インフレクション・ポイント:2026:コモディティの変遷
1980年代の古典的なコメディ「Trading Places(大逆転)」で、ルイス・ウィンソープ三世とビリー・レイ・バレンタインは、政府の農作物報告書を盗んだデューク兄弟が冷凍オレンジジュース市場を独占しようとするのを阻止します。オレンジジュースをめぐる彼らのドタバタ劇に対し、今日のコモディティ市場は笑い事では済まされません。供給側の課題が継続し貿易障壁が高まっていることを踏まえると、これらの市場はスタンリー・キューブリックの映画に描かれたディストピア的な未来にむしろ似ているように見えます。
コモディティは、従来の定義によれば、農産物や鉱産物などの大量生産された、または専門化されていない経済財を指します1。また、広く入手できるために利益率が低くなる財やサービスを指すこともあります。しかし、急速な技術変化と生産性の向上を伴う、ますます自動化していく世界では、どちらの定義も特に説得力があるようには聞こえず、生じる機会を適切にとらえているようには見えません。
コモディティは、今日の世界経済の中核となっている自動化やAIイノベーションの現在のブームを維持する上で重要な役割を果たすとみられるため、定義をいくらか再構成する必要があります。サプライチェーンが逼迫する中で、投資家はコモディティという資産、その生産に関わる企業、そしてポートフォリオへの構造的な影響について理解を深める必要があります。
重要なポイント
- コモディティへのアクセスとそのサプライチェーンの安全保障は世界の経済成長にとってますます重要になりつつあり、それは時間の経過とともにコモディティの資産価値に反映されると思われます。
- 資源の安定確保を巡る不確実性が高まる中、各国政府は、米国の戦略石油備蓄(SPR)のような仕組みを参考に、石油だけでなく幅広い資源を備蓄する体制の整備を進める可能性があります。
- コモディティは依然として投資家のポートフォリオにおける組入比率が低い資産です。現在の市場環境は、長期的な資産配分の一環として、戦略的な投資を検討する好機となる可能性があります。
もはや単なる「時計仕掛けのオレンジ」ではない(スタンリー・キューブリック監督の映画「時計仕掛けのオレンジ」より)
各種指標を見ると、世界のサプライチェーンには引き続き大きなストレスがかかっています。世界銀行のグローバル・サプライチェーン・ストレス指数はパンデミック時のピークに迫る水準にあり、ニューヨーク連銀のグローバル・サプライチェーン圧力指数も足元で上昇しています2。これらの圧力の一部はイランを巡る紛争に関連していますが、それは複雑化が進む世界の貿易環境における新たな要因の一つにすぎません。
長年にわたり進んできた世界経済の一体化(経済統合)は、足元で勢いを失いつつあります。関税の引き上げや保護主義的な産業政策、輸出規制、投資規制など、保護主義的な政策は世界経済に広く定着しつつあります3。こうした政策転換に加え、一部の重要な産業資材の生産が特定地域に集中していることや、サプライヤーの納期長期化、重要鉱物やレアアースの調達リスクの高まりも、サプライチェーンを巡る課題となっています。
ここ数か月は特に混乱が目立っています。銅などの重要な産業資源の生産が自然災害により停止しています4。国家安全保障上の懸念から精製能力が十分でない低濃縮ウランは構造的に不足しています5。また、アルミやリチウムイオンなどの原材料コストは関税により上昇しており6、さらに、ホルムズ海峡の封鎖は肥料やヘリウムなど石油以外の資源にも影響を与えています。
コモディティを戦略的優先事項として取り扱うことも新たに生まれつつある傾向です7。国防におけるコモディティの役割は必ずしも新しい問題ではないですが、防衛予算の増加とAIの軍事力への統合が相まって、より多くの原材料や中間財を調達する必要が生じています。
こうした要因が重なることで、重要な資源や原材料の確保は一段と難しくなっています。その一方で、AIやデジタルインフラへの投資拡大を背景に、これらの需要は急速に高まっています。現在建設が進む大規模データセンターでは、建設資材に加え、ネットワークや電力設備向けの銅線、さらには冷却用の水など、多くの資源が必要とされています。このため、エネルギーや金属を中心に、さまざまなコモディティの先物取引が活発化しています。
