遠隔医療:ヘルスケアの基準を変える新たな政策の導入

新型コロナウイルスのパンデミックは、ヘルスケア分野におけるシステム面での非効率性を露わにし、遠隔医療が世界的なパンデミックに対する短期的な解決策を遥かに超える力を持つものであることを証明しました。その普及の核となるのは、現在のメディケアの遠隔医療に対する自己負担と処方の免除を、「新型コロナウイルスによる公衆衛生上の緊急事態(PHE)」を超えて拡張する新たな政策枠組みです。

Global Xでは、遠隔医療がもたらす経済的・社会的なメリットにより、ヘルスケア分野全体に技術が浸透する環境が整っていくと見ています。本稿では、遠隔医療やバーチャルケアの長期的な普及に向けて、業界各社がどのような取り組みを行っているかをご紹介します。

重要なポイント

  • 直近の連邦政府による立法や政策提案は、パンデミック終了後も長期にわたり遠隔医療を確実に利用できるようにすることを目的としています。
  • 政策がカバーする範囲が不透明な中、遠隔医療やデジタルヘルス企業は、患者のニーズを満たし、対面診療とバーチャル診療の適切なバランスを設定するために、それぞれのソリューションをカスタマイズしています。
  • デジタルヘルス業界では、薬局のフルフィルメントや診断機能など、ますます接続性の高いサービスの基盤が構築されつつあり、業界の価値提案が高まると期待されています。

パンデミックを超えて政策支援を受ける遠隔医療

新型コロナウイルス感染拡大を受け、各州政府や連邦政府は遠隔医療の利用を促進するための短期的な施策を実施しました。これらの措置により、メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)が遠隔医療サービスを適用対象とし、開業医が遠隔医療を利用して患者に規制薬物を処方することができるようになりました。また、医師免許要件が緩和され、医師が州を越えて遠隔医療で患者を治療することが可能になりました。1 主としてこうした短期的な政策が奏功し、遠隔医療の利用は現在、パンデミック前のレベルの38倍に達しています。2

患者や医療提供者がより良い、より効率的な医療が存在することを知った今、多くの人が制限を主体とする既存の規制に対する恒久的な解決策を求めるようになっています。3 この点について、下記をはじめとする取り組みが最近行われています。

  • 47名からなる超党派の上院議員グループが、医療へのアクセス拡大、コスト削減、健康状態の改善を理由に、遠隔医療サービスへの適用拡大延長が2月に成立すべき法案に含まれるよう求めた。4
  • 最近、300以上の団体が書簡に署名し、「包括的な遠隔医療改革への道筋」を確立するよう議会に要請した。Amazon、Teladoc、Walmart、Zocdoc、Zoom などといった企業が改革を要求。5

各方面からの圧力が増していることを受け、米議会は最近「遠隔医療延長および評価法案(Telehealth Extension and Evaluation Act)」を提出しました。この法案は、現在施行されているメディケアの遠隔医療の自己負担と処方の免除を「新型コロナウイルスによる公衆衛生上の緊急事態(PHE)」終了後2年間延長することを目指す超党派の立法です。この法案にはまた、メディケアの受益者に対する遠隔医療サービスの影響に関する調査を許可する内容が含まれており、将来の立法の上で参考となる情報の蓄積を目指しています。6

議論の中心は「保険償還率の同等性(Payment Parity)」

遠隔医療の利用に対する規制を長期的に緩和していく点については超党派の支持を得ていますが、具体的にどのように実施していくかについては議論があります。この議論の中心は保険償還率の同等性(Payment Parity)、すなわち、保険会社に対し遠隔医療に関する償還率を対面医療と同じにすることを求めるものです。7

保険償還率の同等性の論理と、それが適切である状況には、いくつかのファクターがあります。疾病によっては遠隔診療では対面診療と同じ水準の診療を担保できないため、遠隔医療が患者にとって適切な選択肢とはならない場合もあります。8 例えば、ある種の患者を診療する場合には、診断や治療計画を立てるために対面での徹底的な検査が必要となります。一方で、保険償還率の同等性を制限する法律を制定すれば、医師は診察1回あたりの収入が少なくなるため、遠隔医療を利用する意欲を失いかねません。9 (CMSが設定したバリューベースの優先順位に遠隔医療がどのように適合するかの詳細については、Telemedicine & Digital Health Are Crossing the Chasm をご参照ください。)

議会が長期的な遠隔医療に関する立法の具体的な内容を模索する一方で、民間保険会社は遠隔医療やデジタルケアの価値を認識し、長期的に顧客が遠隔医療を利用できるよう迅速な動きを見せています。Anthem、UnitedHealthcare、Cigna、CVS Health傘下のAetnaは現在、従業員にバーチャルプライマリーケアプランを提供しています。10 Cignaは、最近買収した遠隔医療プラットフォームMDLiveを通じて、アクセス可能な遠隔医療の影響を測定するための調査を実施しました。調査の結果、バーチャルプロバイダーを利用した患者は、ERや緊急医療機関への受診が19%少なかったことがわかりました。また、調査の参加者が支払った費用は、対面診療と比較して大幅に安くなっていました。11

