次のビッグテーマ:2021年8月

クラウドコンピューティング

競合ひしめくクラウド分野

テクノロジー分野の巨大企業がこぞって、自社のクラウドサービスが企業成長の重要な源泉だとアピールし続けていますが、果たしてトップに立つのはどの企業でしょうか。ただし、最近の傾向を見ると、勝者がこの業界すべてを掌握するというわけではないかもしれません。顧客側を見ると、リスクを分散し特定のニーズに合ったクラウドプロバイダーを利用するために、マルチクラウド型のインフラストラクチャ・ソリューションを選択する傾向がますます高まっています。Flexeraの年次業界レポートによると、今年は92%の企業が複数のクラウド契約を結んでいます1。Googleは、オープンソース技術を公開し、顧客によるコントロールを可能にしたことで、クラウド関連売上高が前年同期比53%増となりました2。IBMは、自社のプラットフォームにマルチクラウド戦略を導入するためにハイブリッドクラウドへの投資を開始したことで、クラウド関連売上高が13%増加したとしています3。Microsoft Azureの第2四半期の売上高は前年同期比51%増、Amazon Web Servicesの第2四半期の売上高は前年同期比37%増となり、好調だったそれぞれの会社の業績に大きく貢献しました4,5

ソーシャルメディア

高成長を記録するソーシャルメディア・プラットフォーム

第2四半期は、Snapchat、Twitter、Facebook、Pinterestなどといったソーシャルメディア企業が引き続き目覚ましい成長を遂げ、力強い四半期決算を発表しました。これらのネットワークに共通するテーマは、消費者の注目を集めるために企業間の競合が激化していることによる広告料金の上昇、人工知能技術の高度な統合、そして収益源の多様化などです。

Snapchatの売上高は9億8,200万ドルと倍増し、デイリー・アクティブユーザー数(DAU)は前年同期比23%増の2億9,300万人に急増しました6。同社によると、プラットフォーム上で拡張現実(AR)機能を利用するクリエーターの数は日次で20万人以上になっており、アプリ上でARレンズを作成するためのツール「Lens Studio」や、スナップチャッターが着たい服をスキャンして似たようなお勧めの服を見つけ、ショッピング体験を向上させるために作られたアプリケーション「Scan」などが利用されています7。一方、Twitterの売上高は11億9,000万ドルで、広告収入は前年同期比87%増、収益化可能なDAUは前年同期比11%増の2億600万人に達しました8。Twitterは、報道や議論の場をさらに設け、かつコンテンツ制作者に潜在的な収入源を一層提供することを使命としているとのコメントを発表しています。実現の鍵は、同社が近未来に向けて重視するAIと機械学習、権限の分散、ビットコイン統合にあります。Facebookは、InstagramのReelsやFacebook Watchを通じた動画制作に力を入れており、クリエイターに10億ドルを投資しています9。また同社は、WhatsApp決済やFacebook Payの利用をこれまで以上にグローバルに拡大しました。Facebookの収益は前年同期比で56%増加しましたが、これだけにとどまらず、広告の平均単価が同47%、広告配信数は同6%増加しています。また、Pinterestに関しても、ショッピング、自動化、ツールへの投資が功を奏していることが明確に現れており、前年同期比125%増という大幅な収益成長を記録しました。

自動運転車&電気自動車

加速する電気自動車

電気自動車(EV)の勢いは衰えを知りません。2021年1~4月のEV用電池のグローバル販売量は2倍以上に増加しています10。各国が二酸化炭素排出量削減のための政策を実施していることや、消費者の嗜好が内燃機関(ICE)車からよりクリーンな代替車へと移行していることから、EVの導入が加速し続けています。最近では、メルセデス・ベンツが10年後までに同ブランドの車両をすべて電気自動車に転換することを発表するなど、企業レベルでの取り組みがEV普及をますます後押ししています11。さらに同社は、2025年以降、新たに発売するすべての車両アーキテクチャを電気自動車のみとし、既存のすべてのモデルに電気自動車の選択肢を持たせるとしています12。フィアット、クライスラー、オペル、プジョー、ドッジ、ジープなどの主要自動車ブランドを所有するステランティスは、EVデーを開催し、2025年までに電気自動車とソフトウェアのためだけに350億ドル超を投資する計画を発表しました13。同社は、グローバルなEV用バッテリーの調達戦略に取り組んでいますが、その内容は、5つのバッテリー・ギガファクトリーで生産を行い、2030年までに260ギガワット時(gWh)を達成するというものです14。これらの大手自動車メーカーの5~10年計画を見ると、従前考えられていたよりも急速に電気自動車への移行が進んでいることがわかります。

