コモディティトラッカー:3月
原子力とウラン
重要なポイント
ホルムズ海峡の封鎖は世界のエネルギー・サプライチェーンの脆弱性を露呈させ、エネルギー安全保障が各国の政策立案者にとって重要な課題であることを示しました。今回の状況と、1970年代の石油危機とは共通点がある、とグローバルXは考えています。当時のエネルギー供給不安は、その後数十年にわたる原子力発電の拡大を後押ししました。
先進的な原子力エネルギーのスタートアップであるX-エナジーが3月20日、IPO(新規株式公開)を申請しました(ティッカー「XE」)1。同社の事業は大きく2つの柱で構成されています。まず、同社は「Xe-100」と呼ばれる先進的な小型モジュール炉(SMR)を開発しています。Xe-100は、TRISO-X(ウラン燃料核を炭素とセラミックで複数層に被覆した構造)燃料ペレットを利用するヘリウム冷却型原子炉であり、1サイト当たり4~12基を設置できます。そして、同社はTRISO-X燃料自体も製造しています。これはHALEU(高アッセイ低濃縮ウラン)を用いた先進炉向け燃料で、Xe-100向けに最適化されているだけでなく、他の先進炉設計でも利用できる可能性があります2。
中東での紛争勃発を受け、韓国はエネルギー確保のため、現在メンテナンス中の原子炉の再稼働を早める方針を明らかにしました。2基は今月中の迅速な再稼働を目指しており、他の4基は5月中旬までの再稼働を目指しています。この発表は、中東紛争によって供給が中断する事態を回避しようとする同国の取り組みを示しています。韓国は2025年に4,000万トン以上のLNGを輸入し、その14%近くがカタール産でした3。
価格動向
ウランのスポット価格が3月20日までに約84ドル/ポンドに下落した一方、ターム(長期契約)価格は3月の取引を90ドル/ポンドで開始しました4,5。投資家が不安定なエネルギー市場の先行きを見極めようと取引を手控える中、スポット市場の需要は全般的に軟調でした。他方、市場外の相対取引で中長期的な調達を目指す電力会社が複数あり、電力会社との契約は穏やかなペースを維持しています。
この動きは、引き続き需給の引き締まりとターム価格の上昇をもたらすと考えられます6。
見通し
ホルムズ海峡を通過するエネルギー輸送の混乱は、世界のエネルギー供給網の脆弱さを浮き彫りにしました。グローバルXでは、この状況は電化が進む時代において、代替エネルギー源の重要性をさらに高めると考えています。フランスは、1970年代の歴史的な石油危機の後、エネルギー安全保障上の懸念に対処する政策措置をとった国の例です。同国は、1974~1989年の間に56の原子炉の新設を推進し、原子力発電所の拡大に動きました。この数十年にわたる政策転換は世界の原子力発電能力を大幅に拡大し、フランスを原子力発電の世界的リーダーへと押し上げました7。グローバルXは、金利が高止まりするリスクが新たな原子力プロジェクトに与える影響を認識していますが、一方で、それに対応するエネルギー供給ショックは、エネルギー安全保障への懸念が高まる中で電力網の見直しを世界の政策立案者に促す可能性が非常に高いと考えています。
1974年、フランスは1985年までに80基、2000年までに170基の原子炉を新たに稼働させることによってエネルギーの自立を目指す「メスメル計画」を開始しました8。現在、フランスは電力の70%近くを原子力発電で賄っています9。
銅
重要なポイント
3月の銅市場は、軟調な価格が購入意欲を高める中、中国の工業部門の需要が堅調でした。工業用金属は、マクロ経済の不確実性が続く中で依然として下押し圧力を受けていますが、ホルムズ海峡経由の貿易が遅滞なく正常化すれば、価格が上昇する可能性があります。
3月の中国の銅在庫が月間ベースで2026年に入って最大の減少幅を記録し、春節(旧正月)休暇から戻った中国の工業セクターの買いを促しました。銅加工業者による新規受注が急増したため、中国の精錬銅の在庫は3月16日~3月23日の間に7万8,700トン減少しました。中国の需要の高まりとイラン紛争のさなかでの銅価格の下落を背景に、中国の工業セクターの一部では1日当たりの購入量が昨年の平均を上回りました10。
イランでの紛争を背景にマクロ経済が低迷するとの懸念から工業用金属が下落し、銅は年初来の上昇幅をほぼ失いました。ペルシャ湾での攻撃激化でエネルギー価格が数年ぶりの高値に上昇したことで銅の工業需要見通しが悪化し、また、金利の大幅な上昇がドルを押し上げ、銅・アルミなどの利子を生まない非鉄金属価格の下押し圧力となりました。
価格動向
需要の不確実性や、エネルギーに起因するインフレ・リスク、ドル高が相まって銅価格を圧迫し、同価格は2月下旬のトン当たり約1.3万ドルから3月20日には約3か月ぶりとなるトン当たり約1.2万ドルまで下落しました11。しかし、紛争の緩和につながる対話の可能性が浮上し、3月下旬に銅価格は下落分の一部を回復しました。
見通し
イラン紛争のさなかで先行き不透明感が続く一方、需要は比較的堅調で、最近の価格下落を受けて中国の買い手が積極的に購入に動いたほか、旧正月(春節)後の在庫積み増し需要も追い風となりました。ホルムズ海峡を経由するアルミニウム輸送における供給問題は、銅の代替として使われる他の金属にも大きな価格変動をもたらし、その結果、両金属の値動きに乖離(かいり)が生じています。これによって、銅の相対的魅力が高まる可能性があります。3月23日現在、銅は前月比8%の下落ですが、アルミは3.8%上昇しています12。環境は非常に不安定なままですが、この紛争が早期に解消されれば、銅の見通しは改善すると考えています。
