さまざまなテーマが集結し、メタバースを具現化

Facebookの2021年第2四半期決算説明会で、CEOマーク・ザッカーバーグをはじめとする面々は、20回にわたってメタバースについて言及しました。Robloxは同社の決算説明会で16回、Unity Technologiesは8回、メタバースについて触れました。ソーシャルメディアやビデオゲームの大手企業は、なぜこれほどまでにこの言葉に魅了されているのでしょうか? それは、インターネットに新たな変革を起こすものとしてメタバースが登場し、大手インターネットプラットフォーム企業に数兆ドル規模の収益機会とそれに伴うリスクをもたらすと見られているためです。

メタバースとはどういうもので、なぜ次世代インターネットとして有望であると考えられているのでしょうか? このような変革から利益を得るには、どのようなテーマやセグメントが最も有利なのでしょうか? この記事では、このような疑問を明らかにするために、メタバースを取り上げ、メタバースが未来に劇的な変革をもたらす可能性について考察したいと思います。

重要なポイント

  • メタバースとは、インターネットに新たな変革をもたらす、ユーザー没入型の仮想空間です。メタバースは、現実世界と同様の永続性、経済システム、コミュニティ、デジタルアバター、複数デバイス間のアクセシビリティといった特徴を備えています。
  • 投資家は、既存の初期バージョンのメタバースに大きな可能性を見いだしています。一方、将来的にメタバースが成功を収めるには、仮想現実用ヘッドセットを使ってアクセスできる分散型オープンアーキテクチャプラットフォーム上に構築され、ブロックチェーン技術を備えることが期待されています。
  • このようなコンセプトが成功すれば、ソーシャルメディア、ビデオゲーム、eコマース、ブロックチェーンなど、複数のテーマを手掛ける企業に数兆ドル規模の収益機会をもたらすと見られています。

メタバースの定義

今日のインターネットで、私たちがさまざまなデジタルプラットフォームに頻繁にアクセスするのは、それらを利用することで現実世界における体験を円滑化できるためです。例えば、Amazonで商品を購入して自宅に配送してもらったり、最近外食したときの写真をInstagramで共有したり、マディソン・スクエア・ガーデンで行われるコンサートのチケットをオンラインで購入し、友人と一緒に鑑賞したりします。

メタバースでは、デジタルプラットフォームが、デジタル世界の体験に大きな影響を与えます。仮想現実用ヘッドセットを使って没入感の高い空間に飛び込めば、メタバースの中にいながら、仕事をしたり、ビデオゲームで遊んだり、デジタルアイテムを購入したり、友人と交流したり、メディアを消費したりすることができます。Facebookのザッカーバーグは、メタバースを「デジタル空間で他人と一緒に過ごせる仮想環境」と簡潔に表現しています。

