ミレニアル世代の台頭が促す米国経済の変容
人口動態が予想外の傾向を見せることはめったにないこともあって、その影響の大きさは見過ごされがちです。例えば、ミレニアル世代は年齢を重ね、ここ数年で金銭的余裕のない学生が中核をなす年齢層から米国労働力の大きな割合を占め影響力を持つ消費者の年齢層に成熟しました。山の側を切り刻む氷河のように、ミレニアル世代は世界最大の経済国である米国経済においてゆっくり、しかし着実に存在感を増しつつあります。
メディアはミレニアル世代を型にはまったイメージで描く傾向にあります。ここでは、事実に基づいた分析を行うことで、ミレニアル世代について、彼らが実際にどのような人たちであるのか、どのような変遷を遂げ、今後米国経済にどのような影響を与える可能性があるかを考察してみたいと思います。
ミレニアル世代とは?
ミレニアル世代は、およそ1980年から2000年の間に生まれた年齢層と定義され、最も高齢の年齢層が40代に入り、最も若年の年齢層は20歳代に入ろうとしています。人口は約9,000万人にのぼり、ベビーブーマー世代を抜いて米国最大の年齢層になっただけでなく、労働力人口に占める割合も最大となり、教育水準も最も高い年齢層となっています。ミレニアル世代の労働力に占める比率は現在の35%から、2030年までに175%に達すると予想されています。学歴が学士号以上の比率は、同じ年齢でみると2、ミレニアル世代が40%前後であるのに対し、X世代は29%、ベビーブーマー世代は25%となっています。さらに、ミレニアル世代は、推定30兆ドルの資産をベビーブーマーの世代の親から相続すると予想されています3。要するにミレニアル世代は、その人口規模や若さ、高い教育水準、巨額な相続資産により、今後長年にわたり米国経済をけん引する消費者層になる間際にあるといえるでしょう。
ミレニアル世代の変遷
どの世代もそうですが、ミレニアル世代も時とともに変遷を遂げており、その過程でそれまでにこの世代に典型とされた特徴を脱ぎ捨ててきました。多くのミレニアル世代が、学校を卒業して仕事に就き、さらには家庭を持ち始めた、過去3年間に起きた変化の具体例を幾つか以下に挙げてみました。
- 学校教育の終了:ミレニアル世代は、就学期をおおむね修了したため、新たに学生ローンを組むことを計画しているものは2016年の21%から12%に減少4。
- 企業社会への参加:起業を検討しているとしたミレニアル世代は2016年の62%から2018年に58%に低下5。
- 所得向上:ミレニアル世代が世帯主の世帯のインフレ調整後の平均所得の中央値は、2017年には6万9,000ドル。22~37歳の年齢層ではほぼ2年に1度の割合で記録を更新6。
- 可処分所得を楽しむ:所得が生活費を多少ないし大幅に超えているとしたミレニアル世代の比率は、2018年は43%と2016年の30%から上昇7。
- ネット・ショッピング:2019年には買い物の約60%をオンラインで行っていると推定され、2年前の47%から上昇8。
- マイホーム:ミレニアル世代の持家比率は2016年にはわずか26%だったのに対し、現在は40%に上昇。親との同居率は2016年の30%に対し現在は16%に留まり、従来の固定観念を覆した9。
- 結婚:ミレニアル世代の婚姻率は2016年に27%だったのに対し、現在は38%10。
- 子供:2018年までにミレニアル世代の女性の40%が出産11。
- 金融危機の影響を徐々に克服:米国経済の状態は素晴らしいと回答したミレニアル世代の比率は2016年の4%から9%に上昇12。
ミレニアル世代の成熟が米国経済に与える影響
ミレニアル世代は、労働市場に参加し家庭を持ち始めるなど、着実に人生の新たな段階に入りつつあり、それに伴って消費動向もよりハイレベルのものに変化しています。このことは、二つの点で経済に重要な影響を与える可能性があります。第一の点は、ミレニアル世代は、他の世代が行わない特定の分野にお金を使っていることです。例えば、ベビーブーマー世代は、現在消費を全般に減らし、医療費が増えつつあると思われますが、ミレニアル世代では、所得における持ち家、貯蓄、消費財に振り向ける比率が上昇しています。第二に、ミレニアル世代消費性向は、テクノロジーの活用、経験志向、健康とウェルネスの重視など、前の世代とは異なる消費嗜好を持っています。我々の考えでは、ミレニアル世代がお金を使う主要分野、及びこの世代独特の消費の慣行や嗜好が重なる分野で事業を営む企業は、こうした消費者層のシフトから利益を得る有利な位置にあると思われます。これとは逆に、ミレニアル世代の嗜好にアピールできない企業は苦戦する可能性が高いでしょう。
