デジタルエコノミーは、生成AI(ジェネレーティブAI)によって成長のフロンティアを発見する
現在絶大な人気を誇るChatGPT(OpenAI)の基盤技術であるGPT-3のような大規模言語モデル(LLM)は、以前のものと比べてずっと賢くなっています。このような技術的な飛躍は、前例のない形で自動化された意思決定へのアクセスを可能にし、応用人工知能(AI)の台頭における新しい章を示すものと言えます。これらのモデルは、従来のAIシステムよりも速く、安く、高い精度で、大規模なイノベーションサイクルを促進し、生産性を向上させ、全く新しいアプリケーションやツールを生み出す可能性を持っています。生成AIの詳細については、Generative AI Primerをご参照ください。
AIが成熟するにつれ、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティ、デジタルメディアなどが大きく前進し、これらの分野の主要なプラットフォームがその地位を固め、自由に対応できる市場機会を拡大させることができると予想できます。
重要なポイント
- 新世代の大規模言語モデルは、人工知能の能力と民主化におけるパラダイムシフトを示します。
- AIは生産性を高め、コストを削減し、消費者に新たな体験をもたらす可能性があり、それにより大きな技術領域で幅広い投資サイクルを引き寄せる可能性があります。
- クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティ、デジタルメディアといった既存のテーマの中に、この波を利用する様々な機会があると感じています。
クラウド技術はAIモデル普及の基盤となる
Global Xの調査によると、グローバルなデータ資産の増加と、公開SaaS(Software-as-a-Service、必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェア)企業が得る収益には強い相関関係があります1。グローバルなデータ資産の増加が続くと、その需要に合わせてクラウド展開されたソフトウェアの消費が加速する可能性が高くなります2。
重要なのは、世界的なデータ資産の増大とデータ処理能力の拡大が、AIの進歩を可能にしているということです3。ハイパースケール処理施設は、AIシステムの大規模な訓練と運用を促進する上で重要な役割を果たし、AI開発者がモデルの訓練、テスト、展開に必要なコンピューティングとストレージの面で実質的に無限のリソースを提供することになります。このため、cloud infrastructure-as-a-service(クラウド経由のインフラ提供サービス)だけでなく、専用プラットフォームや高速ストレージ、ネットワークへの需要が高まることが予想されます。
第2に、高度なモデルの訓練と構築はハードルが高いです。現在、大規模言語モデルの訓練と構築に必要な人材とデータ資産を持つ企業は、一部のグループに限られています。クラウド企業は、AIモデルを開発者からエンドユーザーに広めるためのパイプラインやプラットフォームを構築し、人工知能の流通において極めて重要な役割を果たすことが期待されています。さらに、AI開発者自身がクラウドサービスの旺盛な消費者となり、未来のモデルをクラウド上で自然的に構築・展開することが期待されています。
第3に、クラウドモデルのアーキテクチャーの特殊性は、AIが力を発揮する瞬時の判断に不可欠な俊敏性と軽快な運用を目的として設計されています。公開クラウドプラットフォーム上でシステムを稼働させることで、企業は効率的なAI体験を構築するために必要なスピードとデータへのアクセスを利用することができます。
AIサービスの需要は、ハイパースケール設備や、ストレージやネットワーク・コンポーネントなど、最新のデータセンターに供給されるバリューチェーン全体に強い追い風をもたらすと予想されます。AIプロセッサは、2026年までに380億ドルの市場になると予想され、2022年の水準から4倍近くまで増加します4。同分野を手掛けている半導体業者にとってのチャンスは大きくなっています。
2023年末には、 cloud infrastructure-as-a-service(クラウド経由のインフラ提供サービス)は1500億ドルの市場になると予想され、前年比約30%の成長が見込まれています5。AIは成長の過程を加速させるでしょう。
ハイパースケーラーだけでなく、大規模なインフラサービスプロバイダーも、AIの波を利用して新しい種類の消費者を取り込み、彼らに対してより多くのクラウド製品を交差販売できるでしょう。