大まかに定義すると、メタバースには以下のような6つの特徴があります。

  • アイデンティティ:ユーザーは、メタバースのデジタル空間に存在している間、自分のアバターを使って、なりたい自分を、それがどのようなものであっても、表現することができます。「オアシス」と呼ばれる無限のメタバースを描いたSF映画「レディ・プレイヤー1」の台詞を引用すると、「みんな何でもできるからオアシスにやって来る。そして、何にでもなれるからオアシスに居続ける。背の高い人、綺麗な人、怖い人、別の性別、別の生き物、実写、アニメ、すべて君次第だ」
  • マルチデバイス:重要な特徴として、スマートフォン、PC、タブレットなど、どこからでもメタバースにアクセスできることが挙げられます。大きな進展が見込まれる分野のひとつに、頭部装着型のディスプレイを使って、ユーザーがコンピューターで生成された環境に入り込み、仮想の物体を操作することができる没入型仮想現実(VR)体験があります。一方で、従来の画面やデバイスを使用した簡易版メタバースも存続すると考えられます。
  • 没入感:真の没入型体験は、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚など、人間のあらゆる感覚を刺激します。現在のVRは、サラウンド音響・画像が中心となっています。次世代のVRデバイスには、触覚ボディスーツや全方位トレッドミルなどがあり、ユーザーがデジタル環境を自由に移動する際、電気刺激によって身体的感覚を得ることができます。
  • 経済システム:十分に発展したメタバースでは、ユーザーがデジタル通貨や法定通貨を用いて利益を得たり、消費したりすることができる経済システムが機能しています。オンライン経済システムを備えた初期のメタバースとしては、ゲームプラットフォーム「Roblox」とその通貨である「Robux」が挙げられます。Robuxを購入したユーザーは、それを使って、アバターのために体験やアイテムを購入することができます。開発者やクリエイターは、ユーザーが購入したくなるような魅力的な体験やアイテムを構築することにより、Robuxを獲得し、米ドルなどの法定通貨に交換することができます。
  • コミュニティ:メタバースでは、ユーザーは孤独ではなく、リアルタイムでさまざまな人々に囲まれており、体験を共有したり、交流したりすることができます。ビデオゲームをメタバースの先駆けと捉えると、ヒットするゲームの中核をなす特徴は、ソーシャルな体験の提供であると考えられます。Activision BlizzardのCEOであるロブ・コティックによると、友人と一緒にグループで参加するプレイヤーは、他のプレイヤーに比べて、3倍以上の時間をゲームに費やし、およそ3倍の金額をゲーム内のコンテンツに注ぎ込んでいます。1
  • 現実世界と同様の永続性:メタバースは、一時停止機能を持たず、現実世界と同様に永続的であることが求められます。ユーザーがログアウトした後も、引き続き存在し、機能します。このような特徴により、ユーザー中心の世界が仮想世界そのものへと変化しています。

初期のメタバースによって明らかになった将来性

メタバースは、未来世界についての概念ではありません。初期バージョンは既に存在しています。Epic Gamesのフォートナイトでは、アリアナ・グランデやトラヴィス・スコットのバーチャルコンサートが開催され、デジタルアバターとして参加したユーザーが、他のユーザーとの共有体験を楽しみました。このようなイベントの成功には目を見張るものがあり、ライブショーをはるかに超える数百万人ものファンを集客しました。

同様に、Robloxの人気ゲーム「Adopt Me!」は、2017年7月のリリース以来、平均で年間アクセス数62億回2を記録していますが、このゲームはRobloxのプラットフォームで利用できる何千もの場所のひとつに過ぎません。仮想世界と現実世界における旅がほぼ同等のものである限りにおいて、メタバースは、新しい場所、人、文化を求めて、大勢の人が必要に応じて訪れる経済効率性の高い世界となる可能性があります。ちなみに、新型コロナウイルス感染症拡大前の海外旅行者数は、全世界合計で年間14億人3を記録しています。感染拡大前に、年間の海外旅行者数が最も多かったのは、バンコクの約2,300万人4でした。

2021年8月、Facebookはメタバースの提供に向けて大きな一歩を踏み出し、職場の同僚がデジタルアバターを使って対話することのできる仮想会議スペース「Horizon Workrooms」を発表しました。Workroomsを利用するには、Oculus VRヘッドセットと無料アプリのダウンロードが必要です。

上記の例はいずれも、メタバースが最終的にどのようなものになるかを断片的に示すものです。企業がメタバース関連の取り組みに対する投資額を引き上げる際は、私たちが「メタバース」と呼んでいるものが、必ずしも一手に独占されていないことに留意する必要があります。メタバースの開発に伴い、現在の体験はより一元的で特殊なものとなっていますが、最終的には完全に分散化された状態を目指しています。「レディ・プレイヤー1」が描くメタバースでは、ひとつの無限の仮想世界を求めて現実世界を見捨てていますが、これとは異なり、私たちが暮らす世界では、複数のメタバースが台頭すると見られています。