ミレニアル世代にアピールできる産業の例としては、ソーシャルメディア、インターネット経由のストリーミング・サービス、健康・ウェルネス、住宅・家庭用品、健康食品やファストカジュアル・レストラン、eコマース、フィンテック、ウェアラブル端末、旅行などが挙げられます。
- ソーシャルメディア企業がミレニアル世代の消費行動に与える影響はますます大きくなっています。実際、ミレニアル世代の半数が、体験や経験にお金を使う消費13においてはソーシャルメディアの影響を受けているとしています。その結果、ソーシャルメディア企業は、広告主が最も欲しがるものであるデータを提供することにより大きな利益を上げてきました。例えば、フェイスブックの米国のユーザー1人当たりの平均売上高 (ARPU) は2010年の約2ドルから2019年初頭には30ドル以上に増加しています14。
- また、コードカッティング(ケーブルTV離れ)は主流になりつつあり、米国では、ミレニアル世代の88%がストリーミング・サービス、51%はケーブルサービスに加入しています15。業界大手の有料加入者数は、Netflixが6,000万人、Huluが2,700万人に達しています16, 17。
- 健康的なライフスタイルの生活も、ミレニアル世代の支出の重要な部分を占めてきました。健康に悪い食品や加工食品が個人の健康や環境に与える影響に対する関心の高まりは、人々の食生活を変化させています。ヴィーガン(完全菜食主義者)もしくはベジタリアンであるとするアメリカ人は25歳から34歳では4分の1に達しており、経済誌エコノミストは2019年を「ヴィーガン元年」18としました。牛肉の味や食感を再現した植物ベースの食肉代替品は、牛から作られたハンバーガーと比較すると、カーボン・フットプリントが89%小さく、水の使用量が87%少なく、土地利用が96%少なく、水質汚染は92%削減されます19。さらに、子供がいる夫婦で有機食品を購入している世帯の半数以上はミレニアル世代であり、今後数年間はその数は急増が続き、どの店に行くか、何を買うか、どのレストランに行くかといったことに影響を及ぼしていくと予想されます20。
- 近年、スポーツウエアを取り入れた「アスレジャー」は普段着の選択肢の一つとなり、今や米国で最大のアパレルカテゴリーとなっています。アパレル市場全体の低迷にもかかわらず、ナイキやルルレモンといった企業は、快適で魅力的なアスレジャー・ウェアによって引き続きウェルネスの流行に乗っており、この分野の売上高は2017年の2,900億ドルから2021年には3,550億ドルに達すると予想されています21。
- 結婚や出産をするミレニアル世代が増えるに従って、不動産市場にも大きな影響が及びつつあります。この結果、10年以上にわたり低下が続いていた米国の持家比率は、2016年に上昇に転じました。住宅の購入は、修理、家具の購入、改装を伴うことが多いため、持家比率の上昇が支出の増加につながる傾向があります。こうした支出の増加は、住宅・家庭用品、建設資材、住宅用リフォーム材の販売に携わる企業にとって好ましい状況といえます。
- ネット通販への移行は、ミレニアル世代の間で依然として重要なトレンドとなっています。米国のeコマース業界は、納期の短縮でオンラインショッピングの魅力を強化するだけでなく、ようやくオンライン化の端緒に就いた食料品などの品揃えの充実により、高い成長が続いています。例えば、アマゾンはホール・フーズを買収によって統合したことにより、プライム・メンバーは80都市以上で2時間以内に無料での食品配達を受けられるようになり、オンライン食品購入のハードルを引き下げることができました。
- ミレニアル世代のテクノロジー導入志向は、家計分野にも浸透しています。ミレニアル世代にとって、モバイル機器は、クレジットカード、財布、ひいては銀行機能を果たしています。ペイパルのモバイル決済サービス「ベンモ」を例にとります。このプラットフォームにより、電子送金や、商品のネット購入が可能となり、ミレニアル世代の人気を集めています。オンライン決済もしくはモバイル決済を利用したことがある人の比率は、ミレニアル世代が75%であるのに対し、ベビーブーマー世代は51%にとどまっています22。
