クリーンテックの投資テーマをご紹介します

クリーンテックという投資テーマは、環境に対する悪影響を抑制、軽減するテクノロジーの導入が進むことにより利益を得る企業を対象とするものです。具体的には、再生エネルギー生産、エネルギーの貯蔵、スマートグリッドの導入、住居用/商業用のエネルギー効率性向上、公害を軽減する製品の生産、およびソリューションの提供を行う企業が該当します。

人的活動による環境への悪影響を減らす必要性は、かつてなく高まっています。2020年は、歴史上最も気温が高かった年になりつつあります。一部の予想によれば、2020年における世界全体の平均気温は1980年と比較して0.75℃上昇しており、現在の政策を継続した場合、2100年までに、産業革命前の水準から4.1℃上昇する可能性があります。1、2 このような地球温暖化は、社会的および経済的に大きな影響を与えかねません:

  • 2020年における北極海における海氷域は過去最小となり、1981年から2010年までの平均値を40%も下回っています。海面上昇というトレンドが継続しており、これにより世界中の沿岸部が水没すれば、最大で8億人の人々が危険にさらされることになります。3、4
  • 海洋における水温上昇や気候の乾燥化が進むことにより、自然災害の頻度や規模が悪化することが予想されます。米国では過去3年間において、自然災害による損害額が年あたり平均150億ドルにのぼっており、これは1980年から2017年までの平均62億ドルを大幅に上回っています。5
  • 最近のモデルによれば、地球全体の平均気温が2100年までに産業革命前の水準から4.0℃上昇した場合、世界全体の経済生産性が平均10%低下すると予想されています。6

この温暖化が人的活動によるものだという主張は、広く受け入れられています。温暖化の原因の75%が二酸化炭素(CO2)の排出によるものであり、産業革命以降、人的活動によるCO2排出量は47%増加しました。7、8 これは、私たちの生活スタイルを問い直すべき問題ですが、同時に人間の努力によって状況を変化させうるということでもあります。気候変動へのアクション・ロードマップとしては、2016年のパリ協定や、欧州連合(EU)、中国、および日本、あるいはAmazonやWalmartといった企業によるカーボンニュートラルを実現するための最近の野心的なコミットメントがあり、これらは地球温暖化を食い止める上で最も期待される対策だと言えます。9、10、11

これらの計画の多くにおいて核となるのがクリーンテクノロジー(クリーンテック)の積極的な導入であり、カーボンニュートラルを実現するために不可欠であると共に、大規模な投資を要求します。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が作成したシナリオによれば、世界全体で合計110兆ドルの投資を行い、そのうち最大80%をクリーンテクノロジーに投じることで、地球温暖化を許容範囲に収めることができます。12 以下の文章では、環境に対する悪影響を抑えるためにクリーンテックが果たす役割や、現在および将来における普及の可能性について探ります。

再生可能エネルギーへの移行を推進する

再生可能エネルギーへの移行は、気候変動の影響を軽減する計画における軸となるものです。再生可能エネルギーには、オンショア/オフショアの風力発電、太陽光発電(PV)、水力、地熱、および燃料電池においてR水素(再生可能水素)を使うことが含まれます。一部の推定によれば、石炭、石油、および天然ガスといった化石燃料をクリーンな代替エネルギーで置き換えることにより、温暖化を適切に抑制するのに必要な排出量削減の52%が達成できます。13

