メタバースが拓くデジタルワールドの未来

Meta Platformの2021年第4四半期決算説明会では、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏らが11回もメタバースに言及しました。1 マイクロソフトは決算説明会で7回、Nvidiaは5回メタバースに言及しています。2 しかし、彼らだけではありません。この半年間で、世界中の企業が決算発表の場で「メタバース」という言葉を発した回数は、合計で240回以上に上っています。3 なぜ、多くの企業がこの言葉に夢中になっているのでしょうか? それは、インターネットに新たな変革を起こすものとしてメタバースが登場し、現在の主要プラットフォームや大手テク企業に数兆ドル規模の収益機会をもたらすと多くの人が予想しているからです。4

ところで、メタバースとはいったい何なのでしょうか? なぜ次世代インターネットとして有望であると考えられているのでしょうか? このような進化から利益を得るには、どのセグメントが最も有利なのでしょうか? 本稿では、メタバースがデジタルワールドの未来と私たちの使用感をどのように作り替えていくのかについて考察し、さらに深堀りしていきたいと思います。

重要なポイント

  • メタバースとは、ユーザーがインターネットに入り込み、仮想的に存在する状況を意味します。メタバースは、リアルタイムの持続性、経済システム、コミュニティ、デジタルアバター、複数デバイス間のアクセシビリティといった特徴を備えています。
  • 投資家は、既に世に出ており短いながら成功の実績がある初期バージョンのメタバースに、大きな可能性を見いだしています。今後、ブロックチェーン技術を活用した分散型オープンアーキテクチャのプラットフォームに基づくメタバースが、最も成功すると予想されます。
  • メタバースは、今後も発展し続けることで、様々な業種の企業、特にVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)のハードウェアやソフトウェアの構築に携わる企業に収益機会をもたらすと思われます。

メタバースの定義

今日のインターネットでは、一般的には、デジタルプラットフォームが実際の生活の行動のサポートをしています。例えば、Amazonで商品を購入して自宅に配送してもらったり、最近外食したときの写真をInstagramで共有したり、マディソン・スクエア・ガーデンで行われるコンサートのチケットをオンラインで購入し、友人と一緒に出掛けたりするわけです。

一方、メタバースでは、デジタルプラットフォームがサポートするのは主にデジタル世界での体験です。仮想現実用ヘッドセットを使って没入感の高い空間に飛び込めば、仕事をしたり、ビデオゲームで遊んだり、デジタルアイテムを購入したり、友人と交流したり、メディアを消費したりすることができます。メタバースは技術そのものではなく、私たちの世界との新しい関わり方を示すビジョンなのです。Meta Platformのザッカーバーグ氏は、メタバースを「デジタル空間で他人と一緒に過ごせる仮想環境」と簡潔に表現しています。5

