設備投資スーパーサイクル:米国インフラを再構築するメガプロジェクトの波
アメリカは産業基盤を再構築しており、建設ブームの真っ只中にあります。幅広い取り組みとして始まったものが、現在では一体的な建築サイクルの形をとり、AIインフラや先進的製造業、エネルギー安全保障が長期的な経済的強靭性を追求する1つの取り組みに集約されつつあります。この投資の拡大はすでにデータに表れています。2025年に計画段階に入った最大の商業プロジェクトはデータセンターです1。また、グローバルXの分析では、2025年1月から2026年3月中旬までの間に、半導体や医薬品などの戦略的に重要な産業を中心に1.42兆ドル(約230兆円)に上る米国製造業の投資計画が発表されました2。
大規模インフラ・プロジェクトが計画・開発段階を経るにつれて、建設・エンジニアリング関連のサービス・プロバイダー、原材料供給業者、設備機器サプライヤー、産業輸送サービス・プロバイダーなど、米国のインフラ開発バリューチェーン全体の企業に大きな機会がもたらされるとグローバルXは予想しています。本稿では、メガプロジェクトの次の波とそれらが全米でどのように具現化しつつあるかを検討します。
重要なポイント
- 企業が、工場・データセンターから送電網まで、インフラ資産への設備投資を強化していることが、米国のインフラ開発案件の増加につながっています。
- 10億ドル(約1,600億円)以上のコストを要するプロジェクトと定義されるメガプロジェクト案件は、2025年には3兆ドル(約480兆円)以上に拡大し、米国のインフラ開発バリューチェーンに大きな潜在的機会を生み出しています3,4。
- 完成した製造プロジェクトやデータセンターのプロジェクトは、こうしたメガプロジェクトで通常どの程度の資材、建設、労働力が必要とされるのかを理解するうえで、有益な情報を提供してくれます。
新たな産業革命によって米国のインフラ開発案件が増加
米国は、イノベーション経済の次の段階に向けて物理的基盤を整備する長期的な構築の真っ只中にあります。グローバルXでは、現在のサイクルは2つの中核的な柱に支えられていると考えられます。第1は、自動化時代を実現するAIインフラの構築であり、第2は、産業基盤を近代化し、重要な生産工程をリショアリング(自国回帰)させる次世代製造施設の構築です。これらの柱は、米国のインフラ開発バリューチェーン全体に対して合計数兆ドル規模の需要があることを意味します。
この動きは現在、製造業で最も顕著です。米国の製造業を強化し、世界のAI競争で米国をリーダーにしようとする企業の取り組みは、製造施設プロジェクト案件を増加させています。関税の導入や世界的な貿易摩擦の高まりの中で、投資は2025年初めから加速し始めました。2025年1月から2026年3月中旬までの間に、企業は数十の製造施設の新設または拡張を発表しており、合計投資額は1.4兆ドル(約225兆円)に上る可能性があります5。
商業施設計画に関する統計が示すように、AIデータセンター・インフラも急速に拡大しています。2025年では計画段階に入っている1億ドル(約160億円)以上のプロジェクトが460件あり、中でもデータセンターは常に毎月最高金額のプロジェクトとなっています6。12~18か月以内に着工につながる可能性のある商業・公共施設計画を計測するダッジ・モメンタム指数(Dodge Momentum Index)は2025年に前年比34%上昇しました7。この前年比大幅上昇は、インフラ新設の勢いの持続と2026年から2027年初頭にかけて非住宅建設着工件数が加速し始める可能性を示しています。
特に、10億ドル(約1,600億円)以上の費用がかかるプロジェクトと定義されるメガプロジェクトは、米国のインフラ開発に携わる企業にとって最も大きく、かつおそらく最も影響力があるプロジェクト案件の一つです。メガプロジェクトは、道路や橋の大規模な拡張から医療施設や娯楽施設まで、幅広いカテゴリーにまたがります。もっとも、2025年は、データセンターがメガプロジェクト計画活動の54%を占め、残りの大部分がリショアリングによるものでした8。
