ロボティクス・オートメーション業界を牽引する日本企業4社
2023年、サプライチェーンの構造的再編と生成AIのブームはロボティクスとオートメーション(自動化)に新たな機会をもたらしています。世界主要国は、ニアショアリングに取り組みながらサプライチェーンにおける地政学リスクを再考慮するにつれ、生産拠点の建築は自動化技術の需要を高めることに繋がると考えられます。2023年から2028年、ロボティクスと自動化への設備投資(CapEx)は全設備投資の25%を占めると予測されています1。一方、生成AIは、人間のユーザーがハイテク製品とどのように関わり、指示を与えるかに新しいパラダイムを生み出しており、これはおそらく、産業用・サービス用ロボットのあり方を一変させるでしょう。
世界のロボティクスエコシステムにおいて、日本の企業は不可欠な地位を占めています。
重要なポイント
- ファナック:FA(ファクトリーオートメーション)のトップ企業として、ファナックは自社工場の自動化に取り組むことで、大規模な研究開発(R&D)チームを募集する余地をつくり出しています。
- キーエンス:自社開発製品の生産を外部に委託しながら、キーエンスは、顧客のニーズを積極的に把握して提案することで差別化を図り、これまで研究開発費に対して大きなマージンを実現してきました。
- オムロン:ロボットに外部環境を認識させて動きをガイドするセンサー、スイッチ、コントローラーの製品ラインアップを持つオムロンの主力事業は、ロボットに"神経系"を提供することだと言えます。
- SMC:空圧制御、すなわちオートメーション・システムにおける加圧ガスの使用は、SMCの事業の根幹であり、日本市場の64%、世界市場の29%を占めています2。
ファナック:自社で工場を自動化することで、研究開発の優位に立つ余地を残す
ファナックの歴史は、数値制御(NC)分野のパイオニアである稲葉清右衛門博士によって設立された1955年に遡ります。コンピュータ数値制御(CNC)は、ロボットが物体を製造するために従う動作パターンを作成するために使用されます。ファナックにとってCNCは引き続き主要な収益源であり、2022年度の売上高の30.9%は、主にCNCを中心とするFAセグメントによるものとなっています3。しかし、ファナックの最も代表的な製品は、世界中の工場で見られる黄色い産業用ロボットアームです。2022年通年でファナックは65億ドルの収益を生み出しました4。
自動化のトップ企業として、ファナックは当然ながら自社工場も自動化することができます。ファナックの生産は、高度に自動化された工場に集中しており、そのすべてが日本に拠点を置いています。このため、ファナックの研究開発部門に余裕が生まれ、研究開発部門は全従業員の約3分の1を占め、競合他社に対する技術的優位性を保つことができます。
将来を見据えて、ファナックはEVメーカーのニーズに対応するために力を注いでいます5。ファナックを含めて、日本のロボティクス業界は歴史的に自動車産業と繋がっている経緯もあり、ファナックにとってEVへのシフトは最重要課題の一つです。ファナックはまた、従来オートメーションやロボット工学のサービスが行き届いていない産品産業(食品・医薬品・化粧品)への参入を推進しています。経済産業省は、三品産業の生産の標準化が遅れていると述べています6。
キーエンス:生産を外部に委託、顧客のニーズを積極的に把握
キーエンスは時価総額1,227億ドル(日本円で17.18兆円)の巨大企業であり、国内外に上場する日本企業の中で時価総額第3位となっています。なお、キーエンスの製品ラインナップは、センサー、計測システム、顕微鏡、ビジョンユニット、マーキングユニット、そして最近ではデータ分析プラットフォームなど多岐にわたります。
キーエンスが他社と大きく異なるのは、営業と戦略の分野で優秀な人材を集める一方、生産は外部に委託していることです。そうした努力の証として、キーエンスは日本の平均給与ランキングでたびたび首位を獲得しており、東洋経済が2023年3月に発表したランキングでは、年収2,182万円(1億5,507万ドル)で全国2位となっています7。キーエンスが培ってきた神話は、しばしばメディアの題材となり、キーエンスの才能を競合他社と差別化する要因を解剖している記事は少なくありません。