クローズ型からオープン型アーキテクチャへの移行が予想されるメタバース

現在、企業が提供するメタバース体験は、主にクローズドアーキテクチャ型のシステムを利用しており、それぞれのソフトウェアやハードウェアは、他社のプラットフォームと互換性がありません。ゲーム、仕事、ショッピング、社交など、主要な利用目的に合わせて、さまざまなプラットフォームが構築されていることが少なくありません。
しかしながら、最終的に、最も大きな成功を収めたメタバースプラットフォームは、ユーザー、開発者、企業といったすべて(あるいは、少なくとも多数)の関係者が平等に参加できるオープンアーキテクチャへと進化すると見られています。

ユーザーは、VRセット、スマートフォン、PCなどの機器と、インターネット接続さえあれば参加できます。一番人気のメタバースプラットフォームでは、消費や利益の獲得が可能な経済システムが機能している様子を目にすることができるでしょう。

多くの人々がメタバースを娯楽やレジャーのための空間と捉え、友人と会ったり、メディアを消費したりするために、デジタル空間を利用しているでしょう。これらのプラットフォームは、ネットワーク効果の恩恵を受け、より多くのユーザーが参加することでデジタル体験がさらに充実し、ひいては家族、友人、知人など、より多くのユーザーを惹きつけることができます。

一方で、メタバースの成功と繁栄には、大多数のユーザーが楽しめるような商品や体験を構築する開発者やクリエイターを評価するコミュニティを育成することも重要になります。このような開発者にとって、メタバースは、新しいゲームやデジタルアイテム、仮想世界全体を設計するための職場となります。

真にオープンなメタバースとは、ブロックチェーン技術を活用した分散型仮想現実プラットフォームになると見られています。このようなコンセプトは、イーサリアムのブロックチェーン技術を活用して構築されたDecentralandで既に具体化されています。Decentralandでは、コミュニティメンバーには、コンテンツやアプリケーションを開発、体験、収益化する機会があります。他の仮想世界やソーシャルネットワークとは異なり、Decentralandには、ソフトウェア、土地、通貨システムに関するルールの変更権限を握るエージェントが存在しません5。コミュニティメンバーは、土地を購入、開発、販売することができますが、土地は現実世界と同様に有限であるため、さらに価値のあるものとなります。

1兆ドル規模の収益機会を秘めたメタバース

メタバースは、仮想プラットフォームやそのコンポーネント、超現実的な画像処理を行うための半導体やチップ、関連ソフトウェアなどを開発する企業を中心に、さまざまな分野で広範な収益機会を生み出すことが期待されます。

