Appleの出現は、アファームなどの加盟店主導型ビジネス手法に害を及ぼすことなく、BNPLの消費者への浸透を後押しする可能性があります。アファームは、加盟店システムと直結することにより、消費者に不正利用の防止とオンラインストアの統合をもたらしています。このモデルは、消費者のブランドロイヤリティを高めることもできます。また、クレジットカードと同様、ユーザーは複数のBNPL企業を利用する傾向にあると思われます。
電気自動車(EV)
世界的に普及が進む
電気自動車(EV)メーカーは期待を上回る販売台数を達成し続けています。5月までのフォードのEV販売台数は、前年同期間比222%増となっています10。この販売増の多くはマスタング・マッハEの成功によるもので、5月の販売台数は前年比166%増となり、生産台数が落ち込む中、月間記録を更新しました。注目すべきは、マッハEの主要な競合車がテスラのモデルYであることです11。フィアットの発表によると、英国での同社製品ラインアップは2022年7月からEVとハイブリッド車のみとなるとのことです。この発表は、2020年代終わりまでに全世界でEVのみの販売に切り替えるという同社目標に整合するものです。アジアでは、中国当局が今年中に終了するEV向け補助金の延長をめぐって、自動車メーカーと協議しています。具体的には、2022年末までに従来車から新エネルギー車に乗り換える消費者に対して、最大10,000元(1,499 米ドル)の補助金を出す計画であると報じられています12。