モーゲージREITとは

低金利が長期にわたり続く中、多くの投資家がポートフォリオの利回り向上を期待して、不動産投資信託(REIT)を組み入れることを検討しています。REITには、大別してエクイティREITとモーゲージREIT(mREIT)の2つのタイプがあり、それぞれに明確な特徴があります。本レポートでは、以下の質問に答える形でmREITに焦点を当ててみたいと思います:

  • mREITとは何か?
  • mREITの標準的なビジネスモデルはどのようなものか?
  • mREITのリスクは何か?
  • mREITの今後の見通しは?

モーゲージREITとは何か?

mREITはREIT市場の比較的小さいセグメントであり、時価総額は670億ドルでREIT市場全体の6%を占めています¹。mREITとエクイティREITは同じREITに分類されるものの、原資産、ビジネスモデル、資金調達の特徴が異なるため、通常は別々に分析されます。このため、世界産業分類基準(GICS)では、エクイティREITを「不動産」、mREITを「金融」のセクターに分類しています²。

エクイティREITが実物不動産に投資するのに対し、mREITはモーゲージ(不動産担保ローン)もしくはモーゲージを担保とする証券(MBS:モーゲージ担保証券)に投資するもので、mREITは不動産負債の保有者となります。mREITは、住宅モーゲージもしくはそれを担保とする証券(RMBS)、または商業不動産モーゲージもしくはそれを担保とする証券(CMBS)のいずれかにフォーカスしています。市場規模は歴史的に商業不動産モーゲージよりも住宅モーゲージの方が大きかったため、投資対象としては、住宅関連のmREITが商業不動産関連のmREITよりも一般的です。

mREITの標準的なビジネスモデルはどのようなものか?

mREITのリターンの源泉は、通常、ポートフォリオで保有するモーゲージが創出するインカムとモーゲージの正味現在価値(NPV)の上昇です。これは、リターンの源泉がテナントの支払う賃料と不動産評価額の上昇であるエクイティREITとほぼ同じ構成です。ただし、モーゲージは実物不動産よりも流動性がはるかに高いことが多いため、mREITは所在地域、不動産のタイプ、クレジット・リスク、金利リスク等へのエクスポージャーをより機敏に管理することが可能となっています。多くのmREITは、こうした柔軟性を活用し、市場環境の変化や予想の修正に対応してポートフォリオのモーゲージ構成や各種リスクへのエクスポージャーをアクティブに調整するため、その事業内容は不動産の所有会社というよりむしろ債券ファンドの運用会社に近いものとなっています。モーゲージのもう一つの特徴として、デフォルトという事態が生じない限り、投資元本は返済される他、実物不動産の価値は無限大に上昇する可能性がある一方でゼロになる可能性があります。

 

mREITは、モーゲージの購入資金を、主に債券の現先取引(レポ取引)等の短期債務による借入や増資により調達します。mREITは借入に大きく依存しているため、自らの負債コストと保有しているモーゲージから受け取るインカムのスプレッドを重視しています。通常、スプレッドが大きいほど、mREITの収益性は高くなります。下の図はスプレッドの推移を示していますが、翌日物レポ金利と30年モーゲージ金利のスプレッドは現在2.78%となっています³。

mREITが重視するもう一つの指標はmREITが借り入れる負債の額です。負債は乗数効果をもたらし、例えば、mREITの平均負債比率は現在4.3倍となっていますが、レポ金利と30年モーゲージ金利のスプレッドの2.78%にこれを掛け合わせると、実効スプレッドは11.95%に上昇します⁴。

mREITはおしなべて、リスクを制御しながら実効スプレッドの最大化を目指しています。mREITは、これを実現するため複数の重要な手段で実効スプレッドや特定のリスクに対するエクスポージャーを調整しています。実効スプレッドや特定のリスクに対するエクスポージャーを調整する複数の重要な梃子を有しています。主なものは以下の通りです:

 

  • 金利リスク/デュレーション:購入するモーゲージ証券の期間(例:5年、10年、30年)。モーゲージ証券は期間が長くなれば利回りが高くなる傾向にありますが、同時に金利リスクも上昇します⁵。mREITは金利スワップ等のデリバティブを用いてデュレーション・リスク⁶を微調整することが可能です。ただし、デリバティブ自体にも、原資産よりボラティリティが高くなるリスクやカウンターパーティ・リスクといった固有のリスクがあります。
  • クレジット・リスク:mREITが投資するモーゲージ証券のリスクの程度。リスクが高いモーゲージ証券の利回りは高くなる傾向にありますが、同時にデフォルトする可能性も高くなります。mREITは、クレジット・リスクが政府に準じる、格付の高い政府系モーゲージ証券を中心に投資することもあれば、銀行等の民間機関が発行する非政府系モーゲージ証券を投資対象とすることもあります。また、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)等のクレジット・デリバティブを活用してクレジット・リスクへのエクスポージャーを微調整することもできます。
  • レバレッジ:モーゲージ証券の購入に使う負債の額。レバレッジを上げれば実効スプレッドを拡大できる一方、他のリスクを増大させる可能性もあります。

mREITが使う梃子は、そのリスク許容度や金利やマクロ経済環境に対する見通しにより、大きく異なります。具体的に、FTSE NAREITモーゲージREITsインデックスの採用銘柄のmREITのうち、時価総額が最大のAnnaly(NLY)と最小クラスのEllington(EARN)の2つの特徴を比較してみます。

mREITは、金利スプレッドのみにフォーカスするよりも、専門知識を活用して様々なモーゲージ証券のNPV上昇を捕捉しようとする場合もあります。mREITがインカムの源泉を専ら金利スプレッドに依存するのであれば、パフォーマンスは金利スプレッドと正の相関関係にあると想定できますが、下の図からはこうした関係性は確認されず、スプレッドが縮小してもmREITがプラスのリターンを上げた年があることがわかります。これは、モーゲージ証券のNPVが上昇していることによるものです。

mREITのその他のリスクは何か?