経済成長の不確実性やインフレ期待の高まり、根強いドル高(金属価格にはマイナス)が相まって銅価格を押し下げています。価格の変動にもかかわらず、3月の中国の銅消費は堅調でした。
貴金属
重要なポイント
3月は、インフレ・リスクの高まりや中東のエネルギー・ショックに各市場が反応する中、金と銀は大きな価格変動に見舞われ、株式や債券とともに下落しました。
イランへの攻撃後に米ドルが2025年の急落から反発したことが、貴金属と主な採掘地域である新興国市場のパフォーマンスを圧迫しました。ドル高とそれに伴う貴金属の下落はインフレ期待の高まりを反映しています。3月20日現在、米国債10年物利回りは、紛争が勃発した2月28日から42ベーシスポイント(0.42%)上昇しており、金や銀などの利息を生まない貴金属の相対価値に影響を与えています13。
トルコ中央銀行は、1,350億ドルの金準備を活用してトルコ・リラ防衛の準備をしている可能性があります。石油や天然ガスの主要な輸入国であるトルコは、エネルギー価格の急変動に対して脆弱であり、それがインフレリスクを一段と高めています。トルコの最新のインフレ率は2月に記録した31.5%で、これは世界で最も高い部類に属します14。イラン紛争がリラ売りを加速させたため、トルコの金融当局は外貨建て債券を売却し、ロンドン市場で金と外貨のスワップ取引を探ることによって自国通貨を防衛しています15。
価格動向
イラン紛争は、2025年の金価格の上昇を加速させた米ドル安トレード(ドルの価値下落に備える取引)の巻き戻しを促しました。紛争が勃発して以降、金は2月末の1オンス約5,400ドルから3月23日には1オンス4,200ドルに下落しました16。投資家がインフレ上昇懸念や不確実な景気見通しを受けて安全資産を求める中、米ドルは石油・ガス価格の上昇を背景に上昇しました。金利上昇や投資家のドル売り持ち解消を背景としたドル高が貴金属相場を圧迫しました。
見通し
貴金属の短期見通しは、ホルムズ海峡における貿易中断の期間によって大きく左右されると考えています。しかし、短期的な影響があったとしても、エネルギー価格が世界消費に重大な影響を及ぼし始めれば、貴金属は最終的には大幅に反発する可能性があると考えています。なぜなら、世界経済の減速が、中央銀行の金融政策を物価水準の管理から労働市場の支援へと転換するよう促すと考えられるからです。加えて、中東での紛争勃発は、世界の分断や政府債務水準の上昇など、金価格の基本的な上昇要因の存在を改めて浮き彫りにしました。
歴史的に、金価格は大きな市場ショックの後、最初の数日間に一時的に下落しますが、多くの場合、その後の数か月間で回復しています。例外は、長引くインフレを伴ったウクライナ紛争でした。
重要鉱物、バッテリー技術、リチウム
重要なポイント
リチウムおよびレアアース市場では、イラン紛争によってボラティリティが高まる中でも、3月を通じて取引の勢いは継続しました。こうした地政学リスクにもかかわらず、各国政府はサプライチェーンの多様化を進める姿勢を崩しておらず、今後数か月にかけてサプライチェーンの強靭性への注目は一段と高まる可能性があります。
韓国の電池メーカー、LGエネルギー・ソリューション(LGES)は、テスラとの間で43億ドルに上る定置型バッテリー貯蔵(BESS)セル供給契約を締結しました。この契約は、テスラのメガパック3システムに使われる予定のリン酸鉄リチウムイオン(LFP)角柱型セルのミシガン州での生産を含んでいます。これは、米国で新たに発表されつつある一連のLFP取引の中で最新のものになります17。
日米両政府は貿易政策の連携に関する共同声明を発表しましたが、これには、サプライチェーンを支援するための国境調整付き最低価格メカニズムやレアアースなどの重要鉱物の生産が含まれる可能性があります18。米通商代表部によると、日米両国は、政策支援や資金供給を優先的に行う対象として、重要鉱物(クリティカルミネラル)関連の具体的なプロジェクトを特定していく方針です。この枠組みのもとで、アルベマールや三菱マテリアルなどの企業は、国際的な投資に関する協議がすでに行われている可能性を報告しています19。
価格動向
イラン紛争により、この地域のEVやBESS(バッテリー・エネルギー貯蔵システム)の販売を巡る先行き不透明感が高まったことから、3月のリチウム価格は不安定な動きとなりました。2月の世界的なEV(電気自動車)販売の低調さや、インフレ加速への懸念を背景に、短期的にはトレーダーの取引姿勢が慎重になる可能性があります。レアアースでは、世界市場が二分された状態が続き、北米のジスプロシウム価格は中国の工場出荷価格(EXW China)に対して4.4倍のプレミアムに達しました。ベンチマーク・レアアース・サービスによれば、2027年までにこの差はほぼ倍の8.3倍になるとみられ、地政学リスクの懸念がますます高まっている中国とグローバル磁石サプライチェーンとの乖離が続く見通しです20。
見通し
リチウム価格は、堅調なファンダメンタルズと昨年のCATL鉱山停止から続く鉱山生産のひっ迫を背景に、不安定ながらも上昇基調を維持しています。今後、欧米諸国が主導して、重要鉱物の供給業者や処理能力を分散化する政策措置が決定される可能性があります。ホルムズ海峡の封鎖が強靭なサプライチェーンの重要性を高める一方、レアアースに対する継続的な軍用・民生用需要は地政学リスクが広がる中で持続すると考えられます。
中国のレアアース輸出規制は、世界市場を分断し、サプライチェーンを逼迫させ、欧州や北米などの地域で投入コストを押し上げています。
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