企業の大きな後押しを受けるクリーンテック
これからの社会は環境に配慮した社会でなければならないということを多くの企業が知っています。企業は持続可能性に向けた動きを加速しており、気候に優しい事業の推進や環境フットプリントの削減に取り組んでいます。企業がそのような取り組みを進めている大きな要因は、企業の持続可能性を顧客が求めていることにあります。また、各国政府による環境規制の強化など、公共部門の動向もその要因の一つになっています。全世界の大企業上位2,000社のうち40%以上の企業に加え、133カ国の国と多数の都市が、厳格なネットゼロ目標をこれまでに定めています1。これらの企業や各国政府は、全世界の年間排出量の88%を占めています。つまり、それらの主体が持続可能性の取り組みを強化すれば、全世界の排出量を大幅に引き下げることができるのです2。
この記事では、クリーンエネルギー技術を後押しする民間部門の状況について、風力・太陽光発電、電気自動車(EV)および水素燃料電池に着目しながら検討していきます。
重要なポイント
- 企業による再生可能エネルギーの自力調達が増加しています。このことは、風力発電や太陽光発電の成長見通しが今後も高まり続けることを示唆しています。
- 企業連合や個別企業が運輸や配送方式の電動化を競っており、それがEVの導入を加速させる可能性があります。
- 脱炭素化が困難とされてきた分野(例えば建物など)で脱炭素化を実現する手段として、水素に対する企業の関心が高まっており、草創期にあるグリーン水素業界の発展を後押ししています。
企業の再生可能エネルギー調達により風力・太陽光発電が発展
企業はここ10年以上にわたり、日常業務の脱炭素化に必要なクリーンエネルギーを自力で調達する方向に動いてきました。そうした動きは、風力・太陽光発電技術の進歩やコストの低下の後押しにより加速しています。多くの企業にとって、クリーンエネルギーの調達は持続可能性全般に関する取り組みの一環であり、同じ方向を目指す同業他社から刺激を受けてそれが加速する場合もあるようです。例えば、RE100は再生可能電力を100%にすることを目標とする企業の連合体ですが、2023年3月現在では世界の主要企業400社以上が既に参加しています3。RE100のメンバーは全世界の大手クリーンエネルギー購入企業であり、Meta、Google、マイクロソフトなども参加しています4。
現在、企業にとって最も一般的な調達手段は電力購入契約(PPA)でしょう。これは、再生可能エネルギープロジェクトを保有および運営する再生可能エネルギー発電事業者から一定量の電力を購入する契約です。PPAの主なメリットは、企業がクリーン電力設備の所有や運営を直接行わずに排出量を削減することが可能になる点にあります。再生可能エネルギー開発企業が2021年に確保した計画電力容量は31.23ギガワット(GW)でしたが、2022年には世界36カ国における企業PPAを通じて過去最高となる37GWを確保しました5。2008年以降に企業が締結したPPAは約150GWに上っています。これはカナダの総電力容量にほぼ匹敵しています6,7。米国は世界最大のPPA市場ですが、企業による契約容量77GWのうち80%をPPAが占めています8。
PPAによる電力購入者として上位を占めているのはAmazonやMetaなどのテクノロジー企業ですが、購入企業は食品・飲料、石油・ガス、不動産、小売、金融、電気通信などのさまざまな業種に及んでいます9,10。世界最大の再生可能エネルギー購入企業であるAmazonは、2025年までに事業用電力の100%を再生可能エネルギーにすることを目指しています11。2023年2月現在、同社はAESコーポレーションやブルックフィールド・リニューアブルズなど多数の再生可能エネルギー開発企業とPPAを締結しており、24GW以上の再生可能エネルギー容量を確保しています12,13,14。例えば、同社は2022年12月にブルックフィールド・リニューアブルズとPPAを締結しましたが、これは三大陸にまたがる600MWの風力・太陽光プロジェクトであり、同社データセンターからの電力需要に対応するものです15。
企業による再生可能エネルギーの購入は、再生可能エネルギー業界の発展を推進する要因にもなっています。マイクロソフト、Google、Amazonなどの上位購入企業はPPAの仕組みの改善に寄与しており、それにより規模の小さい企業もPPAを利用しやすくなっています。また、再生可能エネルギーの利用者や開発企業は、次世代のエネルギー調達に向けた取り組みを行っています。そこでは、エネルギー貯蔵その他の技術を利用して、クリーンエネルギーにより電力需要に常時対応することが目標とされています。