「金のメタル・ジャケット」に留まらない(スタンリー・キューブリック監督の映画「フルメタル・ジャケット」より)
コモディティの不足と取引の活発化から判断すると、国家レベルでコモディティ現物を確保する動きが出ている可能性があります。民間部門や個人投資家の場合は貯蔵に関する制約がありますが、政府には他の部門にはない能力があります。例えば、1973年~1974年の石油禁輸措置8への対応として、米国政府は1975年、エネルギー省内に「戦略石油備蓄」を創設しました。国際エネルギー機関に加盟する他の31か国もエネルギー備蓄に関する同様の仕組みを維持しています9。
国家のバランスシートを見れば、現物資産を好んでいることは明らかです。金を除く準備資産は2019年12月の11.7兆ドル(約1900兆円)から現在は13兆4,000億ドル(約2,150兆円)に達しています10。世界の中央銀行はまた、米ドルや米国債以外に外貨準備を分散させており、現在では推定3万6,000~4万トンの金(約4.5兆ドル・約730兆円相当)を保有しています11。
昨年は、米国以外への分散投資を模索する動きが投資家の間で広がる中で、中央銀行の金購入によってモメンタム取引が勢いづきました。振り返ってみると、米国経済は比較的良好な状態にあるように見えます。また、記録的な価格上昇を受け、金を購入または保有することの相対的価値について疑問が浮上しています12。金にはこういった問題点がある一方で、工業用金属やレアアースを確保する重要なニーズが投資機会を生み出しています。
中央銀行がバランスシートを金のような価値貯蔵手段からより経済的有用性の高いコモディティへと再配分するシナリオが考えられます。こういった方針転換は潮目の変化を引き起こしますが、すでに前例があります13。米国は国防備蓄として重要物質を保有していますし14、中国は亜鉛、コバルト、銅、レアアースなどの工業用鉱物を大量に備蓄しています15。日本、韓国、インドは特定の物質を少量ながら備蓄している一方、欧州とオーストラリアは国家備蓄を構築しつつあります16。この動きは市場原理を超えてコモディティに追い風をもたらす可能性があります。
私はいかにして心配するのをやめて、コモディティを愛するようになったか(スタンリー・キューブリック監督の映画「博士の異常な愛情または私はいかにして心配するのをやめて水爆を愛するようになったか」より)
コモディティ生産企業は今後数年間で成長と収益性の改善を見込めそうですが、ポートフォリオ内のこれらのポジションは依然として低いままです。コモディティ取引量は増加していますが、コモディティ関連企業の株式を買う動きにはつながっていません。超大型テック企業の時価総額の急増などにより、S&P500の時価総額に占める素材セクターの割合は、ピークだった2008年の3.8%から現在はわずか1.8%に低下し、エネルギーセクターも16%から3%に低下しています17。
しかし、コモディティ全体に強力な変化が生じています。最近のイラン紛争とその結果生じた石油の供給逼迫により、エネルギーセクターは年初来23%上昇しています。素材セクターは約13%上昇し、3番目に好調なセクターとなりました。化学品製造を手がける資本財分野は11%高となっています18。利益率と成長率が過去最高水準に達すると予想されていることから、市場はこれらの企業が提供できる価値を再評価しつつあるように見えます。素材セクターの企業利益は2027年末までに54%増加する見通しで、2025年に10%だった利益率は13%に改善すると予想されています19。
デジタル関連インフラや従来型インフラが急速に拡大し電化が進展する中、資源に対する長期的な需要が次のコモディティ・サイクルの原動力になる、とグローバルXは考えています。国家資源備蓄の導入または拡大は、この傾向にさらに拍車をかけ、大規模な投資や買収の動きをもたらす可能性があります。