2025年に北米メガプロジェクトの未完了案件に加わったプロジェクトの総額は前年比30%増の9,370億ドル(約150兆円)となりました9。第4四半期時点で、未完了のメガプロジェクト案件は866件、総額3兆ドル(約480兆円)でした。そのうち建設が開始されたのはわずか16%であり、これらのプロジェクトが数年にわたって継続することを示しています10。
現場から:メガプロジェクトがインフラ構築のあり方を大きく変えつつある
今後予定されている多くのインフラ・プロジェクトが大規模で複雑であることは、大量の資材、建設、労働力を必要とする可能性が高いことを意味します。例えばインテルは、同社の半導体製造施設の一つを建設するには60万立方メートルのコンクリート、7.5万トンの鉄筋、3.5万トンの構造用鋼材、2,950万フィート(約9,000キロメートル)のケーブルが必要になると見積もっています。また、各工場では100万立方メートル以上の土砂を撤去する必要があり、各プロジェクトには推定6,000人の建設作業員が必要です11。データセンターも、コンクリートや鉄鋼、銅配線など、大量の資材と労働力を必要とします。また、計画されている施設の多くはへき地にあり、道路や電力インフラの建設が必要になる可能性もあります。
上記を補足すると、大規模な製造施設やデータセンター施設を構築するのに必要な資材、時間および労働力の規模は完了済みプロジェクトを通して確認することができます。
製造業:アリゾナ州フェニックスにあるTSMC半導体製造拠点
TSMCは、総額1,650億ドル(約26兆円)を投じて、アリゾナ州フェニックスに同社初の6つの米国半導体製造施設、2つのパッケージング工場、水再生施設、研究センターを建設する計画です12。TSMCは2020年12月に1,129エーカー(約4.6平方キロメートル)の敷地を取得し、2021年4月から2022年7月にかけて350万平方フィート(約33万平方メートル)を超える最初の製造施設(ファブ)の躯体建設を行いました13。2025年9月時点で、この拠点には2つの完成済みの半導体製造施設、大規模な道路・駐車場ネットワーク、ガス・プラント、電力インフラ、その他のサポート施設が含まれます。
建設にはまだいくつかの段階が残っていますが、この拠点はすでにかなりの電力を消費しています。TSMCの最初のファブだけでも、1日あたり2.85ギガワット時の電力を必要とすると推定されています。これは約10万世帯の需要に相当します14。TSMCは、屋根付き駐車場を兼ねて14.5メガワットを発電する165万平方フィート(約15万平方メートル)の太陽光パネルを現地に設置することにより、予想される電力需要をわずかでも賄うことを目指しています15。また、現在1基のガス火力発電所が稼働しており、将来的にはさらに2基の建設が計画されています。また、工場が送電網に接続できるようにするための新しい送配電インフラも備えています。
製造業:ジョージア州エラベルにある現代(ヒョンデ)自動車のメタプラント米国EV生産施設
ヒョンデ自動車は2025年3月、76億ドル(約1.2兆円)を投じた電気自動車生産工場を30か月に及ぶ建設期間を経てジョージア州に全面稼働させました16。敷地面積は3,000エーカー(約12平方キロメートル)近くあり、これは同州史上最大の経済開発プロジェクトです17。工場は高度に自動化されており、当初はヒョンデ自動車のIONIQシリーズやハイブリッド車を中心に年間30万台の生産を予定しています。将来的には、生産能力を年間50万台まで拡大する可能性があります18。
敷地内には展示ホール、主要オフィス、電池パック生産・一般組立・溶接・塗装などの高度に専門化された生産棟、車両の検査・出荷準備を行う車両処理センターなど、合計750万平方フィート(約70万平方メートル)以上となる11棟の建物があります19。初年度に、2.7万トンの鋼材を用いて建物の鉄骨枠組みの81%が完成しました20。敷地内には、敷地内の鉄道ターミナル、追加の鉄道・道路インフラ、太陽光パネルで覆われた駐車場や、エコロジカルパークもあります。
製造業:オハイオ州ニューアルバニーにあるアムジェンのオハイオ・バイオ製造施設