さらに、一部の企業は、事業所の屋根・屋上や地上に太陽光発電システムを設置するなど、自社での再生可能エネルギーシステム構築を進めています。こうした自社設備による太陽光電力調達を主導しているのは、ターゲットやウォルマートといった米国の小売業者です16。例えば、ウォルマートは、50件を超えるEDPリニューアブルズとの共同プロジェクトなど、再生可能エネルギー開発企業数社と共同で、各地の店舗に180MW相当以上の太陽光発電設備を設置しています17,18。Global Xは、太陽光発電設備の自社設置には大きな成長機会があると考えています。米国では、大規模小売店の屋根・屋上だけでも十分な太陽光発電容量を確保することが可能です。その発電容量は年間84.4テラワット時(TWh)に上り、米国の平均的な世帯800万世帯分に相当します19。
運輸の電動化に向けた企業の取り組みが進展
企業は電気自動車の導入促進についてもさまざまな取り組みを行っています。民間部門におけるそのような取り組みの一つの形として、EV100などの多国的企業連合によるEV導入促進が行われています。EV100は「2030年までに運輸の電動化を新しい常識とする」ことを標榜しています。EV100に参加しようとする企業は、「貨物車の電動化」、「社員・顧客向け充電ステーションの全拠点への設置」、「電動化サービス契約締結の義務化」の一つ以上を2030年までに達成することを公約する必要があります。
EV100は10団体により2017年に設立されましたが、現在はバンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス、デロイト、リフト(Lyft)、ジーメンス、バイエル、ユニリーバなど127社が参加しています20。EV100の最新版進捗報告書によれば、参加企業はこれまでに40万4,608台のEVを導入し、3万件の充電ユニットを3,200箇所に設置しています21。参加企業がこれまでに購入を公約したEVは575万台、建設を公約した独立の充電ステーションは6,443箇所に上ります22。
製薬業界およびEV100の注目企業であるアストラゼネカは、2019年以降、自社の貨物車の15%をEVに転換しました23。アストラゼネカは、自社バリューチェーンのカーボンフットプリントを2030年までに半減するとともに排出量を2045年までに90%削減する取り組みを実施しており、EV100への参加はその一環として行われたものです24。フランスの電力会社であるEDFグループもEV100の有望な参加企業です。同社は原子力発電および再生可能エネルギー生産を行っています。EDFは2022年に2,401台のEVを新規に導入しました。これは他のEV100参加企業を上回る台数です25。クリーンテックや再生可能エネルギー分野の企業が、持続可能な生産物をエンドツーエンドで提供しようとする場合には、配送その他の輸送にEVが必要となりますが、EDFはそれを目指している企業の一例です。
個々の企業も、自社の持続可能性の枠組みにEVを組み込む動きを進めています。Amazonはリヴィアン(Rivian)との提携を活用し、1,000台以上の電気配送トラックを2022年末までに投入しました26。Amazonは2030年までに10万台のEVを配備することを公約していることから、この取り組みは端緒にすぎないと考えられます27。また、ウォルマートは先頃、ラストワンマイル配送サービス向けに4,500台のEVを購入する契約をカヌー(Canoo)と締結しました28。この契約には、10,000台を上限とする追加購入オプションが含まれています29。
一部の企業は、長距離トラック輸送の電動化手段としてEVに着目しています。ペプシコは2022年末にテスラの新型EVトラック「セミ」を企業として初めて導入しました。セミは航続距離400マイルを誇るテスラの大型EVトラックです。ペプシコは2017年にセミを100台予約しており、2030年までに直接排出量を75%削減することを目指しています30。
草創期にあるグリーン水素業界は企業の購入増加に伴い拡大を開始
水素燃料電池は最新のクリーンテクノロジーです。現在は企業が実験を進めており、それによりグリーン水素分野は急速に拡大しています。燃料電池は、水素と酸素が電気化学反応を起こす条件を作り出すことにより電気を発生し、水蒸気と熱以外には副産物を生成しません。水素を持続的に生成することができれば、燃料電池は、建物、自動車、大型機械などの脱炭素化が難しい分野の需要に対応するクリーンなエネルギーを生み出すことができます。一部の企業は、設備の電化用途や定置電源として、燃料電池の導入を切望しています。