  • 開発者/クリエイターの経済規模:Appleが開発者によるアプリ販売を可能にしたエコシステムを構築したように、メタバースの繁栄には、体験やアクセサリを販売する強固な第三者開発基盤が必要です。2008年から2020年までにApple App Storeの開発者が手にした2,000億ドルを指標とすれば、メタバース開発者がもたらす経済規模は、巨大なものになると考えられます6。Robloxの開発者は、2020年に3億2,870万ドル、2021年上期だけで2億4,870万ドルを稼ぎ出しました7, 8。クリエイターにも同様の傾向が見られ、アルファベット傘下のYouTubeは、過去3年間で総額300億ドルをクリエイターに支払いました9。重要なのは、開発者の収益は、多くの場合、ソーシャルメディアやビデオゲームプラットフォーム自体に分配されるという点です。AppleがApp Storeの収益の30%を受け取っているのは広く知られていますが、メタバースプラットフォームも同様の経済効果を得ると見られています。
  • 広告:ソーシャルメディアプラットフォームは、ユーザーに無料サービスを提供することで知られていますが、その主な収益源はターゲット広告です。ゲーム会社も同様の方法で、ユーザーに無料で遊べる体験を提供し、広告やゲーム内の課金から収益を上げている例が増えています。メタバース体験でも同様に、現実世界の物理的な商品を宣伝するプラットフォーム内広告や、ゲーム、アクセサリ、体験といったメタバース向けデジタルアイテムの広告が重要な役割を果たすことになると考えられます。ある試算によると、メタバースは、世界のメディア広告業界に5,000億ドルを超える収益機会をもたらすと見られています。10
  • ソーシャルコマース:eコマースプラットフォームは、ウェブサイト上での商品販売から、仮想ショッピングモールでの商品提供へと進化する可能性があります。そこでは、ユーザーが仮想生活に必要なデジタルアイテムや、自宅に配送できる現実世界の商品を購入するでしょう。仮想ショッピングモールでは、友人と一緒に商品を眺めたり、商品についてインフルエンサーの話を聞いたり、購入前に商品を試用したりすることができます。いろいろな意味で、これは、2020年に全世界で4,750億ドルを売り上げた11とされるソーシャルコマース(eコマースとソーシャルメディアの融合)の未来形と言えるでしょう。
  • デジタルイベント:新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、フォートナイトは単なるビデオゲームの枠を超えて、ユーザーが仮想空間でコンサートに行ったり、映画の予告編を見たり、映画鑑賞したりすることのできるソーシャルハブとして台頭してきました。デジタルイベントは、今後、メタバースにおける主要サービスになると考えられます。例えば、自宅にいる便利さを享受しながら、コンサートや映画、スポーツ、eスポーツなどのイベントに、友人と一緒にバーチャル参加することができます。フォートナイトで行われたアリアナ・グランデのコンサートに話を戻すと、アリアナはこのイベントで推定2,000万ドルを稼ぎ出しました12。世界のバーチャルイベント市場は、940億ドルと推定されており、その収益は、コンテンツクリエーター(映画スタジオ、プロスポーツチーム、アーティストなど)と、イベントを主催するメタバースプラットフォームとの間で分配されていると考えられます13
  • ハードウェア:仮想現実・拡張現実用ヘッドセット、グラフィックチップ、全方位トレッドミルは、参加型で没入感の高いメタバースの構築に大きな役割を果たすであろうハイテクハードウェアの一部に過ぎません。ハードウェア市場は、2024年までに、2021年の推定310億ドルから2,970億ドルに成長することが見込まれます14。メタバースに適用可能なVR技術だけを見ても、収益機会は1,000億ドルを超える可能性があります15
  • ウォレットとアプリケーション:金融取引がメタバースに移行するにつれ、新しいサービスが出現するでしょう。ユーザーには、法定通貨とデジタル通貨を手軽に交換したり、デジタル通貨で商品を購入したり、デジタル購入品をどこかに保管したりする必要が生じます。フィンテック企業、特にブロックチェーン分野を重視している企業は、このような取引の促進および正当な所有権の確保において、重要な役割を果たすでしょう。これらの企業は、取引、外国為替/仮想為替の交換、カストディサービスに対して料金を請求すると見られます。

メタバース:複数の破壊的テーマが集結する場所

メタバースは今なお初期段階にありますが、インフラストラクチャは徐々に構築され、社会における受け止め方も変化しており、新時代のインターネットを体験する準備は整いつつあります。完全版の没入型メタバース体験が広く普及するには数年かかるかもしれませんが、ソーシャルメディア、ビデオゲーム、eコマース、ブロックチェーンなど、複数のテーマで初期段階の投資機会が生まれています。このような投資機会の中心にいるのが、ソーシャルメディアおよびビデオゲーム企業です。これらの企業は、大規模なユーザー基盤、クリエイタープラットフォーム、ライブデジタルイベント体験、最先端のハードウェアを駆使し、メタバースの基盤を構築しています。加えて、大きな影響力を持つeコマース企業が、新たな販売チャネルや機能からメリットを得る一方、ブロックチェーン企業はメタバース経済を支える金融インフラストラクチャを提供する上で欠かせない存在になると思われます。現実世界では、これらのテーマがそれぞれ現状の破壊と再構築を繰り返していますが、メタバースにより、それぞれのテーマに数十億ドル規模の新たな収益機会がもたらされると考えています。