メタバースと没入型技術は産業への応用が期待できる
メタバースと没入型技術の早期導入の最大の可能性は、製造、エンジニアリングサービス、建設、輸送設計など、我々の経済の土台となっている中核産業にあります。インダストリアル・メタバースと総称されるこれらのテクノロジーは、製造システムがどのように設計されテストされるか、そして製品がどのように調達され、グローバルでチームがどのように協業するか、などの方法を変革することができるとGlobal Xは考えています。XRヘッドセットのフォームファクターと機能の継続的な向上は、この変革を後押ししています—XRヘッドセットは、例えば、現地に社員を派遣しなくとも、プロジェクト同様の空間ビューを企業に提供することができます。
米国、中国、その他の主要経済国において、パンデミック後の幅広い設備投資(CapEx)が拡大する中、産業機能に対応した没入型技術の開発と導入が、自動化と並んで加速すると思われます。その過程で、投資家はこの成長の波に乗る機会を得られると予想しています。
重要なポイント
- 自動化やインテリジェントソフトウェアへの投資を必要とするサプライチェーンや製造業のリショアリング(国内回帰)において、没入型技術が重要な役割を果たすとGlobal Xは期待しています。
- 産業用メタバースは、業務効率を高められるという理由で、コンシューマー用・エンタープライズ用メタバースよりも短期での収益機会が大きいと考えられます。
- デジタルツイン技術の早期の成功は、産業用メタバースの成長の可能性と、その恩恵を受けるであろう、デジタルツイン・ソフトウェア、データ管理、グラフィック処理ハードウェアを含むセグメントを示唆しています。
リショアリングは、自動化、互換性、メタバースを促進する
新型コロナウイルスがサプライチェーンを混乱させ、地政学的な緊張が高まる中、世界の主要な経済と企業がグローバルな製造戦略を見直しており、これは国内のソリューションに投資することに繋がっています。2022年、米国の設備投資支出は前年比19.8%増と大幅に増加しました1。中国の固定資産支出は、2023年1~4月で前年比4.7%近く増加しています2。AVEVAの調査によると、製造業、大規模農業ビジネス、食品・飲料、インフラ、エネルギー、電力、化学処理にまたがる産業企業の85%がデジタル投資を増やす予定であるとわかりました3。これらの資本プロジェクトは、製造業のデジタル化における次のステップである第4次産業革命、つまりインダストリー4.0の舞台となると言えるでしょう。
デジタルツイン、ブロックチェーン、エッジコンピューティングなどの技術を通じて産業用メタバースの成長を促進するために、自動化、互換性、仮想モデリングへの投資が増加すると予測できます。特に、人工知能(AI)と仮想現実(VR)の融合に位置づけられるデジタルツインは、物理的領域とデジタル領域をつなぐパイプ役として機能します。また、低遅延の5Gネットワークの実現などのネットワークインフラの改善・拡大は、アプリケーションの普及に貢献するでしょう。
3Dシミュレーションやデジタルツインなど、産業用メタバースとそれに付随する没入型技術の市場は、コンシューマー用メタバースやエンタープライズ用メタバースよりも進んでいます。現実世界の課題や本質的なビジネスニーズに対応しようとする、特定の産業用のユースケースによってこのギャップは説明することができます。
デジタルツイン技術はインダストリアル・オートメーション(産業の自動化)に欠かせない
デジタルツイン技術は、デジタル空間で物理的な物体や環境を正確にモデリングし、その環境にある物体に影響を与える変数の全範囲を把握することを可能にします。この可視性により、企業は、現実世界で起こる高価な失敗のリスクを冒すことなく、資産、設計、プロセスをリアルタイムでテストすることができます。例えば、工場やビル、さらには都市全体の計画を簡素化することができます。
2022年に126億ドルと評価された世界のデジタルツイン市場は、2032年までに1408億ドル、年平均成長率27.3%に達すると予想されています4。成長のポテンシャルは、すでに多くの主要産業企業や自動化ソリューションのサプライヤーがこの技術を用いた実験を成功させていることからも明らかです。
- シーメンスとエヌビディア:中国・南京のデジタルネイティブ工場は、シーメンスが初めてデジタルツインを導入した工場で、工場の製造能力を200%、生産性を20%向上させました5。また、シーメンスはエヌビディアと共同で、Siemens XceleratorとNvidia Omniverseプラットフォームをつなぎ、写実的で、物理関連の、リアルタイムなデジタルツインを作成しました。このパートナーシップの最初の結果は、電池メーカーFREYR Battery社の次世代工場のデジタルモデルです。このモデルでは、FREYR社の工場や機械だけでなく、人間工学、安全プロトコル、工場に組み込まれたロボットの3D表現がみられます。
- ユニティ:自動車、製造業、建築、エネルギーなどの業界向けに設計されたUnity Industry製品群は、ライブ3D拡張現実(AR)、複合現実(MR)、仮想現実(VR)に対応しています。Unity Marsツールは、特殊認識装備を備えたARおよびMR体験のモックアップを作成することができます。Unity Pixyzは、コンピュータ支援設計ソフトウェアの専門家向けの、Point Clouds(点群データ)をメッシュに変換するものです。ユニティには、重機製品ラインでのリアルタイム3Dマーケティングがどのように機能するかを描写した架空のブランドTimiもあります。
