インカム・ポートフォリオにおける優先株投資

低金利が今後さらに低下する可能性が高く、クレジット・スプレッドもタイトな中、債券市場の上値余地は限定されており、投資家は債券に代わるリターン獲得手段の模索を余儀なくされています。投資家は、社債やハイ・イールド債の組み入れ比率を設定している場合が多いのに対し、優先株については必ずしもポートフォリオへの組み入れ比率を設定していません。本レポートでは、債券市場の主要トレンドに焦点を当て、インカム重視型ポートフォリオが優先株への投資を検討すべき理由について、以下のテーマを通して論じていきたいと思います:

  • 社債市場の成長
  • タイトなクレジット・スプレッド
  • 債券に代わる投資対象としての優先株
  • 銀行セクターの健全性

社債市場の拡大

景気が拡大する一方、FRB(連邦準備制度理事会)は過去の水準に比べ金利を全般的に低く据え置いており、結果的に投資適格債とハイ・イールド債の発行額が飛躍的に増加しています。同時に、ベビーブーマー世代が定年を迎えるなど、人口動態のトレンドにより、債券に対する投資需要は高水準を維持しています。また、諸外国がさらに積極的な金融緩和策に乗り出した結果、外国人投資家から見た米国社債の魅力が相対的に高まっています。米国企業はこうした市場ダイナミズムを積極的に生かして、低コストで社債を発行しています。

 

corporate bond issuance

Source: SIFMA. Data annually from 1996 through 2018.

社債市場の拡大に伴い、債券のリスクも上昇しています。ジャンク債の一つ上の格付である「BBB」など比較的格付が低い債券の発行が大幅に増加しており、その増加率は2009年の3倍に相当し、今では投資適格債の過半数を占めるに至っています。レバレッジド・ローン市場では、財務制限条項が緩和されたいわゆる「コベナンツ・ライト」ローンの比率が2008年のわずか6%から現在は80%にまで上昇しており、投資者保護の薄い債券の発行が拡大しています1

タイトなクレジット・スプレッド

通常、リスクの上昇は期待リターンの上昇を伴いますが、現在の債券市場はこれに相反する動きを見せています。投資適格債やハイ・イールド債は、対米国債スプレッドが過去の平均値よりも縮小しており、信用リスクと引き換えのリスク・プレミアムが縮小していることがうかがわれます。

 

 

 

high yield bond spreads corporate bond spreads

Source: Bloomberg. Data monthly from January 1997 to June 2019. High Yield represented by the Bloomberg Barclays High Yield Index. Corporate Bonds represented by the ICE BofAML US Corporate Index. Measured using Yield to Maturity.

債券に代わる投資対象としての優先株

一方優先株は、スプレッドが過去平均に近い水準にあり、社債と比較して魅力が高まっています。足もとのスプレッドは、長期平均と比較すると、ハイ・イールド債が133bp、投資適格債が36bpタイトであるのに対し、優先株はほぼ過去平均並みの水準にあります。これは、過去データとの比較では、優先株のバリュエーションが、現在では割高傾向にある伝統的な社債に比べて適正な水準にあることを示しています。

優先株は利回り重視を特徴とし、債券に似た動きをするため、社債やハイ・イールド債とともに分析される傾向にあります。優先株は資本構成上、伝統的債券に劣後する位置にありますが、証券取引所で売買され、債券よりも流動性の高い証券です。弊社は、ポートフォリオ構築において、優先株は、社債、ハイ・イールド債、エマージング・マーケット債、シニア・ローンやその他の収益を生むアセット・クラスなどの潜在的な収入源と並列で考えるべき資産であると考えています。特に社債との比較で考えた場合、今は伝統的な債券から優先株に資金を振り向けるのに適したタイミングであるのではないかと思われます。

preferreds spreads

Source: Bloomberg. Data monthly from January 1997 to June 2019. Preferreds represented by the ICE BofAML Fixed Rate Preferred Securities Index.

銀行セクターの健全性

優先株には、「金融危機後のレバレッジ解消に向けた取り組みやBIS規制のTier1自己資本に優先株を算入できるという理由」から銀行による発行が広まったという特殊な背景があります。このため、優先株市場のリスク度を判定する上で、銀行セクターの健全性は重要な意味を持っています。

2008年の金融危機で優先株市場は多大なプレッシャーにさらされましたが、過去10年間で銀行セクターの不良債権処理は大きく進展しました。銀行のリスク・プロファイル改善に向けたオペレーション及び規制上の改革が、債権処理の加速につながりました。例えば、FRBが準備預金に利息を支払う方針に転換したことで、Tier1自己資本比率は2009年第1四半期の10.7%から10年間で13.4%へと劇的に改善しました。

 

US banks Tier 1 capital

Source: International Monetary Fund, Bank Reg Data, Bloomberg. Data annually from Q1 2009 to Q1 2019.

こうしたリスク削減に向けた取り組みの結果、2019年の6月下旬、FRBは大手銀行のうち18行がストレス・テストに合格したと発表しました。また、1行を除くすべての銀行に対して増配と自社株買いを承認しました2。これは、リスクマネジメントを重視する普通株式の投資家にとっては、銀行セクターの将来的な成長性が不安視される動きですが、債権者や優先株式の投資家にとっては、ポジティブな動きといえるでしょう。

CDS Spreads

Source: Bloomberg. Data from 12/31/2006 to 6/30/2019, and uses end of year data from 2006 to 2018, and 6/30/2019 data. Numbers are an average of 5-year CDS spreads from banks tested on Federal Reserve’s June 2019 stress test list.

結論

今日の環境下で利回りを創出することは難易度が高いことが分かってきましたが、FRBの金融政策はハト派色を強めており、今後はさらに厳しくなる可能性があります。

銀行セクターはリスク削減に取り組んでおり、FRBの金融緩和策によって金利も当面低水準にとどまることが予想されています。また信用スプレッドからみて、他の伝統的な債券と比較して優先株式のバリュエーションは魅力的な水準にあることから、優先株式にとって概ねポジティブな市場環境が整っているのではないかと弊社は考えています。

優先株式の仕組みは伝統的な債券とは異なりますが、従来より債券に似た動きを見せており、配当の一部が普通の債券利息ではなく適格配当所得(QDI)として課税されるなど、通常の債券にはない税制上の優遇措置を享受できるケースが多く見られます。Asset Class Yields

Source: Bloomberg, AltaVista Research, & Federal Reserve. Data as of 6/30/19.

関連ETF

PFFDグローバル・X・米国優先証券ETFは幅広い米国優先株のバスケットに投資し、この資産クラスのベンチマークへの投資機会を提供します。手数料及び経費控除前の価格及び利回りという点について、ICE BofAML・ダイバーシファイド・コア・米国優先証券・インデックスに連動する投資成果を目指します。

脚注

  1. Source: S&P Global, Wall Street Journal
  2. Source: Federal Reserve

 

定義
ICE BofAML 固定利付優先証券インデックス:ICE BofAML 固定利付優先証券インデックスは、米国内の市場で発行された固定利付の米ドル建て優先証券のパフォーマンスを追跡します。

Bloomberg Barclays米国ハイ・イールド社債インデックス:Bloomberg Barclays米国ハイ・イールド社債インデックは、格付機関により投資適格を下回る格付を付与された社債を追跡する米国の総合ハイ・イールド債インデックスです。

ICE BofAML米国社債インデックス: ICE BofAML米国社債インデックスは、格付機関により投資適格の格付を付与された米国市場の社債を追跡する米国の総合社債インデックスです。