「CES 2022」の振り返り:一段と高まりつつあるテクノロジーのアクセシビリティと相互運用性
CES 2022の展示会場は、オミクロンの影響で会場でのプレゼンテーションを取りやめる企業が多く、例年ほどの賑わいは見られませんでした。しかし、対面式とバーチャルでのプレゼンテーションが力強く結びつき、テクノロジー製品のイノベーションパイプラインは相変わらず刺激的であることが示されました。ビデオゲーム会社は、メタバースを前進させる最新技術を発表しました。従来型自動車メーカー(OEM)の多くは、電気自動車(EV)や自律走行車(AV)に対する最近の取り組みを公表しました。そして、モノのインターネット(IoT)のエコシステムは、閉鎖されたエコシステムの終焉と相互運用性の拡大を告げるものとなりました。
本稿では、CES 2022でGlobal Xが注目した点を取り上げ、2022年のテクノロジーのあり方を変えるトレンドについて詳しく説明します。
メタバースで一層リアルになったビデオゲーム
通常は、エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ(E3)がゲーム業界の新製品発表の場として開催されています。しかし、今年については、各企業はCESの展示会場で最新技術の一部を披露するなど、メタバースを取り巻く最近の流れを最大限に活用しました。新たなハードウェア製品の多くは、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)を用いて没入感を高めようとするものです。ある推定によると、AR、VR、MRの市場は、2021年の310億ドルから今年は590億ドルへと倍近く拡大し、早ければ2024年には2,970億ドルという途方もない規模にまで成長する可能性があります。
ソニーは、2016年発売のPlayStation 4に対応する初のVRヘッドセットの後続機として、待望のPlayStation VR 2(PSVR 2)を発表しました。同社は、PSVR 2により、110度の視野角、3Dオーディオ、1本のコードによるUSB-C接続、コンシューマー市場初となるアイトラッキングなど、最先端のソフトウェアを通じて、より没入感のあるオーディオビジュアル体験を実現することに注力しています。また、PSVR 2はインサイドアウトトラッキングを備えた有機ELディスプレイを搭載しており、外付けカメラを必要としません。さらに、新作ゲームの「Horizon: Call of the Mountain」も紹介しており、ゲームプレイに新たな没入感をもたらすものとして期待を集めています。
パナソニックの子会社であるShiftallは、VRウェアラブルテック製品として、ボディスーツのHaritoraXとPebble Feelを発表しました。HaritoraXは、StreamVRに対応した全身トラッキングデバイスで、ユーザーの足首、胸、大腿部の動きに注目したものです。Pebble Feelは、人体を温めたり冷やしたりするので、ユーザーは温度変化を感じながらデジタルの世界を楽しむことができます。同様に、Owo Gameは、Haptic Vestによるバーチャルセカンドスキンを紹介しました。これにより、ハグやパンチなど上半身にさまざまな感覚を得られるようになります。
タイムの3Dデザイン・コラボレーションおよびシミュレーションのプラットフォームであるNvidia GeForce Studio向けに、無料版オムニバースを開発中であると発表しました。この計画は、エンジニア、3Dデザイナー、コンテンツクリエイター間のコラボレーションを促進し、より多くのオムニバース対応アセットへのアクセスを提供しようとするものです。このオムニバースは、ビジネス、娯楽、社交用に相互接続され、相互に運用可能な仮想世界を活用することで、分散性を維持しています。Nvidiaのオムニバースは、GeForce RTXおよびNVIDIA RTXグラフィックプロセッシングユニット(GPU)のユーザー向けに提供されています。
EV/AVテクノロジーはマスマーケット重視へとギアチェンジ
近年、CESにおける電気自動車の重要性が増しています。歴史的には、この展示会では、テスラ・モデルS、ルーシッド・エア、ポルシェ・タイカンなど、高級車メーカーがハイエンドのセダンやロードスターを出展してきました。今年のCESでは、メルセデス・ベンツが走行距離620マイルという驚異的な性能を持つVision EQXXを、BMWがE Inkを採用することで変色可能となった初のコンセプトカーiX Flowを発表するなど、高級感を残した展示が行われました。しかし、CES 2022では、従来のOEMメーカーが一般消費者向けに電動化の取り組みを強めるといった画期的な変化が見られました。