また、業界・業種に特化したソリューションのプロバイダーは、貴重なデータにアクセスし、差別化されたアドオンAI主導のサービスを提供する理想的な立場にあるかもしれません。Salesforceは最近、Einstein GPTの立ち上げを発表し、営業やマーケティング部門の消費者がSalesforce Data Cloudから独自の消費者データにアクセスし、消費者のニーズの高まりに継続的に適応するコンテンツを生成できるようにすると発表しました6。HubSpotは最近、Chat GPTに基づいた独自のモデル、Chat Spotを発表しました7。既存のベンダーは、ツールを改善するのに最適な立場にあると考えています。サービス価格の引き上げ可能性は非常に高く評価されており、クラウドソフトウェアの業者は顧客のロイヤルティ向上も期待できるでしょう。
最後に、AIサービスの台頭はデータ管理アプリやサービスを後押しする可能性があると考えます。企業は、既存のデータ資産からより多くの価値を引き出そうと考え、パイプラインツールやデータベースなどの消費を押し上げると思われます。
全体として、AIはクラウドコンピューティングの普及を促進し、クラウドインフラの全体市場規模(TAM、Total Addressable Market)の拡大を可能にするはずです。自動化されたスマートなソフトウェアは、ソフトウェアを使用する人の能力も補うため、従来のITよりもはるかに大きな全体市場規模を持ち、クラウドプロバイダーは自身の総アドレス可能市場を拡大することができます。
AIはデジタルエコノミーの保護に貢献できる
サイバーセキュリティ業務で普及している膨大な量のデータを考慮すると、AIの適用範囲は膨大です。2022年には、人工知能を搭載したサイバーセキュリティツールに165億ドル近くが費やされ、AIシステムはすでに限定的な能力でサイバー防御の役割を果たしています8。大規模言語モデルはそれを拡大させることができます。
現在、セキュリティ用途で採用されているAIシステムの多くは、大企業のITシステムが生成するデータを監視し、違反や悪意のある行動の兆候を探ります。その後、異常があれば人間のエージェントが対応します。Dynatrace、CrowdStrike、ZScalerなどのベンダーは、業界でAIと機械学習を統合した製品を提供している主要なプロバイダーです9。同様に、GoogleのGmailやMicrosoftのOutlookは、以前から機械学習を使って悪質なメールを検出しています10。
大規模言語モデルが影響を受ける分野の1つは、自動化されたスマートな対応戦略を構築することでしょう。人間のオペレーターと同レベルのインテリジェンスでタイムリーかつ効率的に攻撃に対応することは、貴重なITリソースを解放すると同時に、変革をもたらす可能性があります。さらに、生成AIモデルは、企業システムが脆弱であると判断されるシナリオを策定し、プロアクティブな防御を強化するのに有効であると思われます。この分野は、既存のクラウド型サイバーセキュリティベンダーが、データや人材にアクセスできることから、革新的なサービスを提供できる理想的なポジションにあると考えます。
一方、生成AIは、サイバー脅威を増大させています。ChatGPTのようなツールは、新たなマルウェアの作成に活用されています11。今後、これらのツールの悪用を制限し、企業のデータと資産を確実に保護するための専用ソフトウェアが開発されることが期待されます。
最後に、AIはサイバーセキュリティ業界が直面する人材不足を解消する上で大きな役割を果たすことができます。世界では、2025年までに350万人近いサイバーセキュリティ関連の求人が予想されています12。米国だけでも、2021年には50万人近いセキュリティ関連の求人が出ています13。自動化されたソフトウェアは、生産性を高めるのに役立つでしょう。サイバーは現在も急速に拡大している分野で、2030年まで毎年13%の支出増が見込まれています14。AIの台頭により、その支出はさらに加速すると予想されます。
生成AIはメディアを変革できる—コンテンツ制作から始まる改革
コンテンツ制作もまた、生成AIの台頭により、破壊的な領域へと突入した機能です。このような高度なモデルのサポートを受けて、クリエイティブな作業を自動化、多様化、そしてカスタマイズできるようになり、全体的な品質の向上につながります。これは、ソーシャルメディアやユーザー生成コンテンツからデジタル映画やゲーム制作まで、あらゆる形態のデジタルコンテンツ制作に大きな影響を与える可能性があります。
