クライメート・ウィークNYC 2022:「気候は新しいベータ」

クライメート・ウィークNYC 2022では、「Getting It Done(やり遂げる)」 をテーマに、政府、企業、市民社会、科学の各分野で活躍する気候変動分野のリーダーが集結しました。今年で14回目を迎えるこのイベントは、エネルギー、自然、交通、環境正義、食糧、金融など、幅広いテーマを扱っています。気候ファイナンスに関する議論では気候変動対策の緊急性が改めて強調されましたが、気候データの改善や最近の政策により一筋の光明が見えてきました。世界の排出量削減のスピードは十分とはいえませんが、サステナブル・ファイナンスのリーダーたちは、投資家はこれに前向きな姿勢を保つべきだと主張しています。排出量目標達成のために再調整することによって、正しい方向への加速が可能です。Global Xは、国連PRI、MSCI、S&Pグローバルが主催する今年のイベントに参加しました。そこで本稿では、最も注目すべき出来事をいくつかご紹介したいと思います。

重要なポイント

  • 気候変動に対する考え方に応じたポートフォリオのポジショニングに対する投資家の関心の高まりを受けて、ネットゼロ投資戦略に対する注目度がますます高まっています。
  • インフレ抑制法のインセンティブにより、炭素回収やグリーン水素などといった新分野への投資が活発化しています。
  • 投融資カーボンフットプリント算出基準策定機関(Partnership for Carbon Accounting and Financials、PCAF)は、企業が科学的根拠に基づく排出量目標に沿うよう支援する新しい基準の開発に取り組んでおり、金融セクターでは「金融に係るGHG排出量(financed emissions)」の計算に注目が集まっています。

投資家のためのネットゼロ戦略

UN PRIとMSCIが共催した今回のイベントで、「気候は新たなベータ(Climate is the new beta)」という表現が提示されました。従来のベータは、分散できないシステミックリスクの指標として、個々の資産が幅広い市場と比較してどのように動くかを示すものです。気候変動は今やシステミックな問題であり、気候は投資家と社会が守らねばならない公共財となっています。このような考え方はポートフォリオ配分の視点に影響を与え得るものであり、ネットゼロに取り組む投資コンサルタントは、結果として気候変動インデックスを顧客のポートフォリオに組み込むことが多くなっています。

ネットゼロ重視型の投資家は、化石燃料へのエクスポージャーの最小化、ポートフォリオの透明性、二酸化炭素排出量の削減、現実世界の変化を促す取り組み、ソリューションへの投資などを、ポートフォリオの検討事項としています。また、削減が困難なセクター全体をばっさりと切り捨てるのではなく、気候変動インデックスを顧客のポートフォリオに組み込み、気候変動バリューアットリスクツールを用いて、ポートフォリオにおける排出分布を把握することができます。

今後、気候変動ベンチマークやインデックスは、クライメート・トランジション(移行)において重要な役割を果たしていくと思われます。インデックスプロバイダーは、インデックスに特定の企業が含まれるか含まれないかによって、その企業の経営陣がどのような気候関連指標を優先させるべきかを示唆することができます。また、資産運用会社は、企業の気候変動に対するアクションと二酸化炭素排出削減計画をより良く評価するため、透明性の向上とサステナビリティレポートの発行への取り組みに注力しています。アクティブ、パッシブともに、サステナブル投資ファンドの資産は、2017年以来2倍以上に増加しています。

商業的に利用可能な炭素回収および水素への投資

インフレ抑制法およびインフラ投資・雇用促進法は、クリーンテクノロジーに対しコスト面での優位性を持つために必要なインセンティブを与えています。UN PRIとMSCIが共催したイベントでは、インフレ抑制法によってクリーンエネルギーを動力源とする電解槽で製造された水素に対して1キロあたり3ドルの製造税額控除が適用されたことを受け、グリーン水素が明るい未来を持つ分野であることに注目が集まりました。この補助金により、グリーン水素はブルー水素やディーゼルに匹敵するコスト競争力を備え、米国の天然ガスに匹敵するコスト競争力を持つようになりました。1

クリーンテクノロジーに関心のある機関投資家からは、グリーン水素とともに、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)投資と電気自動車に注目しているとの発言がありました。また、気候変動関連のイノベーションへの投資をリードする機関投資家からは、CCUS投資のスケールメリットによるコストカーブの低下を加速させるために、資本と専門知識の両方を提供することの重要性が強調されました。
投資家からはまた、より新しいクリーンテクノロジーへの投資における先行者として自信を示すことの重要性が指摘されました。気候変動対策の効果を実感するには数十年間を要する可能性がありますが、クリーンテックに対する彼らの確信は、時間の経過とともに徐々に幅広い投資家に受け入れられていくと思われます。10年前には洋上風力は初期段階にあったことを鑑み、気候変動に敏感な投資家はグリーン水素や炭素回収も同様の導入曲線を辿ると想定しています。

「金融に係るGHG排出量(financed emissions)」算出に取り組む金融セクター

ESGの株主エンゲージメントの主な目的の一つは、企業がパリ協定に沿った科学的根拠に基づく排出量削減目標を設定することです。これまで、3,000社以上の企業がSBTi(Science Based Targetsイニシアティブ)に沿った排出量削減目標を設定しました。2 しかし、ローンやその他の金融サービスを通じて金融セクターから融資を受けた排出量については、温室効果ガス(GHG)排出量の算定が複雑です。

UN PRI MSCIのイベントでPCAFは、金融機関が自らの炭素排出量を計算するのを助けるために、GHG会計基準の開発への取り組みに焦点を当てました。現在PCAFがカバーしている資産クラスは、上場株式および社債、法人向けローン、非上場株式、プロジェクトファイナンス、住宅ローン、商業用不動産、自動車ローンなどとなっています。PCAFは今年、保険業界における金融に係るGHG排出量を測定するため、パブリックコメントの収集を開始しました。3

金融に係るGHG排出量に加えて、PCAFは、サービスプロバイダーによる排出量の計測に際し、それを補助すべく共同作業を行う計画を持っています。すなわち、投資銀行が資本調達のための活動をどのように考慮し、実体経済のどの部分がサービスプロバイダーとしての彼らに帰結され得るかという計測です。このことは、2021年4月に資産保有者、資産運用会社、銀行、保険、投資コンサルタントの間で脱炭素行動を調整する「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)」が発足して以来、金融セクターのあらゆる分野にいかに隙間なく脱炭素行動が広がっているかを物語っていると言えます。4

結論:気候変動ファイナンスの未来

クライメート・ウィークNYCは、2022年11月にエジプトのシャルムエルシェイクで開催されるCOP27に向けて基調を打ち出す面からも重要なイベントです。多くの大手金融機関が排出量削減目標を設定したり、気候変動対策への公約を設定したりするなど、この2年間で金融セクターの気候変動対応への姿勢は新たな段階に進んでいます。世界は1.5度に向けた軌道に乗らないかもしれませんが、金融セクターが気候問題に対する投資評価能力を向上させ、企業経営陣とのESGエンゲージメント強化を推進する取り組みに大きな投資を行っていることは明らかです。