クライスラーとシボレーは、手頃な価格の家庭向け長距離走行車のラインアップを発表しました。2022年型Chevy Equinoxは機能性の高いSUVで、基本価格は3万ドルと、現在のKelley Blue BookのEV平均価格51,532ドルを大きく下回る手頃な価格となっています1。シボレーもSilverado EVを発表しましたが、わずか12分で完売となりました2。この近未来的なピックアップトラックは、1回の充電で400マイル以上の走行が可能であり、現在の米国製EVの平均走行距離である250マイルと比べれば、画期的な性能を持っていると言えます3。クライスラーのAirflowも長距離走行を前提としたものであり、1回の充電での走行距離は350〜400マイルを想定しています。
「Charting Disruption 2022」の調査によると、消費者がEVを購入する際に示す最大の懸念は、走行距離と高額の初期費用であることが明らかになっています。CES 2022を見た限り、自動車産業はこうした課題に正面から取り組んでいるように思われます。
アグリテックの面では、ジョンディアが初の量産型完全自律走行電動トラクターを公開しました。今年後半に発売されるこのトラクターは、ディープニューラルネットワークによる画像をナビゲーションに利用します。トラクターの前方にある3つのカメラと後方にある3つのカメラが各ピクセルを約100ミリ秒で分類し、前方に障害物を発見した場合、自動的に停止します。また、スマホのアプリを利用してトラクターをモニタリングすることもできます。こうしたテクノロジーにより、排出ガスや運用コストを低減し、収穫量を向上させることができるようになります。
統合型IoTのエコシステムが出現
スマートホームデバイスを扱うほぼすべての企業が「Matter」について言及しました。Matterは、インターネットプロトコル(IP)をベースに、安全で信頼性が高く、セットアップが簡単なスマートホームデバイスの世界標準を目指すものです。新たに設立されたMatter Allianceが中心となって、Matterはスマートホームデバイス、モバイルアプリケーション、クラウドサービス間の通信を可能にする予定です。スマートホームのリーダーであるアマゾン、グーグル、アップルを筆頭に、多くの企業がこのアライアンスへの支持を表明しています。
コネクテッドデバイスの統合により、IoTは消費者にとってさらに魅力的なものになるでしょう。例えば、アマゾンは、Alexaに他の音声アシスタントとの相互互換性を持たせることで、エンドユーザーがどのアプリや音声アシスタントでスマートデバイスを動かすかを決められるようにすると発表しています。また、自宅のスマートウィンドウやスマートドアとアマゾンのエアクオリティモニターを接続することにより、一酸化炭素漏れなどを知らせるといったシナリオも考えられます。
大筋として、CES 2022においては、IoTがこれまでの派手なショーではなく、より実用的でリアルなユースケースを持つデバイスにシフトするという画期的な変化が見られました。例えば、医療データのソリューションプロバイダーであるSteadySenseは、体温を継続的に測定し、感染症の早期発見につなげるスマートパッチを発表しました。また、AIとヒューマノイドロボットの企業であるUbtechは、展開可能なシート、生体情報モニター、ルートマップを搭載した歩行支援ヘルスケアロボットを発表しました。さらに、AI企業のPhiar Technologiesは、人工知能を搭載した高度なコンピュータビジョンを使用するドライバー向けに拡張ナビゲーションシステムを開発しました。
結論
例年通り、CESはテクノロジー製品が今後どうなるかを垣間見させてくれるものとなりました。しかし、今年のCESは、多くの新技術が一般消費者を対象とした日常的なデバイス向けのものになっているという点で、これまでのイベントとは大きく異なりました。コネクテッドスマートホームの普及、効率性が高く低価格化した電気自動車、よりリアルなバーチャル世界など、そのユースケースは無限大のようです。展示された技術や製品の多くは、遅かれ早かれ、これまでのセクターや消費者行動に対して革新を起こす可能性が高いとGlobal Xでは確信しています。