この成功の背景にあるのは、キーエンスの積極的な姿勢です。エンジニアと営業チームは、声がかかるのを待つのではなく、潜在的なニーズを見極めようとし、現場でのデモンストレーションも行っています。このアプローチの影響は、キーエンスの損益計算書に表れています。相対的に低い研究開発支出にもかかわらず、キーエンスの営業利益率は本レポートで取り上げている他の3社の平均値を上回っています
オムロン:ロボット・FAシステムの神経系を提供
オムロンが行っている事業の多くは、ロボットやFAセンサーの「神経系」に当たる部品を作ることです。これには、ロジック・コントローラー、ヒューマン・マシン・インターフェース、安全システム、マシン・ビジョン、ソフトウェアなどが含まれます。2022年度には、IAB(インダストリアル・オートメーション・ビジネス)セグメントはオムロンの収益の57%を占めました8。
FA事業に加えて、2022年度には、ヘルスケア商品はオムロンの収益のおよそ17%を占め、オムロンのロボット製品の多くがファクトリー・オートメーションのワークフローやロボットを監視しているように、オムロンのヘルスケア製品の多くは人体の監視に重点を置いています。さらに、オムロンの社会サービス部門は、2022年度の売上高の14%に過ぎず、主要な収益源とはほど遠いものの、自動化を工場から消費者に非常に近いスペースに持ち込んでいると言えるでしょう9。この事業の多くは、オムロンが国内市場の大きなシェアを握っている地下鉄・鉄道駅の改札機の製造に携わっています。
FAにおけるオムロンのプレゼンスは、設備投資と自動化された工場への高まりつつある需要から恩恵を受ける良い位置にあると思われます。重要な注意点は、2022年度時点でオムロンの売上高の74%が日本、中華圏、東南アジアに集中しているため、欧州や米州よりもむしろアジアで起こる設備投資の動向に左右されるということです10。
SMC:世界空圧制御市場に優位な立場
ロボットや自動化システムを動かす方法は、電気のみに限られていません。空圧制御とは、加圧された空気を利用して物理的な部品を動かすことを指します。この分野はSMCの専門であり、2022年のSMCの空圧機器の市場シェアは日本で64%、世界で39%と推定されています11。
空気圧機器のワークフローを簡単に例示すると、次のようになります:1)空気は圧縮され、冷却され、空気タンクに移動される、2)空気は工場ラインにつながるチューブのネットワークに送られ、バルブとスイッチが空気の流れの方向を決定する、3) 空気はエアシリンダーに押し込まれ、ロボットアームを外側に押し出したり、物体を握ったり回したりします12。完全な空気圧システムは複雑で、通常、液体の圧力を操作する油圧システムと組み合わせて使用されます。
現在、SMCにとってとりわけ重要な課題は半導体業界です。半導体業界は、2022年に家電製品需要の下落により不況に見舞われたものの、AIブームと密接に繋がっています。2023年通期、SMCは半導体需要の低迷により、売上高が2022年の水準をほぼ下回ると予測しています13。しかし、2026年に売上高1兆円(71億米ドル)を目指すSMCは、チラー、ゲートバルブ、真空製品の需要は、半導体ニーズの持続的な高まりの恩恵を受けると見込んでおり、SMCが目標を達成するために必要とするCAGR(年平均成長率)8%のうち2%を支えると述べています14。
結論:日本はオートメーションを語る上で欠かせない
2023年前半、生成AIへの期待と日本株の強気相場により、日本ロボットメーカーは投資家の注目を集めました。2023年以降について、Global Xの考えではオートメーションは定着する見込みです。ファナック、キーエンス、オムロン、SMCの世界のロボットサプライチェーンの様々なセグメントでの大きなシェアをみるに、オートメーションの全体像を理解するには、日本の大手ロボットメーカーを理解することは極めて重要です。
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