遠隔医療は患者と医療従事者に柔軟性をもたらす

Global Xでは、バーチャル医療と対面医療の適切なバランスを取り、それを伝えることができる企業が今後成長していく上で最も有利な立場にいると考えています。遠隔医療の3大サブセグメント、すなわち、バーチャルプライマリーケア、バーチャル慢性期医療管理、バーチャルメンタルヘルスは、業界のリーダーがこれらの特定の事例に合わせてサービスを調整することを受けて、大きく成長する可能性があるとGlobal Xは見ています。

  • バーチャルプライマリーケアとは、免許を持った専門家が提供する日常的な医療を意味します。診療科目には、家庭医学、一般内科、一般小児科、産婦人科が含まれます。12 適切と判断される場合には、プロバイダーが専門家と連携し、遠隔医療と対面診療のハイブリッドアプローチを提供します。13 バーチャルプライマリーケアの競争が激化する中、参加者は差別化を図ることが重要になってくると思われます。直近の例では、AmazonとTeladocが最近締結された提携をベースに、緊急性のない受診に対してAmazon Alexa対応の音声診察を提供しています。14 一方、Anthemは、AIに裏付けられたモデリングとデータ分析を活用し、各患者のパーソナライズされたケアプランを構築しています。15
  • バーチャル慢性期医療管理とは、糖尿病、うっ血性心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性疾患を持つ患者を継続的にケアするものです。CMSの報告によると、メディケア全体の支出の93%は、複数の慢性疾患を持つメディケア受益者の3分の2によるものです。16 バーチャル慢性期医療管理は、現在、他のどの遠隔医療サブセグメントよりも、遠隔患者モニタリングを活用するユニークな機会を提供しています。遠隔でバイタルを測定し、自動的に医師に報告する新しい技術の出現は、患者により包括的なケアを提供するための鍵となるでしょう。デジタルヘルスを本格的に普及させるためには、バイタル値が正常範囲外であると判断されると自動的に薬が投与されるような仕組みを持つ糖尿病モニターの成功を参考にすべきと思われます。
  • バーチャルメンタルヘルスは、最も成長著しい遠隔医療のサブセグメントです。現在、 Teladocの年間売上高の40%を占めており、2024年までの年平均成長率(CAGR)は30〜40%と推定されています。17 世界人口の約11%、全世界で8億人が精神疾患を抱えながら生活していると推定されています。18 この分野が成長し、受け入れられるようになるにつれ、バーチャルメンタルヘルスのメリットを実証する臨床的なエビデンスに重点を置く企業が、競合他社との差別化を図ることができるようになるとGlobal Xは見ています。また、セラピー、精神科医療、瞑想などのサービスのハブが提供されるようになり、メンタルヘルスセグメントの統合が進むことが予想されます。

遠隔医療とデジタルヘルスを巡るヘルスケアプロバイダーの共通点

ヘルスケア分野で進む収斂が、遠隔医療のバリュープロポジションを拡大させています。例えば、ヘルスケア業界では、服薬アドヒアランスを向上させる方法を長年推進してきました。遠隔医療と統合された薬局サービスは、D2C(商品を直接消費者に販売する)薬局が遠隔医療プラットフォームと提携したり、独自のプラットフォームを立ち上げるなど、業界に新たな希望を与えています。19 このシフトにより、調剤の円滑化、医師によるアドヒアランスの明確化が期待されています。患者が処方通りに薬を服用しないことによって、米国では治療失敗の最大50%、年間入院の最大25%が発生していると言われています。20 これは、米国全体で毎年1,000億ドルの負担に相当します。21

また、ヘルスケア全体の収斂は、技術を定着させ、長期的な需要を促進するのに役立ちます。最近の例では、23andMeによるLemonaidの買収22 のように診断会社が遠隔医療分野に参入したり、ヘルスケアIT企業が患者や医師に対してより包括的なデータオプションを提供したりすることが挙げられます。Oracleによる電子医療記録(EHR)プロバイダーの Cernerの買収は、後者の典型的な例といえるでしょう。Oracleは、臨床試験管理システムや臨床試験ランダム化などのソリューションを提供する、臨床試験向けの最大手ソフトウェアプロバイダーの1社です。MicrosoftもCernerとの提携を発表しており、患者と医療提供者がMicrosoft Teamsを通じて、バーチャル診療のスケジュール設定と実施、EHRへのアクセスが可能になる見込みです。23

結論

遠隔医療とデジタルヘルス業界は、長期的に大きな成長が期待できるとGlobal Xは確信しています。業界関係者は、パンデミック後の世界において遠隔医療がもたらす破壊的な可能性に、政策の枠組みが追いつくのを待っています。その一方で、長い間約束されていたバリューベースかつ患者中心のモデルを広く実現するための努力も続けられています。