大まかに定義すると、メタバースには以下のような6つの特徴があります。

  • アイデンティティ:ユーザーは、メタバースのデジタル空間に存在している間、自分のアバターを使って、なりたい自分を、それがどのようなものであっても、表現することができます。「オアシス」と呼ばれる無限のメタバースを描いたSF映画「レディ・プレイヤー1」の台詞を引用すると、「みんな何でもできるからオアシスにやって来る。そして、何にでもなれるからオアシスに居続ける。背の高い人、綺麗な人、怖い人、別の性別、別の生き物、実写、アニメ、すべて君次第だ」6
  • マルチデバイス:重要な特徴として、スマートフォン、PC、タブレットなど、どこからでもメタバースにアクセスできることが挙げられます。大きな進展が見込まれる分野のひとつに、頭部装着型のディスプレイを使って、ユーザーがコンピューターで生成された環境に入り込み、仮想の物体を操作することができる没入型VR体験があります。一方で、従来の画面やデバイスを使用した簡易版メタバースも存続すると考えられます。
  • 没入感:真の没入型体験は、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚など、人間のあらゆる感覚を刺激します。現在のVRは、サラウンド音響・画像が中心となっています。次世代のVRデバイスには、触覚ボディスーツや全方位トレッドミルなどがあり、ユーザーがデジタル環境を自由に移動する際、電気刺激によって身体的感覚を得ることができます。
  • 経済システム:十分に発展したメタバースでは、ユーザーがデジタル通貨や法定通貨を用いて利益を得たり、消費したりすることができる経済システムが機能しています。オンライン経済システムを備えた初期のメタバースとしては、ゲームプラットフォーム「Roblox」とその通貨である「Robux」が挙げられます。Robuxを購入したユーザーは、それを使って、アバターのために体験やアイテムを購入することができます。開発者やクリエイターは、ユーザーが購入したくなるような魅力的な体験やアイテムを作り、Robuxを獲得して、米ドルなどの法定通貨に交換することができます。
  • コミュニティ:タバースでは、ユーザーは一人ぼっちではありません。ユーザーは、他人と交流し、経験を共有します。メタバースの初期形態であるビデオゲームを見ると、ソーシャルな体験を可能にすることが、人気を呼んだタイトルの中核的な特徴であるように見えます。Activision BlizzardのCEOであるロブ・コティック氏によると、友人と一緒にグループで参加するプレイヤーは、他のプレイヤーに比べて、3倍以上の時間をゲームに費やし、およそ3倍の金額をゲーム内のコンテンツに注ぎ込んでいます。7
  • リアルタイムの持続性:メタバースはリアルタイムで持続し、体験を一時停止することはできません。つまり、ユーザーが離れた後も存在し、機能し続けます。他のデジタル体験とは異なり、ユーザーよりも仮想世界そのものを継続的に発展させることに重点を置いているのが特徴です。

初期のメタバースによって明らかになった将来性

メタバースは、未来世界についての概念ではありません。初期バージョンは既に存在しています。Epic Gamesのフォートナイトでは、アリアナ・グランデやトラヴィス・スコットのバーチャルコンサートが開催され、ユーザーはデジタルアバターとして参加しました。このようなイベントの成功には目を見張るものがあり、ライブショーをはるかに超える数百万人ものファンを集客しています。

2021年8月、Meta Platformsは、同僚がデジタルアバターの姿で交流できる仮想会議スペース「Horizon Workrooms」を発表し、メタバースに向けた大きな一歩を踏み出しました。8 ワークルームに入るには、Oculus VRヘッドセットと無料アプリのダウンロードが必要です。これらの例から、最終的に完全なメタバースがどのようなものになるのか、ほんの少し垣間見ることができます。

企業がメタバース関連の取り組み構築にさらなる投資を行う際、「メタバース」と呼ばれるものは必ずしも中央集権的に独占されているものではないことを忘れてはならないでしょう。メタバースの開発に伴い、現在の体験はより一元的で特殊なものとなっていますが、最終的には完全に分散化された状態を目指しています。「レディ・プレイヤー1」が描くメタバースでは、ひとつの無限の仮想世界を求めて現実世界を見捨てていますが、これとは異なり、私たちが暮らす世界では、複数のメタバースが台頭すると見られています。

クローズ型からオープン型アーキテクチャへの移行が予想されるメタバース

現在、企業が提供するメタバース体験は、主にクローズドアーキテクチャ型のシステムを利用しており、それぞれのソフトウェアやハードウェアは、他社のプラットフォームと互換性がありません。プラットフォームは多くの場合、ゲーム、仕事、ショッピング、ソーシャルなど、さまざまな主要ユースケースを想定して設計されます。
最終的に、すべてではないにしても、多くのユーザー、開発者、企業が対等な条件で参加できる、よりオープンなアーキテクチャへと進化したメタバース・プラットフォームが最も成功すると予想されます。

真にオープンなメタバースの例としては、ブロックチェーン技術を活用した分散型仮想現実プラットフォームが挙げられます。このようなコンセプトは、イーサリアムのブロックチェーン上に構築されたDecentraland、Somnium Space、Sandboxなどにすでに存在しています。他の仮想世界やソーシャルネットワークとは異なり、これらの仮想世界のソフトウェアや土地、通貨経済のルールを変更する力を持つエージェントは一人もいません。コミュニティメンバーは、コンテンツやアプリケーションを作成し、体験し、収益化することができます。また、コミュニティのメンバーが土地を購入・開発・売却できる場合もありますが、現実世界と同じように土地には限りがあるため、その価値は上昇します。

