持続可能なテーマ投資:破壊的状況下でプラスの変化を導く

世界的なパンデミックが社会の随所に未曾有の被害を与える中、2020年には2つの投資分野が異彩を放ちました。テーマ投資とサステナブル投資です。テーマ投資とは、破壊的なマクロレベルのトレンドと、そのトレンドの具現化から利益を得る基幹投資を見極めるプロセスです。サステナブル投資は投資方針の一つで、財務要因だけでなく環境・社会・企業統治(ESG)の要因を考慮し、高いリターンを追求するとともに、社会や地球に良い影響を与えることを目指します。2020年末には、a米国の上場テーマ別ETF全体の運用資産額が、前年比274%となる1,041億ドルを記録しました(2019年末の278億ドルのほぼ4倍)。同時に、世界規模のESG志向ETFでは、2020年の運用資産額が転換点に達し、前年比で223%増加し、記録的な1,890億ドルとなりました。1

一見すると、この2つの分野は何の依存関係もなさそうですが、テーマ投資とサステナブル投資は相互排他的でないばかりか、特定の状況下では相乗的かつ相互補完的な関係を持ち得ます。どちらの投資哲学も、本質的に長期的展望に立っています。投資家の人口構成を見ると、テーマ投資もサステナブル投資も、とりわけ若年投資家に訴求力を持っています。Global Xが委託した2017年の調査では、ミレニアル世代の83%がテーマ投資に「極めて関心がある」または「かなり関心がある」と回答し、一方、同年に実施したモルガン・スタンレーの調査では、ミレニアル世代の86%がサステナブル投資に関心があると答えています。2ミレニアル世代が稼ぎ頭となり、数兆ドルを継承する時期が到来すれば、テーマ投資とサステナブル投資の両分野での投資資産が、とりわけ両方に投資する「サステナブルなテーマ投資」の資産が有意に伸び続けるものと考えられます。

以下ではサステナブルなテーマ投資を考察すべき理由について述べ、注目すべきサステナブルなテーマとしてクリーンテック、再生可能エネルギー、クリーンウォーターの例を取り上げます。

サステナブルなテーマ投資:インパクトと成長を一致させる

大まかに言うと、サステナブル投資は「統合」、「インパクト投資」、「排他」の3つのアプローチに大別されます。

一般にESG志向ETFでは、証券の選択過程において統合もしくはESG関連での排他、またはその両方を採用した指数を追跡します。この過程ではESGデータが重要で、それを基に企業レベルでの複合ESGスコア(統合アプローチ)と事業関与指標(排他アプローチ)が分かります。排他が指数法の一部となる場合、指数提供業者は、通常収益率で示される事業関与指標を使用して、特定の活動(武器やアルコールの製造・販売など)への関与レベルが受け入れられる企業のみに投資領域を絞り込みます。ESGの統合アプローチでは、企業レベルのESGスコアや格付けを使用し、これに従来からの検討事項を加味して、指数構成要素を識別し、重み付けします。

公開市場の投資家には、幅広い市場エクスポージャーがあり、変化に影響を与えるESG統合アプローチが最善の方法とみられます。以前に「サステナブル投資はどのように長期的価値をもたらすか」のところで述べたように、責任を果たす企業に投資がどんどん流れ込むと、他の投資家は、そこから生じるモーメンタムを良い兆しととらえ、自分たちも投資するようになります。責任感ある企業が、投資家センチメントを前向きにするものが何かを認識し、その責任ある行動水準を維持する一方、責任感の高くない企業も行動水準を改善する意欲を高めることが理想的です。データが示すところでは、ESGスコアの高い企業は低い企業に比べ、おしなべて資本コストが低くなっています。3

ESGの統合アプローチと排他アプローチの限界は、投資額に対する持続可能な直接的見返りを投資家が明確に予測できないという難しさにあります。これは大きく2つの理由によります。1つ目は、ESGデータの複雑でダイナミックな性質上、持続可能性の点でクラス最高の企業に投資しているかどうかを知るのが難しいことです。ESGデータ提供業者は多く、採点法とその結果が一致しないことが時々あります。2つ目は、上場株式市場の特性上、投資家に投資のインパクトを直接追跡・監視・測定する機会がほぼないことです。投資家にとってこれは、資金投入先の視認性が高い個人取引と好対照をなしています。