- 旅行はミレニアル世代がやりたいことの最上位にあります。他の世代と比較すると、ミレニアル世代は休暇により多くのお金を使う傾向が強く、ミレニアル世代の3分の1は5,000ドル以上を使うとしています。この世代は、モノに拘る物質主義を脱し、実体験を積むことを選択しています23。
結論
人口動態の大きな変化には時間がかかり、その影響は数十年にわたって持続し、経済の広範な領域に大きな影響を与える可能性があります。現在は、ミレニアル世代が主要労働年齢に入り、家庭を持ち、購買力を高め、消費者としての存在感を増していく初期段階にあります。こうした傾向は今後さらに強まっていくことから、ミレニアル世代の消費パターンとともに、この長期的な成長機会の収益化にベストポジションにある企業や業界を検討することが賢明であると思われます。
関連ETF
MILN:グローバル・X・ミレニアルズ・セマティックETFは、米国ミレニアル世代 (1980年~2000年生まれ) の購買力の高まりや、固有の嗜好の恩恵を受ける可能性が高い企業への投資を目指します。これらの企業は、ソーシャルメディアやエンターテインメント、食品・レストラン、アパレル、健康サービス、旅行・モビリティ、教育・雇用、住宅・家庭用品、金融サービス等、多様な分野にわたっています。
脚注
- Dynamic Signal, “Key Statistics About Millennials in the Workplace,” Oct 9, 2018
2. Pew Research, “Millennial Life: How young adulthoods today compares with prior generations,” Feb 14, 2019
3. CB Insights, “How Millennial Ethics Are Reshaping Fintech,” Mar 27, 2019
4. EY, “The Millennial Economy 2018,” 2018
5. EY (n 4)
6. Pew Research Center
7. EY (n 4)
8. Digital Commerce 360, “Millennials now do 60% of their shopping online,” Mar 26, 2019
9. EY (n 4)
10. EY (n 4)
11. EY (n 4)
12. EY (n 4)
13. Charles Schwab, “2019 Modern Wealth Survey,” 2019
14. Facebook, “Facebook Q1 2019 Results,” Apr 24, 2019
15. Deloitte, “Digital media trends survey, 13th edition,” Mar 19, 2019
16. Bloomberg Intelligence
17. CNN, “Hulu subscriber base grows to 28 million,” May 1, 2019
18. The Economist, “The Year of The Vegan,” 2018
19. Impossible Burger, “How our commitment to consumers and our planet led us to use GM soy,” May 16, 2019
20. Organic Trade Association, “Today’s Millennial: Tomorrow’s Organic Parent,” Sep 14, 2017
21. MarketWatch, “Athleisure Wear is Crushing it on the Street,” Oct 10, 2018
22. Zelle, “Zelle® Study Finds Growing Use of Digital Payments Across Generations,” Jul 11, 2018
23. Travelport, “U.S. Millennials Most Likely to Take & Spend More on Vacations This Year, Next,” May 17, 2019