インカム見通し:2022年第1四半期 – FRBの引き締め開始で金利上昇

編集者注:シーグリーン色で表示された用語は、巻末用語集に登場順に掲載されています。

Global X 2022年第1四半期インカム見通しは こちらで閲覧できます。本レポートはインカム指向の資産クラスおよび戦略に関してマクロレベルのデータと分析を提供することを目的としたものです。

Global Xは前四半期に、連邦準備制度理事会(FRB)がタカ派的な政策へと方向転換したことや、インフレ圧力が今後も続きそうであることをお伝えしました。こうした傾向は今年に入って本格化していますが、その背景には、強力な金融引き締めに関する市場予想の定着や、総合インフレ率も先進国の基準からすれば極めて高い水準で推移していることがあります。投資家にとって、インカム投資市場には注目すべきいくつかの重要なテーマやソリューションが存在していると考えられます。

重要なポイント:

  • 今年後半も、FRBをはじめとする各国中央銀行の頻繁な利上げや、バランスシートの大幅縮小の可能性がますます高まっています。
  • 変動金利優先証券などの低デュレーション商品は、金利リスクを軽減する一方でインカムを追求したいと望む債権投資家にとっては有力な代替投資商品になる可能性があります。
  • マスター・リミテッド・パートナーシップ(MLP)やエネルギー・インフラ株式など、強固なファンダメンタルズを持つエネルギー資産は、原油価格が上昇する局面では魅力的と思われます。
  • 株式市場のボラティリティが上昇し、投資家が慎重姿勢に転じる中、カバードコールなどのオプションベースの戦略が魅力的かもしれません。

中央銀行のタカ派的な政策により、金利のさらなる上昇とクレジットスプレッドの拡大が予想される

FRBは、米国における根強いインフレ率の上昇と限定的な金融政策対応により、年明け早々、困難な立場に追い込まれました。インフレ圧力の世界的な広がりにもかかわらず、緩和的な金融政策を続けてきたことから、遅れを取り戻さざるを得なくなったのです。そして、第1四半期に至ってFRBは急遽対応し、3年ぶりの利上げを断行しました。しかし、これはFRBだけではありません。イングランド銀行やカナダ中央銀行なども利上げに踏み切り、今年は世界的にタカ派的な金融政策が広がる可能性が出てきました。

さらに、こうした利上げやテーパリングのペースが鈍化することはないと思われます。欧州中央銀行(ECB)は、他の先進国の中央銀行と比べ、これまで極めてハト派的な姿勢を維持してきましたが、今年第3四半期には債券購入プログラムを終了することもあり得ると発表しています。1現状、先物市場では、現在マイナス50ベーシスポイントの金利が、年末までにゼロパーセントに上昇すると予想されています。2米国と英国の中央銀行ではさらに大幅な利上げが予定されており、先物市場では英国が125ベーシスポイント、米国が200ベーシスポイントの利上げが見込まれています。3これほど短期間にこれほどの大幅な政策対応が行われるのは、明らかに今サイクルに入って初めてのことです。

米国のインフレ率が3月に8.5%に達したことで、FRBは後れを取り戻さざるを得なくなったのだと思われます。前回、米国で総合インフレ率がこの水準に達したのは1980年代でした。債券市場は既にこうしたインフレ率に整合した値動きとなっており、FRBのタカ派的金融政策はソブリン債の利回りに織り込まれています。

中央銀行による利上げや、さらなる金融引き締めを踏まえると、クレジットスプレッド拡大の可能性も高まっていると言えます。第1四半期には株式市場が急落し、利上げ路線が始まったため、クレジットスプレッドは急拡大しました。また、地政学的な緊張が高まるにつれ、ハイイールド債の発行環境はますます厳しさを増す可能性があります。

債券の代替資産としての変動金利優先証券

債券投資家にとって、金融政策の大幅な転換は、すでに市場に浸透しつつある利上げと、コーポレートクレジットのクレジットスプレッド拡大の可能性という、2つのリスクをもたらします。インカム投資家にとっては、こうした環境下では、金利リスクと利回りの必要性のバランスを取ることが重要です。

コロナウイルスの世界的感染拡大が続く中、実質(インフレ調整後)利回りはマイナスに転じ、インカム投資家は厳しい状況に追い込まれています。最近のソブリン債の利回り上昇は、こうしたリスクをいくらか軽減しているものの、実質利回りは依然として、プラスに転じるかどうかのギリギリの状態にあります。サプライチェーンの問題や労働力不足が続く中、根強いインフレ圧力により、総合インフレ率は上昇を続けており、3月には8.5%に達しました。このため、インフレ率に追いつくためには実質ベースでのインカム拡大が必要です。

変動金利優先証券は、低デュレーションというその特性により、歴史的に金利上昇局面でも堅調に推移してきました。また、変動金利優先証券は、債券全般と比べてもアウトパフォームしています。