アムジェンは、オハイオ州中部のバイオ製造拠点に総額14億ドル(約2,200億円)を投資する計画です21。米国を拠点とするバイオ医薬品メーカーである同社は当初、同拠点に4億ドル(約640億円)以上を投資する計画を2021年6月に発表しました。この拠点は、最初の30万平方フィート(約3万平方メートル)の施設と周辺のインフラの建設を26か月で完了し、2024年1月にFDAの承認を得て、同社史上最速で完成しました22。アムジェンは2025年4月、この施設の生産能力を拡大するために9億ドル(約1,400億円)を追加投資する計画を発表し、2025年末時点でまだ建設中です23。
追加の現場工事には、大規模な道路網と駐車場の建設が含まれています。アムジェンはまた、敷地内に大規模な地上設置型太陽光発電施設を設置しました。これにより、工場電力消費量が約20%削減される見込みです24。
データ・センター:インディアナ州ニューカーライルにあるAWS(アマゾン ウェブ サービス)のプロジェクトRainier
アマゾンは、インディアナ州にある1,200エーカー(約4.9平方キロメートル)のプロジェクトRainierの敷地に、110億ドル(約1.8兆円)以上を投じて20以上のデータセンター施設を建設する計画を立てています25。2024年9月から2025年10月にかけて、アマゾンは、3区画の農地のうち最初の区画を、アンソロピックのAIモデルを動かす7つの施設を備えたデータセンター・キャンパスに変貌させました26。2026年初の時点で、残り2つのキャンパスの建設が南側の近隣敷地で進行中です。
最初のキャンパスの建設を12か月以内に完了させるため、アマゾンは4社のゼネコンを同時に採用し、工事を並行して進める体制を構築しました27。第一段階の建設には7つのデータセンター施設が含まれ、各施設には26台のバックアップ発電設備が設置され、大規模な電力、道路、駐車場のネットワークも備わっていました。3つのキャンパスがすべて完成すれば、その敷地には合計30のデータセンター施設が含まれる予定です。
これらの施設は、合計すると100万世帯以上に電力を供給するのに十分な量である2.2ギガワットの電力需要が生じる可能性があります28。大量の消費電力とインフラの必要性を踏まえ、アマゾンはこの地域の電力設備の更新に1.14億ドル(約180億円)、高速道路の改良に700万ドル(約11億円)を寄付しました29。
データセンター:アリゾナ州メサにあるメタのRedhawkデータセンター・キャンパス
メタは、アリゾナ州メサにあるデータセンター敷地に2棟を建設する段階で合計10億ドル(約1,600億円)を投資しました30。このプロジェクトには、合計約250万平方フィート(23万平方メートル)の5つのデータセンター建物と、オフィス・スペース、大規模な道路とフェンスのネットワーク、駐車場、変電所が含まれています31。2021年から2026年にかけて、メタは敷地開発のために2万トン超の鋼材と約28.7万立方メートルのコンクリートを使用しました。工事の最盛期には、2,000人を超える熟練労働者が現場に動員されています32。
メタは、敷地内のインフラに加えて12の地域水資源保存・回復プロジェクトを支援しています。これらのプロジェクトでは、コロラド川とソルト川の流域で年間約2億ガロン(約8億リットル)の水資源の回復を目指しています33。さらに、メタはデータセンターの電力需要の少なくとも一部を賄うことを目的として、発電容量450メガワットの太陽光発電設備への投資を進めています34。
結論:米国はイノベーション経済の基盤を築きつつある
サプライチェーンの強靭性に対する関心の高まりやAI導入の増加などの長期的な構造要因が相まって、米国全体で大規模インフラ・プロジェクトへの投資が広がっています。その結果、インフラ開発への需要が急増しており、それはデータセンター、工場から発電、送電、物流インフラに至るまで大規模な開発を可能にするサービスや設備、資材に及んでいます。プロジェクト案件が増えるにつれて、インフラ開発バリューチェーン全体の企業にとって大きな機会が出現する可能性が高いと考えられます。
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