最新の気候変動とクリーンテックの報告書は大規模な長期投資機会の可能性を示唆する

今年初め、気候変動とクリーンテックに関する3つの注目すべき報告書が公表されました:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最終報告書、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の世界エネルギー転換見通し2023年プレビュー、世界風力エネルギー会議(GWEC)の年次報告書です。本稿では、気候変動の現状を要約し、クリーンテクノロジーを通して世界がよりサステナブルな未来に向かうにはどうすればよいかを議論し、クリーンエネルギー・テーマの投資家にとってこれらの情報がどのような意味があるのかについて見解を示します。

重要なポイント

  • 世界の平均気温上昇を1.5℃~2℃の温暖化目標に抑えるためには、温室効果ガス(GHG)の排出量を即時に、積極的に、そして持続的に削減する必要があります1
  • 温暖化を1.5℃以内抑えるためには、2050年までにすべてのエネルギー転換技術に対する世界中の投資が150兆ドルに達する必要があると予測されています2
  • 風力発電分野は、政府の政策が以前にも増して前向きになっていることから恩恵を受ける可能性が高いものの、1.5℃シナリオに沿った技術にするためにはより多くの投資が必要になります3

IPCC報告書:急速な脱炭素化で温暖化は抑制できるものの、機会は狭まりつつある

まず、AR6 Synthesis Reportと題された国連IPCC報告書についてお話しします。この報告書は、国連IPCCの第6次評価報告書サイクルで得られたすべての結論をまとめたものとなっており、国連事務総長のアントニオ・グテーレスは、この報告書を「人類のためのサバイバルガイド」と表現しています4。この報告書は、1)気候予測を含む気候変動の物理科学、2)気候変動の現在および将来の潜在的な影響と適応策による関連リスクの最小化、3)気候変動緩和による温暖化の抑制と全体の損失・損害の軽減について概説しています。以下、要約です:

物理科学:人間の活動とそれによる温暖化ガス排出の増加は明確に地球の温度を上昇させました5。地球の平均気温は、2011~2022年を産業革命以前の1850~1900年と比較すると、すでに1.1℃上昇しています6。今後、現在の政府の政策を考えると、科学者は、少なくとも短期的には、世界が1.5℃の温暖化の閾値を超える可能性があると考えるようになりました7。長期的には、地球の平均表面温度は2100年までに平均2.8℃〜3.2℃上昇し、2℃という目標を大きく上回ると予測されています8。温暖化を1.5℃〜2℃に抑えられる可能性はまだありますが、それには積極的に、速く、そしてほとんどのケースで、ただちに排出量を削減しなければなりません9。下図は、さまざまな排出シナリオが地球の温度変化にどのような影響を及ぼす可能性があるかを示しています。

潜在的な影響と気候への適応:世界はすでに上昇する気温によって悪影響を受けています。将来の気候変動は、自然・人間両方のシステムにおいて、影響の深刻さを増すと予測されています。これには、猛暑の増加、降水パターンの変化、健康リスクの増大、氷河や氷床の融解、そして海面の上昇などが含まれます10。その結果、生態系、食料システム、水利用、インフラ、都市、健康システムなどの変化に適応していく必要性が出てきます。

気候変動の緩和:温暖化を1.5℃以内に抑えるには、温室効果ガスの排出量を2019年比で2030年に43%、2035年に60%、2050年に84%削減する必要があります11。温暖化を2℃以内に抑えるには、温室効果ガスの排出量を2019年比で2030年に21%、2035年に35%、2050年に64%削減する必要があります12。IPPC報告書は、CO2と温室効果ガスの排出量をネットゼロにするための手段はすでに持っていると記しています。これには、再生可能エネルギーや炭素回収・貯留(CCS)付き化石燃料などの低炭素またはゼロ炭素エネルギー源、エネルギーや水の使用効率化対策、電気自動車、エネルギー貯蔵、バイオ燃料、低排出ガス水素、公共交通システム、グリーンビル、そして持続可能な農業などが含まれます。また、報告書には、迅速かつ持続的な緩和によって気候変動によって予測されている損失と損害を削減することができ、大気質や健康の改善などのコベネフィット(co-benefits)をもたらすことができるとも説明されています13

IRENA:温暖化を1.5℃に抑えることで、クリーンテックに150兆ドルの投資機会が生まれる可能性がある

IRENAの最新の出版物は「世界エネルギー転換の展望2023年:1.5℃までの道のり」と題された、今年後半に発表される報告書のプレビューにあたります。この報告書では、クリーンエネルギーへの移行には著しい進展が見られるものの、現在の変化の規模では、温暖化を1.5℃未満に抑えるには不十分であり、IPCCの知見が再確認されると思われます14