コモディティ投資に代わるものとしてのマスター・リミテッド・パートナーシップ

世界的な供給不足とインフレ圧力により原材料価格が上昇したことから、今年に入り、市場の注目を浴びた投資資産のひとつとしてコモディティが登場しました。しかし、コモディティ先物はキャッシュフローを生み出さないことから、インカム投資家にとってはあまり魅力的ではありません。コモディティ関連企業の株式は、配当や自社株買いを通じてリターン発生の可能性があるため、より魅力的と考えられます。

マスター・リミテッド・パートナーシップ(MLP)は、インカム投資家が原油というコモディティ取引からインカムと恩恵を受けることのできる投資対象です。こうしたパイプライン事業は、米国のエネルギー生産拡大に伴い増益が期待できます。また、今年の原油・ガス価格の高騰は、MLPなどの天然資源資産の価格も押し上げています。配当に対する税制上の優遇措置 や他の資産クラスと比較したイールドスプレッドにより、MLPはインカム投資家にとって魅力的な選択肢となり得るでしょう。

金利上昇局面にあって、カバードコール戦略はボラティリティの上昇で魅力を増している

中央銀行の引き締めは、単に利回りの急上昇と信用に影響を及ぼしただけではありません。投資家がバリュエーション倍率の見直しに着手し、グロース株が売られてバリュー株が買われ始める中、株式市場のボラティリティは上昇し始めました。

第1四半期の早い段階で株価が急落し、その後、主要指数のボラティリティは大幅に上昇しました。インカム投資家にとって、ナスダック100S&P500などの主要指数を対象としたカバードコール戦略は、従来の有配株や債券以外でインカムを得る手段になり得ると考えます。

収益成長の可能性もあることから、投資家は株式のアップサイドを一定水準確保する一方で、潜在的なインカムストリームも捕捉したいと考えるでしょう。S&P500は第2四半期に6.5%、第3四半期に11.1%の収益成長が見込まれており、インカム投資家によっては株式に対するエクスポージャーを維持したいと考える可能性があります。4

結論

米国債やその他ソブリン債の利回りが世界的に上昇していることから、インカム投資家はインカムポートフォリオへの影響に目を光らせる必要があります。債券資産は全般的に、中央銀行が大胆な引き締めを断行する中、利回り上昇圧力に直面する可能性が高く、グロース株も金利上昇により当面は不安定な値動きになると思われます。変動金利優先証券は、デュレーションリスクと優先証券からのインカムの面でバランスの取れた投資対象であると言えます。サプライチェーンの問題に起因するインフレに耐えられるセクターは、市場の他のセグメントに比べ、こうした環境下で追い風を受ける可能性があります。MLPなどのエネルギー関連資産や、ボラティリティを収益に結び付けることができるカバードコールなどのオプション戦略は、こうした金利上昇局面におけるソリューションになり得ると考えられます。

用語集

デュレーションリスク:金利の変化に対する債券の価格感応度を示す指標です。

VIX:シカゴ・ボード・オプション取引所SPXボラティリティ指数(通称VIX)は、インプライド・ボラティリティの加重平均に基づき、S&P500指数オプションの将来のボラティリティの市場推定値を反映したものです。

VXN:シカゴ・ボード・オプション取引所NDXボラティリティ指数(通称VXN)は、インプライド・ボラティリティの加重平均に基づき、ナスダック100指数オプションの将来のボラティリティの市場推定値を反映したものです。

RVX:シカゴ・ボード・オプション取引所RUTボラティリティ指数(通称RVX)は、インプライド・ボラティリティの加重平均に基づき、ラッセル2000指数オプションの将来のボラティリティの市場推定値を反映したものです。

VXD:シカゴ・ボード・オプション取引所DJIAボラティリティ指数(通称VXD)は、インプライド・ボラティリティの加重平均に基づき、ダウ・ジョーンズ工業株価平均指数オプションの将来のボラティリティの市場推定値を反映したものです。

ナスダック100指数:ナスダック100指数には、ナスダック株式市場に上場している企業のうち時価総額が最も大きい国内外の非金融企業100社が組み込まれています。同指数には、コンピューターのハードウェアとソフトウェア、通信、小売/卸売、およびバイオテクノロジーなど主要な業界グループにおける企業が反映されています。ナスダック100指数には投資会社を含む金融会社の証券は含まれていません。

S&P500トータル・リターン・インデックス:S&P 500指数は米国を代表する株式500銘柄のパフォーマンスを追跡するものであり、米国株式市場時価総額の約80%を対象としています。

ラッセル2000指数:米国市場を中心に小規模企業2,000社を対象とした小型株指数です。

ダウ・ジョーンズ工業株価平均指数:ダウ・ジョーンズ工業株価平均指数(DJI)は米国で最も人気の高い株式市場指数の1つであり、S&P 500指数と並んで米国市場の健全性のバロメーターとしてよく使用されています。