まず、AIはソーシャルメディアプラットフォームでのコンテンツ制作を加速させる上で、重要な役割を担う可能性があります。マーケターやコンテンツクリエイターをターゲットにしたアプリケーションが急速に普及しています。制作のスピードだけでなく、自動化によってコンテンツ制作のコストを削減することも可能です。さらに、広告主やインフルエンサーは、AIを利用して、エンゲージメントの高い投稿の特定、新しいオーディエンスの開拓、リテンション率の向上、支出管理の改善など、クリエイティブな実験を展開しています。
200社以上の生成AI企業の分析によると、2021年から2022年にかけて、生成AIの資金調達のうち約3.2億ドルがソーシャルメディアとマーケティングコンテンツに向けられ、最大の注力分野の1つとなっています15。イメージ画像からリップシンク動画、アバターまでを含むビジュアルメディア生成に関わる企業は、生成AI取引量のフロントランナーとして浮上しています。2021年以降、58件、総額8億2,200万ドルの案件を獲得しています16。
2022年後半、大手ソーシャルメディアプラットフォームのMeta Platformsは、ユーザーがテキストプロンプトを短く高品質なビデオクリップに変換できるMake-A-Videoという新機能を導入しました17。同じ頃、Instagramでは、人気のマジックアバターアプリLensa AIが生成したポートレート画像をユーザーが投稿するのがユーザーの間で流行しました18。OpenAIのChatGPT-3とDall-E 2ツールが人気を得てAIプログラムがより遍在する中、Snapなどの企業では、My AI for Snapchat+などの最先端のツールを取り入れることでトレンドにのっています。ChatGPTのアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)を組み込むことで、Snapchatのユーザーは、パーソナライズされた推奨やプロンプトのための高度にカスタマイズ可能なチャットボットを利用できるようになりました19。
これらのツールや機能により、ソーシャルプラットフォームはエンゲージメントを深め、ユーザー体験をゲーム化し、デジタルプラットフォームでの滞在時間を増やし、最終的にユーザーをより良いレートでマネタイズできるようになります。
ソーシャルメディアと密接な関係にあるEコマースは、小売業者が両者を融合させ続けているため、生成AIから大きな利益を得ることができます。従来、AIは不正検知や顧客の意向予測、レコメンデーションシステムなど、裏方で活用されてきました。しかし、AI技術の進歩により、Eコマース企業は、バーチャル写真撮影、3D商品カタログ、自動商品説明など、フロントエンドでもAIを活用し、ビジネスパフォーマンスを向上させることができるようになりました。
AmazonやeBayなどの大手企業は、Eコマース機能を強化するために、すでにAIサービスを導入しています。Amazon Goのようなシステムはもちろん、AmazonではAIによる最適化で消費者の需要を予測し、それに応じた在庫管理を行っています。また、eBayでは3D商品レンダリングにより、購入者が実店舗にいるかのような自然なブラウジング体験を提供しています20,21。クリエイティブの生産性を向上させる可能性は無限に広まると言えるでしょう。
コンテンツ作成の自動化は、他のデジタルメディア事業にも大きな影響を与えています。例えば、2月にNetflixが公開した「The Andy Warhol Diaries」は、生成AI音声技術を使ってアンディ・ウォーホルの声を蘇らせました。同月公開された短編アニメーション「The Dog & The Boy」は、AI生成画像を使って絵コンテの風景画を現実のものにしました。
同様に、Spotifyが最近リリースしたAI DJは、リスナーがDJと協力して、まるで自分の好みを誰よりも知っている人がキュレーションしたようなプレイリストを聴くことができます。
オリジナルコンテンツに依存するデジタルサービスではこれらの技術が進化し、より専門的なソリューションが登場することで長期的にコンテンツ制作にかかる費用を縮小できる可能性が高く、それが収益に大きな好影響を与える可能性があります。
結論: 最大のイノベーション、最大のインパクト
人工知能はソフトウェアをより賢くし、ありふれた作業を自動化することで、生産性の向上とリソースの解放を実現します。人工知能の導入が進むにつれて、より広範な技術領域が恩恵を受けると予想されます。クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティ、デジタルメディア、デジタルコマースの各分野の企業が、レガシービジネスの破壊を加速させ、自社のトップラインとボトムラインを向上させるために、すぐにでも活用できるチャンスがあると考えています。