ウラン市場インサイト:原子力をめぐる米国の野心が業界復活の原動力に

第2四半期(4~6月)には、米国の原子力エネルギー産業の再活性化を目指す大統領令の発令をきっかけとして、原子炉メーカーを筆頭に原子力セクターで予想外の株価上昇が見られました。大統領令の中で、数十年にわたり電力網の拡大の足かせとなってきた規制上の負担が措置の対象となったことが買い材料になりました。こうした政策措置は、米国の原子力産業の持続的な成長の土台となり、ロシアや中国などの競合国に遅れをとっている欧米諸国の開発加速につながる可能性があると考えられます。この勢いはまだ始まったばかりだと思われ、最近の資金提供者の参入もグローバルXにおける強気見通しを裏付けています。この先、紆余曲折があることは認識していますが、この分野は今後数十年にわたる大きな将来性を秘めているとグローバルXは考えています。

重要なポイント

  • 米国は、世界最多の稼働中の原子力発電所を保有しているにもかかわらず、原子炉建設では競合国に大きく遅れをとっており、中国とロシアが建設計画の大部分を占めているのが現状です。
  • 2050年までに米国の原子力発電能力を4倍に引き上げることを目指す最近の政策措置は、現代において最も重要な原子力関連の法制化に相当する可能性があり、米国の原子力産業を一変させる可能性を秘めています1
  • 政策支援、民間セクターの投資、世論のすべてが、世界的なエネルギー不安に対処するための優先的な手段として原子力を支持する方向であることから、勢いは今後も続くとグローバルXでは考えています。

電力をめぐる新たな冷戦

エネルギー安全保障は、21世紀にわたり極めて重要な関心事になると見られます。世界の電力消費量は2027年まで毎年4%ずつ増加し、2040年までに50%(13,300TWh)増加すると予想されています2。その増加分の大半を開発途上国が占めると予想されます。というのも、急速に工業化が進んでいる国々は、新たに台頭する中間層の消費増加に対応するためにインフラを拡大する必要があるからです。一方、欧米諸国もただ傍観しているわけではありません。米国内の電力消費に関する最新の成長予測によれば、今後3年間でカリフォルニア州分に相当する電力需要の増加が見込まれます3。これは、年間成長率が0.1%にすぎなかった2005年~2020年とは対照的な勢いです4

この世界的な成長を支えるのは、急速な工業化や電化、始まったばかりのAI革命であり、そのためには原子力エネルギーが不可欠だと考えられます。ハイパースケールデータセンターのような24時間年中無休で稼働する産業では、中断のない継続的な運転が求められるため、ベースロード出力を大幅に拡大する必要があり、それには原子力発電が最適だと考えられます。

電力需要が増加している現状と、過去20年間で原子炉を2基しか導入していない米国の原子力発電網の状況を照らし合わせてみても、米国と競合国との間には明らかな差があります。同じ期間に中国だけで33基の原子炉が建設されています5。米国と欧州は世界最多の稼働中の原子炉を維持し続けていますが、多額の投資がなければ、欧米諸国が遅れをとるリスクがあることは明白です。別の言い方をすれば、AI革命の実現には、それを支えられる発電量の増加が不可欠です。そしてこれには、実質的な政策支援が必要だと考えられます。

米政権、大統領令で原子力産業をてこ入れ

5月23日に、米国連邦政府は4つの大統領令を発表しました。その中で掲げられた目標は、「原子力エネルギーの世界的リーダーとしての米国の地位を再確立する」こと、そして2050年までに米国の原子力発電能力を現在の100ギガワット未満から400ギガワットに拡大することです。これらの大統領令は、米国の原子力発電量目標を実質的に4倍に引き上げる一方で、長年にわたり業界の成長を抑え込んできた規制上の負担に対処し、承認手続きを軽減すると同時に、国内の原子力サプライチェーンと原子炉配備に対する支援を成文化しています6