フィンテック&ブロックチェーン

主流になりつつある暗号化資産

現在、多くの大手テクノロジー企業が、暗号通貨による支払いシステムを消費者に提供しています。例えば、Amazonの最近の求人情報によると、顧客が現金をデジタル通貨に変換してAmazonのプラットフォームで使用できるという新しい決済商品を発売する計画があることが明らかになりました。一方PayPalは、2020年10月のPayPal Cryptoの開始に続き、暗号通貨の購入限度額を引き上げました。従来の1週間の購入限度額2万ドルが5倍の10万ドルになり、年間の購入限度額5万ドルが完全に撤廃されました15。また、Twitterは、スーパーフォロー(Super Follows)、コマース、サブスクリプション、チップジャー(Tip Jar)などの既存の機能にデジタル通貨を統合することで、ビットコインへのコミットメントを倍増させました。TwitterのCEOであるジャック・ドーシー氏が見せた動きは、彼が経営するもう一つの会社であり、暗号通貨が最重要な要素となっているSquareの動きを模倣したものです。さらに、電子商取引大手Shopifyは、加盟店が直接消費者に非代替性トークン(NFT)を販売できるようにするという、より斬新なアプローチを取ることで代替通貨を受け入れています。このような大手企業の決定が、消費者や企業における暗号通貨の導入を加速し、主流化する後押しとなっています。

モノのインターネット

政治色が増す半導体

デジタル化の進展に伴って、半導体は経済を機能させるうえでますます不可欠なものとなっています。半導体への依存度があまりにも高まった結果、目先の製造不足を解消するのみならず、長期的な半導体のサプライチェーンの安定性を確保するための政策を打ち立てるなど、この分野における政府の関与が加速しています。米国政府は、2,500億ドル規模の「米国イノベーション・競争法案(Innovation and Competition Act)」(上院ではすでに可決されており、下院を通過する必要があります)にバイデン大統領が署名した日から18か月以内に、同国内に6~8か所の半導体チップ工場を開設する計画を明らかにしました16。法案に含まれる2,500億ドルのうち、520億ドルが半導体の研究・開発・製造に割り当てられる見込みです17。世界の半導体製造量における米国のシェアは、1990年の37%から現在は12%にまで低下しています18。一方欧州も、2030年までに半導体チップの世界シェアを2倍にするという目標を掲げ、大規模な取り組みを行っています。世界的なチップ不足が暗に何かを示しているとすれば、それは、どの国にとっても半導体チップの国産化を進め、他国からの供給に対する依存度を下げるのが不可欠だということでしょう。

クリーンテック&再生可能エネルギー生産

地球温暖化を食い止める

異常気象により、2021年ではこれまで、全米の数百か所で最高気温記録が更新されました。温室効果ガスの排出を抑制しなければ、熱波の発生頻度は過去数十年の2〜7倍になる可能性があります19。米国では、この変化を食い止めるために、国を挙げてクリーンエネルギーへ移行するとともに、気候変動に対処するための政策に資金を投入すべく、バイデン大統領が3兆5,000億ドルもの予算決議案を提出し、社会および環境プログラムの大幅な拡大を目指しています20。法案の枠組みには、気候変動や自然保護に取り組むための雇用を増やす「市民気候部隊(Civilian Climate Corps)」の創設、クリーンエネルギーや電気自動車への税制優遇措置、電力の一部を自然エネルギーで賄うことを義務付けるクリーンエネルギー基準などが含まれています。欧州委員会も気候保全の取り組みを加速しており、最新の発表では、今後10年以内に温室効果ガスの純排出量を1990年比で少なくとも55%削減することを目指しています21。また、EU執行部は、2050年までに欧州を世界初のクライメイト・ニュートラル(気候中立)な大陸にすると付け加えています22。一方中国は、国内産業から排出される温室効果ガスに価格を付け、製品のコストを上げることで、排出量の削減に向けて効率化を図ることを目的とした排出権取引制度を導入する計画を発表しました。この取り組みにより、2030年までに排出量のピークを迎え、2060年までにカーボン・ニュートラルになるという同国が掲げる目標は達成可能となると見られています23