ESG統合に比べてインパクト投資は、自分の投資額と具体的な成果との関係を明確にすることができます。インパクト投資に対する業界の定義では、インパクトの可測性と「追加性」に関する要件に鑑み、上場株式投資家の投資機会の多くに制限が課されます。追加性とは、「プラスの社会的影響の達成に関心がない投資家なら投資しないはずの企業に資金を割り当てること」です。4

当方の見解としては、財務リターンを犠牲にすることなく環境・社会の変化を前向きに進める1つの方法は、テーマの観点からサステナブル投資を行うことです。サステナブル志向のテーマに従うことは、特定の環境・社会問題において具体的な改善につながる、革新的で破壊的な業界を標的にすることを意味します。関連業界が大きくなり、代表的な企業が成長するにつれて、人や地球への前向きな変化に影響を及ぼすだけでなく、投資家に金銭的利益をもたらします(下図の「トリプル・ボトムライン」を参照)。

テーマ投資とサステナブル投資が交差することで、数多くの破壊的テーマが出現しているのは、決して偶然ではありません。テーマ投資の採用における主要関係者(消費者・企業・政府)に注目すると、三者とも持続可能なテーマを推進できる目標を優先しています。そのような目標には、意欲的なクライメート・ニュートラルの目標、より良い健康転帰、世界中の生活の質的改善、労働力の生産性向上などがあります。

以下では、クリーンテック、再生可能エネルギー、クリーンウォーターといった取り組みが持続可能性目標に貢献し、それが投資家に経済的な利益をもたらす可能性があるという点について述べます。

クリーンテックと再生エネルギー

クリーンテクノロジー、略して「クリーンテック」は、環境への悪影響を緩和・抑制する多種多様な破壊的技術のことです。このテーマの下での事業活動には、再生エネルギー生産、エネルギー貯蓄、スマートグリッドの導入、住居用/商業用エネルギーの効率化、公害抑制製品/ソリューションの生産・提供などが含まれます。

地球規模の気候変動に取り組む2016年パリ協定の締結以来、多くの締結国が分担金を増額し、カーボン・ニュートラルを目指して、更に積極的な対策を講じる公約をしています。例えば、欧州グリーンディールは欧州委員会による一連の政策構想で、2050年までに欧州をクライメート・ニュートラルな最初の大陸にするという包括的な目標を設定しています。北米ではカナダ政府が2020年11月、「カナダ実質ゼロ排出説明責任法」案を議会に提出し、カナダは2050年までに排出実質ゼロを目指す120か国にリスト入りしました。5

クリーンテックのさらなる発展や採用は、カーボン・ニュートラル目標を達成し、排出量を許容レベルに抑える上で欠かせません。それには相当な投資も求められます。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が発表したシナリオでは、2016年から2050年にかけて世界が累積で110兆ドルを投資すれば世界が正しい軌道に保たれ、その内の約80%はクリーンテクノロジーに向けられると推定しています。

カナダ政府の「クリーン成長と気候変動に関する汎カナダフレームワーク」(「PCF」)は、気候対策に対する政府のマスタープランですが、その重要な柱としてクリーンテクノロジーが挙げられています。PCFの策定後、2017年にカナダ政府はグリーン・インフラに係る予算219億ドルの11か年計画を発表しました。これには「温室効果ガスの削減、気候変動適応の推進、回復力の向上を支援する的を絞った投資」が盛り込まれています。6

一方米国を見てみると、気候変動への意識が高いバイデン政権の登場と、それを支援する民主党主導の議会は、気候対策を加速化し、クリーンテックに資金投入するものとみられます。バイデン大統領の気候対策公約には、クリーンエネルギーへの移行を推進し、2035年までに電力部門から二酸化炭素排出量を削減し、2050年までに排出実質ゼロを目指す意欲的な2兆ドルの計画が盛り込まれています。7