ユーザーが通貨を使ったり稼いだりする経済が機能しているメタバース・プラットフォームが、これから最も人気を集めると
Global Xは予想しています。多くの人々がメタバースを娯楽やレジャーのための空間と捉え、デジタル空間を利用して友人と会ったり、メディアを消費したりするようになるでしょう。この種のプラットフォームは、メタバースに参加するユーザーが増えれば増えるほどデジタル体験が豊かになり、そのユーザーが家族や友人、知人をプラットフォームに引き寄せるという、所謂ネットワーク効果の恩恵を受けることが予想されます。しかし、メタバースは遊びばかりではありません。当初は開発者やクリエイター、その後いずれはその他の人々にとっても、メタバースは仮想空間で繰り広げられるビジネスの場となっていくことでしょう。

ユーザーは、VRセット、スマートフォン或いはPC、そしてインターネット接続さえあれば参加できます。しかし、次世代のハードウェアには、触覚ボディスーツ、全方位型トレッドミル、脳を感知するウェアラブルなどが含まれており、仮想世界がよりリアルなものになってくでしょう。

  • 触覚ボディースーツ:全身装備、ベストのみ、或いは手袋など、電気刺激や振動モーターによって、VRやAR環境下でユーザーに触感を提供するウェアラブルです。これらのスーツは、たとえばハグや雨粒などの感覚を模倣してユーザーに伝えますので、ユーザーはより深い体験をすることができます。
  • 全方位型トレッドミル:歩く、走る、好きな方向へジャンプすることを可能にするもので、これによりユーザーはVR体験に身体性を持ち込むことができるようになります。現在、クラス最高の全方位型トレッドミルであっても、歩く機能しか備えていません。しかし、技術の進歩によって、より没入感のある体験ができるようになると考えています。
  • 脳を感知するデバイス:自身の神経信号を分析し、解釈し、デジタルコマンドに変換する装置によって、ユーザーが最終的に仮想環境をリアルタイムでコントロールできるようになる可能性があります。一部の先進的なデバイスでは、機械学習アルゴリズムが脳の活動を解読し、アクティブな視覚焦点を認識することにより、焦点が合ったオブジェクトを仮想世界内で動かすことができるまでになっています。

メタバースは1兆ドル規模のビジネスチャンスになる可能性あり

これまでの経緯から、メタバースは複数の業種にまたがる幅広い収益機会を創出する可能性があります。この傾向は、特に、VR、AR、MRに関連するハードウェアやソフトウェア、半導体、クリエイター向けプラットフォームや経済システムの構築に携わる企業に顕著となるでしょう。広告、ソーシャルコマース、デジタルイベント、ハードウェア、コンテンツの制作・開発などを含めると、その機会は1兆ドルを超える可能性があります。9 以下では、メタバースの最も成長著しい分野と、その分野をリードする企業のいくつかを列挙します。

  • AR、VR、MR、および空間コンピューティング:拡張デジタルリアリティを体験したり、相互作用したりするためのハードウェアおよび/またはソフトウェアの開発に携わっている企業。VR(没入型シミュレーション)、AR(現実世界をコンピューター創出情報で拡張)、MR(現実世界と仮想世界を同時に体験・操作できるハイブリッド型ディスプレイ)などを手掛ける企業が含まれます。これらの技術は、視覚、聴覚、触覚、動作などの情報をシミュレートしたり、中継したりすることができます。

    VRセットの一例として、Meta Platforms社の「Oculus Quest」があります。2019年および2020年に発売されたOculus Quest 1と2のデバイスを合わせた販売台数は、合わせて1,000万台以上に達すると推測されます。10 Meta Platformsは、開発者にとって持続可能で収益性の高いエコシステムを実現するには、正確には1,000万台のデバイスが必要だと考えているため、この販売台数は注目に値します。11 VRエコシステムのアプリ開発は、スマートフォンなど他のタイプのデバイスに比べ、かなり遅れており、現状では質の高いコンテンツが不足しています。VRの利用者が増えれば増えるほど、開発者のインセンティブも高まっていくと思われます。