このような内容を考え合わせると、21世紀に原子力産業のために制定された最も重要な政策措置に相当する可能性があり、米国の原子力政策を前進させるための重要な転換点になるとグローバルXは考えています。以下のセクションでは、それぞれの大統領令の詳細を説明しています。

米国原子力規制委員会(NRC)の改革

2024年9月に、マイクロソフトはSMR(小型モジュール炉)プロジェクトの認可取得にかかる費用と時間の削減に関するプレゼンテーションを行い、その中で「認可取得手続きは、新規(原子力)プロジェクトを稼働させる上で唯一かつ最大の障害だ」と述べ、現状ではプロジェクトの承認に数十年かかり、申請費用が数千万ドルから数億ドルに及ぶことを指摘しました7。「原子力規制委員会の改革」と題された1つ目の大統領令の狙いは、まさにこの懸念に対処することです。

2022年9月に米電力会社LG&E and KUにより発表された報告書で引用されている従来の審査手続きに基づくと、SMRの審査スケジュールは、事前申請からNRCによる最終的な運転認可の承認までに8~12年かかり、必要なすべてのNRC認可を取得するための総費用は4億ドル~6億ドル(約600~900億円、テネシー川流域開発公社とデューク・エナジーの場合)に及ぶ可能性があります8

NRCの改革を指示する1つ目の大統領令において最も重要な側面は、認可取得費用に明確な制限を設け、承認スケジュールの短縮を義務付けたことだと考えられます9。これには、1)新型原子炉の建設・運転の申請に対する最終決定までの期限を18か月とすること、2)既存原子炉の運転継続の申請に対する最終決定までの期限を12か月とすること、3)NRCによる時間当たりの料金の回収に一定の上限を設けることが含まれます。理論的には、この大統領令によって、審査スケジュールが数年短縮されるとともに、原子力産業の規制費用が数億ドル削減され、原子炉の新規建設と再稼働の経済条件が大きく変わる可能性があります。

エネルギー省(DOE)における原子炉試験の改革

NRCにより課される煩雑な規制は、米国の原子炉配備を数十年にわたり妨げてきた可能性があります。その結果、過去25年間に認可された新規原子力発電所はわずか3か所にとどまっており、州と原子力分野のスタートアップ企業の共同体がNRCを相手取って訴訟を起こす事態に至りました10。米国は世界最多の原子炉を保有しているにもかかわらず、規制が緩やかな国外の競合国に原子力分野での主導権を徐々に奪われつつあります。

2つ目の大統領令は、米国における核研究開発の取り組みの核心に切り込むものであり、試験要件の改革を目指して以下の2点に関する改革を規定しています。すなわち、1)DOEが所有または管理する施設における適格な改良型試験炉の審査、承認、配備を、申請完了後2年以内に進められるように迅速化する、2)既存の原子炉サイトに建設する際は環境審査を迅速化または省略して、必要に応じて適用除外リストを作成し補足分析を利用する、という点です。これらを合わせると、原子炉のプロトタイプの建設を遅らせてきた時間的な要因の解消につながる可能性があります。

この大統領令では、上記の効率性の義務に加えて、2026年の独立記念日までに3基の新型原子炉で臨界(自動継続的な核分裂反応)を達成するという目標が設けられています。それはすでに、米国内の迅速な研究開発の取り組みに潜在的に寄与しており、その一例として、DOEは8月13日に原子炉パイロットプログラムのための11件の先進原子炉プロジェクトを選定したことを発表しました。2016年以降、ベンチャーキャピタルとプライベートエクイティで89億ドルを超える資金が調達されてきた状況を考え合わせると、この大統領令は、米国内で先進的な原子炉開発企業の勢いが活発化していることを反映している可能性があります11

原子力産業基盤の再活性化

原子力産業基盤の再活性化を図る3つ目の大統領令は、国内の核燃料サプライチェーンを対象としています。この大統領令の最も重要な部分として、民間および国防分野で予想される低濃縮ウラン(LEU)、高濃縮ウラン(HEU)、高分析低濃縮ウラン(HALEU)のニーズを満たす十分なレベルまで、国内のウラン転換・濃縮能力を強化する計画を策定するという指示が含まれます。

