清潔な水というテーマの紹介

清潔な水を利用できること——今、それが世界的に切実な課題になりつつあります。この課題を解決するには、持続可能性を重視して水のバリューチェーンをあらゆる点で見直すとともに、水のインフラ整備と関連製品・サービスへの大規模な投資を行う必要があると考えられます。

水は地球上の生命の源であり、経済の生産性を支える基本的な要素です。一見豊富にあるように見えますが、人口増加、汚染、気候変動によって異なる用途間で競合が生じ、構造的な課題が浮上して、安定的な水資源の確保は困難になりつつあります。私たちが飲み、食物を調理し、衛生のために使用する清潔な水——この水が今、最も差し迫った状況にあり、社会と経済に極めて深刻な影響を与えています。現在、23億人以上の人々が水不足に苦しむ国に住んでいます。2019年には、不衛生な飲料水が原因で、糖尿病、マラリア、HIV(AIDS)よりも多くの人々が亡くなりました。1,2,3

私たちが直面しているこの苦境の大きな原因は、不適切な水の管理と、水関連インフラの開発・維持がおろそかになっていることにあります。しかし幸いなことに、政府の政策、技術革新、および消費者運動や公衆衛生活動の高まりにより、より持続可能性の高いモデルへの移行が可能です。この移行の鍵となるのは、以下のようなものです。

  • 持続可能な次世代の水資源の確保
  • 浄水処理と配水の技術革新
  • 廃水管理および水の再利用

以下では、水のバリューチェーンにおける現在の課題について掘り下げ、近代的な水管理とインフラがこの危機的な状況の流れを変えるためにいかに重要であるかを探ります。

持続可能性は水源から始まる

無限に広がる海とそびえ立つ氷河を見ると、多くの人は、あたかも無限の水がそこにあるように思いがちです。しかし実際には、地球上のすべての水のうち、利用可能な水はわずか0.3%にすぎません。4 そして、その利用可能な水を私たちの家庭や農地、企業に届けるためには、さまざまな企業やサービスが関わる多面的なサイクルを辿らなければなりません。

人間が使用する水の大半は、降水(雨、雪、あられ)によって補充される淡水源からくるものであり、一般的には表流水か地下水のどちらかに分類されます。表流水は、湖、貯水池、池、河川、小川などの塩分濃度の低い水域から得られ、電動ポンプ、集水埋渠(地下の排水設備)、流水を収集場所に導く取水施設などを用いて抽出(取水)されます。一方、地下水は地表の下にある帯水層に存在しています。帯水層は透水性のある岩石の層で、掘削して水を汲み上げることができます。

人類は何世紀にもわたって、持続可能性をほとんど顧みることなく、地表水や地下水から淡水を採取してきました。かつては人口も現在の数分の一で、技術的な限界があり持続可能なレベルしか採取できませんでした。降雨によって、水源が使い切られるよりもずっと早く水が補充されました。

しかし現代では、淡水源に過度な負荷がかかるようになっています。2018年には、16カ国(5億5,200万人)が内部再生可能水資源(IRWR)を上回る割合で淡水を取水しました。IRWRは、河川の長期的な平均年間流量と国内の降水から生じる帯水層の復水量と定義されるものです。さらに、取水率がIRWRの50%を超えている国が36カ国(23億人)、25%を超えている国が58カ国(49億人)存在します。5 25%を超えると水不足地域とみなされ、数百万人が危険にさらされる可能性があります。また、水資源を永久に枯渇させてしまう可能性がある過剰取水にもつながります。6 例えば、帯水層の過剰取水が有害な塩水の浸入を引き起こす可能性があります。つまり、世界の多くの地域では、水需要の増加に伴い、水が持続的に利用できなくなっているのです。

さらに悪いことに、気候変動によって淡水の供給が脅かされる可能性もあります。熱波が発生して干ばつが起こり、暴風雨が発生して水インフラが破壊されたり下水処理場が水没したりして、水道水が汚染されるなど、地球の気温上昇によって異常気象現象が加速しています。NASAの研究によると、30年以上続くような大干ばつが米国の南西部と中央平原地帯を襲う可能性が高まっていると予測されています。現在の温室効果ガス排出量の増加がこのまま続いた場合、大干ばつが発生する確率は今世紀後半までに80%にも達します。7