ポートフォリオ内でコモディティ関連エクスポージャーを増やすことには戦略的メリットがあるという見方が広がりつつあります。CFA(米国証券アナリスト)協会の調査によると、コモディティに10%の資金配分を行うことで、リターンへの影響をごくわずかに抑えつつポートフォリオのボラティリティを低下させることができます20。この調査では、60対40(株式60%・債券40%)のポートフォリオにおいて、株式資産の10%を幅広いコモディティ指数に入れ替えて分析を行った結果、この結論に至りました。コモディティとコモディティ生産者への資金配分は、上記の水準からはほど遠いのが現状です。モーニングスターの分類ベースで、コモディティは歴史的に資産の2~3%を占めてきました21。
コモディティ生産企業やコモディティへの直接的エクスポージャーを含むETFも同様で、保有資産の大半が金に偏っています。銅やリチウムなどの工業用金属を生産する企業の保有比率は依然として相対的に低い水準にとどまっています22。
コモディティへの投資は、幅広い商品に分散して投資する方法と、特定の分野に絞って投資する方法のいずれも、投資目的に応じて有効な選択肢となる可能性があります。よりテーマを絞った投資先としては、「産業用金属」「レアアース・重要鉱物」「エネルギー」の3つの分野が有望と考えられます。
工業用金属には銅、アルミ、鉛、鉄鉱石・鉄鋼、ニッケルなど、幅広い素材が含まれます。また、銀は貴金属として認識されることが多いものの、電気伝導性が最も高い金属であることから、高度な電子機器や電気関連分野に欠かせない素材となっています。銀は過去5年間、構造的な供給不足に陥っており、累計不足量は8億オンスに達しています23。電気伝導性で銀に次ぐ銅も、供給逼迫への懸念が強まっています。インドネシアのグラスベルグ鉱山で発生した土砂崩れの影響により、市場から失われる供給量は、世界第3位の銅鉱山の年間生産量を上回る規模になると予想されています24。データセンターの内部配線や逼迫した送電網の補強など、銅には多くの用途があります。
レアアースや重要鉱物は、足元で投資家から大きな関心を集めています。特に、中国が米国への供給停止を示唆していることを背景に、これらの資源の戦略的重要性が高まっています。レアアースを構成する17種類の元素は、国際取引の規模こそ限定的ですが、コンピューター関連技術からクリーンエネルギーまで、さまざまな産業分野で不可欠な資源として高い需要があります25。大半の投資家にとって、これらへのエクスポージャーを取得するには生産企業を通じた方法が最も効果的であるかもしれません。
リチウムはレアアースではありませんが、AI構築に関するエネルギー制約の恩恵を受けている重要物質です26。かつては電気自動車(EV)の普及拡大と関連する分野として注目されていた高性能バッテリーですが、データセンターが安定した電力供給を維持する必要がある現在、データセンターにおいても重要な役割を担っています。世界的に供給制約が強まっていることは、アフリカ最大の生産国であるジンバブエが未加工の鉱石精鉱の輸出を禁止したことが挙げられます。この禁止措置により、実質的に世界のリチウム供給の10%が失われます27。また、リチウムと同様に、水素電池技術の採用が時間とともに増加する可能性があります。
最後に、イラン紛争によって世界のエネルギー市場が抱える深刻なリスクが露呈しました。ホルムズ海峡封鎖に対処するためにエネルギー・サプライチェーンの迅速な再編が行われつつあり、米国のエネルギー資産がいずれ市場シェアを獲得する可能性は十分にあります。少なくとも、これらの資産は米国経済や防衛産業の基盤に一定程度のエネルギー安全保障を提供します。エネルギー・パイプラインや輸送施設のようなハードアセットは、コモディティそのものへの直接的な投資ではありませんが、長期契約を基盤とした収益構造により、景気変動の影響を比較的受けにくい周辺的な投資機会となります。さらに、米国のエネルギー輸出企業、なかでもLNG関連企業は、世界市場でのシェア拡大に向けて有利なポジションにあるとみられます。
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