ロシア・ウクライナ紛争と、セクター別見通しに及ぼす影響
ロシアによるウクライナ侵攻(核を使わない従来型のものとしては第二次大戦以降欧州で最大規模の武力攻撃)は、世界中の経済および市場に広範な影響をもたらすものです。特にこの紛争でコモディティ価格が上昇し、これによってインフレがさらに激しく、かつ長期化する可能性があります。この影響は、特に欧州で広範囲に及ぶとともに、世界全体にも波及すると考えられます。
ロシアの経済規模は、世界のGDPの3%に過ぎず、株式市場の規模もMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスの0.3%を占めるにとどまっています。従って、ロシア経済やロシア株式に対する直接的なエクスポージャーは限定的です。例えばS&P500企業のロシア向け直接の売上高は、エクスポージャー全体の0.1%程度です。とはいえ、ロシアは世界に対する原油供給量の約10%を産出しており、世界第3位の産油国となっています。また天然ガスについては、ロシアは世界の供給量全体の17%を産出しています。同国は世界第2位の天然ガス産出国で、欧州における天然ガス需要の約40%を賄っています。
エネルギー供給におけるロシアの重要性を勘案すれば、原油や天然ガスの生産を他の国で賄うことは難しく、ロシア産燃料を全て断絶するという戦略は採りづらいというのが現状です。バンク・オブ・アメリカの予測では、産出量に影響するインフラ上のダメージを排除すると、ブレント原油価格は1バレル110~120ドルにまで上昇するとしています。1
この紛争により、金属および食料の供給にもリスクが生じ、消費者価格にも短期的なインフレ圧力がかかると見込まれます。ロシアは多くのパラジウムやアルミニウムを産出しています。パラジウムは自動車、電気機器、宝石、歯科充填剤その他の製品に必要なものです。一方、ウクライナは小麦ととうもろこしの産出が多い国です。
エネルギー価格の高騰により、インフレ圧力に拍車がかかると、消費の減少や実質経済成長率の低下にもつながる可能性があります。このようなリスクは、米国より欧州にとってより大きく、欧州の所得の伸びは、ユーロ安と相まって過去10年間で米国に比べて抑えられてきました。原油やガスの価格上昇は、欧州の消費者にとりさら厳しいものとなります。現在、ユーロの対米ドル為替相場は1EUR=$1.125です。米国の消費者はエネルギー価格の高騰による影響を受けるものの、エネルギーの自給率が高いため、エネルギー供給の影響は最小限にとどまるものと見込まれます。とはいえエネルギー価格の高騰が長期化すると、長期的なブレークイーブンインフレ率を押し上げることになります。この状況が長く続くと、消費やGDPにも悪影響が及ぶことになります。
市場に対する影響
企業収益の観点からみると、S&P500企業のロシア向け直接売上高は、全エクスポージャーの0.1%程度です。米国企業の売上高や収益に対する直接的な影響は最小限にとどまるものと見込まれます。
とはいえ、米国と欧州とのつながりを勘案すれば、間接的な影響はかなり顕著なものになるといえます。この戦争に伴う破壊行為や、その結果としてエネルギー価格高騰が欧州の経済成長を大幅に低下させることが予測され、企業収益にとっても重石となりかねません。欧州における消費の需要が減退すれば、米国企業の収益にも悪影響がおよぶことになります。欧州は2021年、S&P500企業の収益の14.5%に寄与していました。2 冬を越せば、欧州のエネルギー事情は目先のところは大丈夫ですが、このような制約が次の冬まで続くとなると、エネルギーの配給制も現実味をおびてきます。
これらの見方を総合すると、ロシアが世界経済に対して果たしている役割はコモディティ関連を除けばさほど大きなものではありません。米国のサプライチェーン上の構成から見たロシアに対する依存度は、中国に対する依存度ほど高くありません。歴史を鑑みれば、米国市場はその安全な避難先といったステイタス上、往々にして地政学的イベントから比較的早く回復してきたといえます。
投資ポジションとしては、投資家は事態が進展するにつれてボラティリティに留意した上で、景気に対しよりディフェンシブなセクターに注力すると考えられます。エネルギーセクターは上昇が見られるかもしれませんが、極端な価格高騰は長続きしないでしょう。以下は、現時点での、Global Xのセクター別見通しです。