  • クリエイター向けプラットフォーム:ユーザーがコンテンツやデジタルグッズを作成、共有、消費できる没入型デジタルプラットフォームの開発に携わる企業。コンテンツには、ソーシャルネットワーキング、オンラインビデオゲーム、ビデオゲームエンジン、eスポーツ、ライブストリーミング、デジタルライブイベント、その他3次元のシミュレーション、環境、世界で配信されるメディアなどが含まれます。

    Unity TechnologiesとEpic Unreal Engine(Tencentが40%所有)は、クリエイター・プラットフォームがコンテンツを市場に投入する際のケーススタディを提供しています。両社は、モバイル機器向けゲームおよびバーチャルワールドエンジン市場の約3分の2を占めています。12 彼らが提供する既成概念にとらわれないソリューションは、仮想世界の発展のための構成要素として機能しています。その主な特長として、ゲームソフトの発売までのトータルコストと時間の短縮に貢献することが挙げられます。

    例えば、2021年にUnity Technologiesは696百万ドルを研究開発(R&D)に費やしましたが、そのコストは、その年に10万ドル以上の売上をあげた1052人の開発者に分散したものです。13 これらの開発者は、時間のかかるエンジンの構築やメンテナンスではなく、ゲームの創造的な側面にだけ焦点を当てればよいのです。この分野のビジネスモデルはさまざまです。Unityは月額定額料金、Epicは売上に対して5%の手数料を徴収しています。14

  • クリエーター側の事業展開:暗号資産決済、ブロックチェーン技術、分散型金融ソリューション、非代替性トークン(NFT)の作成・配布、デジタルアセット決済ゲートウェイなど、メタバースのデジタル決済サービスのインフラやアプリケーションの開発に携わる会社。

    このセグメントで事業を行う企業の一例は、Coinbaseです。Coinbaseは、何千もの暗号資産へのアクセスを備えているだけでなく、NFTのエコシステムにも進出しています。2021年10月にNFT市場を発表して以来、250万人以上のユーザーが同社のプラットフォームへの参加待ちリストに登録されています。15 同社は、歴史的に500億ドル以上の取引高を集めている市場に進出したいと考えています。16 NFTは、仮想の土地や空間、アバターなどの購入に利用できるため、メタバースの発展にとって重要です。

  • デジタルインフラ/ハードウェア:半導体、エッジコンピューティングやクラウドコンピューティング・セキュリティなどのクラウドコンピューティング技術、デジタルメディア消費用および/または開発向けの5Gインフラ、メタバースおよび関連機器の開発・保守を行う企業。

    このセグメントの中では、半導体分野ではスマートフォンの先の世界に向けた準備が進んでいます。半導体は、VR、AR、MRの実現に必要な膨大なコンピューティングパワーの基礎となる要素です。Nvidia、Samsung Electronics、TSMCといった企業がこの分野では欠かせない存在となっています。例えば、TSMCはAppleのVRとARに対する計画のために、4nmと5nmのカスタムチップを製造する予定です。17

結論

かつてのインターネットがそうであったように、メタバースはいまだ黎明期にあります。しかし、メタバースの基礎的なインフラは整っており、多くの企業が言葉の上でも資本投下という形でも、その推進に参加する意思をますます鮮明にしています。一つひとつが完成し、アクセスしやすくなるにつれて、この次世代インターネットに対する消費者の欲求が高まることが予想されます。メタバースを発展させるために重要なことは、メタバースが没入型のリアルタイム持続的経済であるという認識を広めることだと思われます。メタバースは、レジャーやエンターテインメントの場であると同時に、経済発展の場にもなり得ます。完全な没入型メタバース体験が普遍的なものとなるには数年かかると思われますが、初期段階の投資機会はすでに生まれつつあるとGlobal Xは確信しています。