クラウドコンピューティングの最新情報:全体像に注目

2022年は、マクロ経済や地政学に関するショックが続いた1年でした。そのようなイベントに対して、市場では様々な資産が売られるという当然の反応が発生し、各資産の相関が強くなりました。経済環境が悪化する局面においては、常識的に考えると、企業はコスト(ソフトウェア支出など)を節約する必要があります。しかし、混乱した状況の中でも、ソフトウェアとデータセンターの分野は全体としてプラス成長となりました1。そのようなセグメントの支出は、ペースは減速しているものの、引き続きIT市場全体の成長をけん引しました。さらに重要な点として、企業は運営の効率化や、コスト管理ツールの導入を目指しているため、2023年の成長ペースは加速すると予想されます。このような動きから判断すると、クラウドコンピューティングへの支出は、企業にとってコストセンターからプロフィットセンターに変わっています。クラウドコンピューティング関連銘柄の現在のバリュエーションが歴史的な低さであることも考え合わせると、忍耐強い投資家にとっては絶好の投資機会が訪れている可能性があります。

クラウドコンピューティングはまだ初期の段階です。マクロ経済環境の影響を受け、クラウドコンピューティングの採用ペースが短期的に減速する可能性はありますが、長期的な道筋はおそらく変わりません。既にキャッシュフローを生み出している、または間もなく生み出せるクラウドコンピューティング企業は、今後も悪影響を受けないと予想されます。一方、低いバリュエーションが要因となり業界全体でM&Aが活発化している現在のトレンドは、おそらく継続するでしょう。

重要なポイント

  • 2022年には企業が景気減速に対応するため購入を減らしたことから、エンタープライズソフトウェアの成長率は1桁台まで減速しました。しかし、2023年には再び2桁台の成長になると予想されます。
  • さらなる成長が引き続き期待できますが、2023年に投資家を安心させるには、クラウドコンピューティング企業はユニットエコノミクス(ユニットあたりの経済性・採算性)や収益性を重視する必要があるでしょう。
  • 2022年には、歴史的な低さのバリュエーションが要因となり、多数のM&A案件が発生しました。2023年は、おそらくプライベートエクイティや大手テクノロジー企業が主導し、案件が一層増加すると予想されます。

2022年にクラウド需要がリセット

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が後押ししたクラウドコンピューティングというテーマは、2022年に後退しました。金利上昇や不透明なマクロ経済環境のため、企業は支出計画の再評価を強いられ、IT予算に悪影響が及びました。重要でないIT支出は厳しく精査されるようになりました。パンデミック中に人気が高まった一部のアプリケーション(マーケティング、コミュニケーション、分析、顧客サポートのツールなど)は、社会が通常の状態に戻るにつれて優先度が下がりました。

このような逆風にもかかわらず、2022年のグローバルIT支出はわずかに増加しました2。詳細に見ると、ソフトウェア支出は8.0%の成長、データセンターシステムは10.4%の成長でした3。インフレが進む世界においては、ソフトウェアやテクノロジーは生産性を高め、事業プロセスを合理化するデフレ圧力として活用することができます。一方、企業は大量に生成されるデータへの対応を試みており、長期のIT計画ではクラウド移行が予定されていることから、インフラのニーズが再浮上しています。

クラウドコンピューティング企業について詳細に見ると、最近数カ月間はプラス成長になっていることが分かります。例えば、2022年第3四半期、大手パブリッククラウド企業3社は収益がネットベースでプラス成長になったことを発表しました。ただし、わずか1四半期前には約40%の収益成長率だったため、それよりは低くなっています。Amazon Web Servicesは前年同期比28%、Microsoft Azureは同35%、Google Cloud Platformは同38%成長しました4,5,6。同様に、有力なSaaS(Software as a Service)企業の成長も減速しましたが、まだ2桁台の成長を示しています。Coupa Softwareの直近四半期の売上高成長率は前年同期比16.9%、Workdayは同20.5%、Salesforceは同14.2%でした7,8,9

