テーマ・ラボ:ビットコイン・マイニングの舞台裏

力強く、かつ長期にわたるトレンドが発生し、それが世界経済の多くのセグメントにおいて革命的な変化をもたらすなか、Global Xではこのような動きつつあるテーマを採り上げることがより一層重要になってくると考えています。今回の「テーマ・ラボ」では、Global Xが訪問したテキサス州ロックデールにあるライオット・ブロックチェーン社のウィンストーン施設を採り上げます。ウィンストーンは、ビットコイン・マイニングおよびデータセンターのホスティング施設としては、使用する高度電力容量で北米最大、現在行われている拡張工事が完了すれば世界一の規模になるとも言われています。

北米最大のビットコイン・マイニング施設

ライオット・ブロックチェーン社は、上場企業としては米国最大のビットコイン・マイニングおよびホスティング・サービス・プロバイダーの一つです。ビットコイン・マイニングでは、大掛かりな計算作業を行ってビットコイン・ネットワークの安全性を確保するに当たって、大量の電力と先進的なハードウェアを利用します。ビットコイン・マイニングにおいては、「採掘リグ」(一般にマイナーと呼ばれているが、特定用途向け集積回路(ASIC)のこと)を配備してビットコイン報酬を得る仕組みになっていますが、一方でネットワーク上の取引を実行するに当たって大量のエネルギーを消費します。

ここ数年は、ライオット社の収入の約8割はビットコイン・マイニング、残りの2割はデータセンターのホスティング・サービスによるものです。1 データセンターのホスティング・サービスは、自身でマイニングを行いたくても、データセンターのインフラや専門的技術がなくて行えないといった大企業のクライアント向けのサービスで、ライオット社が施設スペース、電力、機械の設置および継続的な保守管理サービスなどを提供するものです。

ライオット社は、3棟合計で300メガワット(MW)の高度電力容量を持つウィンストーン施設を、2021年4月に購入しました。この手の産業のキャパシティは、施設の面積ではなく電力容量の大きさで計測されます。というのは、これらのデータセンターの機器は、物理的な置き場所よりも先に、電力容量上の制約の方がネックとなるからです。従って、操業できる規模や、何台の機械を運転できるかを決定するものは、施設の電力供給量ということになります。2021年6月、ライオット社は施設を4棟増設し、電力容量を400MW拡張する計画に着手しました。

出典:ライオット・ブロックチェーン社。左から順にG、F、E、D、C、B、A棟

出典:ライオット・ブロックチェーン社。データは2021年1月21日現在。「クライアント用」とは、ライオット・ブロックチェーン社が自社のASICでマイニングするのではなく、自社のインフラ・サービスを第3者であるクライアントに提供していることを意味する。

施設が完成すれば、7棟で700MWの電力容量を持つことになり、これによってビットメイン社製の「アントマイナー(ASIC機器)」を合計およそ20万台操業できることになります。この施設の規模についてよりわかりやすく言えば、700MWの電力であれば、米国内の平均的な住宅57万戸分の年間消費電力を賄えることになります。2,3 これだけの規模の機械を操業するとなれば、大量の熱と騒音が副産物として発生します。例えば、「S19プロ・アントマイナー」1台の大きさは、一般的な男性の靴箱より少し大きい程度ですが、75デシベルの音(大型の電気掃除機と同じ程度)を発し、また1時間当たり11,000BTU(英国熱力単位)の熱(多くの小型ヒーター以上)を発します。

ビットコイン・マイニングの経済学

ビットコイン・マイニングは非常に資本集約的なビジネスで、大きな固定費を伴います。大抵のマイナーは、ASICの入手予定日の何か月も前に大量の注文を行い、事前に多額の手付金を払わなければなりません。例えば、ライオット社は最近、「アントマイナーS19 XP」を18,000台発注し、納品の6~12か月前の段階で35%の手付金(このときは7,100万ドル)を支払いました。4 ライオット社の見積では、ASIC購入にかかる費用は、施設に新たなデジタルのマイニング設備を導入する全費用の75%を占めるとのことですが、この割合は使用されるインフラのタイプによって若干違いがあるようです。

恒常的にかかる費用としては電気代が圧倒的に高く、他の恒常的費用、例えばメンテナンス費や労務費などは比較的安いものです。マイナーの中には、追加的にホスティング費用やマイニング・プールのオペレーション費用といった恒常的費用を支払う場合もありますが、これはマイニング企業によって違います。ライオット社はホスティング料収入を得ていますが、間接的に収入の約2%をマイニング・プールのオペレーション費として支払っています。5

固定費を除いたビットコイン・マイニングによる恒常的収益性は、単純化すれば以下の3つの主要変数に集約されます。

  • ビットコインの価格
  • 電力コスト
  • ビットコイン・ネットワークのハッシュレート

現在、マイナーは有効なブロックを作成すれば、新たな6.25ビットコインと関連取引手数料を受け取ります。従って、マイナーの収入はビットコインの価格に直結しています。マイナーの主要な恒常的費用は、ASICの操業に費やされる電気代です。最後に、ビットコイン・ネットワークのハッシュレートとは、有効ブロック作成のために全てのマイナーによって消費された計算能力の合計のことで、ビットコイン・ブロックを採掘する難易度の代用値として用いられます。ビットコインの時系列でのインフレ率は前もって決まっているため、ネットワーク全体のハッシュレートが上昇すれば、同じ分量の新たなビットコインに対してより多くの計算能力が消費された、ということになります。つまり、ネットワーク全体のハッシュレートが上昇している中で、マイナーにとって自身のハッシュレートが一定であるということは、そのマイナーのビットコイン報酬が将来減っていくことを意味します。