IRENAは、温暖化を1.5℃に抑えるためには、電力部門が2030年までに7,000ギガワット(GW)、つまりは年平均1,000GWの再生可能エネルギー電力容量を追加しなければならないと予測しています15。参考までに、今日の世界の再生可能エネルギーは約3,000GWで、2022年には世界で約295GWが追加されました16。下図に見られるように、昨年の増加総容量の83%を再生可能エネルギーが占めています17

IRENAは、クリーンエネルギー移行を加速して軌道にのせるためには、すべてのエネルギー移行技術にわたる年間投資を2022年の1.3兆ドルから平均して毎年4倍の5兆ドルにする必要があると推定しています18。長期的には、IRENAは、温暖化を1.5℃以内に抑えるためには、2023年から2050年にかけて、すべてのエネルギー転換技術にまたがる世界の投資が総額150兆ドルになる必要があると予測しています19。しかし、現在の政府のエネルギープランに基づいて計画されたエネルギーシナリオでは、2023年から2050年の投資額は103兆ドルとなっています20。これは、現在47兆ドルの投資ギャップがあることを意味します。中期的には、これらのクリーンエネルギー投資のうち35兆ドルを2030年までに実施しなければ軌道にはのらないとIRENAは予測しています21

IRENAは、現在の投資は限られた国と技術に限られていると指摘しています。現在、ほとんどの投資が太陽光発電と風力発電システムに向けられています22。しかし、バイオ燃料、水力発電、地熱エネルギー、水素、エネルギー効率、暖房システムなど、他のクリーンテクノロジーにもより多くの資金が流れる必要があります。下図は、計画されているエネルギーシナリオと1.5℃シナリオを技術別で示したものです。

GWEC:風力発電セクターは2023年に回復する見込みだが、ネットゼロ達成には成長加速が必要

Global Wind Energy Councilの最新の報告書によると、2022年は風力発電の設備容量が過去3番目に多い年でした23。サプライチェーンの課題、資材やプロジェクトコストの上昇、プロジェクトの遅延、ロシア・ウクライナ紛争など、さまざまな逆風があったにもかかわらず、78GWが設置されました24

今後、GWECは2023年に風力発電容量が100GW容量を新設して回復し、前年比15%増になると予測しています25。2023年から2027年までの中期的な期間では、GWECは680GWの風力発電容量の追加を予測しています。2023年から2030年までの長期的な期間には、GWECは1,078GWの風力発電容量の追加を予測しており、これは昨年の予測から143GW (13%)増加しています26。エネルギー安全保障の強化と気候変動の緩和という2つの課題に政府が注力していることは、今年の成長見通しがより強化される主要の理由の1つです。特に、「主要先進国の政府は、導入の大幅な加速をもたらす政策を制定している」と報告書では説明されています27

しかし、ネット・ゼロ・エミッションや1.5℃への軌道にのり、道を進んでいくためには、風力発電の成長をさらに加速させる必要があります。GWECは、下図に示すように、10年後までに年間約400GWに達するためには、2022年の累積成長率の5倍の設置量が必要であると予測しています28

また、GWECは報告書の中で、差し迫った風力発電機器の供給不足の可能性について警告しています。風力発電の製造環境における余力は、「サプライチェーンに緊急の投資が行われない限り、2026年までに消滅する可能性が高い」との見解を示しています29

結論:課題は多いものの、投資機会は大きくみえる

クリーンエネルギーへの移行は順調に進んでおり、政策環境も改善され続けているものの、温暖化を1.5℃~2℃の閾値に抑えてリスクを低くするためには、クリーンテクノロジーの成長をさらに加速させる必要があります。温暖化を抑制するためには、2050年までに少なくとも150兆ドル以上のクリーンエネルギー分野への多額な投資が必要になると予測されています30。結果として、投資機会は巨大に見えます。従って、クリーンテック産業全体、およびリチウム・電池技術や破壊的材料などの関連テーマの企業が、利益を得る可能性があります。気候変動への適応もますます重要になり、農業技術、グリーンビルディング、クリーンウォーターなど、適応に注力したテーマが恩恵を受ける可能性があります。さらに、クリーンテックのサプライチェーンは拡大し続けなければ、移行を遅らせるリスクがあります。これらの報告書は単に行動を呼びかけるだけでなく、クリーンテクノロジーやその他気候変動に関連する産業にとって、長期的にポジティブな見通しがあり、強い追い風が吹いていることを再確認するものであると、Global Xは考えています。