3つ目の大統領令は、政府のプルトニウムと余剰なウランの在庫を、適格なパイロットプログラムの原子炉における使用に放出することで、原子炉のプロトタイプの試験に対する短期的な懸念を軽減し、原子炉試験を改革するというトランプ政権の指令を支えるものです。この大統領令がウランのサプライチェーンに重点を置いていることを考えると、米国の核燃料サイクルに大きく関わっている企業が今後、最も恩恵を受ける立場にあると考えられます。2025年8月時点で、米国の既存の核燃料サプライチェーンは、国内の原子炉需要を満たすには不十分な状況にとどまっています。2024年の米国内のウラン生産量は過去6年で最も高い水準となる約67.7万ポンド(約31万キログラム)に達しましたが12、それでも、その前年に国内の電力会社が購入したウラン総量5,160万ポンド(約2340万キログラム)のわずか1.3%にすぎません13

さらに、既存原子炉で5ギガワットの出力増強を促すために必要な取り組みを優先することによって原子力配備のペースを加速することを目的として、この大統領令に追加規定が設けられました。これは、2030年までに10基の新しい大型原子炉を建設するという長期目標に向けて、2030年代に新型原子炉が段階的に市場に出始めるプロセスの第一歩だと考えられます。

国家安全保障のための先進原子炉技術の導入

3つ目の大統領令でウランが焦点となったことを踏まえて、さらに急を要する問題は、先進原子炉(SMRなど)の配備に不可欠なHALEU(高純度低濃縮ウラン)などの特殊濃縮核燃料の状況です。米国エネルギー省(DOE)の予測によれば、2030年代の原子力需要を満たすには年間50トンのHALEUが必要だとされています14。しかし、米国の民間産業がこの需要を満たす能力は、2023年時点の予測で、2020年代後半まで年間6トンにとどまると見られていました15。さらに、米国外の国々が自国の原子力技術の開発を競う中で、世界でのHALEU供給をめぐる争いが激化していることで、問題は一層悪化しています。

4つ目の大統領令では、電力インフラの開発を目的としてDOE施設での運転許可を得た民間セクターのプロジェクトを支援するために、20トン以上のHALEUを放出することをエネルギー省長官に指示しています。この措置は、SMR技術を拡大する上で大きな障害になると原子炉開発企業から指摘されていたHALEU不足に対処するものであり16、これにより、政府からの供給分を民間セクターが利用できるようになります。また、この大統領令では、先進的な原子炉の持続的な配備に必要な濃縮ウランの長期供給を信頼できる方法で確保する目的で、強固な国内サプライチェーン計画を実施することもDOEに指示しています。

さらに、この大統領令は、米国の原子力拡大をエネルギー安全保障および国防と結び付け、2028年9月30日までに国内の軍事施設に原子炉を配備することを義務付けています。DOEの施設と関連するAIデータセンターを重要な国防資産として指定し、そのようなデータセンターを支える電気インフラを「国防上重要な電気インフラ」と分類するようにエネルギー省長官に指示しています。これらの措置を総合すると、こうした原子力拡大が国家安全保障の要素であることが浮き彫りになります17

結論:原子力発電を支える条件は揃った模様

数十年にわたり成長が抑えられてきた米国の原子力発電は今、政府、民間セクター、そして世論の支持が合わさって、転換点を迎えているように見えます。世論は大きく変化しており、最近実施されたギャラップ世論調査によると、原子力エネルギーを支持するアメリカ人は61%と、過去最高に近い水準に達しています18。同時に、現政権は前政権のイニシアチブを踏まえながら、大統領令を通じて原子力産業への支援を強化してきました。民間資本がこのセクターに流入していることや、大量の電力を消費するデータセンターの急増に伴いエネルギー安全保障に対する懸念が高まっていることを背景に、これまで苦境に立たされていたこのセクターがようやく待望の復活を遂げるための条件が揃いつつあるようです。

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