2023年の市場はキャッシュフローに注目

比較的安価に資本が利用できた低金利環境では、SaaS企業の投資パフォーマンスが突出していました。しかし、金融政策がタカ派的になりつつある現在、投資家は成長段階にあるいくつかのクラウド企業が行う資本集約的なオペレーションに不安を感じているようです。SaaSモデルはユニットエコノミクスの観点で効率性を大きく高めることができますが、2023年においては、収益性を重視している企業が投資家の信頼を得られると考えています10

各社の経営陣は引き続き収益性を今後の重要なテーマに挙げています。Microsoftは改めて従業員の増加を抑える姿勢を示しました。「昨年実行した大規模な人員増強投資については生産性を高めることに集中する一方、今期末まで営業費用の増加は大幅に減速すると予想しています。」と同社の最高財務責任者(CFO)、エイミー・フッド氏は2022年第3四半期の業績発表で言及しました11。SalesforceのCFOも同じように経費を抑えることに集中することを強調しています12。Coupa Software、Zoom、他の多くの企業も同様です13,14。2023年における費用削減競争は、アーニング・サプライズを増加させる可能性もあります。

また、企業は人材を引き留めるために市場平均を上回る給料を払い続けるため、株式報酬は注目すべきもう一つの重要な要因になると考えています。株式報酬は、上場企業の株主にとって希薄化効果をもたらすことがあります。しかし、収益性の高い企業は、株式報酬を現金報酬に置き換え、投資家の信頼を高めることができると考えています。同時に、分配モデルを改善し、多くの製品のアップセルやクロスセルを実行し、営業・マーケティング支出を抑えることにより、投資家と良好な関係を構築できる可能性があります。

低いバリュエーションを受けて案件が増加

低いバリュエーションのため、買い手の関心が高まり、企業合併・買収(M&A)が増加しています。実際に、2022年のテクノロジー上位10案件のうち6件が、クラウドコンピューティング企業が関与するものでした15

買い手は、主に2つのタイプに分けられます。まずは、ソフトウェアに焦点を合わせたプライベートエクイティです。例えば、Thoma BravoとVista Equity Partnersは年間を通して多数の企業を買収しました16, 17, 18。直近では、Thoma BravoがCoupa Softwareを80億ドルで買収することに関心を示しました19。同様に、Vista Equity PartnersはCitrix Systemsを160億ドルで、それより前にKnowBe4を46億ドルで買収しています20, 21。サイバーセキュリティは引き続き、市場平均に対して大きなプレミアムの案件が発生している分野です22。バリュエーションが低下しているため、より多くの案件が生じる可能性が高まっています。

第2の買い手としては、クラウド事業内の不足を補完し、能力を高めることを望む大手テクノロジー企業が2022年に活発でした23。IBMによるRed Hatの340億ドルでの買収はその好例です24。特にインフラサービスはコモディティ化しており、このようなトレンドは続く可能性があります。また、ハイパースケーラーは、ベンダーを囲い込むためにプラットフォームやアプリケーションの買収を増加させる可能性があります。

結論:長い道を賑やかに進む

パンデミックは異常な状況をもたらしましたが、通常への復帰によって、クラウド採用は平均に回帰します。企業がテクノロジー要件を見直すにつれて、クラウド導入の需要は強さを維持するものの、ペースは2020年や2021年を下回ると予想しています。しかし、Global Xの見通しでは、クラウドコンピューティングの長期的な成長可能性は変わりません。2022年、グローバルIT支出は4.4兆ドルを上回りました。また、2023年はさらに5.1%成長すると予想されています25。その支出のうち、3.6兆ドルはクラウドテクノロジーに直接関連する可能性があります26。クラウドへの支出は2022年に4,900億ドルを上回ったと考えられていますが、総IT支出の15%未満に過ぎません27, 28。2030年までに、この比率は30%を超えるとGlobal Xは推定しています。短期的には乗り越えるべきハードルがありますが、長期的な機会は明るいと考えています。