このセクションで取り上げる全ての燃料電池プロジェクトがグリーン水素を既に利用しているわけではありません。ただ、そのような利用状況にとどまっているのはグリーン水素がまだ希少であるためです。水素が持続的に供給されて入手が容易になれば、燃料電池はエネルギーミックスの中でよりクリーン度の高い位置をすぐに占めるようになるでしょう。
Amazonは2016年に締結したプラグパワー(Plug Power)との提携を2022年8月に拡大し、水素分野で注目を集めました31。Amazonは、輸送用および業務用として年間1万950トンのグリーン水素をプラグパワーから購入することに合意しました32。この案件は2025年から稼働する予定であり、3万台のフォークリフトあるいは800台の長距離トラックに必要な電力を発生できる水素をAmazonに供給することが予定されています33。Amazonはこの案件の一環として、プラグパワーの株式を1,600万株まで購入できるワラントを受け取ります。このワラントは、Amazonが7年間の契約期間中に水素製品を21億ドル以上購入した場合に権利が確定するものです34。
また、プラグパワーはウォルマートとの提携についても最近拡大しました。プラグパワーは、ウォルマートによる数千台の水素駆動フォークリフト開発を支援したほか、それらのフォークリフトの動力源として1日当たり最大20トンの液化グリーン水素を供給する契約を昨年締結しました35。Global Xは、企業による購入が、プラグパワーの収益拡大の主なカタリストになると予想しています。プラグパワーの経営陣は、同社の収益が、この種の契約を主な要因として2022年の7億100万ドルから2026年には50億ドルへと成長する可能性があると考えています36。
また、企業の中には、バックアップストレージの選択肢として燃料電池技術をテストするパイロットプログラムを実施しているものもあります。ホンダは発電容量500キロワット(KW)の燃料電池定置電源を設置してデータセンターにエネルギーを供給しており、マイクロソフトも発電容量3MWの類似プロジェクトを実施しています37,38。ホンダのプロジェクトは拡張を想定したものであり、今後も稼働を継続すると予想されています。また、マイクロソフトは、上記プロジェクト終了後のいずれかの時点でモジュールの製品版を設置する予定です。
ブルーム・エナジー(Bloom Energy)は燃料電池を基盤とした発電プラットフォームの製造と設置を行う企業です。同社はGoogle、パナソニック、アドビ、IBM、モルガン・スタンレーなど多数の法人顧客を有しています39。ブルームはホームデポとも長年にわたる関係を築いています。ホームデポは2021年末にブルームの燃料電池を利用して204店舗に電力を供給した経験があります40。
また、グリーン水素に対する企業の関心が、水素技術のイノベーションを推進する契機となった事例もあります。ネル(Nel ASA)は2022年末のプレスリリースにおいて、ゼネラルモーターズの燃料電池関連知的財産の一部についてライセンスを受け、それを活用して同社のプロトン交換膜(PEM)電解槽製品群を商品化することを発表しました41。それらの機器は、水を水素と酸素に電気分解するために電力を使用し、それらをグリーン水素の製造に不可欠な導管とするものです。また、2022年にはIBMとMetaがそれぞれ別個に発表を行い、データサポートと計算能力の提供により水素サプライチェーンの物理的開発を支援し、グリーン水素のコスト引き下げに取り組むことを公表しています42,43。
結論:持続可能性に対する企業の取り組みがクリーンテックのテーマを後押しする
クリーンテックの投資テーマは、エネルギー転換の中で企業の影響力を捕捉する多様な機会を投資家に提供します。企業が、政府の規制とインセンティブ、および消費者の圧力に促されて脱炭素化と持続可能性の取り組みを増強する中で、エネルギー転換における企業の役割は一段と重要になるとGlobal Xは予想しています。企業の持続可能性を要請する動きがこのように高まっていることにより、グリーンテクノロジーが一般化して採用が拡大し、それが風力・太陽光発電企業、EVメーカー、水素燃料電池メーカーおよびグリーン水素メーカーの利益につながる可能性があるというのがGlobal Xの考えです。