今日の市場環境において、ビットコイン・マイニング企業の限界収入は、限界費用を大きく上回っています。Global Xがウィンストーン施設を訪問した2021年10月下旬の時点では、ビットコイン価格は66,000ドルを突破していましたが、同施設の1ビットコイン当たりの限界費用は約5,000ドルでした。(但し、ビットコインは価格変動が激しく、2022年2月2日現在では37,500ドルまで下落しています。) ウィンストーン施設では、自前のホスティング・インフラを保有していることや、長期の電力供給契約(平均1キロワット時当たり2.4セント)を結ぶことによって、このコスト水準を達成しています。6

現時点での高い限界収益率は、永遠に続くものではありません。他のマイナーがこぞってASICを増設することになれば、ネットワーク全体のハッシュレートやビットコイン・マイニングにかかる費用が上昇することになるからです。とはいえ、中国におけるマイニングの禁止、サプライチェーン上の制約、半導体その他の電子機器の世界的品不足、ホスティング・インフラの不足といった主要な変数によって、今日のように大きく多様化する傾向が進んでおり、ビットコインへの一極集中は見られません。さらに、ビットコインは価格変動が激しく、これによって収益性が大きく影響される点も見逃してはなりません。

データセンターのインフラ

電気系統のインフラはビットコイン・ネットワークの中心的な部分で、ウィンストーンのような規模の施設で操業を行うのに必要な重要機器を備えることができれば、非常に有利となります。ウィンストーン施設は送電線路の開閉所(5,000MW規模)近くにあり、電力はこの開閉所を通してERCOT(テキサス電気信用性評議会)の送電網から施設に供給されています。ウィンストーン施設では、各棟に100MWずつ電力を流用させるために、高電圧変圧器が必要となります。各棟はそれぞれ40台の2.5MWの変圧器と、それに加えて低電圧変圧器を備えており、これによって電流が12ボルトのプラグに流れることになります。ここで言いたいのは、この規模の施設にデジタル機器を備えるためには多くの電気機器が必要であり、今日のようなサプライチェーンが破壊された世界において、短期間でウィンストーン施設のようなインフラを再現することは至難の業だということです。ライオット社は、新たな高電圧変圧器を入手するには、今なら1年ほどかかると見ています。

出典:ライオット・ブロックチェーン社(2022年1月14日現在)

さらに2021年12月、ライオット社は電気機器ソリューション・プロバイダーのESSメトロン社を買収し、インフラ確保のための能力向上や、電力サプライチェーンにおける競争的地位の向上をはかっています。7

データセンターの冷却設備

施設内の温度を管理し、ASICを過熱しないように維持することは、ビットコイン・マイニングにおける重要事項の一つです。換気扇を使う棟では、この目的を達成するために何段階かのアプローチを行います。まず、各棟に気化熱冷却壁を設置します。ウィンストーン施設は、アルコア湖と長さ1マイル程の地下パイプでつながっており、このパイプで湖の水を直接汲み上げています。汲み上げられた水は気化熱冷却壁の中を通り、空気が壁沿いに流れると、中の水が空気中の熱を吸収し、壁で囲まれた屋内の気温を華氏16~20度(摂氏9~11度)下げることになります。

施設内では、何千台ものASICがモジュラーラック内に設置されています。各ASICに吸気用ファンが内蔵されており、このファンが外気を機器内に取り込んで、計算の際に熱を帯びたチップを冷却します。そして機器の背面にある排気用換気扇が、熱くなった空気を壁の後ろ側にある絶縁された熱の通り道に循環させる仕組みです。熱の通り道の気温は華氏140度(摂氏60度)にも上昇します。この熱は天井に埋め込まれた排気口のような仕組みを通って循環されます。

出典:グローバル X リサーチ – 左側の写真は換気扇を使う棟のASICの一列。ASICが熱を帯びた空気を排出する際、この通路が空気の通り道となる。右側の写真は、左側の写真に写っている壁の背面。熱を帯びた空気は屋外に出る前に、絶縁された熱の通り道へ排出される。

2021年10月、ライオット社は業界レベルでは初めて、液浸冷却装置を使ったマイニング施設建設に着手することを公表しました。200MWの電力容量を持ち、液浸冷却技術を駆使したF棟、G棟の拡張工事を行うということです。液浸冷却技術とは、ASICを鉱油によく似た誘導性流体のプール内に沈める方法です。この流体は電気を通さない性質で、空気以上に大量の熱を逃がし、機器を効率よく冷却するものです。このような施設を建設するには固定費が大きくなりますが、これによって機器の寿命を延ばし、また機器内の温度を下げて操業させることによって、1台当たりのハッシュレートを上昇させることができます。

結論

ウィンストーン施設を訪問したことによって、企業としてビットコイン・マイニングの業務を行うことの規模と投資の大きさについて認識できました。一方ではこの巨大なオペレーションを全て合わせても、ビットコイン・ネットワークのハッシュレートのわずか数パーセントを占めるに過ぎないという事実も認識しながら、この最新鋭の施設を建設するに当たってどれほど多くの労力と資金がかかるかという観点を得ることによって、ビットコイン・ネットワークにどれほどの不変性と安全性が内包されているかがよくわかります。今日、ビットコイン・マイニングに関わる企業の多くが、暗号資産主導による投資家の注目を十分集めていないと思われる中で、これらの企業はブロックチェーンやデジタル資産分野の最先端に立って、広範かつテーマ性のあるエクスポージャーを提供しており、また暗号資産に対する直接的な投資を補完するようなエクスポージャーを提供し得る立場にもあります。