近年、電力セクターにおける世界全体の発電量においてクリーンエネルギーが占める割合が高まっており、CO2を排出する化石燃料による割合がそれに応じて低下しています。2019年末の時点で、再生可能エネルギーが世界全体の電力生産に占める割合は26%で、2010年の19%から上昇しました。14 この成長の大部分は、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーのコストが急速に低下したことにより、再生可能エネルギーの生産能力を安価に拡大することが可能になったためです。過去10年間において、太陽光発電やオンショア/オフショアの風力発電の平準化コスト(生涯コスト)は、それぞれ80%と55%に低下し、世界の多くの地域において化石燃料よりも安価に発電できるようになっています。15 興味深いことに、太陽光発電の発電量(年当たりTWh)は同時期において20倍以上増加し、風力発電は313%増加しました。当社では、規模の経済や市場の力学により風力タービンや太陽電池といった部品の価格が値下がりすることで、太陽光発電や風力発電がさらに普及すると予想しています。16 これは経済的にも理に適った考えですが、再生可能エネルギーが電力ミックスに占める割合を2030年までに57%まで上昇させ、2050年までに86%を達成するという温暖化対策の政策やマイルストーンを実現するためには、さらなるインセンティブが必要です。17 再生可能エネルギーによる発電の規模を拡大して効率化を図るためには、現在から2050年までの期間において、風力発電および太陽光発電の分野に対し年当たり平均1兆ドルを投じる必要があります。18

ただし、電力セクターにおける発電は、エネルギー消費の一部を占めるに過ぎません。エネルギー消費全体から見た場合、世界全体のエネルギーミックスにおいて再生可能エネルギーが占める割合はわずか11%に過ぎず、排出=温暖化モデルが示唆する2030年までに同割合を28%まで引き上げるという目標にはほど遠いことが分かります。19、20 建設、産業、および輸送といったセクターでは完全な電化が達成されていないため、従来型の再生可能エネルギーの導入が遅れています。電化に対するクリーンテック企業のアプローチについては次章で扱いますが、再生可能な水素によるエネルギーを活用するという新たなソリューションにより、電化を目指すこと自体が不必要になる可能性があります。

水素は、周期表において最も豊富に存在する元素であり、自然界においては酸素のような他の元素と結合した状態でのみ存在します。21 ご存じのように、水はH2Oとして存在します。電気を使って水中の水素と酸素を分離するプロセスを電解と呼びます。電解により抽出された水素は、圧力タンクに貯蔵し、燃料電池内の酸素と再結合させることでエネルギーを生み出すことができます。22 豊富に存在する水素は、エネルギー源として非常に魅力的であり、商業化による莫大な利益が期待されますが、再生可能な水素の実用化はまだ研究の初期段階です。電解プロセス自体を再生可能エネルギーで行わなければ排出量ゼロにはならない他、同プロセスで用いられる電解槽もコスト競争力を達成していません。23 他方、日本では2020年3月に、太陽光パネルと電力網から外れた電力で電解槽を稼働する、世界最大のグリーン水素プラントが運転を開始しました。24 幸いなことに、電解槽コストは低下しており、再生可能エネルギーの発電量は増加していることから、その結果として発生する剰余の発電量により、予想よりも早くR水素が実用化されるかもしれません。

より効率的なエネルギー利用

私たちがどうエネルギーを使うかは、エネルギーをどう生産するかと同じくらい重要です。電力インフラおよびエネルギー効率性の向上を実現する技術の劇的な改善と拡大により、温暖化を許容範囲に抑えるために必要な排出量削減のうち40%以上を達成できる可能性があります。25

これを実現するためには、エンドユーザーにおける電化を促進する必要があります。例えば、建物内の電気ヒートポンプや電力による陸上輸送を可能にする技術は、脱炭素化が進んでいないセクターにおける発電需要を満たしながら、排出量の削減を実現するための再生可能エネルギーの能力を高めるものです。電化によるエネルギー効率の改善はまた、電力をより適切に利用することにより、排出量をさらに大きく減らすことにつながります。建物インフラに電気ヒートポンプを設置することで、1キロワットアワー(kWh)の電力から3kWHの暖房を得ることができますが、この場合のエネルギー効率は300%です。一方、従来のガスボイラーのエネルギー効率はわずか90%なのです。26