では、何がこれを解決するのでしょうか。まず何よりも、新たな淡水の供給源を見つけることが重要です。特に海に面した地域では、豊富な海水の淡水化が一つの選択肢となりえます。長い間、海水淡水化はコストが高すぎて実現性に乏しく、これを支えるインフラも限られていました。しかしこの30年間で、コストは50%低下し、淡水の生産量は320%も増加しています。8,9

海水は地球上の水の97.2%を占めており、逆浸透膜式海水淡水化技術のコストを継続的に改善することで、世界の水不足との戦いは形勢が一変する可能性があります。10他に淡水源となりうるものとして雨水や霧収集が考えられますが、どちらもまだ普及していません。

次に、現行の水抽出の方法や運用を改善する必要があります。接続型センサーや人工知能など、既成概念を破る技術を用いたソリューションによって、帯水層や地表の水源をリアルタイムで監視することができます。例えば、SCADA(監視、制御、データ取得)システムによって、水位の測定、井戸への浸透の監視、ポンプの自動化などを行います。11 このような技術を導入することで、世界の水資源に対する取り返しのつかない損害を軽減することができます。

次世代のインフラと技術が水質を改善する

10年以上前、国連総会で、清潔な水と衛生設備を利用できることが人権の一つであると認められました。こうした宣言にもかかわらず、水に関連する疾患は依然として病気の主な原因であり、2019年には世界の全死亡者数の2.7%という警戒すべき比率に上ったと推定されます。12

その最たる原因は、安全に管理された飲料水が十分に行き渡っていないことです。22億人もの人々が安全に管理された飲料水を利用できず、そのうち約5億8,000万人が湖、池、井戸などの野ざらしなっている地表の水源から飲んでいます。13 世界保健機関(WHO)は、安全に管理された飲料水とは「管理された敷地内にあり、必要に応じて利用でき、糞便や優先評価化学物質による汚染がない改善された飲料水源」であると定義しています。14 清潔な水の循環において、浄水処理と配水は安全な飲料水を実現する重要な要素です。

浄水処理とは、自然な状態にある淡水を、最終的に利用できる安全な基準(ほとんどの場合は飲料水)まで引き上げるプロセスです。飲料水として浄化するための通常の処理方法は以下のとおりです。

  • 凝集/凝結: 硫酸アルミニウムや硫酸第二鉄のようなプラスの電荷を持つ化学物質を水に加えることで、小さな浮遊粒子や溶解粒子を強制的に結合させ、フロックと呼ばれる大きな粒子に凝固させます。
  • 沈殿: フロックが沈殿物として底に沈むまで、水を沈殿槽に貯留します。粒子が沈殿する時間はさまざまで、ウイルスや特定の鉱物(イオン)のような軽い粒子を除去するためには、さらなる処理が必要です。
  • ろ過: 沈殿物を除去した後、水を多孔質体でろ過して粒子を除去します。この工程はいくつもの段階を経ることがあり、砂、砂利、多孔質繊維による大規模なろ過から始まり、最後にはナノろ過や逆浸透などの革新的なろ過技術を用います。
  • 消毒: 配水する前に、残留微生物を殺すための消毒処理が行われます。費用対効果の高さから、塩素、クロラミン、二酸化炭素が使われるのが最も一般的です。

浄化処理された水は、安全かつ効率的に最終利用者に届けられる必要があります。先進国の人口の多い地域では、浄化処理された水はたいてい高架水槽に汲み上げられてから、圧力をかけて地下の配管網に供給されます。しかし、多くの場合、このようなインフラ設備は使われず、無駄の多い危険な方法が用いられています。米国では、配管からの水漏れが原因で、2019年に推定76億ドル相当の浄化処理された飲料水が失われました。この数字は、大規模な投資が行われなければ、2039年には167億ドルまで倍増する可能性があります。15 さらに悪いことに、米国では600~1,000万人の人々がいまだに、子どもの発達障害や大人の心肺機能・腎機能の低下を引き起こす可能性がある有害な鉛製のパイプや配水管を通して飲料水の供給を受けているのです。これらの欠陥があるため、米国土木学会は米国の飲料水インフラに対して5段階評価のC評価を与えました。バイデン大統領が「American Jobs Plan」の中で1,110億ドルの資金を水道システムに投じる提案をしたのも、こうした欠陥が主な理由です。16 米国以外の多くの先進国も同様の浄水処理や配水の問題に直面していますが、途上国では状況はさらに深刻で、配水の安全性や効率性がはるかに低く、そもそも上水道が存在しないこともよくあります。