上記に挙げたリスクに加えて、モーゲージ証券もしくはmREITのパフォーマンスに影響を及ぼす可能性のある他の一部リスクの概要は以下の通りです:

期限前償還リスク:金利の低下もしくは金利のボラティリティ上昇によりモーゲージの借り換えが加速する可能性があります。これによりモーゲージ・ポートフォリオのデュレーション特性が変化するとともに、mREITには償還元本を前よりも低い金利で再投資しなければならないリスクが生じる可能性があります。

エクステンション・リスク:期限前償還リスクとは逆に、金利が上昇し住宅所有者が予想よりも長期に現行のモーゲージを維持する場合に起こるリスクです。住宅所有者が低金利をより長期間固定してしまうため、モーゲージ価格に悪影響を及ぼす可能性があります。

ヘッジリスク:mREITは金利やクレジット・リスク、マクロシナリオの様々な変化を制御するため、ヘッジ・ツールを利用することが多くあります。こうしたヘッジのコストや精度は最終的な投資利益に大きな影響を及ぼす可能性があります。

mREITの今後の見通しは?

ポートフォリオで保有するモーゲージはmREITにより異なり、特定のマクロリスクに対するエクスポージャーも様々ですが、多くのmREITにとってとりわけポジティブな特定の環境があります。ひとつは、金利のボラティリティが低い環境で、期限前償還リスクが低下するためmREITは恩恵を享受する傾向にあります。下の図は、歴史的にmREITのパフォーマンスが金利ボラティリティと負の相関関係にあることを示しています。

もうひとつは、これまで論じてきたように、借入コストと保有しているモーゲージの利回りのスプレッドが拡大する環境で、これもmREITのパフォーマンスにプラスに作用する傾向にあります。

一方、mREITにとってネガティブな環境は、イールドカーブにパラレル・シフト(平行移動)が生じる時です。金利の上昇でモーゲージ・ポートフォリオのNPVが低下するとともに、エクステンション・リスクの可能性も上昇します。また、イールドカーブがフラット化する場合も、金利スプレッドが縮小し、デュレーション・リスクを引き下げあるいは消失させる可能性すらあります。こうした理由により、mREITの中には、金利のパラレル・シフトのリスクを広範囲にヘッジするものもあります。

まとめると、mREITにとっては、金利が安定的に推移し、かつ金利スプレッドが十分にある状況が一般的にポジティブな環境であるといえます。今や、米国のFRB(連邦準備制度理事会)が4.5兆ドルに膨張したバランスシートの縮小に着手したことから、今後数年間は、mREITにとって機会とともにリスクが顕在化していく可能性があると思われます。こうした「金融政策の正常化」により、FRBはバランスシート上に1.8兆ドルに積み増した政府機関系MBS資産のロールオフ(満期を迎えた債券の再投資停止)を開始することが予想されます。FRBは、ボラティリティの想定外の上昇を回避するため、このプロセスを段階的に行う意向にあることを一貫して表明しています。しかしながら、FRBが保有するMBSの残高は巨額に上るため、金融政策の正常化はMBSのスプレッド拡大を促す可能性が高いと思われます。mREIT運用会社中には、FRBが金利ボラティリティを低水準に維持できると想定して、拡大したスプレッドが大きな投資機会を提供すると予想するものもあります。

 

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脚注

FTSE NAREIT Mortgage REIT Index: the FTSE NAREIT Mortgage REIT Index is a market cap weighted index of the US Mortgage REIT market that includes tax qualified REITs with more than 50% of their assets invested in mortgage loans or mortgage backed securities.

CBOE Interest Rate Swap Volatility Index: The CBOE Interest Rate Swap Volatility Index measures the volatility in the interest rate markets by looking at the volatility of the interest rate swap markets.

As of 9/28/2017, Annaly Capital Management (NLY), was a holding in the Global X SuperDividend ETF (SDIV) and the Global X SuperDividend REIT ETF (SRET), with a 1.10% and 3.75% weighting, respectively. Global X does not hold Ellington Residential Mortgage REIT (EARN). Holdings are subject to change.

  1. NAREIT. As of 8/31/17. Based on constituents in FTSE NAREIT All REITs Index.
  2. S&P Dow Jones and MSCI, “S&P DOW JONES INDICES AND MSCI ANNOUNCE AUGUST 2016 CREATION OF A REAL ESTATE SECTOR IN THE GLOBAL INDUSTRY CLASSIFICATION STANDARD (GICS) STRUCTURE,” Mar 13, 2015.
  3. Bloomberg. Measured by the overnight Repo rate (overnight rate) and the Freddie Mac US Mortgage Market Survey 30 Year Homeowner National Commitment rate (30-year mortgage rate). Data as of 9/20/17.
  4. Bloomberg. Data as of 9/20/17. Indexes represented by FTSE NAREIT Mortgage REIT Index.
  5. Interest Rate Risk is the risk that changes in interest rates will change the value of a fixed income holding. This interest rate risk can be present either with short-term, medium-term, or longer-term interest rates, or across the entire interest rate spectrum.
  6. Duration risk is the sensitivity of a fixed income holding’s value to changes in interest rates. Higher duration levels indicate more sensitivity to interest rates. Duration is defined as the change in a fixed income holding’s value for a one percent change in interest rates.