長期的および短期的なエネルギー貯蔵能力を強化することで、電化および効率性向上をさらに推進することができます。風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーは、変動性の再生可能エネルギーだと考えられていますが、これは発電量が一定でなく、場合によっては需要を超えてしまうためです。バッテリーのような定置型の貯蔵ソリューションは、この剰余のエネルギーを事後の利用のために保存し、電力システムの柔軟性を高めるために役立ちます。
IRENAによれば、必要とされる脱炭素化の実現に対して相応の貢献をするために、バッテリーの容量を2050年までに現在の30GWhから9,000GWhまで引き上げる必要があります。27 さらに、2010年から2019年の期間においてバッテリー価格は年あたり平均18%下落しており、より安価なバッテリーにより上記の容量を達成することも不可能ではありません。

最後に、上述のさまざまなツールを組み合わせるのがスマート電力グリッドであり、クラウドコンピューティング、人工知能、およびIOTといったテクノロジーを活用することで、需要に基づいて動的にエネルギーを供給することができ、バッテリー技術が提供する柔軟性を取り入れることで、さまざまな再生可能エネルギーをシームレスに統合することができます。28 スマートグリッドは分散型の特徴を持つため、企業や住宅所有者は能動的にエネルギー効率の向上に貢献し、新たに可能となるデータアクセスを通じて自らの使用量を監視すると同時に、自動または手動で貯蔵または生産されたエネルギーをグリッドに売却することができるようになります。Bloomberg New Energy Financeでは、電力グリッドが電力システム全体に提供しうる利点をすべて実現するためには、現在から2050年までに同分野に対して14兆ドルを投資する必要があると推測しています。29

カーボンキャプチャーによる排出量制限

クリーンテクノロジーにはさらに、二酸化炭素の回収、利用、貯留(CCUS)を可能にする各種技術も含まれており、これにより二酸化炭素が大気に排出される事前に、化石燃料による排出を回収して再利用することが可能になる他、大気圏内にすでに排出された二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去(CDR)技術も開発が進められています。30 これらは従来、気候変動の影響を抑える手段としては副次的なものだと考えられてきましたが、現在では、一般的な排出削減手段を効果的に補完する手法としてより広汎に導入されつつあります。多くの論者は、再生可能エネルギーの利用拡大、電力インフラの整備拡充、およびエネルギー効率の改善により、脱炭素化目標の90%が実現可能であり、ゼロエミッションを達成するにはCCUSおよびCDRが必須であると考えています。31

最新のCCUS技術では、化石燃料による発電所に併置することで、排出される二酸化炭素を最大90%回収することができます。32 このアプローチでは、回収したCO2を液化し、地中で永続的または商業利用のために貯蔵します。より魅力的なのは、燃料として利用できる植物資源である再生可能バイオマスとCCUSを併用した場合、カーボンニュートラルまたはカーボンネガティブが実現されるという点です。光合成のためにCO2を必要とする植物は、回収されたCO2を再生可能バイオマスを生産するための原料として利用し、剰余の排出量を貯蔵するという方法です。33

現在のところCCUSの導入は初期段階ですが、最近の導入例は期待を抱かせるものです。現在、世界中で18カ所の大規模CCUS施設が稼働しており、これにより年あたり3,400万トンのCO2が回収可能です。34 CCURおよびCDRの普及に対しては、カーボンキャプチャー技術が高価である点がネックになっていますが、カーボンキャプチャーおよびストレージ協会によれば、現在のプロジェクトコストは2020年代前半には40%以上引き下げられると予測しています。35
当社としては、関連コストが低下し、排出目標のマイルストーンの日付が近づくにつれ、CCUSおよびCDRの普及に拍車がかかると予想しています。

結論

再生可能エネルギーの生産、エネルギー貯蔵、スマートグリッドの実現、エネルギー効率性向上、および公害削減といった分野に関するクリーンテクノロジーは、気候変動をはじめとする環境に対する悪影響を食い止める上で不可欠の技術です。環境に対する悪影響がもたらす経済的および社会的な意味がより大きくなるにつれ、各国政府および民間企業は、野心的な排出量目標を掲げ、クリーンテクノロジーの導入にコミットすることにより、カーボンニュートラルを実現する努力を強めています。当社では、これらの政府、企業によるコミットメントにつき、クリーンテクノロジー業界が発展する上で有益となる大規模な投資につながるものだと考えています。