浄水処理技術は、汚染物質を除去する方法の改善、すなわち、より効率的な汚染物質の除去や化学添加物の使用削減に重点を置きつつ進歩しています。このような技術として、膜ろ過、紫外線照射、ナノ粒子浄化などが挙げられます。17 最新の配水技術により、水質と使用率をリアルタイムでモニタリングし、AIを用いて将来の需要動向を予測し、そのニーズに合わせて上水道網を動的に調整することが可能となっています。最終的には、最新技術を用いて浄水処理を高度化し、配水を改善することで、より効率的で安全かつ柔軟性のある水道システムを実現することができます。

水の利用 – 蛇口を閉める

2002年から2017年にかけて、世界の人口は21%増加して76億人となり、市街地や農業用水の取水量は12%増加しました。18 水需要の増加率が人口増加率よりも低いことは、水の利用効率が高くなっているような印象を受けますが、全体的な人口増加によって世界中で水道システムは圧迫され続けています。

BRICs=ブラジル、ロシア、インド、中国

世界全体で、淡水の71%が農業用、約17%が産業用、12%が家庭用に使用されています。19 人口増加、および新興国における中流階級の急増により、穀物、肉、乳製品などの大量の水を要する農作物の需要が高まりつつあります。2050年までには、全世界の約90億人に水を供給するために、水の総使用量は現在より15%増加すると予想されています。20

幸いなことに、一人あたりの水使用量の効率化を継続し、人口増加と経済成長による圧力を軽減することが可能です。地域レベルでは、例えば蒸発量が最大となる日中の芝生への散水の禁止、低流量のトイレや蛇口、シャワーヘッドを義務付ける建築基準の制定、動的で段階的な水道料金の設定など、節水に重点を置いた政策の実施により、より少ない消費パターンにつなげることができます。さらに、精密灌漑、屋内農業、品種改良といった最先端の農業技術のさらなる導入により、食料生産レベルを落とさずに水使用量をさらに削減することができます。

廃水の管理と再利用

この世界は閉じたシステムです。朝のシャワー、トウモロコシの栽培、あるいはデータセンターの冷却などに使われた水は、最終的には一滴残らず生態系へと戻ります。その多くは大気中で蒸発し、降水によって地面に戻ってきますが、膨大な量の雨水や生活排水、産業廃水が蓄積されるため、これらを安全に管理するためのインフラと処理プロセスが必要です。

市街地の廃水は通常、雨水と生活排水を地下排水管で合流させる合流式下水道を通じて集められます。この水は処理場に運ばれ、2段階の処理が行われます。

  • 一次処理: まず、固形物については、大きなものを選別してろ過したり、小さな破片に粉砕したりして除去します。その後、水はタンクで貯留されます。ここで残りの固形物は、浮き上がるか沈殿物として下に落ちて除去されます。
  • 二次処理: 二次処理では、可溶性有機物を除去して水をさらに浄化します。この段階で、バクテリアによって有機物を分解してから、塩素で水を消毒します。その後、脱塩素化して化学物質を除去した水は地表の水源へと汲み上げられます。21

農業排水や産業廃水の処理工程はこれとは異なり、化学物質やその他の無機汚染物質を安全に除去しなければならないため、多くの場合はより困難な工程となります。ここから察しがつくように、廃水を回収して処理するこの工程には多額の費用がかかります。少なくとも、公衆衛生や環境へのダメージを考慮しない現実離れした場合でもコストがかかるため、貧しい地域では利用できないことがほとんどです。世界的に見ると、廃水の80%が処理されずに生態系に戻り、約18億人の人々がこのように汚染された体系から水を得ることで、コレラ、赤痢、腸チフス、ポリオに感染する危険にさらされていると推定されています。22

多くの地域にとって、これらの課題の解決に必要なのは、ひとえに適切な下水道や下水処理施設を建設するためのさらなる資金なのです。ただし、既存のインフラについては、実施すべき改善点がいくつか残っています。例えば、処理システムの能力を圧倒するような勢力の強い嵐に対応するための処理力と回復力の向上、電気効率を高めるための施設の改修(これにより運営コストの削減と地熱エネルギーの利用が実現)、塩素処理から紫外線消毒技術への変更、そして日々の運用におけるより大規模な自動化とソフトウェアの統合などが挙げられます。