クリーンテックに密接に関係する再生可能エネルギー生産も、環境意識の高い投資家には喫緊のテーマとなります。本質的に関係があるものの、この2つのテーマは、気候と「グリーン」の価値連鎖に沿って互いに異なる部分を補う点で相互補完的です。クリーンテックには太陽光発電(PV)の構成部品、インバータ、風力タービン/ブレード、グリッド構成部品、据置ストレージ/バッテリの製造など、上流寄りの活動が含まれます。グリーン価値連鎖の下流側では、再生可能エネルギー生産者は、主に風・太陽・水力・地熱・バイオ燃料などの再生可能資源によるエネルギー生成に従事しています。再生可能エネルギーの先には、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)や二酸化炭素除去(CDR)といった、カーボン・ニュートラルの実現に役立つ公害抑制策関連のクリーンテック・テーマがあることも明記する価値があります。

クリーンウォーター

水は地球上の生命の源であり、経済の生産性を支える基本的な要素です。一見豊富にあるように見えますが、人口増加、汚染、気候変動によって異なる用途間で競合が生じ、構造的な課題が浮上して、安定的な水資源の確保は困難になりつつあります。私たちが飲み、食物を調理し、衛生のために使用するクリーンウォーター — この水が今、最も差し迫った状況にあり、社会と経済に極めて深刻な影響を与えています。現在、23億人以上の人々が水不足に苦しむ国に住んでいます。2019年には、不衛生な飲料水が原因で、糖尿病、マラリア、HIV(AIDS)による死亡者よりも多くの人々が亡くなりました。8,9,10

しかし幸いなことに、政府の政策、技術革新、および消費者運動や公衆衛生活動の高まりにより、より持続可能性の高いモデルへの移行が可能です。この移行の鍵となるのは、以下のようなものです。

  • 持続可能な次世代の水資源の確保
  • 浄水処理と配水の技術革新
  • 廃水管理および水の再利用

クリーンウォーターのサイクルでは全ての面で技術革新が重要な役割を果たします。水源については、接続型センサーや人工知能など、既成概念を破る技術を用いたソリューションによって、帯水層や地表の水源をリアルタイムで監視することができます。例えば、SCADA(監視、制御、データ取得)システムによって、水位の測定、井戸への浸透の監視、ポンプの自動化などを行います。11 浄水処理技術は、汚染物質を除去する方法の改善、すなわち、より効率的な汚染物質の除去や化学添加物の使用削減に重点を置きつつ進歩しています。このような技術として、膜ろ過、紫外線照射、ナノ粒子浄化などが挙げられます。12 最新の配水技術により、水質と使用率をリアルタイムでモニタリングし、AIを用いて将来の需要動向を予測し、そのニーズに合わせて上水道網を動的に調整することが可能となっています。水使用量については、精密灌漑、屋内農業、品種改良といった最先端の農業技術をさらに導入することにより、食料生産レベルを落とさずに水使用量を削減することができます。また、廃水管理については、電気効率を高めるための施設の改修(これにより運営コストの削減と地熱エネルギーの利用が実現)、塩素処理から紫外線消毒技術への変更、そして日々の運用におけるより大規模な自動化とソフトウェアの統合などの方法により改善を図ることができます。

結論

テーマ投資とサステナブル投資のアプローチは、それぞれ重要であり、今日ますますESG志向が高まる投資コミュニティでは、真っ先に思い浮かぶものです。当方の見解では、サステナブルなテーマ投資は、双方のアプローチのメリットを投資家が認識し、それぞれのキーコンセプトを活用する方策となります。重要なこととして、テーマの観点から企業を見れば、投資家は投資額を増やすことができ、環境や社会に具体的で前向きな変化を与えることができます。とりわけクリーンテック、再生可能エネルギー生産、クリーンウォーターといった明確に定義づけられた各種テーマは、複数の目的(財務その他)を同時に達成しようとする全ての投資家に役立ちます。