- ゼネラルモーターズ(GM)とゼネラルエレクトリック(GE):ゼネラルモーターズは、各工場に約6,000台のオペレーションテクノロジー(OT)デバイスを設置し、50以上の製造実行システム(MES)アプリケーションを統合することで、接続エコシステムを構築しました。GMの工場では,OTと情報技術(IT)層の間に10万もの接続があります6。これらのシステムの管理で必要な手作業を減らすために、GMはGEデジタルと共同でMES4.0を開発しました。両社は協力してデジタルツインを使用して工場フロアの動作をシミュレーションするGMの仮想工場テストベッドを設立しました。
- IBM:IBM Digital Twin Exchangeは、デジタル資産の交換を促進するために設計されたEコマースプラットフォームです。このプラットフォームは、企業規模のデジタル資産を幅広く提供するため、資産集約型産業にとって価値のあるリソースとなる可能性があります。また、IBMはインフラのコンサルタント会社であるSund & Baelt社と共同で、老朽化したインフラの点検と予測的メンテナンス戦略を最適化するデジタルツイン搭載のシステムを開発しました。このシステムは、IBM Maximo Application Suiteの支援により、重要なインフラの寿命を延ばすことができます。
- マイクロソフト:Azure Digital Twinsは、ビル、工場、農場、エネルギーネットワーク、鉄道、スタジアム、さらには都市全体のデジタルモデルを活用し、包括的なツイングラフを作成できるPaaS(Platform-as-a-Service)です。また、Azure Digital Twinsは、より広いクラウドソリューションの中で、実世界のIoT(Internet of Things)デバイスを正確に描写するデジタルツインを設計することを可能にします。
いずれ、デジタルツインの技術がより小さな事例に広がり、企業内のほぼすべての資産とプロセスをデジタルで複製できるようになるとGlobal Xは予想しています。
産業界の幅広いデジタル化によって強固なチャンスがうまれる
産業界が洗練された没入型技術やモデリングソリューションを採用することの影響は、広範囲に及ぶでしょう。デジタルツイン・ソフトウェアを提供するプラットフォームや、リアルタイムデータの記録を容易にする接続ソリューションのベンダー、グラフィック処理に対応するハードウェアプロバイダー、データの保存とアクセスを容易にするデータ管理会社なども、恩恵を受けることになると考えられます。コスト削減、市場投入のスピードの速まり、データの能力向上などのメリットがあるため、バイヤーはより多くの技術に投資せざるを得なくなると思われます。
支出増が部品やソリューションプロバイダーのバリューチェーンに流れる中、Global Xはテクノロジーソリューションプロバイダーのこれらのサブカテゴリーを潜在的な受益者と考え、注目します。
- グラフィック処理ハードウェア:グラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)やAI駆動技術を専門とするエヌビディアや、重要インフラに不可欠な物理資産を構築するゼネラルエレクトリック(GE)といった企業が、産業用メタバース技術のためのハードウェア開発の最前線に立っています。
- IoT(Internet of Things)と互換性:包括的なデータ取得に対する需要の高まりは、IoTシステムの成長に有利な見通しを示しています。産業用IoTは、2030年までに20.5%の年平均成長率で成長すると予想されています7。多様なセンサーを包含する光学、ネットワークインフラ開発に不可欠な無線周波数(RF)および無線部品に大きな機会があります。
- クリエイティブ・プラットフォーム:消費者と最も直接的な関わりのある分野の一つであるクリエイティブ・プラットフォームは、高度なデザインとカスタマイズ・オプションに注力しています。このセグメントに属している、包括的なMRツールセットを提供するユニティや、Azure Digital Twinsを提供するマイクロソフトなどの企業は、ソフトウェアの専門家やデザイナー志望者がモデリング技術を活用できるようにします。また、3Dモデリングソリューション、コンピュータ支援設計(CAD)システム、デジタルツインを構築するためのターンキーグラフィックエンジンを提供する企業も、このセグメント内で利益を得る可能性があります。
- データ解析と管理:一般的に使用されている専用ソリューションや、データの取得や記録保存の増加は、データベースや同様のツールへの支出に繋がります。リアルタイムデータストリーミングプラットフォーム、データレイク、ウェアハウスソリューション、モジュラーデータベースは、データ分析ソリューションと同様に恩恵を得ることができます。マイクロソフト、アルファベット、アマゾンのような、巨大なクラウドフランチャイズを運営する企業や、スプランク、ダイナトレース、トゥイリオ、サービスナウといったプラットフォームプロバイダーも利益を得ることになると考えられます。例えば、AWS IoT Coreは、メーカーがデータを効率的に処理し可視化するのに役立つため、IIoT(産業用IoT)にとって欠かせないサービスです。
結論:産業用アプリケーションはメタバースを商用化している
早期導入・試用の強い兆候から、産業界の企業による没入型ソリューションへの支出は急速に拡大する可能性があると考えられます。新型コロナウイルス蔓延後の世界のダイナミクスの変化、地政学的な緊張、インフラ投資・雇用法(IIJA)、インフレ削減法(IRA)、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)などの政府の取り組みにより、自動化と互換性が優先されるべきものということだけでなく、必須であることが多い、ユニークな投資サイクルを創造します。この10年の終わりまでに、メタバースは数兆ドル規模の市場になる可能性があると予想され、その市場のかなりの部分が、こうした追い風を受けて急成長する産業用アプリケーションに特化すると考えられます8。